第21話
投稿できなかった日も訪ねるくださる方がいらっしゃってびっくりしましたよ!
いつもありがとうございます!
「みもりちゃん、なるべく早く戻りますから。私がいない夜はとても、とても長くて辛いかも知れませんががどうか勇気を失わずに待っててくださいね?私はもうみもりちゃんがいない夜をどう耐えればいいのか心配になって…くれぐれも知らない人には注意してください。」
「うん、分かった。ありがとう、ゆりちゃん。」
私の手をギュッと握って何度も繰り返して念に念を入れるゆりちゃん。
夕刻の便の汽車で家に帰ることになっているゆりちゃんは時間に間に合うために少し早めに駅へ行かなければなりませんが入学以来初めて自分から離れることになった私のことが心配になって足が動かないようです。
私だってゆりちゃんと離れるのは高校になって初めてですから不安な気持ちは同じですがもう一時間もこうしているからそろそろ出発しないと遅れるかもっと心配にしてきましたからこのくらいでちゃんと安心させて送ってあげなきゃと思っています。
「大丈夫よ、ゆりちゃん。かな先輩から「百花繚乱」や「Scum」の方に話してくれるって言ってたし。」
「それはそうですがやはり心配になって仕方がないですよ、私…やはり私がお母様にお話して私だけでも参加しない方でお願い申し上げた方がいいかと…」
「ゆりちゃん…」
やっぱりまだ心配なんだ、ゆりちゃん…
「当たり前ですよ…!だって去年私があなたに少し目を離していたせいであんなことが起きてしまったんですから…!ここは世界政府の管轄ですからきっと大丈夫とは思うんですが相手はあのクソババア…じゃなくてみもりちゃんのおばあさんですから…!何をするのか見当もつかないんです…!」
ゆりちゃんは御祖母様のことをクソババアと言っちゃうんだ…
心配でしょうがないって顔のゆりちゃん…無理もないでしょう…「大家」に攫われて半年くらい私とずっと生き別れされちゃいましたから…
「やはりダメです…みもりちゃんにはなんとか楽しんで欲しくてあんなこと言っちゃったんですがここはやはりお母様にちゃんと許可を得て私も一緒に行ってあげなきゃ…お母様ならきっとお分かりいただけるはずです…!」
不安な顔。やっぱりゆりちゃんはなんとしても私を一人にさせたくないと思っているようです。
でも私はなんとかゆりちゃんを安心させて家に送りたかったんです。だっていつも私のことに気を使わせてしまってゆりちゃんの家族の時間を取らせてしまったから。
だから短い時間ですがゆりちゃんには家族だけの時間を大事にして欲しいです。
「そんなことないですよ、みもりちゃん…!みもりちゃんだって私の家族ですから…!」
「分かっているからそんな顔しないで。ゆりちゃんだって私の家族なんだから。親孝行も大事って言いたいだけの意味なんだ。」
「みもりちゃん…」
ゆりちゃん、これでちょっと落ち着いたかな。ゆりちゃんが不安になるのも分かるけど私は本当に大丈夫だから。かな先輩から「百花繚乱」と「Scum」の方に話は通しておくって言ってたから変なことは全然ないよ、きっと。だから気をつけて行ってらっしゃい、ゆりちゃん。
あ、これ私が作ったお弁当なんだ。後で食べてね。
「ありがとうございます、みもりちゃん…わざわざ…」
「えへへ…」
ちょっと感動しちゃったかな。駅弁の方が良かったかも知れないけどせっかくだから私が作ってあげたかったんだ。
「いいえ。みもりちゃんの手作りのお弁当の方がずっといいです。それに私が好きな駅弁は食べられる方ではありませんから。」
じゃどっちの駅弁だよ、それは!?
「あ…そろそろ出発しないと本当間に合わないかも…じゃあ、行ってきますね、みもりちゃん。何かあったらすぐ連絡、そして相談ですよ?あ、もし誰に一緒に遊ぼうと誘われてもきちんと断ってくださいね?」
「分かった。っていうか誰も私なんかに一緒に遊ぼうととか言わないよ。大げさだな、ゆりちゃんったら。」
「あまいですよ、みもりちゃん!」
ええ!?なんか怒ってる!?
「みもりちゃんは自分がどんなに可愛いのか全く分かってないんです!こんなに可愛のにナンパなんかされないわけないじゃないですか!」
「ええ…!?」
し…心配し過ぎだよ、ゆりちゃん…ナ…ナンパとか絶対されないって…!っていうかなんか目、めっちゃ怖いんですけど!?
「はい、みもりちゃん。これ。」
やっと落ち着いたところで私の手に何かの布を握らせてくれるゆりちゃん。可愛いにんじんの模様ですね。ふにふに柔らかくてなんだかすごくいい匂いがする…これなに?ハンカチ?
「私のパンツです。」
えええええ!?ぬぁんで!?なんでゆりちゃんの下着を私にくれるの!?意味分かんないや!!
「これで少しの間でもみもりちゃんが私のことを忘れないで欲しくて…私もみもりちゃんのでみもりちゃんのこと、いっぱい思い出しますから…私達は離れてもお互いのことを忘れたりしませんよ、絶対…」
っと言って手を開いて私のパンツを見せるゆりちゃん!!
高校に入る時に買ったお気に入りの真っ白なレースとリボンのやつ!いつの間に!?何でゆりちゃんがそれ持っているの!?意味分かんない!!っていうかそんな顔でうまいこと言ったっと思うつもり!?
「うふふっ♥たった今みもりちゃんにお借りしました♥ああ♥ポカポカですごくいい匂い♥」
また「うふふっ顔」になって私の下着にほっぺを擦るゆりちゃん!やめろうってば!
ってたった今って…一体どういう…うわあああっ!?ま…まさか…!?
「ああ♥高校生になって随分大人の下着を履いているんですね、みもりちゃんったら♥大胆♥」
スカートの中から感じるすーすーした感覚…!お尻の皮膚に触れるひんやりした風の流れ…!
まさかっと思うんですかまさかあのまさかのまさかなんですか、緑山さん!?!?
「それでは行ってきますね、みもりちゃん♥」
っと言った途端、ものすごい速さで一気に部屋を駆け抜けちゃうゆりちゃん!!
あんなの追いつけるわけない!!ど…泥棒!!
***
「でかい…」
ここが今日の「Fantasia」のライブ会場…
どこまでも広がっているような観客席、そして見たこともないおしゃれで派手なステージ。たくさんのスタッフさんがライブの準備で走り回っていてとても忙しく見えてなんだか見ているこっちまで胸がざわめく…たくさんのライトと機材…これが本当のプロの舞台なんだ…
そわそわざわめく胸、そして再び震えてきた手。私、ステージを見ただけでなんだかすごく感動しちゃいました…
会長さん達はこんなすごい場所で皆の前で歌うんだ…
「まだなのかなー」
「もう少しだから。」
うちの制服…やっぱりうちの生徒もたくさんいるんだ…
それにまだ開演時間までは随分残っているのにもうお客さんがこんなにいっぱい立て込んで…さすがアイドルの頂点「Fantasia」のライブはその人気の大きさが他のアイドルは桁違いですね…!
「みもりちゃん。聞こえるかしら?」
その時、脳の内に響くある女性の声!あまりにも興奮したせいで幻聴ってやつまで聞こえているんでしょうか、私は!?なにこれ!?地味に怖いよ!
あ、でもこの声、どこかで…
「落ち着いて。私よ、私。生徒会長。」
突然自分の頭から聞こえる女の声にパニックを起こすところだった私はその言葉にようやくその声の持ち主を知ることができました。
「会長さん!」
「ん?」
あまりにも驚いたせいで思わず口で会長さんのことを大声で呼んでしまった私!そんな私を周りから変な目で見ましたが多分こういうの誰でも驚いちゃうと思いますよ、私!だっていきなり頭の中から話しかけてくるんだもの!普通に怖いじゃないですか、こういうの!
「あ、ごめんごめん。いきなり話しかけちゃって。ライブの前に少しお話したいんだけど控え室まで来てもらえるかしら?」
「ええ!?」
し…しまった…!びっくりしたせいでまた声が口で…!
「なに?あの子。」
「変なの。うちの制服だわ。」
なんかめっちゃ避けられているんですけど!?
っていうか私、もしかして「Fantasia」のライブの前の姿が見られるんですか!?行きます!もちろん行きますとも!!
「そう?ならすぐVIPルームに来てくれる?そこの職員さんに頼めば教えてくれるよ。」
うわぁ…VIPルームって会長さん、めっちゃ有名人っぽい…いや、実際超有名な人なんですけど…
で…でもどうしましょう…!私、何のお土産も用意できなかったんです…!手ぶらで挨拶するわけには…!
「いいわよ、別に。そんなに畏まらなくても。」
「そ…そうですか…?良かった…」
ってまだいたんですか!?早く私の頭から出てくださいよ!!
「ほええ…ここがVIPルームか…」
職員さんに案内してもらってここまで来たのは良かったんですがいざとなるとなんだか入り難い雰囲気です…このでかいなドアの向こうから感じられるオーラがすごすぎて開けないっていうか…
ドアの向こうなのにこんなにすごいオーラだなんて…私、こういう有名な人と合うのは初めてだからどうすればいいのかさっぱり…
「何しているの?みもりちゃん。」
「うわぁぁっ!?か…会長さん!?」
いきなりドアの中から飛び出たのはドアの前で先からずっとグズグズしていた私を迎えに来た招待者である会長さんその本人でした!
「うわぁ…」
その時、私は今日の主役である会長さんの華やかな姿に二の句が継げなってしまったのです。
今回新しく発表した新曲「Mimic」に合わせたメタリックで強そうな黒い衣装。そこに生徒会長の黄金のイメージカラーが混ぜてそのきれいで優雅な会長さんが鋭くて凛々しく変身。
いつもと違い形で結んだあのサラサラな白い金髪はお姫様の品格がたっぷり込められてまるで光でも放っているきらめいてとても眩しくて美しい。
でもないより一番素敵だったと思ったのは会長の自身の溢れる飛び切りの笑顔でした。
「会長さん…きれい…」
初めて合った時はどこか親しくてお姉ちゃんってイメージだったのにアイドルになった時はこんなに違うんだ…
「こんばんは、みもりちゃん。」
緊張している私と違ってのんきに挨拶をする会長さん。ライブの緊張とかも全くなさそうに見えて文字通り余裕綽々ってところなんですね…さすがプロのアイドルは違うんだ…
ってあ…!こ…こんばんは!
「ほ…本日はお誘いいただき本当にありがとうございます…!」
「あははっ。そんなに緊張しなくてもいいわよ。いきなり呼び出してごめんね。私が直接話し合いに行ったらお客さんが殺到して怪我したりしちゃうから。」
「そ…そうだったんですね…」
すごい…ちゃんと皆のことを考えて…でもなぜライブの直後に私なんかを…
「みもりちゃんにはちゃんと合わせたくてね。私達のことを。みもりちゃん、アイドルがめっちゃ好きって言われてから。」
わ…私に「Fantasia」の皆さんをしょ…紹介ですって…!?
なんてことでしょう…!いきなり「Fantasia」の皆さんとの挨拶だなんて、突然過ぎますよ…!こうなったらちゃん準備しで来たら良かったかも…!
ど…どうしよう…!ドキドキが止まんない…!私、本当に合っちゃうんだ…!
「さあ、入って、みもりちゃん。皆、ちょっといい?」
ドアを開けて中のメンバーを呼ぶ会長さん。
そんな会長さんの手に引かれて中に入った私はあの日、初めて自分の目で見ることができました。
「これが「Fantasia」…!」
 




