第206話
就職の件で遅くなって誠に申し訳ありません。結論からお話するとまた失敗してしまいました。
面接の時、顔を合わせた面接官さんからこう言われました。
日本語の翻訳は誰にでもできるが君は学力も低いから悪いがうちでは難しそうっと。
納得はしましたが悲しくて何もできませんでした。
でも少し休んだらちょっとだけ元気が出ましたのでご安心してください。
ブックマーク1名様誠にありがとうございます!遅くなって申し訳ありません。もっと頑張りますので応援よろしくお願いいたします!いつもありがとうございます!
「は…畑さん…!」
「あ、虹森さん。」
「畑蕗子」。蛇のような鋭くて無感情な顔、そして底知れない迫力と殺気は彼女のことが只者ではないということを物語っているように深くてずっしりした重みを持っている。
「Bullet」の部長であり旧校舎だった私達1年生の寮の売店から店員さんとして働いている彼女と鉢合わせてのは今朝のことで話は大体こんな感じです。
変な夢のせいで目が覚めてしまった後、一晩中ゆりちゃんへのアプローチの方法を工夫した私は普段の自分とは真逆の乱暴で傍若無人だけどとても知的だった昼間にずっと読んでいたあの漫画の主人公になりすまそうと決めました。
その一歩がまず見た目から変えることだったんです。
「やっぱ学ランは必要でしょ?ちょっとぼろくて古い感じがするのがいいかも。それから言葉遣いもちょっと荒っぽいのがいいかな。」
ゆりちゃん、やっぱり今の私はそんなに頼りないから迷っているんじゃないかな。そう思って思い切って普段の自分ではない全くの別人になりすまそうとしましたが他人を装ってことはそんなに楽なことではなかったんです。
「私…じゃなくて俺の名前は空条…じゃなくて…」
クリスちゃんや先輩達のおかげで大分マシになったんですがまだ熱も残っていましたし何より私には青葉さんみたいな演技の才能はなかったんですからそう簡単にはいかないものでした。
そういう簡単なセリフだけでも手こずってしまってますます先が思いやられました。
嘘つくのも地味に下手くそですし…
何より…
「はわわ…!なにこれ…!」
セリフはともかく鏡の中の男装した自分が一番恥ずかしかったのでそれ以上進めるのは到底無理でした…
「これ、絶対変だと思われるよ…!」
今の時代じゃあまり着られなくなった学ランと帽子。なんとか舎監さんから借りることはできましたがこれを着て学校へ行くのは絶対無理!
そう思ってすぐ脱いで片付けようとしましたが…
「ダメ…やっぱりこのままじゃ…」
私はなぜか鏡の前から離れられませんでした。
今までの私はゆりちゃんにずっと助けられっぱなしだったから。もっと違った自分になれば、もっと強くて頼りになる自分になればきっとゆりちゃんだって何かヒントを掴んでくれるかも知れない。
変わるって、ずっと傍にいるって私はゆりちゃんと約束したから…
そう思ってから私は
「やばっ…熱、ちょっと上がっちゃったかも…」
興奮で少しふらつく体を何度も引き起こして色んなことを試してみました。
そうしている間、
「げっ!?もう朝!?」
いつの間にか窓のそこには少しずつ日が出てきて薄暗かった部屋にも光が入ってきました。
「ど…どうしよう…!」
まだ決めてなかったのにもう日が出ちゃった…!って急いで学校へ行く準備をした私ですが結局最初の計画で行くことにしたんです。
これ、絶対変だと思われるだろう…って心配はしたんですがこれも全部ゆりちゃんのことを元に戻すためのこと。だったら私はなりふり構わず今の自分にできることを精一杯やるつもりです!
っと何度も自分を奮い立たせましたが
「や…やっぱり恥ずかしい…!」
その格好で中々部屋から出られませんでした。
でもグズグズしていたらゆりちゃんの方が先に学校に着いちゃいますからこれ以上躊躇する時間はありませんでした。
「よ…よし…!行くぞ…!」
思い切って部屋から出た私は舎監さんやには見つからないように裏口からこっそり寮を抜けた私は寮の外の角を曲がった途端、
「あら。」
寮の売店から働いている畑さんと鉢合わせてしまったのです。
「おはようございます。」
「お…おはよう…ございます…!」
いつもの無感情な表情で先に挨拶してくれる畑さん。1年生の間では彼女の顔は感情が全く出ていないからちょっと怖いって話がありましたがゆりちゃんはいつも
「畑さんはただ顔に自分を出すのが下手なだけです。みもりちゃんは仲良くしてくださいね?」
って珍しく3年生の彼女と仲良くしてきました。
だから私もできるだけ彼女のことをあまり怖がらないようにしていてそんな私のことを彼女も結構気に入ってくれました。
ですが…
「随分変わった姿をしていますね。虹森さん。」
やっぱり知り合いの人にこんなことは見せたくなかった!!
できれば誰にでも見つかりたくなくてこんな朝早く学校へ行こうとしたのにまさか寮の前で、しかも世間話とかそういうのが大好きな「Bullet」の畑さんに見つかるとは…!これは絶対ネタにされちゃう…!
っと思った私に彼女から言ったのは最初の一言は
「ダメじゃないですか。男装なんかしては。」
これでした。
「え…?それはどういう…」
っと聞く私にポケットから生徒手帳を出して校則の一部を見せてくれる畑さん。そこに書いたのは
「ここの学校、男装禁止ですよ。」
私の頭では全く理解できない一つの校則でした。
「えええ!?なんで!?」
って大声で叫んでしまう私。
でも普段あらゆる奇行を思う存分振る舞っているくせにそこだけ取り締まっているところが私にはどうしても理解がつかなかったんです。
その理由を聞いたら
「そりゃここが女子校だからです。虹森さんみたいに男装なんかして他の生徒達をたらす人がいたら非常に困りますから。」
「ええ!?何だそりゃ!?」
普段のイメージとは全く違ったましになった答えをする畑さんにもう一度驚いてしまいました。
どうしてそんな校則なんかが存在するのかその理由を聞く暇もなく
「そういうわけでこれは没収します。」
「ええ!?私の帽子!」
私から学生帽を取ってしまう畑さんでした。
「なんで私だけ!?畑さんだって盗撮とかやっているんじゃないですか!?」
「芸術活動とこれは別の類です。これ、紫村さんからお借りしたものですよね?これは私が返しますから。」
「な…なんで私だけ…!理不尽です!」
強い態度で突っ張ってくる私の勢いでもこれっぽっちも引かない畑さん。私だって普段絶対ここまでワガママを言ったりはしませんから。
ただまだ熱が残っているせいかやたら負けん気が出ちゃってまだ始めたわけでもないのにここで失敗されたくないって思っただけでした。
「全然理不尽ではありません。生徒手帳にちゃんと書いていますから。それに私、こう見えても一応生徒会の「陽炎」の所属ですからここで見逃したら私の方がめっちゃ怒られてしまいますから。」
でも相手はあの「Bullet」の部長の畑さん。やっぱりそんなに優しい扱いはしてくれませんでした。
ゆりちゃん並の凄まじい速さで私の帽子を取っちゃった彼女はなんでこんなところで真面目さを示しているのか全く分かりませんでしたがとにかくあのままだと多分その場で服まで取られてしまうところでした。
幸い
「みもりちゃん?」
「虹森さん?」
通り過ぎのクリスちゃんと火村さんのおかげでなんとか脱げずにすみましたが彼女はクリスちゃんと火村さんのお願いにもびくともしてくれませんでした。
この学校、そんなに男装とかご法度だったんだ…
「1年の間にはあまり知られてない話ですが2年と私達3年生中では去年あれのせいで結構大事になった事件がありましてですね。あの事件以来、男装は学園祭以外禁止されています。」
「そ…そうだったんですね…」
全然知らなかった、そんなの…って思った私に
「でもみもりちゃんはなんで男装なんかを…」
っと今日この格好になったその理由を問うクリスちゃん。
「まだ風邪が治ったわけでもないのに無理しちゃダメですから…」
熱で少し赤みになった私のことを心配してくれる優しいクリスちゃん。でも私はその質問に中々答えを出してあげられませんでした。
だってやっぱり恥ずかしくないんですか…幼馴染の女の子に喜んでもらいたくて朝っぱらから男装なんかしている自分のことなんて恥ずかしくて到底自分の口では…
「まあ、聞くまでもなく全部緑山さんのためのはずでしょうが。」
ずばっと言っちゃった!この人!
でも畑さんの言う通りです…私はこれで少しでもゆりちゃんにかっこいいところを見せてゆりちゃんの心を動かそうとしているんです…
「だって私、今までずっとゆりちゃんに助けられっぱなしでしたから…」
浅ましくてばかみたいな考えというのはよく分かっています…見た目や喋り方だけでなんとかできるって私自身もそうは思いませんから…
でもゆりちゃんが泣いていたんですもの…私とのことを思い出せなくて泣いていたんですもの…
このままだとゆりちゃんがもっと苦しんでしまうから…
真面目なゆりちゃんのことです。苦しんで苦しんで過ぎていつか壊れてしまう可能性も…そうなる前に私がなんとかしなければなりません…
「だからお願いします、畑さん…今の私にはこれくらいしかできないから…だからせめて今の自分にできることは精一杯やってみたくて…」
「仕方ないですね。」
その時、慎んでお願いする私の頭の上に没収した帽子をそっと被せる畑さん。見上げたそこには先と同じく乾燥した顔の畑さんがいましたが
「そういうことなら仕方ないです。」
あの時の彼女はなんだか笑っているような気がしました。
「幸い1年生の中ではこの校則のことを知っている人は少ないです。他の人に見られても精々ネタにされるくらいで済むはずでしょう。生徒会の方は私からなんとかします。荒沼さんは結構うるさいからちょっと心配ですがなんとかなるでしょう。」
「は…畑さん…!ありがとうございます…!」
「でもあなた一人じゃ心配ですからお二人さんにも虹森さんの面倒を見ててもらいたいです。」
っと隣のクリスちゃんと火村さんに私のことを頼む畑さん。うう…この格好でもまだ信用されないということなのか…
「それもありますが虹森さんってびっくりするほど気持ちが顔にだだ漏れですから。でも黒木さんの「鏡」があればある程度カバーできると思います。」
「私の能力ですか?」
クリスちゃんの能力って…確か夢のことを操ったり現実に具現化するものだったっけ…それで私の欠けてる部分をどうかばうってことですか。
「黒木さんならそういう類の夢はいくらでも見てきてはず。それを緑山さんに虹森さんの声で具現化して見せるだけです。だったら大した演技力がなくてもある程度のインパクトは与えられると思います。」
「なるほど。そういうことならぜひ私も協力させていただきますね、みもりちゃん。」
「あ…ありがとう、クリスちゃん…」
っとクリスちゃんは張り切っていましたが果たしてそんなにうまくいくかなっという疑問は未だに私の頭の中をうるさくかき回していました。
でもやるしかない…これでゆりちゃんが小さなヒントでも掴んでくれたら…!
っと始めた計画でしたが…
「や…やっぱりダメだったんですよ、これ…!」
先のはっきりと分かりました。
この作戦…やっぱり何か大きなことを間違えた気がします…!




