第204話
遅くなって申し訳ありません。最近つくづく体が悪くなってここ数日ずっと寝てしまいました。
体にもっと気を使わなければと思います…
いつもありがとうございます!
「おはようございます、まつりちゃん。」
「あ、黒木さん。おはようございます。」
登校中、中央広場から出会ったまつりちゃん。「Vermilion」の朝の訓練のためいつも早く登校するまつりちゃんは今日もしっかりして可愛いですね。
ほのかに燃えている長い髪の毛と穏やかな目。そして初々しくて純朴な雰囲気。一見少し普通に見えるかも知れませんがまつりちゃんは知れば知るほど本当に魅力的で優しい女の子なのです。
お友達になったのは移動教室のことで本当に偶然でしたが今は私のかけがえのない大切な友達なんです。「魔界王家」の「ファラオ」である私のことを少し謹んでいて未だに下の名前で呼んでくれないのはちょっと寂しいですがそのうちちゃんと呼んでくれるのでしょう。
寮ではなく実家から通学しているまつりちゃんは今まで朝の訓練を一度も欠かさず真面目に参加しているそうです。いつもお父さんみたいな人の役に立つお仕事がしたいって言っているまつりちゃんのことを「Vermilion」の部長であるあの灰島さんも認めているらしいです。きっとそんな偉い人になりますよ、まつりちゃん!
「昨日はお疲れ様でした。虹森さんの看病。」
「いいえ。私が好きでやったことですから。」
そういえば昨日は結局最後までみもりちゃんのことを見届けたんですね、私。みもりちゃん、今緑山さんのことですごく大変なんですから私でもちゃんと支えてあげなきゃっと思って。
元気を出して欲しいっと私なりにみもりちゃんのために特定の夢を用意しましたがみもりちゃん喜んでくれたんでしょうか。なるべく今のみもりちゃんが一番で欲しい夢を見せてあげたんですが本当にそれで良かったのか…
「虹森さん、きっとすごく喜んだと思います。」
「そうでしょうか。」
っとまつりちゃんは言ってくれましたが正直に言って私は昨日あまりいい気分とは言えない状態でした。
みもりちゃん、本当は私なんかではなく緑山さんと一緒にしたかったのではないかな、緑山さんに看病された方が良かったのではないかなっとそう思ってしまって…それに一番寂しかったのはやっぱりお二人の昔の写真を見た時でしょうか…
私にはない虹森さんと緑山さんだけの思い出…そこに私はいないから…
幸せそうに写っている幼いみもりちゃんと緑山さんのことを見ているとなんだか胸がズキッとして…
私は本当にこんな気持ちになりたくてみもりちゃんのことを好きになったのかな…
「黒木さん?」
「あ…!ごめんなさい、まつりちゃん…!」
「どうかしました?どこか具合でも…」
心配そうに私の体調を窺う優しいまつりちゃん。そんなまつりちゃんに余計な心配なんか掛けちゃいけないと思って精々いつもの私を演じましたがでもやっぱり胸に張り付いたこの寂しさは…
「朝食は召し上がりましたか?朝の食事は大事ですからちゃんと取らなきゃ…それに最近の黒木さん、会長のこととか「Scum」のこととか色々忙しいですから今日だけはしっかり休むのも…」
「そ…そうですね。でも私は本当に大丈夫なんです。疲れが溜まっているのは確かですがこれくらいなんともないですから。あ、良かったら一緒にコンビニでも行きませんか。実は急いで朝食を抜けてしまって。」
「それなら学食に行った方がいいんじゃないですか。私も今日は起きるのがちょっと遅くて朝食はまだですしバイキングで色々楽しめますから良かったご一緒に…」
っと急に口を塞いで慌てるまつりちゃん。何か言い間違いでもしちゃったそうな顔ですけど今の、何か問題でもありましたか?
「ってす…すみません…!なんか食いしん坊みたいなこと言っちゃって…!」
あ~そこでしたか~
「そ…そうですよね!?黒木さん、スタイルもすごくいいしそういうのあまり興味ないんですよね!?あ…!別に私が食いしん坊ってわけではありませんけど…!何ていうか…!うちの学食って美味しいものいっぱいありますからもったいないっていうか…!」
素直な反応。まつりちゃん、今日は可愛いですねー
「や…やっぱりこういう女、あまり好かれないんですよね…?食いしん坊とか…」
「そんなことないですよ。よく食べる女の子って健康的ですごく人気です。まだ成長期なんですし。それに私もスイーツとか大好きですから。」
「そ…そうなんですね…えへへ…」
照れるまつりちゃん、今日もすごく可愛いです~
「あら?まつりちゃん、それは?」
「あ、これですか?えへへ…」
結局まつりちゃんの意見を受け入れて学食に行くことにした私達。学校が大きくて学食は学校内にいくつかありますが私達は普段1年生が生活している寮の学食に朝食を取りに行くことにしました。
その途中で私の目についたのはまつりちゃんから大切に持っていたある紙のことでした。
それについた私の質問にまた照れくさくて笑ってしまうまつりちゃん。なんだか話しづらいものでもなるのでしょうか。ごめんなさい、まつりちゃん。言いたくなければ無理する必要は…
「あ、いえいえ。実はこれ、入部届です…」
「入部届って…もしかして掛け持ちの部活ということですか。」
ちょっと驚いたかも…まつりちゃん、「Vermilion」以外の部にはあまり興味なさそうでしたのにいつの間にか…例外があるというのならまつりちゃんの得意である美術がありますがあそこはあの「百花繚乱」の副団長の石川さんがいますから…
あの人、折り紙付きの魔界嫌いで同じ神界の子の入部まで全部断っていて誰も「美術部」には入ろうとしないんです…
石川さん一人による確実な実績はあるから未だに廃部は免れていますが一人だけの部活って私には到底…
「だから私でも入ろうかなと思います。美術部…」
っと思っていた私を再び驚かすのはまつりちゃんの新たな決心でした。
「だってやっぱり一人じゃ寂しいんじゃないですか。石川さん、もう速水さんのことには関わらないって言ってましたから。速水さんの傍から離れてしまったらあの人は本当に一人になってしまうんですから。もし私なんかでも良ければお傍にいさせてもらいたいです。」
昨日私と別れた後のことを最初からじっくり語ってくれるまつりちゃん。
速水さんのこと、石川さんと「Vermilion」の灰島さんの対決のこと、学校の皆を仲直りさせるために手を貸してくれることになった「Bullet」のこと。でも一番驚いたのはその中心にまつりちゃんがいたということでした。
「速水さんは約束してくれました。この学校を全力で変えることを。」
彼女の口から直接言われたその話はこの学校にもう一度変化の風が吹き荒れることを私に予感させてしまうほど急激でひやひやさせるものでした。
「百花繚乱」、「Vermilion」、「陽炎」の傘下である「Bullet」などの学校内の伝統のある有数な組織から始め、ひいては第3女子校全生徒達を含めた「黄金の塔」、大企業「灰島」まで巻き込むことになるかも知れない一大プロジェクト。ただの高校生達がやるにはあまりにも大規模なその計画を聞いた時、私は心の底から謎の震えを感じてしまいましたがそれは決して絶望によるものではありませんでした。
みもりちゃんだけではなく色んな人達がこの学校のために一生懸命頑張っている。その事実だけで私は希望を感じてしまったのです。
でもなんだか悲しそうに見えるまつりちゃん。彼女には学校のことよりもっと気にかかる人がいたのです。
「でもこのままだと石川さんだけは今と同じままですから…私はやっぱりあの人が一人になるのは嫌です…皆に疎まれて遠ざけられてたったこれからをずっと一人で行かなきゃならない…私はそんなの嫌です…」
優しいまつりちゃんは心底からあの人のことを案じていました。
「だから自分が勇気を出そうとしたんです。きっと嫌われて拒絶されてしまうかも知れないけど私はあの人が一人になってしまうのがもっと嫌ですから。こんな私でもお話を聞くことはできるかも知れないから…」
「まつりちゃん…」
いつも自分には何の取り柄もないって自分の地味なところを気にしていたまつりちゃん。そんなまつりちゃんがこんなに目を光らせて強い決心を表している…これは今までの自分を変えてしまうほどあの人のことが大事っという意味だと私はそう信じています。
挫けない強い思い。私はふと今のまつりちゃんから今の自分を重ね見ていました。
誰かの笑顔のために、皆の笑顔のために自分の大好きを全力で駆け抜ける少女達。そんな彼女達から夢を見た私は彼女達の傍から全力で彼女達を応援したい。そんな気持ちが私にもあればこそ私はいくらでも頑張れる。
そう思っているから私はみもりちゃんと緑山さんのことを…
「まつりちゃんの思い、きっと届きます。私は信じています。」
今の私にできるのはこれくらいの小さな応援しかないんですが私はどうかあの人から彼女の気持ちを分かってくれることを心から願いました。
「あ…ありがとうございます…!」
切なくていじらしくて大切な一筋の思い。どうかあの人にも届いてくれますように…
「何でダメなんですか!?」
「ダメと言ったらダメです。帰ってください。」
そろそろ旧校舎、1年生の寮に着く頃になって聞こえる女の子達の声。まるで揉めているように少し興奮している少女の声は
「だから理由を教えてください!何で私だけは…!」
何度も目の前の相手に拒まれる正確な理由を求め続けました。
だが…
「生徒手帳に書いているはずですが。校則はきちんと守らねばダメじゃないですか。」
一ミリも譲らない彼女は決してその要求は受け入れられないと先よりもっと強い態度で彼女の話を全部断りました。
「何か揉めているようですね…」
「はい…そのようですが…」
心配そうな顔で様子を見に行こうとするまつりちゃん。少しお節介なところもありますがやっぱり優しいですね、まつりちゃんは。
でもこの声…なんだかすごくみもりちゃんっぽいですけど…
「止めた方がいいでしょうか…?」
「ん…」
喧嘩は良くないんですがそれ以上気になるこの声…子供の時からずっと彼女のことが好きだったから私にもよく分かります。
穏やかできれいな女の子の声…これは確かにみもりちゃんの声です…だって聞いているだけでお腹の辺りがキュンキュンして…♥
「やっぱり一度確かめた方がいいかも知れません…」
なぜこんな朝からみもりちゃんが誰に向かってそんなに興奮しているのか…一応緑山さんの代わりにみもりちゃんの面倒を見ている立場としてきちんと確認しなきゃ…
っと思って声が聞こえる方に差し掛かった時、
「みもり…ちゃん…?」
そこにはなぜか学ランの格好ですごく盛り上がっているみもりちゃんがいました。




