第203話
今月までは少しハードなスケジュールになりそうでどうかご了承頂きと思います。やっぱり週末くらいは休みたいんですが残念ながらバイト先の代わりの人がないので週7日勤務になっております。最近ちょっとぼーっとしていて本当に大変だと思います。。
後ほど内容を加えようと思っていますがどうかご参考お願いいたしします。
いつもありがとうございます!
「ただいまーことりちゃん。」
「あ、先輩。おかえりなさい。」
家に帰ったみらいを迎えるのは数日前から彼女の家に居候させてもらうことになった彼女の後輩「赤座小鳥」。
昨年うみと一緒に同好会に遊びに行ったりしたが彼女だったがある事件の首謀者として学校から追い出されてしまい、彼女の双子の姉「赤座雀」が通う予定だった進学校の「世界政府付属第1女子高校」に転校してそこで卒業することになった。
かつてうみと共に有名女優として活躍した彼女の経歴を高く買った泣く子も黙らせる第1女子校の「Silence」からの直々の推進で広報係に任命され、そこで生徒会として働くことになったことり。そのまま何もなかったことにして平穏な高校生活を送れるようになったが…
「学校、辞めちゃいました…」
何らかの理由で退学届を提出、学校を辞めてしまった彼女は突然同好会の先輩だった「桃坂未来」の家に押しかけ、居候させてもらえることを頼んできた。
「夕食はどうしましたか?ことりもまだ食べてなかったから良かったら出前でも頼みましょうか。あ、お風呂の準備は済ましておきましたから。」
いつ家に帰ったのかは分からないのだが既にお風呂の準備まで済ませて自分を待っていてくれた彼女のことをなんだかいじらしく感じたみらいは
「本当にいい子ですね、ことりちゃんちゃんって~ことりちゃんがマミーのことを大切に思ってくれて本当に嬉しいです!」
「ちょ…ちょっと…先輩…!また抱きついちゃって…!」
いつものように目の前の可愛い後輩をあのでかい胸の中に入れ込んでしまった。
「ことりちゃん、もうお風呂上がりですね。ポカポカしていい匂いがします~」
「ちょ…!匂い嗅がないでください…!」
離れようとことりから藻掻けば藻掻くほど深く、そして強く埋め込むみらい。普段には絶対見せない凄まじい力で自分の全身を抑えて抱きつく彼女のことがたまには少し厄介になる時もあったが
「ことりちゃん♥ちっちゃくて可愛い♥いい匂い♥」
こういう人の温もりというやつがまんざらでもなかったことりは
「もう…先輩ったら…」
そのままその大きい先輩を放っておくことにした。
「夕食は私が作りますね。出前も楽で美味しいですが。」
っと先スーパーに寄って買ってきた食材を見せるみらい。今日の夕食はカレーのようだ。
「ことりちゃんって割とよく出前よく頼みますね。私は殆ど自分で作って食べちゃうからあまり頼んだことはないかも。」
「だって楽じゃないですか。ピザとかお弁当とか。出前寿司とかもすっごく美味しいですよ?」
「へえー食べてみたいですね。」
キッチンに入って夕食の準備をするみらいとその隣で材料の手入れなどのを手伝うことり。うみから見たらショックで季節してしまうかも知れない状況だが本人達はあまり気にしていないようだ。
「昔は忙しかったからよく頼んだりしたんです。撮影とかでゆっくり食事を取る暇もありませんでしたから。」
「そうですね。ことりちゃん、大人気でしたから。」
「ふふんーもっと褒めてくださってもいいですよ?」
ここ最近少し元気になったことり。初めて来た時よりよく喋ったり笑ったりする彼女を見て少しだけほっとしたみらいは彼女の話に丁寧に耳を傾けていた。
自分には分からない彼女の前の日常。純真な顔で自分の話を並べている彼女のことが愛しくてたまらないみらいはそんな彼女のためにとびっきりに美味しいカレーを作ってあげようと思うようになった。
「やっぱり先輩がいるとほっとします。ことり、ここ数日ずっとにな先輩とねねちゃんと一緒だったんですがねねちゃん、厳しすぎますから。」
「あー確かに「Silence」の1年生の方でしたよね?眼鏡を掛けたお下げさん。」
「空之音々」。進学校の第1女子校の中でも最優秀の成績を誇っている天才少女。特に1年の中では比べ物がないほどぶっちぎりのトップを占めているだが見た目からも分かる尖った性格のため対人関係に相当な悩みを抱えている少女であった。
「よく知ってますね、先輩。」
「時々になちゃんが話しますから。になちゃん、あの空之さんのことがよほど気になっているよいで。」
そんな彼女のことをいつも心配してくれるのが「Silence」の弐番隊隊長「岩鳴仁菜」であった。
「になちゃん、いつも「ねねちゃんはいつも頑張りすぎから心配なの」って空之さんのことを気にしてたんですよ。」
「優しい人ですからね、にな先輩って。私がそっちにいた時もよく構ってくれたし。でもあの二人、殆ど付き合ってるもんですから。」
「ええ!?そうだったんですか!?私初耳なんですけど!?」
「まあ、まだ人に言える段階ではないってことですよ。」
「そ…そうだったんですね…になちゃんったら私にも言ってくれれば良かったのに…」
「何で言ってくれなかったんだろう」っと少しさびしい気分になって落ち込むみらい。そんなみらいを見て隣でにんじんを切っていたことりは
「…やっぱりこの人はいつも他人のことを心から思ってくれるんだ…」
っとそうなれなかった自分への情けさを改めて味わってしまった。
「カレー…」
ふと昔のことを思い出してしまうことり。
「そういえばうみっこに初めて教わったお料理、カレーだったよね…」
懐かしい思い出。思い出しただけで心が解れて温かくなる同時に大きな棘でも差されるようなずっしりした痛みに今でも胸が腐乱しそう。でも自分にとってかけがえのない宝石のような大切な記憶ということは否定できなかった。
「いい?赤座さん。赤座さんはいつも出前やレトルトばっかり食べちゃうから栄養が偏りやすいのよ。今日からは私が少しずつでもお料理教えてあげるからこれからは自分で作ってもらうね。ちょっと慣れたらすごく楽しいのよ?」
っと休日になるといつも家に押しかけて料理を教えてくれたうみ。子供の頃からジャンクな食生活を送ってきた自分にはそんなうみのことが面倒くさいと思われる時もあったが
「うまい!うみっこ、お料理上手なんだね!」
健やかで美味しかった彼女の手料理は人の温もりというのを感じられたので割と好きだった。
だが一番好きだったのは
「そう?良かった。」
美味しそうに食べている自分を幸せそうな顔で見ている時のうみの笑顔であった。
実家が定食屋をやっているうみは人並み以上料理が得意だった。今まで合ってきた人の中でもぶっちぎりで美味しい品を作ってくれたうみ。比べられる人は精々自分の隣にいるみらいしかないと自分はそう思っていた。
それから毎週の週末にやってくるうみとの料理の時間は数少ない楽しみの一つになった。せっかくの週末に休みたいという気持ちはいくらでもあったがその時間だけは意地でも動くようにした。
一緒に料理を作って笑い合う二人きりの大切な時間。あの時は本当に楽しかったと彼女は今もそう思っていた。それは昨年まで続いてきた二人だけのお約束の週課だった。
だが去年の事件で学校から追い出された以来、彼女は二度と自分の手で料理を作らなかった。一人では何を作っても美味しくなかった。何より一人だけの厨房なんては入りたくもなかった。
結局料理に完全に興味を失った自分は前の生活に戻ってしまい、暗い部屋に引きこもって毎日を過ごしているだけであった。
「うみっこ…」
今も目を閉じたら見えるほど鮮明に覚えているうみの手料理。その中で一番だったのは初めて教えてくれたカレーだった。
誰でも作れる簡単な料理。だがその同時に単純だからこそ持つ奥深さ。好き嫌いが多かった自分のために色んなことを考えてくれたそのカレーは本当に美味だった。
だから二度とそのカレーが食べられないという事実は痛くて悲しくて仕方がなかった。
「こ…ことりちゃん…!手…!」
「あ…」
みらいの驚いた声に気がついたあそこに見えるのはいつの間にか包丁に切られて血が出ている自分の指。認識した後になってやっと感じられたその痛みに自分自身も少々驚いたが
「大丈夫ですから。そんなに心配しないでください。」
彼女は落ち着いて他の手で切った指をそっと包んだ。
「救急箱…!救急箱、持ってきますから…!そのまま…!」
「いいえ。ことり、全然大丈夫ですよ。だって」
っと包んでいた手を開いて包丁に切られた指を青白い顔になっているみらいに見せてくれることり。開いたあそこにはいつの間にか血が止まってすっかり傷まで治っている小さくて可愛い指がいたのであった。
「こう見えてもことり、一応魔法少女ですから。」
そう言っている彼女のことをびっくりしたカエルみたいな見つめているみらい。それは彼女と知り合った以来初めて見た彼女の魔法少女としての権能「魔力回路ー復」であった。
「魔力回路」。「魔法の一族」として生まれてから持つことになる普通の人間にはない特殊な魔力の道、いわば魔力の血管であった。
「コア」と呼ばれる魔力の心臓部からできた魔力、つまりエーテルを体中に循環させ、様々な魔法を駆使する彼らは自分が使おうとする魔法を強くイメージすることでより強力な魔法が使えるわけであった。
「すごい…私、初めて見ました…」
一気に治った指から目が離れないみらい。今日初めて見た彼女の能力があまりにも珍しくて調理の途中ということさえ忘れてしまった彼女であったが
「でも本当に治ったんですか…?何か手当でもしなきゃ…」
まだ心配になるのは仕方がないようだ。
「本当に大丈夫ですから。ほら、もう血も出でないし痛くもないです。」
「そ…そうですか。良かった…」
気にかかりすぎるみらいを安心させるために何度も指の状態を確認してあげることり。ちゃんと傷口も塞いで元の状態に戻っている彼女の指を自分の目で再び確かめたみらいはやっと心配から離れられた。
「すごいですね、ことりちゃん。さすが魔法少女です。」
「お姉ちゃんのと比べたら大したものではないんですけどね。」
姉の「魔力回路ー爆」には到底敵わない地味な能力でも使い方次第でいくらでも人の役に立つ能力。みらいはそんな彼女の能力を本当に優しい能力と思っていた。
「でもことりちゃんにはぴったりの優しい能力だと思います。ことりちゃん、本当はすごく優しくていい子ですから。マミーには分かっているんですもの。」
「先輩…」
みらいのことを見ているとつい姉のすずめのことを思い出してしまうことり。すずめも今のみらいのようによく自分の能力をすごいって言ってくれた。
「ことりはお姉ちゃんが守ってあげるね!」
頼りになる性格と包容力の溢れる母性愛。どう見てもみらいは自分の姉にそっくりな優しくて強い人だった。
マフィアとしてはポンコツだった自分のことをいつも褒めてくれた優しい姉。5分の差で生まれた双子とはいえ自分とは真逆の大人だった姉とはもう何年も合ってない。たまに電話や手紙くらいは届いていたが今どこで何をしているのかは全然知らなかった。
自分の姉と同時に母の役まで務めてくれた大好きな姉。そしてその姉にそっくりなみらいもまた彼女の大好きな人だった。
「でも危ないじゃないですか。包丁を握ってよそ見なんかしちゃったら。大怪我しちゃうかも知れませんよ?」
「あ…すみません…」
こうやってビシッと注意するところまで本当にそっくりだなっと思ってしまうことり。だが今の自分の心がここにいないというのは自分が一番知っていた。
どうしても忘れない顔。その顔が今の自分の脳内に張り付いている限り多分何をやっても集中できないだろう。彼女はそう思ってたからあえて明るく振る舞っていたのであった。
「どうしたんですか?ことりちゃん。」
っと自分の顔を窺うみらい。
今の自分に何か気にかかることでもあるのはないかなっと薄く気づいたような顔で聞いてくるみらいにどう答えてあげればいいのか、それは相当自分を悩ませることであった。
昼に偶然道で鉢合わせてしまったうみ。自分から背を向けて離れていくその後姿を見ていると胸が苦しくて本当に痛かった。
二度と自分のことを振り向いてくれないような硬くて冷たい表情。見ているだけで唇が震え、鼻筋がしびれてくるほど彼女は苦しかった。
もしそのことを彼女に全部話したら少しは楽になるんだろう、そう思った時はまた自分勝手に自分の苦しみを他の人に押し付けようとする自分自身に大きな失望感まで感じてしまうことりであったが
「何かあったら遠慮なく言ってくださいね?私とことりちゃんは友達ですから。私はことりちゃんのこと、大好きです。」
そう言われた時はいつの間にか自分は今日のことを彼女に全部解き明かした後であった。




