第200話
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「あれ…?ここって…」
いつの間にか目の前に広がっている花園。舞い踊っている彩りの蝶々、周りを抱え込む数多なお花達。どこから始まるのかも分からないほどのとんでもない広さ。あまりにも美しくて幻と勘違いさせる素敵なお花畑の庭。
ふと目が開けた時、私が自分の目で確かめていた景色はそういうものでした。
でもそこは私もよく知っている場所の一つでした。
「ここは確か…」
子供の時からよく遊んでいた近くのあるお金持ちさんの裏の庭。そこで私はあの子と一緒に純粋で初なひと時を過ごしてきました。
「ここ、ゆりちゃんの家だ…」
そう。ここは私達の学校から遠いところにいるゆりちゃんの家でした。
「何で…?私、今確か寮の自分の部屋で…」
少し記憶を手繰り寄せる私。
「私、赤城さんとかな先輩、クリスちゃんと一緒だったんでしょ…?」
そこははっきりと覚えています。軽い風邪っぽいだった私のお見舞いで私の部屋に集まってくれた皆のこと、夕方の食事を用意してくれた舎監さんのこと。それ全部私は鮮明と覚えていました。
「確か舎監さんがお粥を作ってくれたよね?葱と生姜と卵で作ったやつ。」
美味しかったんですよね、あれ~梅干しまで乗せてめっちゃ美味しかったんですー食べたらすぐ体がポカポカになっちゃって。あまり食欲はなかったのにもうおかわりまでしちゃっていっぱい食べちゃったんです。
舎監さん、以外に料理とか得意っぽいだったからちょっとびっくりしました。聞いた話によると体調を崩して寮で休んでいる子にはいつもそうやってお粥とか作ってくれるそうです。やっぱり優しい方なんですね、舎監さん。
それから多分クリスちゃんが体を拭いてくれたような気がします。私、汗とか結構垂らすタイプですから食事の後はすぐ汗が出ちゃって。
「ああ…♥みもりちゃんの芳醇な汗の匂い…♥嗅ぐだけで中から何かムラっとして堪りません…♥」
って感じでクリスちゃん欲情したこともちゃんと覚えていますね…そんなの忘れてもいいのに…
えっと…それから…
「じゃあ、私達はもう帰るね、モリモリ。体、気をつけてね。」
「健康第一ですわ。お大事に。」
夜が更けてきからそろそろ寮と屋敷に帰ろうとしたかな先輩と赤城さんのこともちゃんと覚えています。
お二人共が夜遅くまで私の面倒を見てくれてとても助かりました。皆でたくさん喋ったからすごく楽しい時間だったんです。
早く元気になってねって言ってくれたかな先輩も、「交流の日」のことは任せておきなさいって言ってくれた赤城さんも本当にいい先輩です。
「私はみもりちゃんが眠ったら帰りますね。」
ゆりちゃんの代わりに放課後ずっと付ききりで私の面倒を見てくれたクリスちゃんは私が眠りにつくまで傍にいてくれるって言いました。
今日のクリスちゃん、なんだかすごく元気がない顔でしたからそれがすごく気にかかる私でしたが結局私はそんなクリスちゃんを励ましてあげられなかったんです。
自分には持てない私とゆりちゃんの思い出を複雑な気持ちで眺めているクリスちゃんに私はなんと言ってあげたら良かったんでしょう…
まぶたが重くなった頃、クリスちゃんは自分の膝に頭を寄せている私の髪を心地よく撫でてくれました。薄くなってきた視線の中から見えたのはひたすら愛しい目で私のことを見つめていたクリスちゃんの藤色の瞳。ゆりちゃんの青い目とはまた違う優しさをいっぱい含んでいるその目はその世のどんな宝石美して清らかなものでした。
「ごめんね、クリスちゃん…」
凄まじい勢いで迫ってくる眠気。今日の疲れが一気に押し込んでどんどん離れてきたぼんやりした意識の中、私はなぜかクリスちゃんにそう謝りました。
「みもりちゃん…?」
クリスちゃんはそんな私の行動に少し戸惑いましたがそれは私自身も同じ気持ちでした。
ぼやけていく意識の中、それだけはちゃんと伝えたかった。私、クリスちゃんのお望みのこと、たった一つも叶えてあげられなかったから…
だからその言葉だけは言いたかったんです。こんなダメな私でクリスちゃんのことを悲しませてしまってごめんって…
それからの記憶はわずかの欠片もありませんでした。ゆりちゃんのことで連日ずっと悩んできた弱まった私の体は一気に押し寄せた疲れに耐えられませんでしたから。私はそのまま自分の体の全てをクリスちゃんに委ねて深く寝込んでしまったのです。
「おやすみなさい、みもりちゃん。いい夢を…」
そして霞んゆく意識の向こうから聞こえるクリスちゃんからの微かな一言。あまりにもぼんやりしてはっきりとは聞こえませんでしたが私はその言葉にすごい安心感を感じてしまいました。
体がふんわりと浮かんで流れるようなふわっとした感覚。目を閉じてただそれに身を任せ、流されてきた私が目を開けた時着いたところがまさか私もよく知っているゆりちゃんちの裏の庭とは…
びっくりしすぎてもう何が何なのかさっぱり分かりませんね…
鼻をくすぐるお花達の息、二人でよく遊んだ小さなバラの迷路、そしておばさんと一緒にお茶会を楽しんでた野外のティーテーブル。全てが私が知っているゆりちゃんの庭…一体これは…
その時でした。
「みもりちゃん?」
まだ状況が全く見えない私の後ろから掛けられてきた女の声。驚いて振り向いたあそこには
「どうしたんですか?そんなびっくりしたウサギさんみたいな顔で…」
なぜかお腹のところがすごく膨らんでいるゆりちゃんが珍しいって顔で私のことを見つめていました。
***
「ではうみちゃん、セシリアちゃんのこと、よろしくお願いしますね。」
「はい。」
「気をつけて帰って、みらい。」
「はい。今日は本当に楽しかったです。」
「うん、私も。」
改札口の向こうから私と会長に向かって別れの挨拶をする先輩。なんだか懐かしい光景ですね…
「じゃあまた明日、うみちゃん!今日は本当に楽しかったです!」
「私もすごく楽しかったです、先輩。お気をつけてお帰りくださいね。」
去年、部活が終わったらこうやってよく市内まで出て一緒に遊んだりしましたね…一緒にスイーツカフェに行ったり映画を見たり…
そういえばカップル割引で演劇を見たこともありますね。あの時、
「えへへ…カップルに見られちゃいましたね…」
っと照れてた先輩、本当に可愛かったんです。もう二度と私には向かってくらない安らいで癒やしの笑顔で私とカップルに見られたことを照れていた先輩…
「じゃあ、カップルみたいに手でも繋ぎ合いましょうか…?」
そしてそう言いながら私の手を取ってくれた先輩のことを私は今もはっきり覚えています。
いつまでも変わらず咲き誇っている「神樹様」の桃の花のように、あなたは今も私が愛してやまなかったあの時と同じく愛しくてきれいに輝いてします。
「それでは皆さん、明日学校で。」
そう言ってやがて駅の中から消えてしまう先輩。私はそんな先輩の後ろ姿を静かに見送りました。
「私達も帰りましょうか。タクシー呼びますね。」
「あ、ちょっといいですか?青葉さん。」
「会長?」
私達をずっと陰から見守っていた「Judgement」の人に頼めばすぐ車を用意してくれるはずですが向こうからはあまりこちらに姿を表してくないって感じなのでタクシーでも呼ぼうかとしましたが
「あ…その…」
会長はなんだか別の方法で学校へ戻りたいって感じですね。
「良かったら途中までちょっと歩きたいなって思って…」
しおらしく一緒に歩くことを望む会長。会長、このまま寮に帰るのはちょっともったいないと思うのでしょうか。特に難しい頼みでもないから少しくらい歩いても構いませんが…
「わ…私、まだ青葉さんとお話したいかな…」
なるほど…先輩が今の会長に母の気持ちを抱くのもうなずけます…この珍しい初々しさ…普段の会長には絶対見られませんから。
「いいですね。今日は温かいですし。じゃあ、ちょっとだけ歩いて行きましょうか。」
「ほ…本当ですか?ありがとうございます!」
なんと嬉しそうな顔…子供の時の会長ってよほど私のことが好きだったようですね。
「うみちゃん~一回でもいいからうみちゃんの卵で作った丼、食べさせてくれない?みらいちゃんだけってずるいわよー」
普段ああいうの欠片もありませんから…
そういえば結局あれ、会長には食べさせてあげませんでしたね。なんか先輩以外の人には生理的に拒否感が感じられるっていうか…産卵のこともあまり見られたくないし…
「これがうみちゃんの卵…とても新鮮でコクもこんなに深くて…それにうみちゃんの愛情と心がいっぱい込められて…これが全部うみちゃんの中から…」
って先輩はすごく美味しそうに食べてくれましたが先輩、よくあんな食レポできましたね…
でもこっちの会長は私に卵を産んで欲しいとか言わないからひとまず安心かも。なんか子供の時の方がもっとビシッとした性格かも。
それから私は会長と一緒に街を歩き始めました。
夜の街は昼とは全く違う神秘的で少しは大人っぽい雰囲気に変わりましたからただ歩いているだけで大人になったような気分で私も結構好きです。故郷からよく見えた星達はもはや都市の明かりに隠されて見えなくなりましたがそれでもこの洗練されておしゃれな空気は決して故郷からでは味わえないものでしたから田舎の出身である私には一段と新鮮に感じられました。
実家は普通な定食屋。お客さんを呼び寄せるために看板娘として初めたのが歌と演技でした。
毎晩家族皆で次のお芝居のアイディアを考えてお客さん達の前で演じて披露するのは本当に楽しかったです。お父さんお母さんと一緒に皆を笑わせて私の歌で皆がニコニコにした笑顔になったら申し分ないほど楽しかったです。
両親は私を勉強させるために都会の従兄弟に頼んで私を事務所に入れてくれてそこから私「青葉海」の芸の人生は始まりました。
故郷から離れて約10年。私、やっと都会っ子っぽくなったんでしょうか。
そんな私と違って生まれから既に「アイドル」だった会長。ただ歩いているだけで輝いている…
春風に靡かせる鮮明なプラチナブロンド。カチューシャの形で結んだ可愛い髪型は昔もう一人の姉がよくやってくれたものでお気に入りらしくて会長の愛着がたっぷり。
いつも身に着けている長くて真っ白な手袋とニーソ、おしゃれなバッグ。体は私が知っているそのままでしたがその雰囲気だけは子供の頃からもずっと同じだったような大人びていておっとりして余裕まで感じられる落ち着いた空気。
その全てが今の自分にもどれほど素敵な姿に見えているのか会長は分かっているのでしょうか。
「青葉さん。」
夜になって更に艶かしくてしっとりした雰囲気が増しになった会長の並外れの美しさに目を取られていた私に話を掛ける会長。
「はい。」
今の会長はこんな私を見てなんと思っているのでしょう。
自分が知っている私と今の私の中に存在する大きな時間の差。会長は今の自分にはその時間の差を埋められる記憶がないことを悲しんでいました。
彼女の中にいる私は子供だった私のまま。私はそんな会長に今の私のことを知ってもらいたかったです。
「青葉さんはみらいのこと、好きですか?」
でもこの人は今日だけという短い時間の間、既に私の深いところまで私のことを知ってしまいました。
まるで「心理支配」でも使ったように私の心を見抜いた会長。この人は子供の頃からずっと人を見透かす才能があったのです。




