第19話
初めてで投稿したからもう1ヶ月が経ちました。もうちょっとたくさん書きたいですがなかなか思いのままにならないでとても残念です。
これからもよろしくお願いします!いつもありがとうございます!
お父さんの本名は「虹森源之助」ではなく、「鉄国源之助」。
「虹森」はお母さんの方の名字で、お父さんはその家を出る時、「鉄国」という名前を捨ててお母さんの「虹森」に名前を変えました。
お父さんは一度も私に自分が「大家」の子、しかも「大母」、「鉄国七曜」の次男であることを教えてくれませんでした。
お父さんはその家ととっくに昔に縁を切って、御祖母様から離れて、自分の人生を生きていましたから。
それだけその家はお父さんにとっても嫌な場所だったのです。
「生まれ変わるのです、みもり。」
御祖母様のその一言で、私はその日から「虹森美森」ではなく、「鉄国美森」になって大家の後継者として育てられることになりました。
そのことによって私のそれまでの人生はすべて否定され、間違ったものにされたのです。
辛い時間でした。
毎日が後継者になるための厳しい鍛錬と教育…
うまくできなかったら食べられずに、寝られずに、叱られて、罰を受けました。
ゆりちゃんにも、家族にも会えませんでした。
携帯は没収、学校にも行かせてもらえなくて、私は毎日、たった一人でその家で地獄の日々を過ごさなければなりませんでした。
御祖母様の「大家」は人間以外の種族が大嫌いで、絶対「人獣」のゆりちゃんには会わせてくれなかったのです。
毎晩、布団にこもって朝まで泣き続けました。
泣きすぎたせいで脱力して、ろくな食事もできなかった日もたくさんありました。
でもいくら私が泣いても、誰も私に構ってくれませんでした。
たくさんの人に囲まれていても、誰も私を「虹森美森」として見てくれませんでした。
ただ仮面の中から無感情に私を眺めているだけで、誰も私に大丈夫ですかって言ってくれなかったのです。
だって御祖母様も、そこの皆も普通な「虹森美森」に興味はなかったから。
軟弱で普通な私には何の価値もないと、そこの皆は今までの私を全部否定しました。
その頃からでした。私が普通な自分に完全に自身をなくしてしまったのは…
幸い半年後、私は私の両親とゆりちゃん、ゆりちゃんのお父さんのおかげであの地獄から脱出しました。
武力衝突が起こることを恐れて、ゆりちゃんのお母さんが昔、軍務に服していた世界政府陸軍特殊部隊「Ultra」まで出動したあの日のことはよく覚えています。
「二度とあなたに会いたくありません。」
初めて見ました。
あの優しいお父さんがあんなに怒る姿は。
母である御祖母様にそう言ったお父さんはその後、御祖母様の駕籠から背を向けて、二度とそこを振り向かなかったです。
私はその時、お父さんが本気で怒っていたことをよく覚えています。
そこを抜けた私はその直後、そこから受けてしまった精神的なダメージで入院、しばらくずっと病院で治療を受けるようになりました。
ゆりちゃんと色んな人達のおかげで、なんとか日常生活くらいはできるように回復しましたが、今でも私はその時のお祖母様のその言葉だけは忘れていません。
それはいつまでもずっと私につきまとって私の価値を蝕む呪いの言葉。
どこまでも私を絶望の奈落引き落として、そこに縛り付ける呪縛。
それがある限り、私は二度と元の自分には戻れない。
私はずっとそう思っていました。
「特別でなければ何の意味もないです、みもり。」
私はそうおっしゃっていた御祖母様が本当に怖かったです。
いつも帳の中で、一方的な命令すらしなかった御祖母様。
孫である私ですら最後まで見られなかった御祖母様の顔。
でもその薄らな帳の中で、キセルを持っていたその冷たくて無機質な目は今も私の心を見透かしているような気がして、ただ思い出すだけで背中が凍えてしまうほどゾッとする。
「防人」である「大家」の血が流れている限り、私はそれにふさわしい人間にならなければならない。
そのために、今までの自分のすべてを否定して、殺して、人間以外のものを認めない。
人間こそすべての頂点。他のものなんて道具に過ぎない。
私が御祖母様から習ったものはそれだけでした。
普通の人には誰もついてこない。
特別でなければ生き残れない。
私は御祖母様に叱られないためにそう思っているうちに、いつの間にか自分の普通という個性は罪であり、否定すべきものだと認識するようになりました。
結局、御祖母様の言ってたあくどい人にはなれませんでした。
それは私の中に嫌うにはあまりに大切な人たちがたくさんいて、皆が私がその優しさを失わないように支えてくれたおかげでした。
もし御祖母様のように人間以外の種族を嫌うようになったら、私は本当の意味で自分を失われてしまったと、ずっとそう思います。
たとえその代償として自分への思いを失ったとしても、私はその選択を後悔しませんでした。
毎晩、窓もない狭い部屋の中でゆりちゃんやお父さん、お母さんのことを思いながら泣き続けた自分。
「助けて…会いたいよ…ゆりちゃん…皆…」
夢の中ですら皆に会えなかった私でしたが、それでもまた皆と会うことだけを思って必死に堪えた私は、奇跡的に皆と再会、元の世界へ戻れました。
でも本当の意味で解決されたことは何もなかった。
皆への思いを失わないために、代わりに自分自身への思いを失ってしてしまった私はいつもゆりちゃんにくっついて、後ろに隠れるようになりました。
何をやっても無駄だって、自分みたいな子にできっこないって、始める前にもう自分で勝手に結果を決めつけて前に進まなかった。
ゆりちゃんは前より私が自分を頼ってくれて、一緒にいる時間が増えたって喜びましたが、時々どこか心苦しいような表情で私のことを見たりもしたのです。
だからあの夜、私に同好会のことを手伝わせるために背中を押してくれたあの時、
「でもあなたのゆりはやはりあなたにもっと前に進んで欲しいです。」
私にああいう話をしてくれたのでしょう。
ゆりちゃんは知っていたのです。
私が自分への自信を失っても、最後まで諦めて、手放せなかったものがあるということを。
それは未練という別の名前の自分の夢。
それがあれば私は立ち上がれるってゆりちゃんは信じて、私の背中を押してくれたのです。
ゆりちゃんが背中を押してくれたおかげで、私は先輩たちと一緒にこの同好会で頑張っている。
そして初めてあの家のことも、自分の悪夢のことも全部話すことができた。
先輩が私のことをどう考えて、どう受け止めてくれるのか。
それは多分神のみぞ知ることでしょう。
「みもりちゃん。」
静かで穏やかな声。
御祖母様の冷たくて、愛情の欠片もない冷酷な声と違って愛の温もりがいっぱい込められた優しいその声で私を呼んだ先輩。
「辛い記憶だったのに勇気を出して私にお話してくれてありがとうございます。
本当に苦しくて、辛かったのでしょう。」
そうやってそっと私の体を抱きかかえる先輩は、
「でももう大丈夫。もうみもりちゃんを傷つけることはなにもないですから。」
抱き込んだ私の耳元にそうささやきながらこれまでの私の苦労と悩み、苦しみを慰めてくれました。
心を包み込む和やかな優しい声。
先輩と一緒にいると不思議に御祖母様の声が聞こえなくなって、すごくほっとしてしまう。
大好きなゆりちゃんと一緒にいる時もこんな気持ち、なかなかしなかったのにどうして…
っとあまりにも先輩の懐が心地よくて、ほんのりした眠気も感じるようになった私の額に軽く口づけをした先輩は、
「ここには怖いおばあさんも、仮面の人たちもいない。
ここにいるのは私と可愛くて大切なみもりちゃんだけ。」
少し力を入れて先よりギュッと私の体を抱き込みました。
フワフワでほんのり甘い先輩の匂い。
満開した桃の花のように、先輩の匂いは気が遠くなるほど芳しく、体温は体が熱くなるほど高かったのです、私はキリキリに張り詰めていた心は一瞬に溶けて、すっかり身も、心も先輩に委ねるようになったのです。
「これ…ちょっとやばいかも…」
特にゆりちゃんに見つかったら絶対怒られると思いながらも、
「でも気持ちいい…」
もっとこうしていられたらと思ってしまう甘えん坊になった自分。
そんな私のことを先輩は子供じみると思うことなく、
「よしよし♥ご飯食べマチュカ♥」
またさり気なくお乳を飲ませようとしました。
「せ…先輩…!」
「あ…!ごめんなさい…!みもりちゃんが可愛すぎてつい母乳が止まらなくなっちゃって…!」
ついって…!って乳輪でっか…!
と…とにかく先輩は多分私にもう大丈夫って、何も怖がらなくてもいいって、心を込めてそう言ってくれたのです。
たとえその言葉に本当に身の安全が確保されるという保証はなくても、その「大丈夫」という言葉は私に御祖母様からかけた呪縛から解き放つ勇気の魔法をかけてくれました。
「皆がみもりちゃんのことを守りますから。これから私たちはずっと一緒です。」
これからはずっと一緒。
その言葉が私にどれだけの勇気を与えてくれたのか。
いつもゆりちゃんも言ってくれた言葉でしたが、あの時に聞いた先輩からの「一緒」という言葉はなんだかもう少し特別な気がした私は、
「はい…」
思わずそう答えてしまったのです。
でも先輩が本当に私に言ってあげたかったのは、
「もうありのままの、普通な自分を拒まないでください、みもりちゃん。」
自分の普通という、ありのままの「虹森美森」を責めないで欲しいということでした。
「もうありのままのみもりちゃんを責めて、否定しません。
だからみもりちゃんのありのままの自分をもう一度ちゃんと見てあげてください。」
普通な人には普通のままで頑張れる道がある。
誰もが特別になる必要も、特別にならないことに罪悪感を持ったり、自分を責めたりする必要はないと、先輩は私の悩みに対する自分なりの考えを言ってくれました。
「これでみもりちゃんの悩みが完全に解決されることはないっていうのはよく分かっています。
でもこれでみもりちゃんの肩の荷が少しだけでも軽くなったらとは思ってます。」
っという先輩の顔を先輩の懐で見上げた時、先輩は初めて私とお友達になった時のような、華やかで和やかな笑みで私のことを見つめていたのです。
ありのままの私を受け入れてくれる真っ直ぐな瞳。
その目に一点の偽りはないと、私はいつの間にか自分も知らないうちに、そう確信するようになっていました。
ただ私のことを肯定してくれて、ありのままで受け止めてあげたいという大切な思いだけがいっぱい詰まっている先輩の目に、私はなんだか涙が出るような気分でしたが、ここで泣いちゃったら迷惑がかかるかもしれないと、また先輩の懐に潜り込んでしまったのです。
「それに皆、ただ気づいてないだけで、本当はそれぞれの特別を持ってますから。」
っとそっと私の頭を撫で下ろしながら、本当は皆もそう変わらないと、そう教えてくれた先輩は、
「だってみもりちゃんはもう私の特別な人なんですもの。」
こんな私のことを自分の「特別」と言ってくれました。
ちっぽけな自分。
いつも御祖母様から情けないって、みっともないって言われた、なんの取り柄もない私のことを特別な人と思ってくれた先輩。
御祖母様の特別でなければダメという教えをひっくり返した特別でなくてもいいという先輩の言葉は内側から響く大きな衝撃を与えてくれましたが、私はそれがそんなに嫌ではなく、むしろスッキリするほど気持ち良かったです。
そして先輩は私にこう言いました。
「だから今度こそ自分の気持ちにちゃんと応えてあげてください。」
自分の幸せのために、自分の意志で自分の心に応えて欲しいと。
「みもりちゃんなら正しい答えを見つけられます。
私はそう信じていますから。」
っとどんな答えが出ようとも、その選択を尊重すると約束してくれた先輩。
先輩は最後までその正しい答えが何なのか、正解は教えてくれませんでしたが、
「私は、私たちはずっとみもりちゃんの傍にいます。」
いつまでも傍にいると、指切りで約束してくれました。
それから私はしばらく先輩の中で泣いて、そのままちょっとだけ眠ってしまいました。
初めて自分を肯定してくれた人。
いつも私のことを守ってくれるゆりちゃんとは別の意味で私のことを受け止めてくれた人。
この人のためなら、この人が信じてくれたらもうちょっと勇気を出せそうな気がした私は、
「ありがとうございます…先輩…」
小さな声で先輩にお礼を言って、そのまま眠りにつきました。
***
「ありがとう、ゆりちゃん。」
「どうしたんですか?急に。」
その夜、ゆりちゃんは急にありがとうってお礼を伝えてきた私に、どうかしましたかと言いましたが、
「私、ゆりちゃんのおかげでちゃんと前に進めたから。だから。」
私はちゃんと今回のことについてお礼がしたかったのです。
いつも一緒だからなんだか小っ恥ずかしくて言いにくいありがとう。
でもこういう気持ちはちゃんと伝えておくべきだと思った私は、
「あの時、背中を押してくれてありがとう。」
自分が勇気を出せたのは全部ゆりちゃんがきっかけをくれて、自分を信じてくれたおかげだと、素直に自分の気持ちを大切な幼馴染に届けました。
そんな私のお礼に、
「いいえ。勇気を出したのはみもりちゃんですから。
私はみもりちゃんのお嫁として務めを果たしただけです。」
っと自分は特に何もしなかったと、いつものように笑うだけでした。
「良かったですね。」
「うん。」
ちょっとした勇気で景色が、未来が変わっていく。
私はそれを教えてくれたゆりちゃんに、言葉以外にもなにかお礼をしたかったのですが、
「みもりちゃんだけが幸せならそれであなたのゆりは十分です。」
自分が欲しいものはただ私の幸福だけだと、それ以外は必要いないと、ゆりちゃんはそう言うだけでした。
無論、
「あ、要らないとは言ってましたが、タイツとか、下着をくれるのならありがたくもらいますけどね。」
「そ…そう?」
その後、なんか平然と私物を求めてきたゆりちゃんでしたが…
私の背中を押してくれた大好きな幼馴染。
そして私のことを笑顔で迎えてくれた大切な先輩たち。
皆がいてくれてやっと踏み出すことができた一歩。
何より私は自ら勇気を出したことに自分を褒めてあげたいと、ほんの少しだけ自身ができたような気がしました。
今まで自分を縛り付けていた呪。
前に進めないように私の勇気を遮って、決意を鈍らせたその呪縛が少し緩くなって前より肩の荷が軽くなった気がした私は、
「じゃ…じゃあ、今日だけ特別なんだからね…?」
2日も履いた洗濯予定だったタイツを脱いでゆりちゃんにプレゼントしたのです。




