第192話
明日から韓国はお正月です。2日で田舎へ行ってくる予定です。投稿が少し遅れると思いますので予めご了解頂きたいと思います。
いつもありがとうございます!
「おまたせー着替えに少し時間がかかっちゃったわ。」
「いえいえ。私も今来たばかり…」
っと3年生の寮の前で待ち合わせてた私の前に現れた速水さんの姿につい言葉も出なくなってしまう私。
「速水さん、きれい…」
私は月光に照らされ薄明るく光っている速水さんの月の妖精みたいな姿に同じ女の子という事実させ忘れてしまうほど見惚れてしまったのです。
いつもの「百花繚乱」の白い制服の格好ではない透明感溢れる真っ白なワンピースの速水さんは今でも月の光に溶け込んでしまうほど澄み透って清澄していました。
ただ普通な私服のはずなのにこんなに違うだなんて…改めてレベルの違いさを思い知らされちゃいます…
「そんな大げさなものではないから。っというかまつりちゃんの私服だって普通に可愛いじゃない。」
「そ…そうですか?えへへ…」
可愛いって速水さんから言われたら嬉しくてつい笑いが出ちゃいますよ…
「疲れているはずなのにお時間出してくれてありがとう。立ち話も何だから少し歩くのはいかがかしら。」
「あ…!はい…!」
そう言った私は私に少し散歩することを提案する速水さんの後を謹んでついていきました。
「お茶会、どうだった?」
「は…はい!とても楽しかったです…!」
寮から少し離れて中央広場に差し掛かった頃、ふと先の速水さん主催のお茶会の感想を聞く速水さん。私は先のお茶会から感じた自分の素直な気持ちをありのままでお伝えしました。
同好会の桃坂先輩が心を込めて丁寧に焼いてくれた美味しいお菓子。速水さんが自ら入れてくれた紅茶もすごくいい匂いでした。
私、この学校に来て同級生の友達以外の上級生の方々とそういう席を一緒にしたのは初めてだったから地味に緊張はしていましたが速水さんも「Bullet」の畑さんも私の緊張が解れるように気遣ってくれてとても楽しい時間でした。
でも私が一番楽しかった理由は多分…
「こんごうが一緒だったからでしょ?」
私を見てなんだか微笑ましく笑っている速水さん。その笑みの意味をとっさに気づいてしまった私は速水さんのその言葉を全力で否定しようとしましたが
「別に隠さなくてもいいわよ。全部顔に出ているから。」
私自身も知らない私の心を既に見通した速水さんの前では全部無駄なことでした。
うう…すごく恥ずかしい気分…髪の毛まで火照っちゃいそう…
「あははっ。まつりちゃんって恥ずかしくなったら髪の毛が熱くなるんだ。でもそれ、地味に熱いから少し我慢してもらえるかしら。」
「が…我慢します…!」
「うふっ。ありがとう。」
くすっと笑ってしまう速水さん。こういう地味な部分まで本当にきれいなんだ、この人…さすが「黄金の塔」のお姫様かも…
「さ…さすがにこの時間なら誰もいませんね。」
中央広場には今もまだ明かりがついていてそんなに暗いってわけではありませんがこんなに広いところに誰もいないのはやっぱりちょっと寂しいですね。
「そうね。昼はあんなに賑やかなのに夜になったらこんなに静かになってしまう。」
そのガランとした広場を眺めている速水さんの目は今もこんなにキラキラしていてまるで川辺から拾った宝石みたいで…石川さんはこの人のことが好きだったんだ…
その時、私は全くその気もない私にさえ湧いてしまう羨望の感情に思いがけない敗北感まで感じてしまったのです。きれいで上品で皆のことをちゃんと思ってくれる人…
私がいくら頑張っても石川さんは決してこの人を見ている時の目を私に向けてくれない。だって私は彼女の人生において何もないから…
そう思った時はふと自分の心にこの空っぽの広場以上の穴ができちゃったような寂しい気分になってしまいました。
「ありがとう、まつりちゃん。」
「え…?」
そう思っていた私にそっと礼を伝える速水さん。私は彼女のいきなりな行動にどう反応すればいいのかただ戸惑っているだけでした。
「速水さん…?い…いきなり何の…」
っと慌てて聞く私に
「こっち座ってて。」
座ったベンチの隣を誘う速水さん。足もあんなに細くてすらっとして本当にスタイルいいかも…対して私は太ももとか結構太いし…ってど…どうも!座りますね…!
速水さんに誘われてその隣にそっと身を寄せた私は夜風に流されて私の鼻をくすぐる速水さんの匂いにそっと気が遠くなる気がしました。何といういい匂い…
「先こんごうとちゃんと話し合ったわ。」
「石川さんと…ですか?」
なんだか嬉しそうな顔。速水さん、ここんとこ石川さんとちゃんと話したことがないから石川さんと話したことが本当に嬉しかったみたいです。
「ああ見えても以外に傷つきやすいタイプなんだ、こんごうって。あんなに体は大きいのにね。本人は絶対違うって言ってたんだけど他所から見たら無理しているってすぐ分かっちゃうから。多分まつりちゃんも気づいてたと思うわ。」
やっぱり石川さんのこと、何もかも全部分かっていますね、速水さんは…さすが幼馴染…
でも石川さんがずっと一人で頑張っていたのは私にも分かりました。だってあんな疲れ切ったって顔、私は見てしまったんですから…
もう頑張りたくないっと言わんばかりのうんざりした顔。その顔で石川さんは皆から、この世界から離れようとしていました。自分の人生は何もかも全部ダメだったって…
そんな石川さんのことを私はほっておけなかったんです。
***
「あいつはあまりにも早く大人になってしまった。」
理事長はそうおっしゃいました。
物心がつく前にいなくなった両親。生まれてから付けられた「罪の一族」という烙印。そして種族の復興のために森から出た父から託された一族の運命。その全てが今までずっと石川さんの人生を圧迫していました。
誰も石川さんの話を聞いても、悩みを、痛みを一緒に感じてくれなかった。世の蔑視を全部受け入れなかればならないってことはたった10歳にもならなかった小さな石川さんが背負うにはあまりにも重くて辛いものでした。
そんな石川さんを今までずっと支えてくれた唯一の味方があの速水さんでした。初めての友達、そして最後の味方。石川さんにとって速水さんだけが世界でした。
生き延びるためにたった一人で何でもやってきた石川さんはあの日、部長と一緒にいた速水さんのことを見たことを堺に生きる勇気を失ってしまったのです。
どんなに足掻いても幸せというものは自分の手からすり抜けてしまう。そう思った石川さんは心の底からこの世界に絶望していました。
「あいつがそうなってしまったのは全部我々の責任だ。もっとあいつの言うことに耳を傾けるべきだった。もっとあいつを正しい道へ導くべきだった。だが大人のくせにまだ過去のことに捕らわれていた我々はあいつを見放してしまった。結局私は未だにまともな教師にも、大人にもなれなかったということだ。」
理事長はそうおっしゃって自分を責めていました。
「だから火村。あいつのところに行ってこう伝えてくれないか。」
後悔、そして悔恨。その全てを背負った理事長は自分には自分の言葉でこれを言う資格はないっと代わりに私が石川さんにこう話して欲しいっと頼みました。
「今まですまなかった。だから諦めないでくれ。」
っと。
無責任で都合よく作り上げた適当な言葉。でも私は今の石川さんにはその言葉が一番必要だと思いました。
それを伝えた時、石川さんは苦く笑んでしまいました。
「今更何ふざけた真似をするんだ、あのばばあ…」
再びタバコに火をつけようとする石川さん。でもちらっと私を見た石川さんは私のことを気遣ってくれるように手を止めたんです。
きっと辛かったんでしょう。石川さんは私なんかでは想像もできないくらい険しくて苦しい道をたった一人で切り抜けてきたんでしょう。だから今まで自分を支えてくれた速水さんのことを失われたと感じた時の絶望も、自分の人生を恨みたくなるのも十分分かります。
「自分が不幸になるために生まれたなんて、そんなことはないんです…」
でもそんな風に自分の人生を呪わないでください。自分の人生を投げ捨てないでください。あなたのことから力をもらってあなたを憧れてきた人がありますから。あなたみたいに強くなりたくて、どんな時でも前を見て歩けるようになるために頑張ってきた人がありますから。
今こうやって私が石川さんの目の前にあるのが何よりもその証拠です。あなたに諦めないで欲しいって気持ちは私も理事長と同じです。
ワガママなこと言っちゃってすみません。もう全部諦めて休みたいって気持ちもよく分かります。でもやっぱり私はあなたに諦めないで欲しいです。
どんな辛くても悲しくてもあなたにはあなただけが描ける絵を描いてください。もっと自分の人生から楽しいことを見つけてください。あなたもまた幸せになるために生まれたんです。きっとそうだと私は信じてします。人はそれぞれ幸せになるために生まれたっというのはこんな私でもそれだけははっきり分かっています。
今はちょっと遅くて大変かも知れませんが諦めずに一歩ずつ前へ進んでいけばいつか皆分かってくれるはずです。例え自分が嫌われていてもひたすらその真剣な気持ちを伝えればいつか…
「なんでだ。」
「え…?」
急に私の話を止めて何かの理由を聞く石川さん。でもその質問の意図を全く読めなかった私はただ困った顔で石川さんの鼻息を窺うだけでした。
「何でお前はこんなに私の肩を持ってくれるんだ。」
重く吐き出される溜息。戸惑っていたのは私だけではなく彼女も同じだったんです。
「私は憎んでいる。こうしている間にもお前達の魔界のことを憎んでいる。お前達さえこっちに来なかったらきっとこんなことにならなかったと思うと今も腹が立つ。」
「はい…分かっています…」
だって石川さん、今もそんな嫌がる顔ですから…
でもだとしても私は石川さんには諦めないで欲しいです。例え私が嫌われても、変な子だと思われても石川さんにはずっと絵を描いてもらいたいです。この世界から逃げないで欲しいです。
「だって石川さんは私の初恋ですから。」
あなたの絵に触れてあなたのことを知ったその瞬間から私はずっとこう思っていました。私もこういう絵が描きたいって。私もこういう堂々な人間になりたいって。その時に感じた初めてのやりたい、なりたいって気持ちは今も大切にこの胸にしまっておいています。
だからちゃんと自分の言葉で伝えたかったです。一度諦めそうになっていた私を立ち直してくれたあなたにちゃんとお礼を、この好きって気持ちを。
その一念で生きていた私のことをあなたに知ってもらいたかったです。
「好きでした。あなたのことがずっと。」
私は去年伝え切れなかった最後の気持ちを彼女に全部伝えました。一点の偽りのない素直なありのままの気持ち。
これで彼女に分かって欲しいです。あなたの絵から勇気をもらってあなたの後をついてきた私がいる。あなたの生き様を見て頑張ってきた私がいるっと。
あなたは自分が絵を描いていたのはただ速水さんを喜ばせたかっただけだと思っているかも知れませんが私にははっきり分かります。石川さんは絵を描いている時こそ本当に幸せということを。
その絵に励まされてここまで頑張って人がいる。だから石川さんの人生はちっともちっぽけなことではないっと私が確信します。
「い…言えた…」
なんだかすっかりした気分…ああ…そうか…私はずっとこれが言いたかったんだ…
あの時、私が悲しかったのは石川さんからひどい言葉を言われたからだけではなかった。胸の密かに沈んでいたありがとうって、好きって伝えなかった私の気持ちは未練の棘になってずっと私を苦しませていたんです。
伝えなかった感謝の気持ち…これで少しは石川さんが元気を…
「あ…うん…」
あれ…?なんだかすごく照れているような…ってあ…!
「えっと…その…なんだ…私…こういうの初めてだから…何ていうか…」
「ち…違います…!!違いますから、石川さん…!!」
珍しく顔まで赤くなってもじもじるしちゃう石川さん…!なんだかすごく新鮮ですが重要なのはそっちではないですから…!
「違います…!これはただ憧れって意味で決してそういう意味では…!」
「そ…そうか…す…すまない…つい嬉しくて…」
「嬉しかったんですか…?」
私の今の言葉が嬉しいって…でも石川さんは魔界のことが大嫌いだったのでは…
私のその言葉に少し落ち着いて言いたいことを整理する石川さん。その後、石川さんから聞かせてくれたその話は天地がひっくり返るほど衝撃的だったんです。




