第191話
試験の成績が思ってたように出でくれてとても嬉しいです!990の満点で870点を取りました!
いつも楽しく勉強した成果かも知れませんね!これも全部皆様のおかげだと思います!
いつもありがとうございます!
「モリモリ!お見舞いに来たよ!」
「体の具合はどうですか?みもりちゃん。」
「あ、先輩!ありがとうございます!」
放課後、わざわざ私のお見舞いのために練習も休んで来てくれたありがたい先輩達!私、こんなにたくさんお見舞いに来てくれるの初めてだから何ていうかすごく感動です…!
「こういうこと栄養を摂るべきですわ。早く元気になってくださいませ。」
「赤城さん…!」
それに最近会長さんの不在で前よりずっと忙しくなった赤城さんまで…!私のためにフルーツまで用意にしてくださったんですね…!
「私が切ってきますね。」
「あ、うん!ありがとう、クリスちゃん!」
そして学校が終わった後、一番で駆けつけてくれたクリスちゃんまでいて朝よりずっと賑やかになりました!やっぱりこっちのがもっと心地よいかも!
「風邪って聞いたから心配したけど顔色も結構良さそうだしゆっくり休んだらそのうち学校にも来られるかもね。」
「はい。軽い風邪ですからそのうち。」
「そうですか。あ、これ今月の雑誌なんです。私はもう読みましたから暇な時読んでくださいね。」
「ありがとうございます、先輩!私まだ買ってなかったのに!」
気が利く先輩のおかげでこれで昼間の一人だけの時間も少しは楽になりますね。
「うわぁ…!今月は「Fantasia」特集ですね…!すごいです、赤城さん…!」
「べ…別に大したことではありませんわよ…?」
「あははっ。なな、めっちゃ照れてるじゃん。」
「ち…違いますわよ!?」
っと赤城さんは全然すごいことないって言っているんですが私はこういうの憧れていますから…雑誌とか載せられて同じ女の子達の間でちょっとした話題になることとか…
「あら。みもりちゃんだって取材とかされたことあるじゃないですか。」
「取材?私が?」
キチンから先輩達のもてなす準備をしてきたクリスちゃんからの話に耳を傾ける私。私本人も知らない話…私、昔取材とかされたことあったのかな…
「あるんじゃないですか。地域だよりとかに載せられて。」
「あーそっちか。」
さすがクリスちゃん。昔の私とゆりちゃんのファンだったことはあるかも。私もとっくに昔のことだからすっかり忘れてしました。
そういえばありましたね。お母さんのお知り合いの方に頼まれてゆりちゃんと一緒にインタビューしたこと。
でも私とゆりちゃんが住んでいたところは都市と田舎の中間あたりの都会近郊でしたから読んでくれる人は殆どが年上の人達でした。赤城さんの雑誌みたいな華やかなものではなくちょっと地味なものだったんですよね。
「あの時、確かみもりちゃんって着物姿だったんですよね?私、まだあの記事持っていて知ってます。」
「そう…?ありがとう…」
ああー言われてみれば確かにそうだった気がしますね。確か…
「みもりちゃんは絶対着物にしてください、お義母様!」
っとゆりちゃんがお母さんにお願いして半分強制的に着せられたんですよね。町の皆も私のことを雛人形みたいって言ってすごく気に入ってくれたし。っていうかゆりちゃん、昔からお母さんのことを「お義母様」と呼んでいたんだ…
「あの時のみもりちゃん、可愛かったんですねー」
「そ…そうかな…」
「あ、私も見たことあります。確かこのサイトに…」
クリスちゃんの話を聞いて早速市役所のホームページから私の昔の写真を皆に見せてくれる先輩。ふるさと振興課所属だったお母さんが私とゆりちゃんの活動を記録でずっと残してくれたその写真は私にとってかけがえのない大切な思い出でした。
御祖母様によって活動中止になった時全部取り消されたと思ったんですがお母さんがなんとかこの写真だけは守って来れたんです。
「うわぁ!なにこれ!めっちゃ可愛いよ、モリモリ!」
「本当ですわ。まさに「大和撫子」って感じ。」
「ほ…褒め過ぎですよ…かな先輩も、赤城さんも…」
私の写真を見て褒めてくれるのはすごく嬉しいんですがやっぱりこういうのあまり慣れてないからちょっと恥ずかしいかも…
「隣にいるのはユリユリ…ってなんか目が変だけど…子供の頃だって変わんないね、ユリユリ…」
「すごいお子様ですわね…」
「あはは…」
ま…まあ…初めて合ってからずっとあんな感じでしたから…
「ゆりちゃん…」
ふと目に入る子供のゆりちゃんに少しだけズキッとする胸。
きれいに整えた栗色の髪。私とお揃いで着てくれた華やかな緑色の着物。私の手をぎゅっと握って目に怪しそうなハートまで浮かべて私に愛の視線を送っているゆりちゃんはこの時からずっと私の一番の宝物でした。
そんなゆりちゃんが私のことが好きになれないと言った時は世界が終わってしまいそうな感覚でした。でもやっぱり諦めたくない。何があっても必ずゆりちゃんの心を取り戻してみせるっと決めた私は今もこんなにゆりちゃんのことを強く思っています。
「大丈夫、ゆりちゃん…私が絶対元に戻してあげるから…」
そう思った私は画面の中のゆりちゃんを見ながらもう一度自分の決意を固めました。
「いいな…」
ふと後ろから小さく聞こえるクリスちゃんの声。
「クリスちゃん…?」
振り向いたそこには昔の私のことを少し悲しそうな目で見つめているクリスちゃんがいました。寂しさと羨む気持ちが入り混じった複雑な顔でただひたすら手に入れられなかった過去を求めて…
「そういえば会長は?」
珍しく先輩の傍にいない会長さんのことを気づいてクリスちゃんがうさぎの形で切ってきたりんごを口の中に入れている先輩の行方を聞くかな先輩。言われてみれば今日はいませんね…
「セシリアちゃんですか?セシリアちゃんなら先うみちゃんと一緒に市内までお出かけしました。」
「青葉さんですの?」
これはまた珍しいですわっと少し驚く赤城さん。でもそれは私も同じ気持ちかも。
「はい。まあ、元々仲が悪いってわけでもありませんでしたしセシリアちゃんにとって記憶を思い出せるいい刺激になれると思ってですね。私も行きたかったんですがさすがに私がいるとうみちゃんがのんびりできないっと思って…」
また「えへへ…」って萎びた顔…あの時の笑顔です。私が初めて先輩の正体のことと真実について分かったあの日の顔。
先輩はこの時代の争いの種を事前に取り除くために青葉さんに近づいたと言いました。でもいつの間にか好きになった青葉さんと気まずい仲になってもう二度と青葉さんと仲良くできないのかなっと泣いていた先輩。
仕方ないことだと、全部自分が悪いことだと自分を責めていた先輩は今と同じ顔で笑っていました。
「今頃二人で劇場でも行ったんでしょうか。二人共演劇とか大好きですから。」
平気そうに振る舞っていても仕方なく感じてしまう切なさ。私はそれを今の先輩とクリスちゃんの目からはっきりと感じ取っていました。
「あ…その…」
なんとか二人のことを元気づけたく口を開けた瞬間、
「あら、電話。」
ふと先輩の携帯にかかってきた一本の電話。結局私はまた何も言ってあげられなかったんです。
「セシリアちゃん?」
「あ、みらい。」
電話をかけたのはどうやら青葉さんと一緒に市内へお出かけした会長さんだったそうですね。
「どうしたんですか?」
「あ、うん…それがね…」
でもなんだかお困りのことでもあるそうに難しそうに話すことを悩んでいる会長さん。その反応に
「なんかあったんですか…?」
心配そうに今の状況を聞く先輩でした。
「二人共大丈夫ですか!?何か悪いことでもされたとか!?今市内ですよね!マミーが今そっちへ向かいますから待ってください!」
「ちょ…ちょっと落ち着いてください、先輩…!」
何か嫌な予感でも感じたように急に慌て始めた先輩。顔まで青くなっちゃって本当に会長さんと青葉さんのことを心配しているのがすぐ分かります。
でも一旦落ち着いてください、先輩…!まだそう決まったことでもないからちゃんと話を聞いて動きましょう…!
「そこは大丈夫ですわ。」
そんな先輩と違って意外に冷静な赤城さん。ゆっくりお茶まで飲んでいるところを見ると何か心当たりでもあるようです。
「会長のところには今お姉様であるビクトリア様からの直々の命令で「プラチナ皇室」の親衛隊「Judgement」がついてしますの。軍隊でも率いて来ない限り「Judgement」が敗れることは決してありませんわ。あれは1個小隊だけでもとてつもなく強いですからご心配なさらなさらないでくださいまし。」
「わ…分かってはいますがそうなるとどうして急に電話が…!しかもこんな困った声で…!」
「あのね、みらい…一旦落ち着いて…」
電話の向こうから興奮した先輩を落ち着けようとする会長さんの声。その言葉に早速会長さんのところへ出かける準備をしていた先輩は服を着ていたところだった手を止めてくれました。
「そんな大げさなことではないから…ただ今青葉さんとちょっと逸れちゃって…」
「うみちゃんとですか?」
「うん…」
あー私、なんかちょっとずつ話が見えてきたかも…
「つまり今、セシリアちゃんって迷子になったっということですか…?」
「…うん…」
やっぱり!
「だって恥ずかしいよ…私、一応「プラチナ皇室」の皇女なのに迷子なんかになっちゃってみっともないわ…」
さり気なく聞こえる会長さんの潤み声…赤城さんは「Judgement」がついているから大丈夫って言いましたけどきっと不安なはず…ってせ…先輩!?どこ行くんですか!?
「そこで待ってくださいね、セシリアちゃん!今マミーが行きますから!」
でもそれはむしろ先輩の保護者本能を焚きつけることになってしまったのです。
***
「こ…ここにいましたね、石川さん…」
「お前か。」
おいて行っちゃうなんてひどいですよ…って文句も言えず荒れた息を整えている私。そんな私を相変わらず乾いた目で見つめていた石川さんは
「なんで帰らなかった。」
っと聞くだけでした。
「そ…それは…」
いきなり一人で庭の奥へ行ってしまった石川さん。でもその時私が見てしまった石川さんの横からの顔はとても悲しそうでした。まるで自分の存在を放棄したような諦観した顔…私はそんな石川さんを見過ごせませんでした。
「だ…だって皆で食べるのが美味しいと思って…」
っと先家庭科室の桃坂先輩からもらってきたお菓子のことを示す私。自分が考えてもなんというバカみたいなことなのかっと思っちゃうんですがそれでも私は少しだけでも石川さんの傍にいさせて欲しかったです。
一人で苦しむより二人で悩むのがずっといいっと思って…
「聞いたんだろう?先の話。」
「学校を止めるって…」
庭のベンチに座って沈んでゆく夕焼けを悲しい目で眺めている石川さん。そんな石川さんのポケットから出たのは今はお父さんも止めることになっていた1箱のタバコでした。
石川さん、喫煙してたんだ…
「もう止めるつもりだったんだけどな。」
慣れた動きでタバコに火を付けて一服満喫する石川さん。体も大きくて顔も年より成熟しているから本当に大人にしか見えませんね…
「お前も吸うか。」
「ええ…!?い…いいえ…!私は遠慮します…!」
っていきなり私にも誘っちゃうんですか!?っていうか私、タバコとか吸ったりする子に見えるんですか!?
「ふう…」
一服だけでタバコの半分が燃えちゃうほど思いっきり煙を吸い込んだ石川さん。その直後に吐き出される煙苦し臭いになんだか喉が痛くなって…ケホケホ…
「あ、すまない。」
「い…いいえ…」
うう…なんか目に入っちゃったかも…目が煙いよ…
私が子供の時にはお父さんもタバコを吸ったりしました。今はもう十年もやってないんですが。多分私が
「パパはいつも悪い臭いがするからチューしたくない…」
っと言ったのがきっかけになったと思うんです。お母さんの話によるとその夜、お父さんは家のタバコ全部を自分の手で燃やし尽くしたそうです。
でもまさかあの「百花繚乱」の副団長の石川さんも喫煙していたとは全然思わなかったんです…
「まあ、うちは決まりとか結構あって一般生徒の前で吸ったりはしないから。でもそれも今日までだ。」
再び吸い込んだ一回の呼吸に尽きてしまう煙草。散らかる煙の向こうから石川さんはなんだかやっとずっと自分を縛り付けていた心の束縛を取れたような一皮むけたスッキリした顔で笑っていました。
でも私はなぜかその笑顔が悲しくて寂しくてとても心が痛かったんです…
ってあれ…?私、今石川さんと普通に喋っている…?
「多分今日あいが「Bullet」の畑のやろを呼んだのはあいなりに覚悟を決めたという証拠だろう。もう隠さず自分の意志でこのことについての自分の考えをはっきりとしている。」
そうか…だからわざわざあの人を呼んで…
「きっと大きな波乱が起きるだろう。今まで黙って従ってくれた奴らからたくさんの不満が出てその挙げ句あいから背を向けてしまうかも知れない。でもそれも全部あいが決めたことだ。あいなら十分分かって受け入れ、自分が選んだ道を歩いてゆくだろう。」
淡々とした口調。石川さんは今も速水さんのことを心の底から信じて大好きなんですね…
「そんなあいに私は邪魔になるだけだ。私は今もお前達魔界の連中と馴れ合いする気は全くないから。お前と一緒にあの部屋から出たのはただあそこにいたくなかったからだ。あいから離れようと決めた以上あいの傍にいるのは本当に辛かったから。今こうやって魔界のお前に私の話をするのもただの気まぐれのだけ。深い理由なんて一つもない。」
「気まぐれ…」
っと石川さんは今の自分の行動に何の意味もないっと言いましたがそれでも私は嬉しかったです。この人が初めて私のことを見てくれて自分の話をしてくれたから。
「ご…ごめんなさい…」
でも私は同時に気づいてしまったんです。今の私じゃ何もできないってことを…
私、こんなに苦しんでいる石川さんに何の力にもなってあげられない…こんなに目の前のこの人に力になってあげたいっと強く思っているのに私は何もできない…
私は石川さんや速水さんみたいな大人じゃないから…私はいくら時間が経っても子供のままだから…
「おいおい、そんな顔するんじゃねぇよ。っていうか何謝るんだ。」
ついに溢れてしまう涙。何もできない自分の無力さと悔やみが入り混じって固まった一滴の雫。私は初めて見た石川さんの笑顔がこんな寂しいものということを知ってこれ以上涙を堪えられませんでした。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ごめんなさい、石川さん…最後の話し相手が私なんかで…何も分からない子供の私なんかで…
どうすればいいのか分かんないんです…どう話せばあなたを元気づけられるのか全然分からないんです…
私はもっと石川さんのことを見たいのにこのままだと石川さんが学校を…!
「いいやつだな、お前は。」
そっと私の頭の上に手を載せて優しくなでつけてくれる石川さんの手。大きな手と今までとは違う和やかな声に私は思いがけない安心感まで感じてしまったのです。
「意外だな。魔界なんかにもお前みたいな子があったとは。」
「石川さん…?」
そして指で私の目元に吊り下がったいる涙を拭いてくれる石川さんはそっと私から離れてこう話しました。
「もう帰ってくれ。お前はこっち側の人間ではない。お前もあの鬼みたいに人に囲まれて愛されなければならない側の人間だ。私みたいな疫病神ではない。」
涙ではっきり見えないけどきっと今の石川さん、すごく悲しそうな表情でしょう…だってこの人は自分のことを苦しまれるために生まれたと話しているんですから…
「そういうの、私一人でも十分だ。抗うのも、変えろうとするのももう疲れたから私は自分の運命を受け入れる。これが「神樹様」の祟りというのなら私はこれ以上拒絶しない。知り合いでもないのにこんな話しちゃってすまない。今まで悪かった。お前の部長のところにもそう伝えてくれ。」
そう言った石川さんは私から離れて静かに踵を返してしまいました。
手に入れようとするほど失われてしまう辛い人生にもう疲れてしまった石川さんはこの先ずっと自分の人生を呪い続けてたった一人でその道を歩いていく…このままだと見てくれる人も、好きって言ってくれる誰一人もいない寂しくて辛い果てしない道をずっと一人で…
でもやっぱりそんなのダメ…ダメなんですよ、そんなの…だって…
「石川さんだって幸せになるために生まれたんですから…」
そう思った私は遠くなる彼女の手を掴んでしまいました。




