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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第190話

いつもありがとうございます!

私はちっとも強くなんかなかった。ただ人並み以上殴り合うのが得意だっただけ。

体が大きいから絡んだりするやつは殆どいなかった。仮にそんな奴らがいても全員土下座させるくらいぶちのめしてあげるまでのことだった。おやじから教えてもらった殴り合い方は意外にそんな方向性で役に立ってくれた。


でも本当の私は皆が思ってるくらい強い人間ではなかった。幼馴染のあいがいなかったらとっくに昔に崩れてしまったんだろう。それほど私は頑丈な体と違っていわゆる「メンタルが弱い」タイプの人間だった。

すぐキレて心を閉ざして奥に綴じ込んでしまう。唯一のつっかいであったあい以外の人にはずっとそんな態度を取ってきたからあい以外のろくな友達もいなかった。

私が皆から離れる分私は自ら異常的だと思われるほどあいの存在に執着した。あい以外は何も必要ないと思った私はずっとあいだけを見て生きていた。


脆い。自分が考えても自分の存在はあまりにも脆すぎる。でも仕方ない。私という人間はこういう人間だから。

だからあいにはずっと私の傍にいて欲しかった。君がいないと私はどこまでも落ちてしまう弱くて脆い人間だからずっと私を支えて欲しかった。私を見て私を褒めて欲しかった。もう一度私のことを好きって言って欲しかった。

でも私は分かってしまった。私は決してあいにとって私の中のあいみたいな特別な存在にはなれないということを。あいの中にいた私はただ「幼馴染の金剛」に過ぎなかったことを。


「あい、教えてくれ。」

「すみれちゃん?」


「火村」という変なやつによって微妙な形で終わってしまった私と鬼やろうの対決。でもあいつはただのきっかけに過ぎなかった。わけも分からない仲良しお茶会を提案したのはあいだったから。文句を言うのならあいにぶつけるべきだった。


「何だ…?」


そう思ってあいのところへ向かっていた私はふとすぐ上の階段で何かを話し合っているあいと鬼のことを見つけた。話に取り込んでいたからか、下の階段にいる私の存在を気づかずに話し合っている二人のことにまた腹たってきた私だったが


「どうして石川はダメだったのか教えてくれ。」


鬼のその言葉に私は思わず二人の会話に耳を澄ましてしまった。


「あいつ…」


随分核心を突いてくるな…私はあいにそう聞く鬼のことを少し見直した。

あいつの性格上決して皮肉るつもりではないはず。それがただ純粋にあいの心を伺っていることだというのは私が一番知っていた。私もずっとあいにそう聞きたかったから。


「すみれちゃん…」


嫌な奴。どこまでいい子ぶるつもりだ。さすが「灰島」の跡取り娘としての器の違いってところか。でもあいがあいつのことを気に入っているのが少しだけ分かるような気がする。

あいつと私は敵だ。敵だからもっと嫌味を付けたり私とあいの仲を割ったりすることをやらかしても文句は言えない。私だってあいの前であいつをぶっ殺す心算だったから。

私の理由なんかほっといてもいいのにあいつはわざわざあいに私のことを聞かせてくれっと言っていた。私はその時、あいつが私のことをちゃんと見ていたことを気づいてしまった。私は少しだけそれが嬉しかった。


「やっぱり優しいのね、すみれちゃんって…」


優しい…それは私には持てない類のものだった。私は今までずっとあい以外は全部どうでもいいって思ってたから。そんな私に優しさなんて以ての外のもの…


「…そうね。何でこんごうはダメだったのか…」


そしてなんと言えばいいのか少し考え込むあい。その答えまでの時間はあまりにも長くて長くてまるで時間でも止まっているようだった。

もどかしくてそわそわ揺れまくる胸…自分なりに覚悟は決めたがそれでもそれだけは言わないで欲しかった。


こんごうは嫌って…自分にはふさわしくないから、つまらなくて面倒だから嫌って…

頼む、あい。それだけは言わないでくれ。あいのその愛しい口からそれだけは言わないでくれ…もし君にそんなことを言われてしまったら私は二度と私には戻れない。だから頼む。私のことを嫌にしないでくれ…


「私、ずっと思ったんだ。やっぱりこんごうと私は一緒にはできないんだって…」

「できないって…」


驚く鬼。でもそれ以上絶望してしまう私だった。


端から結ばれなかった身分。私は「神樹様」に逆らった「罪の一族」、対してあいは「黄金の塔」のお姫様。私がどんなに頑張ってもその烙印から逃れることは不可能だった。

あいにとっても私なんかよりあの「灰島」の鬼の方がご都合だろう。なんと言っても「灰島」の「赤鬼」はこの世界の平和のために一生懸命働いてくれた一番の貢献者だから。「黄金の塔」の老いぼれ達の「灰島」の跡取り娘なら納得するはず。私とあいが結ばれる道なんて最初からどこにもなかった。

やっぱりそうだったのか。私なりに頑張ってきたけどやっぱり生まれてからしがみついている縛りからは逃れられなかったのか。


「そうか…」


いや、その以前に多分私は最初からあいに認めてもらえなかったかも知れない。鬼やろうのこともずっと隠していたのが何よりもその証拠。もしあいが私を信じていたというのなら私を信じて全部話してくれたはず。私がどんな選択をしても全部受け入れてくれたはずだった。

本当はあいはただ子供の時に


「だ…だって私…こんちゃんも、こんちゃんの絵、好きだから…」


あんなことを言っちゃったからその言葉に自分なりの責任を取るために私とずっと仲良くしてくれていたかも知れない。あいは責任感も強くていい子だったから独りぼっちだった私をほっておけなかっただけだ。


何一人で好き勝手に勘違いをしていたんだか。鬼やろうをこの学校から追い出して私があいの傍にいれば全てが元通りに戻ると思ったのにそれも全部虚像に過ぎなかった。

何のために今まで頑張って悩んでいたんだ。私には初めから何もなかったのではないか。まさに捨てられて呪われるために生まれてそう。苦しむために、痛むために生まれたそう。

お袋も、おやじも、最後には人生の全てだと思っていたあいにまで捨てられた惨めな人生。結局私はゴーレムの地位を取り戻すのも、あいの傍にいさせてもらうこともできなかった哀れな人生。体は大きくなっても私の人生はお袋が家を出たことを知ったあの日の朝に止まったままだった。


「私、迷惑だったんだ…」


胸が痛い。何かの刃物で胸を突かれるように痛くて仕方がない。私はどんなに泣いても、願っても決して手に入れることすらできない。

「幸せ」というものはいつもこんな風に私の手からすり抜けてしまう。どんなにすくい上げても、どんなにかき集めても幸せというやつはこぼれ落ちて風に散らかってしまう。幸せの青い鳥は私には決して訪れなかった。


ごめんね、あい。私、全然気が付かなかった。ただひたすら素直に、真っ直ぐに自分の気持ちを伝えれば分かってもらうと思ってた。人の心を得ることはこんなに辛くてしんどいものだったんだ。

遅くてすまない。私、こういうことにはあまり気が利かないから全然知らなかった。

せめてずっと友達にはいさせてもらえると思ったがこんな話まで聞いた以上それは無理かも知れない。もうこれ以上君に迷惑は掛けないから安心しな。もう鬼とのことにも関わらないから。だから君はいつも幸せにいてくれ。いつも笑ってくれ。私が持てなかった分までな。

今まで本当に悪かった。


そう思った私は静かにそこから離れてしまった。


***


「石川さん…理事長室に何の用かな…」


速水さんに頼まれて家庭科室の桃坂先輩に焼いてもらったクッキーを受け取って速水さんのところに戻ろとした私と石川さん。でもその途中、石川さん急に理事長室に寄っていきたいっと言いました。

家庭科室へ向かっている間に何度も話を掛けてみましたが


「…」


石川さんは私との会話に全然乗ってくれませんでした。なのに急に一緒に理事長室に行きたいっと行って正直ちょっとびっくりしました。この人の声、近くて聞くとこんな感じだったんだって…

重くて鬱陶しい声。その原因のことはもう知っていましたがそれでも私は下手な慰めは控えることにしました。原因を知ったとしても私はまだその事情までは知らないからきっと余計なお世話になってしまうのでしょう。


でもやっぱり心の底からはこう思ってしまうのです。私がこの人の力になってあげたいっと…

だって石川さんはずっと私の憧れの人でしたから。ずっと私を支えてくれましたから。例え私のことを全然覚えていなくても、魔界のことが嫌だから私と話し合ってくれなくてもその事実には変わりありません。

でもこんな状況で一体どうすればいいのか…


「後悔しなんだな?」


その時、中から聞こえる理事長室の声。権威的で威厳の溢れるその気高い声はもう一度目の前の相手にこう聞きました。


「本当に後悔しないっと約束するんだな?」


っと。


「はい。」


その返事を聞いた瞬間、私は今理事長が誰にそう聞いているのかすぐ分かっちゃいました。


「私は学校を辞めます。」


元気のないしょげた声。今まで自分を支えてくれた全ての存在を失われてしまったような彼女の声はまるで世界の最果てに立っているように寂しそうでした。


「…そうか。」


もう引き止めることはできないと思ったような断念の声。でも私は石川さんのその言葉に胸の奥から何かがどっしりと崩れてしまうような気分でした。


「学校を…辞める?」


本能が感じ取った嫌な予感。彼女が自分とこの世界の繋がりを自分の手で絶とうとしていることを気づいてしまったその瞬間、私は何も言えずその場で固まってしまいました。


「結局私には何もできませんでした。おやじから託された使命も、ゴーレムの地位を取り戻してあいの傍にいることも。挙句の果てはあいの友達させにもいさせてもらえませんでした。」

「石川さん…」


感じる…石川さんがずっと背負っていたあらゆる重さ…のうのうと育ってきた私と違って彼女には既に大人達にも手強い色んな負担が掛けられていたんです…その見えない縛りから逃げ出すこともできなかった石川さんはずっとたった一人でそれらと向き合ってきた…


「もう疲れました。こんな思いをすることを知ってたなら森から出なかったら良かったです。まるで見えない機械装置によって苦しむために作られた人生みたい。「神樹様」に歯向かったせいで当たってしまった一族への祟は容赦なく私の人生を壊してゆく。もういいんですよ、そんなの。」


ため息をつく石川さんの乾いた声。今の彼女から感じるのはただ底知らずの疲労だけでした。この疲れそうな世界から逃げて自分の一番の居心地の場所へ向かおうとする彼女は今でも倒れそうに全ての元気を失っていました。


「もう休ませていただきます。探さないでください。もうおやじにも、お袋にも合いません。あいも同じです。「石川金剛」のことをどうかお忘れください。」


それを最後に石川さんはそのまま部屋から出てしまいました。まるで理事長からの説得は一言も聞きたくないと言わんばかりに早足で私とすれ違った石川さんの横顔は先よりずっと悲しそうに見えました。


「い…石川さん!?」


とっさに起きてしまった突然なこと。驚いた私に


「お前はもう帰って。」


っと言った石川さんはものすごい速さで庭の奥から消えてしまいました。


ど…どうしよう…!早く追いかけないと…!


「少しいいか?火村。」


とりあえず早く石川さんを追おうっと思って足を運んだその瞬間、中から私を呼び止めたのは


「あいつにこう伝えてくれないか。」


石川さんから出された「退学届」を少し複雑な目で見ている「朝倉(あさくら)色葉(いろは)」理事長でした。


眼鏡の向こうからひらめく黄金の瞳。そして外から射し込む夕焼けに照らされて橙色に染まった豊かな白銀の長い髪。腰に生えている純白の羽を丁寧に畳んで椅子に座っている彼女はほんの少し時間を貸してくれっとおっしゃいました。


私はその時、石川さんがどんな気持ちでこの世界を生きていたのか少しだけ分かるようになりました。私は知らなかった孤独で不安だった気持ち。石川さんはずっと寂しかったです。

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