第179話
会社の翻訳テストを受けました。うまくいくといいですね。
いつもありがとうございます!
「うう…」
やっぱり先のあれはやりすぎだったのかな…
「どうかしましたか?」
何かお悩み事でもあるんですかって聞いてくれる親切なゆうきさん。ゆうきさんとはちょうど今駅前で合って一緒に学校へ行く途中なんです。
熱く燃え上がる狼煙のように鮮やかな炎の色の髪。姉のゆうなさんとはまた違う味の静かで落ち着いている大人っぽい性格。でもあのゆうなさんの妹さんだけのことはあって意外に世話好きですごく優しい人。
夕暮れの紅色と日の出のお日様の色を半分つづ分かち合った素敵な黄金と紅のオッドアイ。体も大きくて背も高いゆうきさんはいつ見てもかっこいい方ですね。
「Scum」だけが着ることになっている黒いセーラー服といつも大切に巻いている少し古い赤いマフラーがとてもお似合いなゆうきさん。この人をずっと見ていると自分もこうなりたいとつい思ってしまうのです。
皆に優しくてすごく力強い人…私もそういう人になるのが今の目標です。
「虹森さん?」
「あ…!すみません…!」
「本当になんかあったんですか?ぼーっとして…どこか具合悪いところでも…」
っと何度も私に聞いてくれるゆうきさんでしたがこんなのやっぱり他の人に話すのは結構恥ずかしいですね…
一体何のつもりで幼馴染の女の子にチューなんかしちゃったのか、私…
ただ元気づけたかっただけです。だってゆりちゃん、ずっと暗い顔だったし久々のデートだったのにあまり楽しくなかったように見えましたから。すごく恥ずかしくて変な空気になって明日から顔合わせのが難しくなってしまったらどうしようとした気もありましたがそれでも今の私にできるのは精々こんなことしかないと私はそう思いました。
でも果たしてそれで良かったのかっと私は同時にそう思ってしまいます。ゆりちゃん、きっと初めてだったはずなのにその相手が私なんかで本当に良かったのかな、今の状態のゆりちゃんにそんなことしちゃって本当良かったのかなって…
今も先のことを思い出すと頭の中がごちゃごちゃになっちゃいますよ…
ゆうきさんのことを信じられないというわけではありません。さすがにこういうの初めてだからちょっと恥ずかしいだけです。
でもゆうきさんと初めて合った日、私はこの学校に来て先輩達意外にもこの学校のことを本気で心配している人がいたっということを分かりました。それ以来、ゆうきさんは時々私のところに現状のことを聞いたり色々気にしてくれるんです。
「この学校を救ってください。」
そう言ってただの1年生に過ぎない私にこの学校のことを頼んだゆうきさんは私がこの学校で本当に信用できる人の一人なんです。でもこんな悩み、ゆうきさんなら理解してくれるのでしょうか…
「あのですね、ゆうきさん…」
「はい。」
そっとゆうきさんに向けて口を開ける私。でもよく考えてみれば相談相手としては一番的確かも知れませんね。モテモテでかっこいいゆうきさんならキスくらい何ということもないですし…
うう…でも本当に言ってもいいのかな…
「ゆうきさんって…チューとか…やったことありますか…?」
「キス…ですか。」
あ…あれ?なんだか反応、薄くないんですか…?
「もちろんありますよ。キスくらい。」
やっぱり!!
「す…すごいですね、ゆうきさんって…」
「そ…そうなんですか…?それよりキスっといいますとひょっとしたら緑山さんとの…?」
ゆうきさん、鋭すぎる…!!何で一発で分かるんですか!?さすがあの舎監さんから認められた「Scum」の副部長さん…!
「あ…別にそこまで行かなくても虹森さんのことっというのなら殆どあの緑山さんのことですから…っていうかどれほどどんくさいんですか、あなたは…」
なんか怒られた!?何で!?
「まあ、話は大体分かってきました。緑山さんのことなら私も会議で様子を見たことがあるから分かっています。なんかすごく不機嫌のようでしたからそれを励ますために今日のデートのことを用意した。デートのことはよく知りませんが多分思惑通りには行かなかったと思います。あの人、今まで見てこともないすごい顔をしていたから到底デートに集中できる状態ではなかったでしょう。
そこでそんな状態の緑山さんにキスでもしちゃったことを虹森さんはすごく気にしている。こんな感じでしょうか。」
エスパー!?探偵!?本当にただの美化部なんですか、ゆうきさんって!?っていうか普通に怖いんですけど!?
でも確かにそのままです。今のゆりちゃんは私に何も感じられないのに勝手にあんなことやらかしてよかったのかって…私はただこのままゆりちゃんを失ってしまうのが怖くてその一瞬でも私を私のものにしたかったのではなかったんでしょうか…
そう思うと今まで感じたこともない罪悪感っというのが胸を締め付いてとても苦しいです。
「本当にどんくさいんですね、あなたも。」
こんな私の気持ちを欺くように笑ってしまうゆうきさん。でもそれが決して嫌味なことでは見えなかった私はただゆうきさんの続きを待つことにしました。
「虹森さんが分かっているかは知れませんが緑山さんは正真正銘の化け物です。この学校で部長に準ずるものは存在しませんがその次と言ったら多分あの人しかありません。人をどんな方法を砕ければ一番合理的なのか、どこを狙えば手短く仕留められるのか、あの人は恐ろしいほど心得ています。だから私達は彼女が怖いのです。」
前にも聞いたことがあります。それはゆりちゃんを探しに「影」に行った時、「大家」にいたの頃、ずっと私の付き添いを務めてくれた薬師寺さんからの話でした。ゆりちゃんは自分達と住んでいる世界が違うって。それがなんの意味なのか私には分かりません。
でも私はどんな理由だろうと私の大切なゆりちゃんを「怪物」や「化け物」と呼ばれるのがとても嫌です…
「失礼しました。私はただ彼女のその超越的な力の源のことを言いたかっただけです。」
「源…?」
そう聞いている私の方にその不思議な黄金と紅のオッドアイを向けるゆうきさん。見ているとなんだかその中に吸い込まれそうな気分になってしまうほどその目は神秘なものでした。
「彼女の全ては全部あなたのために回っていますよ、虹森さん。彼女があんなに強くなれるのも、彼女をあんな気持ちにさせるのも全部あなたです。彼女は明らかにあなたに狂っています。」
「ゆりちゃんが狂う…?」
それは初めて言われてことでした。ゆりちゃんのことを全部知っていると思った私さえ知らなかったこと。それは今までゆりちゃんと一緒にしていた私だからこそ感じられ衝撃でした。
ただ好きっという感情を超えたその先の気持ち。ゆうきさんはそれこそ真の「狂気」だと言いました。
「彼女にとってあなただけが彼女の世界からの真実、真理なのです。よそから見たら彼女は正気ではありません。だから私達は彼女から住んでいる世界が私達と異なっていると思いました。」
何という鋭い分析…だからあの時薬師寺さんはゆりちゃんが住んでいる次元はこの世のものではないって…
「でもそんな彼女があなただけには限りなく無防備になってしまう。それは虹森さんのことを信じて全てを委ねられる人だと思っている証拠です。私はそんなあなたこそ彼女の初めてになる資格があると思います。」
「全てを委ねられる人…」
ゆうきさんはこう言いました。もし本当にゆりちゃんが私のことを拒んでいたというのなら端からデートなんかに付き合ってくれなかったっと…それはきっと心のどこかで相変わらず私のことを思っている証拠だと…
それを聞いた時、私は本当に嬉しかったです。まだ本人の口から聞いたわけではないんですがゆりちゃんが私のことを相変わらず大切にしてくれていたのを分かったような気がして…
「だから元気出してください。きっと今頃眠れずに散々頭を抱えているんでしょう。むしろ後で逆に襲われないように気をつけるべきです。」
まるで全部見ているような口調…でも確かに今までのゆりちゃんなら十分あり得る…っていうかなんか気をつけなさいって言っているような!?
「クリスのこともあって少し複雑な気分なんですがどうかちゃんと見守ってあげてください。ああ見えても緑山さんはすごく脆い人です。あなたがちゃんと支えてあげないとすぐ崩れてしまう。あなた達がここで挫けてしまったらこの学校にはまた去年みたいなことが何度も起きてしまう最悪の学校に落ちてしまうのでしょう。そうならないように私も頑張りますからどうか勇気を失わないでください。」
っと私を励ましてくれるゆうきさん。ゆうきさんの話を聞いているとなんだか不思議に力が湧いてきますね…
ありがとうございます、ゆうきさん…私、また一人で余計なところまで行っちゃったようですね…
「もちろんです!私、ゆりちゃんのことも、学校のことも両方頑張っちゃいますから!ゆりちゃんがお望みなら子供でも産んであげますよ、私!」
「あ…あはは…そういえば虹森さんだって結構そっち側の人でしたよね…」
どっちの人なんですか、私は!?
でも同時にゆうきさんはこういう話もしました。既にゆりちゃんの体に私は知らない何か嫌な異常が起きていたということを…それはゆりちゃんの世界を一気に根底から崩すほど想像を超えたことだとゆうきさんはそう言いました。
「だが今の彼女は気持ち悪いほど正気すぎなんです。それがどれほど気味悪いものなのかはあえて私の口から聞くまでもないでしょう。人間ってあんなに簡単に変わってしまうんでしょうか…まして緑山さん程度の人間が…」
っと言ったゆうきさんの複雑な顔。ゆうきさんはどうやら今回のことが釈然としないっって思っているようだとふと私はそう感じてしまいました。
「あれ?みもりんとゆうきんじゃん☆」
「ルルさん!?」
そんな時でした。
「ルルさん、あなた…」
ゆりちゃんへの嫌な予感を感じていた私とゆうきさんの前に現れたのは今回会長さんのことで緊急招集された対策委員会のことでずっとそこにこもっているばかりであった「Fantasia」のメインダンサー、生徒会書記「ルル・ザ・スターライト」さんでした。
お団子の形で可愛く結んだ銀河が溶け込んだようなきらめく真っ暗な髪の毛。ターコイズ・ブルーの目、そしていわゆる「ロリ巨乳」と呼ばれるほど体の大きさとは真逆の凶悪なおっぱい。可愛い外見と明るい性格で皆から愛されている大人気アイドル「ルル・ザ・スターライト」。
向こうから私の方へ歩いてきた彼女はいつもと変わらない可愛くて元気な笑顔で私達のことを見つめていました。
「奇遇だね!こんなところで合っちゃうなんて☆」
そう言って私に向かって満天の星空のように笑っている彼女でしたがそれまで私達全然知りませんでした。いいえ、おそらく知るわけもなかったでしょう。
「そうだ☆せっかくだし良かったらこの先のカフェでも寄っていかない?Meがおごってあげるよ☆」
今回の一連の事件は全て彼女が原因だったということを…
***
「みもりちゃん…」
もう一度自分の唇に残っているみもりちゃんの温もりを自分の指で確認してしまう私…
瞬きほどのほんのわずかの間に触れただけの感触なのにどうしてこんなに強烈的で熱く感じられているんでしょう…どうしてその時のみもりちゃんを思い出したらこんなに胸がどきどきっと騒いて苦しいのでしょう…
胸の奥からこみ上げてくる感情…爆発寸前の火山のように今でも胸の中からこの熱い気持ちが溢れ出してしまいそう…まるで死んでいた感覚が蘇ってくるように高まってくる生命力…こ…これは…
「く…苦しい…」
どうして…どうしてこんなに胸が苦しくて熱いんですか…あなたを見ている感じてしまう罪悪感とはまた違う激しくて鮮やかな感情…
い…いけません…!みもりちゃんを思いながら一体何をするつもりなんですか、ゆり…!でもこの気持ちをなんとか発散しなければ…!
「み…みもりちゃん…」
もう一度合って欲しい…もう一度手を繋いで欲しい…もう一度キスして欲しい…もう一度好きって言って欲しい…
みもりちゃん…ゆりは…あなたのゆりは…!
「もう帰ったんですの?緑山さ…」
指先から溢れてしまうあなたへの私の純白の愛情。防げないほど吹き出してきたあなたへの私の純情。抑えきれないあなたへの気持ちはそうやって私をしっとりとした喜びに潤してしまいました。




