第177話
いつもありがとうございます!
「本当はあなたが見たかったのではありませんの?」
みもりと別れた後、かなに先のことについて自分の考えを話すなな。また鋭いところを突いてくるなって思ったかなはそんなななの話に照れくさく笑んでしまった。
「あはは…バレちゃったか…さすがにあんなことでもない限り今のななとは映画も見られないと思ったから。」
「わたくしと…ですか。」
少し火照ってしまうなな。何今更照れているんだ、お前。
「だって最近のななって本当に忙しいし私も色々あるから二人っきりでゆっくり遊んだこともないじゃん。だから今日くらいはちょっといいかなっと思ったけどさすがにモリモリのあんな顔、見ちゃうとね。」
チケットくらいならいくらでも自分で買える。だがかなにはチケットの今日までの有効期限とい口実が必要だった。
でも自分にとって今はもうなな並の大切な人になってしまったあの黒髪の後輩のこともまたほっておけなかったかなはぜひその可愛い後輩にななとの時間を譲りたかった。
「ごめんなさいですわ…なんか気を使わせてしまって…」
「いいよ、別に。代わりに後でデートしようよ。説明会が終わったらなな達は全国ツアーに行っちゃからその前にね。」
「デート…」
また真っ赤な顔になって照れているなな。今から楽しみになったのかヘラヘラしているところがまた可愛い。
「そ…そうですわね!最近いいレストランを見つけましたわ!淑やかで奥ゆかしくてとても落ち着くいいところですの!お母様のホテルも近くですし良かったら後ほどご一緒いかがですの?」
「あははっ。ななって本当ホテル好きだな。」
そう言っている本人も結構好きだったかなであった。
「でもやっぱり心配だな、モリモリ。うまくできるかな。」
「完全にお父さん目線ですわね。何があったのかはよく分かりませんがあの人はあのクリスが大好きっと思っている人ですわ。それほどあの子に認められているという意味ですの。少し迷ったりためらったりすることはあるけどすぐ元の道に戻って辿っていくはずでしょう。わたくしはあの人のことを信じていますから。」
心配性のかなとは違って揺れない確信で満ちているなな。ななには今までみもりから歩んできた道から覗いた信念というのが見えていた。
「そうね。モリモリはいい子だからきっとうまくいくはずよ。っていうかお父さん目線か。ななは子供は何人くらいがいい?」
「わ…わたくしですか…!?」
また唐突な質問に少し戸惑ってしまうなな。多分質問した本人は特に意味はなかったと思うが
「そ…そうですわね…」
かなのことになったらやたら真面目になってしまうななはこの質問について真剣に悩んだ。
「あ…あなたの子なら何人でもよろしくてよ…?」
もちろんそれが正しい答えとは限らないことであった。
「ええ…?そ…それはちょっと恥ずいよ、なな…」
無論その幼馴染のかなもまた通常運転であった。
「それではわたくしは会長の報告も兼ねて理事長室へ行きますのでここでお先に失礼しますわ。送ってくれてありがとうですわ。」
「ううん。じゃあ、頑張ってね。」
セシリアの快方の報告のために理事長室に向かっているところだったななに付き合ってくれた優しいかな。上への階段に上っていたななに手を振っていたかなとそんなかなに同じく手を振っていたななだったが
「ふざけるな、このくそやろう。」
上の階段から聞こえる女の怒鳴り声にふと歩みの止めてしまった。
「私は認められない。お前ごときと馴れ合いなんて、私はまっぴらごめんだ。」
「少し落ち着け、石川。」
一見で分かるほど相当興奮している声。何より今相手の少女の口から出た「石川」という名前からななはここは少し引いているのが良さそうだと判断してかながいる下の方に足を運んで様子を見ることにした。
「お前ら魔界のやからにはもううんざりだ。あいは今のままでも十分だと思っているようだが私は違う。お前らみたいな蛮族共めと共存なんて考えるだけど反吐が出る。お前らはこの世から駆除しねばならない世界のクズだ。」
階段の影からちらっと二人の様子を覗くなな。覗いたそこにはこの学校で誰より魔界のことを憎んでいた美術部の部長「石川金剛」がこの学校の誰にでも尊敬されている「Vermilion」の部長「灰島菫」と険しい雰囲気の中で言い争っているのであった。
「私はそう思わない。君が自分の世界のことを思っているように私も私が済んでいた世界に誇りを持っている。皆優しくて皆ちゃんとお互いのことを受け入れる準備ができている。君はまだ少し遅いだけだ。」
「勘違いするな、この鬼目。私は自分の世界なんてどうどもいい。私はただ「ゴーレム」という一族の宿命とあいのこと以外は興味もねぇ。むしろそれ以外は全部くたばりやがれって思っている。私はそういう人間だ。」
そう言っている彼女の目を見た瞬間、ななは凄まじい悪寒を感じてしまった。情けや慈悲の欠片もないまるで死んだ人間のような冷たくて濁っている目。あの明るくて優しい「石川ダイヤ」の娘とは思われないほど彼女はあんなぞっとする冷たい目をしていた。
「あいつらが私に従わなくても構わん。私はただ魔界やからと仲良しごっこしているこの学校が気に食わないだけだ。どうせ私達は世界から捨てられた種族。なら私は力でそれを利用して全部ひっくり返してやる。全員私のために礎でもなってしまえばいいってことだ。」
「…っということは君はあいの心まで利用したってことなのか。」
ふと変わってしまうすみれの目。その溶岩みたいな瞳の空気が変わる瞬間を見た時、ななは後ですみれのあんな目は初めて見たと回想した。
口の数は少ないだがいつも他人のことを真っ先で思っていたあの穏やかで大人びているすみれのその文字通りの鬼気迫っている表情はかつて見たこともなかったっとななはそう話した。
「怒っているんですの…あの灰島さんがあんな怖い顔で怒っているんですの…!」
それはまさしく「鬼の顔」。ななは普段おとなしい分、怒った時の反動がどれほど大きいものかを自分の目で確かめてしまった。
先からなぜ「百花繚乱」の実権であるあいの名前が彼女達の会話からちょいちょい言及されているのかすごく気になっていたがなんとなく話が見えてきたななとかなはそのまま彼女達の集中することにした。
「…もしそうだったら私は二度と君が社会に出られないほど徹底的に踏みにじってやるから。喧嘩は「影風」の青鬼の得意だが「灰島」の赤鬼だって単純な殴り合いの喧嘩くらいはいくらでもできる。むしろ純粋な力なら私達の方がずっと勝っている。私は君のあいへの気持ちだけは尊敬していたがもし君が単に自分の目的のためにあいのことを利用していたというのなら私は決して君のことを許さない。」
その言葉を聞いた瞬間、こんごうの胸にはもう一つの敗北感というものが刻まれてしまった。純粋にあいのために怒れることも、相手のことを認めて尊敬することも自分にはできなかった。
ただあいのために怒っているすみれのその全てがまるで自分の存在を欺いているようだったっとこんごうはそう思った。
「答えてくれ、石川。私にとってあいはかけがえのない大切な人だ。そのあいを今まで支えてくれた君に私はすごく感謝している。例え君が私のことを恨んでいてもその気持ちは変わらない。だからどうかあいのことを悲しませないでくれ。」
まるでこんごうにあいのことを悲しませないでくださいっと訴えているようなすみれ。だがそれはこんごうのすみれへの怒りを焚きつける結果になってしまうだけであった。
「大した生き様だな、お前。私をこの世界から排除するのか。それもいいだろう。だがあいにく私のあいへの気持ちは今までと同じだ。私は自分の理由であいを利用する気は微塵もない。むしろ逆だ。」
「逆…?」
っとこんごうの話の意味に疑問を表すすみれ。そのすみれにこんごうは隠す気もない自分のあいへの素直な気持ちを語り始めた。
「私は裏切り者の一族。「神樹様」と世界の平和に逆らった罰として私達「ゴーレム」はあの森から出られなくなってしまった。その上、腐れ縁だったお前らに殺されかけた。なのに私達はもはや同じ一族だった「黄金の塔」の連中からにも拒まれる存在にまで落ちてろくな保護も受けられなかった。そんな私達を最後まで守ってくれたのがあいの一家だった。私達は皆あいの一家に感謝している。」
自分の心に一点の嘘もない。「石川金剛」は心底からその一家に感謝していた。
「でもそんな裏切り者の一族の私なんかが「黄金の塔」の頭領の一家の次期当主であるあいと一緒にいてはいけない。だから私はあいの一家以外は全部踏みにじることにした。
そうしたら私はきっとあいの隣を歩ける。あいの隣にふさわしい人間になれる。そのためなら私は何でも利用してあげると決めた。私とあいのためなら誰がどれほど傷ついても私は全然構わない。どうせ私にとってはあいを除けば全てが敵と同じだ。」
種族のために家を出た父、事情があったとはいえ自分をおいて一人で人間の社会へ出てしまった母。周りは「神樹様」と世界政府を憎むために生きている人ばかり。自分に構ってくれる人も一人なくそんな不安定な環境から「石川金剛」という少女は育ってきた。それに同化されて周りの大人達と同じく歪んで視線で世界を見るようになってしまった哀れな少女。そんなこんごうにとってこの世なんて全部敵に過ぎなかった。
「いい環境で育ったお前には分かることはあるまい。私はずっと一人だった。あい以外は誰も受け入れない。あいのことに関しては一番分かっているのはこの私だ。」
っと彼女は思っていた。だが
「でも違った…私はあいについて何も分かっていなかった…だって私は知らなかったから…あいのあんな笑顔…」
それもこの前のすみれと一緒にいるあいを見る以前のことに過ぎなかった。
「私はあいの全てを分かっていたと思った。ずっと一緒だったから私が知っているあいこそ誰も知らない本当のあいだと思った…だがあんな幸せそうなあいは初めて見た…あいが魔界の連中のことを嫌いきれなかったのは分かっていたがまさかの鬼なんかとそんなことをしているとは思えなかった…」
彼女は絶望した。自分の前では決してあんな笑顔を見せてくれなかったあいがなぜ「黄金の塔」の頭領としての誇りを投げ出して魔界の鬼と笑い合っているのか、なぜ自分はあいを笑顔にできなかったのか、それを考えると胸がズキッと痛かった。今までどんなに傷ついても平気だった石みたいな胸が張り裂けるように痛かった。
その痛みが大きくなるほど一緒にいたすみれへの憎悪は大きくなってあんな風に絡み続けたこんごうであった。
「なぜだ…なぜ私ではダメだったんだ…」
「石川…」
今でも崩れそうなこんごうを見て申し訳ないっという顔になってしまうすみれ。彼女はもっと慎重に考えるべきだったっと後悔していた。
こんごうの事情は大体分かっていた。彼女が自分と同じく、いや、もしくは自分の以上にあいのことを思っていたというのもら十分分かっていた。いつも自分に絡みついても決して憎まなかったのはそれが理由だった。
自分と同じくただあいのことが大好きすぎだけでそれしかできない不器用な女の子。それがこの「石川金剛」という少女の本当のことというのをすみれはあまりにも分かっていた。
「すまない…私は…」
どう謝ればいいのか、何を言ってあげたらいいのか言葉が見つからない。自分はこの子と同じく不器用な人間だから言葉でうまく伝えるのはなかなか難しい。
だがちゃんと謝りたかった。あいの傍をずっと守ってくれた自分と同じくあいのことが好きなこんごうだからこそなんとか謝りたかった。
こういう彼女だからあいのことを恨まないで欲しかった。もし今まで彼女を支えてきたあいへの気持ちを彼女自身が否定してしまったらこの子は本当に独りぼっちになってしまうから。
「うるせぇ…謝るな…私のことが可哀相にでも見えるのか…」
「違う…私はただ君にだけにはちゃんと謝りたくて…」
だが今のこんごうのすみれへの憎悪は頂点に至っていた。彼女から何を言っても耳を傾ける気は微塵もなかった。
こんごうの魔界嫌いは最近にどんどん加速化されて今に至ってはその影響が同じ神界の子達にまで及ぶ結果を生み出してしまった。ついに一般生徒にまでの感染を始めた彼女の憎悪は学校に良くない流れをもたらしてしまった。
それをなんとかするために、そして今まで騙していたことをちゃんと謝るためにあいからも彼女と話をしてみたが
「今はほっておいてくれ、あい。」
とうとう彼女はあいとの話まで完全に拒んで状態になっていたのであった。
自分が招いた事態だったこそ自分でけじめを付けたかったすみれ。だが今のこんごうには何を言っても彼女の話を届かなかった。
「全部お前らのせいだ…私の人生がこんなにめっちゃくちゃになったのは全部お前のせいだ…何でいつもいつも私の人生に現れて邪魔を入れやがるんだ…楽しいか?私が苦しむが楽しいか?」
「違う…私はただ…」
「じゃあ一体何だ、お前は!?」
窓が揺れるほど叫んでしまうこんごう。今のことで後ろの廊下から他の生徒達が異常のことを気づいてしまったことを今までずっと二人のことを覗いていたななとかなは分かりかけた。
「私はそろそろ限界だ…このままじゃこれ以上この学校にいられない…お前もそうだろう…?」
こんごうは非常に追い詰められていた。自分の人生の全てだと思っていたあいから受け入れられた裏切れられた気持ちも、すみれへの憎悪も既に極まっている状態であった。
このままでは自分が崩れてしまうだと思った彼女から何を言えばいいのか戸惑っていたすみれに差し出してのはこれだった。
「退学届…?」
彼女にこれ以上引くところはどこにもなかった。
「…勝負だ、灰島。」




