第175話
いつもありがとうございます!
「お疲れ様でした。」
いつもより早めに始めた朝の練習。生徒会の仕事で来なくなった赤城さんとゆりちゃんの分まで頑張って練習した私達。
でも今日はいつもと違って特別なゲストを招いて練習を行いました。
「どうでしたか?セシリアちゃん。」
後ろの椅子に座っている浮かない顔の会長さんを見て今の私達のことを聞く先輩。でも会長さんは相変わらず黒い顔のままで
「ごめん…何も…」
っと顔を振るだけでした。
会長さんは本当に全ての記憶を失っていました。私達のことも、生徒会や「Fantasia」のことも…でも一番衝撃的だったのは
「そうですか…」
あんなに大好きだった先輩のことさえすっかり忘れてしまったっていうことでした。
私はその事実に絶望までしていました。
ニュースやネットでは今でもずっと会長さんの話で大騒ぎだからそれに関しては私も色々耳にしていました。既にあのビクトリア様も会長さんの様子を見に病院へいらっしゃったこととか病院から数ヶ月の治療を受ける予定になったこととか。
今までのことを何も思い出せない会長さんは結局入院ではなく通院治療を受けることになったらしいです。もちろん護衛は付き、保護者として先輩とあの速水さんが隣にいる予定だから身の安全の方は一先ず安心ですが
「ごめんなさい…」
さすがにあんな苦しそうな顔をしている会長さんを見ているのはかなりしんどいことですね…
「大丈夫ですよ、セシリアちゃん!そんなに焦らなくてもいいです!セシリアちゃんは強い子だから!」
そんな落ち込んでいる会長さんを元気づけるのはやはり私達の部長のみらい先輩。先輩はこんな状況でもめげることなく困惑している会長さんを励んでくれました。
「どうでしたか?私達の練習は。」
っと落ち込んでいる会長さんに私達の練習の感想を聞く先輩。その先輩に会長さんはほっぺにほんのりした赤みを浮かべて
「…楽しかったわ。みらい、すごくきれいだったし…」
っと自分の感想を素直に話してくれる会長さんでした。
「ありがとうございます、セシリアちゃん!お礼でギュッとさせてください!」
「や…やめろうって!」
っと汗びっしょりの状態でいきなり会長さんを抱きつく先輩。会長さんからの素直な言葉がよほど嬉しかったようです。
そんな先輩のことをなんとか離そうと会長さんでしたがまもなく観念したようにしばらくそのまま大人しく抱かれているだけでした。
「可愛いセシリアちゃん♥ムニムニでいい匂い♥」
でも私達は知っていました。本当は会長さんのことで誰より混乱していることを。でもそれを外に出してしまったら会長さんの不安が大きくなってしまうからあんな風に無理矢理に強がっているんです。
それを分かっていたからあんな無理矢理に明るく振る舞っている先輩を見ることは相当辛かったです。
「みらい…もうこんなに汗、かいちゃって…」
「あ、そうですね。早く拭かなきゃ風邪とか引いちゃいかも知れませんね。」
「わ…私が拭いてあげるわ…」
「本当ですか?ありがとうございます~じゃあ、お願いしますね?セシリアちゃん。」
それにしても今の会長さん、なんだかすごく懐いてしますね…いつもだったら…
「もう♥みらいちゃんったら♥こんなにエロいジュースを出しやがって♥仕方ないから私が隅から隅まで丁寧に拭いてあげるわ♥」
ってめっちゃ怪しい顔で先輩の体を堪能したのに…
「うわぁ…下の方もこんなに蒸れて…なんかもわもわするわ…それよりこれって本当に人間のおっぱいなの…?」
「セ…セシリアちゃん…!そんなに揉んだら…!あっ…♥」
「あ、ごめんなさい…」
「もう♥お茶目さんだから♥」
「く…苦しい…」
あ…今も十分楽しんでいますね…っていうかそんなの部屋でしてくださいよ…
「でも本当ミラミラがいてくれてよかったね。」
「先輩?」
なんだか先輩と会長さんを微笑ましい見ているようなかな先輩。先輩はやっと一息ついたらしいって話を続けました。
「もしミラミラがいなかったらきっと会長は不安過ぎて耐えられなかったと思う。でもミラミラのおかげで今こうやって日常生活ができている。まあ、まだ私達のことを警戒して近づかないのはちょっと残念だけど仕方ないことだよね。」
「そうですね。」
未だに会長は私達のところには近づかないんですがそれでも私は先輩の言ったとおりにこうやって会長さんの顔が見られて本当に良かったと思います。これから学校で起こることを考えると心配する気持ちが一番で先走りますがそれでも無事に学校から顔を見ることができて何より嬉しいです。
それになんかちょっと子供っぽくなって意外に可愛いし…
「どうしたんですか?みもりちゃん。急にセシリアちゃんに…」
「いいえ…今の会長さんならちょっと抱いてみてもいいじゃないかって…」
いつもの会長さんならちょっと難しいかも知れませんが一応私「Fantasia」の大ファンですから一度くらいはちゃんと触れたいと思って…こ…怖くないですよ、会長さん…?私にも抱かせてください…
「何よ、あんた…気持ち悪い…」
っと近寄ってきた私の避けて素早く先輩の後ろに隠れてしまう会長さん!えええ!?私はダメなんですか!?そんな…!
「ま、まあ…そのうちみもりちゃんにも馴れるはずですから…」
「うう…」
やっぱり今のところでは先輩以外の人には懐いてくれないんですね…そういえばあのビクトリア様にもあまり懐いてくれなかったって聞いたんですがそれは…
「だって…お姉様、怖いんだもん…」
っと相変わらず警戒中の顔で先輩の後ろから答えてくれる会長さん。遠い…
まあ、確かにビクトリア様はあの「プラチナ皇室」の女王様ですし常に皆の手本になるために自分を厳しく引き締めている方だと評価されている方ですから。きっと身内にもすごく厳しい方なのでしょう…
でも…
「みらいの方がいい…お菓子もくれるし一緒にいてくれるし…」
「あらあら。」
さすがにこんなNTRをビクトリア様には見せるわけには行かないものかも…
「二人共、朝早く付き合わせてしまってすみませんでした。」
「ううん、別にいいよ。いい汗流したからとても気持ち良かった!ねぇ?モリモリ。」
「はい。会長さんも喜んでくれたようですし。」
でも先輩と同じく私だってこんな会長さんのことが見られてほっとしました。ネットでは「Fantasia」の活動どころか普通に学校に通うことすらできないってとかあらゆる噂話が流れていたから皆すごく心配していて…
でもこうやって無事に学校に来てくれて安心したんです。活動は当分難しそうですがそれもそのうちきっと元通りなるはずです!
「それじゃ放課後に集まることにして今日の朝練はここで終了です。二人共、お疲れ様でした。汗流して教室に戻ることにしましょう。」
「分かりました。お疲れ様でした。」
「はい、セシリアちゃんーこっちですよー逸れないようにマミーと手つなぎましょうね?」
「…分かったわ。」
完全に保護者モード…
先先輩から聞いた話によるとしばらくはこんな感じで生活する予定だそうです。寮からの世話はあの速水さんがする予定なのでシャワーを済ました後はすぐ速水さんのところに行かなければならないっと先輩は言いましたが
「本音を言うとやはりずっと私が傍にいてあげたいです。」
さすがに今の状況であまり会長さんが別れたくないように私には見えました。
「でも一応本人が学校で暮らしたいっと言っているしまし私も個人的にどうしても家に行かなければならない理由がありまして…」
「理由?」
っとさり気なくその理由について聞いたかな先輩でしたが
「な…何でもないです!」
っと答えから避けてしまう先輩からでは何も聞けませんでした。
「じゃあ、私は後でななのところに行って会長に歌とか教えてもらえないかって聞いてみるね。何か思い出すかも知れないし。」
「ナイスアイディアですよ、かなちゃん!ありがとうございます!」
いい考えかも!さすがかな先輩です!じゃあ、私も自分にできることを精一杯しなければなりませんね!今まで会長さんが守ってくれた大切な学校ですから!今度は私達が守る番です!
「みもりちゃん…」
なんか感動しちゃったかな、先輩…でも何をすればいいのかはまだ分かりませんから…すみません、偉そうに言った割に何も考えなくて…
「いえいえ!みもりちゃんは自分の場所から自分にできることをすればいいです!焦らなくても大丈夫ですから!きっとセシリアちゃんも喜んでくれるはずです!」
「そ…そうですか…えへへ…」
っと先輩は言いましたが私は一時も早く会長さんが元に戻ったらいいなって思いました。ちょっといたずらが好きでスキンシップが積極的な会長さんでもいつも私達の世話を焼いてくれるお姉ちゃんみたいな会長さんでしたから。
でも信じて待っていればきっともうすぐ元通りになってくれるはずです。皆がそう信じているから私も信じて待ちます。だから私も今はこれでいいと思います。
***
「あ、ゆりちゃん。おかえり。」
「あ…みもりちゃん…」
午後になってやっと教室に戻ることができたゆりちゃん。午前中生徒会は緊急会議のことで全授業を抜きにして今までずっと今後の対策について話し合ったそうです。
謎の選挙管理委員会を除いて緊急会議が参席した全ての生徒会の皆は今回の事態を由々しき事態だと判断して副会長の赤城さんを先頭に立てて今まで通りに学校の秩序と生徒達の安全を大優先して活動することにしました。
でもいきなり起こってしまった想定外の事態に混乱していた生徒会。一部は会長さんの不在に乗じて理事長さんから委ねられた権限で会長さんがなんとか保っていたこのギリギリな均衡を崩して生徒会の絶対的な権威を固めるために今まで邪魔になったアイドルに関する大型部の権限を縮小、小型部の廃部を主張したそうですが幸いそれは過去同じ過激派だった赤城さんのおかげでなんとか防げたようです。
結局今までの会長さんの方針に従うことにした生徒会は各部と連携を取り続けてこれから起こる混乱を最小限に留めることになりました。
でもそれ以上気になるのは今私から目を背けたゆりちゃんのことでした。今朝だって何も言わずに出ちゃったし昨夜あんなこともあったから私を顔を合わせるのは相当気まずいでしょう…
「すみません…今朝何も言わずに一人で行っちゃって…」
申し訳ないって顔で今朝のことを謝るゆりちゃん。いいよ、別に。仕事だし仕方ないのは十分分かっているよ。
「そ…そうですか…そう思ってくれれば良かったんですが…」
うう…めっちゃ気にしている…やっぱり調子狂いますね、こんな畏まるゆりちゃん…いつもだったら…
「ごめんなさい、みもりちゃん…一人にしてしまって…お詫びで午後はいっぱい愛してあげますね♥」
っと今でもスカートの中に入ろうとしたはずなのに…ってなんか私の頭の中でゆりちゃんってひどくないんですか!?いくらゆりちゃんでもそんなことしませんよ!?
とにかくゆりちゃんは昨日とあまり変わりのない恐れ多い顔で私の隣の自分の席に着きました…
「あのですね、みもりちゃん…」
「うん?」
席について私のことを呼ぶゆりちゃん。何か言いたいことでもあるのかな。
「申し訳ありませんがしばらくは副会長のところでお世話になる予定になりました…会長がいらっしゃっていないは二人で指揮を執るしかないからその連携の容易のために当分は一緒に暮らした方が良いではないかと…もちろんみもりちゃんには申し訳ありませんっとお伝えするように言葉を預かっていましたが…」
でも最後までは言えなかったゆりちゃん。学校に戻ったばかりなのにまた部屋を空けることを恐れ入っているようです。そうか…
「し…仕方ないじゃん。会長さんにあんなことが起きちゃったから。私は大丈夫だよ!」
「そうですか…すみません…」
「き…気にしなくてもいいよ!私は本当に大丈夫だから!」
っと自分は全然平気って言っている私をなんだか少し寂しそうな目でじっと見ていたゆりちゃんは
「…分かりました。」
っと私の話を受け入れてくれました。
「…」
な…何か答えを間違えたかな…こんな空気、私超苦手ですよ…ちょっと揉めたくらいならこっちから謝ればすぐ済むことなのに…子供の頃からずっとそう仲直りしてきましたから…
でも…
「どうして私はあなたのことが好きだったんでしょう…」
私達、特に喧嘩したわけもないしあんなこと言うゆりちゃん、初めて見ましたから…私のことが好きだった理由が思い出さないって…
ゆりちゃんの顔を見れば分かります…ゆりちゃんは今でもずっと私に申し訳ないって思っているんです…このことで私がどれほど傷つくのかをこの優しいゆりちゃんはよく知っているんですから…
子供の頃からずっと傍で見てきた私だからこそ分かります。ゆりちゃんの自分への嫌悪も、私への寂しさも私には全部見えています。
「…」
相変わらず何も言わずに午後の授業の準備をするゆりちゃん。でも今ゆりちゃんは授業のことなんて微塵も考えていないはずでしょう。ただひたすら自分の中で生まれてしまった大きな虚しさに胸を焦がしているゆりちゃん…
でもやっぱり私はゆりちゃんにはいつでも私を見て笑って欲しいです。子供の頃からずっと見せてくれたあの優しくて可愛い笑顔をいつまでも見たい。だからあの時の私はゆりちゃんにそう言いました。
「ゆりちゃんと仲良くなりたい!」
大丈夫。きっと取り戻せる。だって私がまだこんなにゆりちゃんのことが好きだから。私がこんなに君のことを信じているから。
私の何でも自分に約束しました。絶対諦めたりはしないって。何があっても私が必ずゆりちゃんを守ってあげるって。だから私は今私にできることを精一杯やります。




