第173話
いつもありがとうございます!
「会長から離れてもいいんですか。」
「セシリアちゃんならちょうど今眠ったんです。それに今はビクトリア様が傍にいらっしゃっているんですから。」
「そうだったんですね。」
なるほど…確かにご姉妹きりの時間も大事ですから。ビクトリア様、本当にお姉様のことをずっと気にしていらっしゃったんですね…
いいですね、姉妹って…私、家でも一人娘だから時々お姉ちゃんや妹ちゃんが欲しいって思った時もありまして…もちろんななお姉ちゃんやみもりちゃんみたいないい友達もたくさんいて寂しいって思ったわけではないんですが姉妹の絆というのに憧れています。
「…」
少し切れてしまう会話。平然とした青葉さんと違って一目で分かるほどそわそわする桃坂先輩。はわわ…私、こういう空気、本当に苦手ですよ…!
お月様が顔を出して全てを見守っている夜。能力によって周りの解けている私まで染まってしまうほど明るい月光に照らされているおふたりさんは目が離れられないほど美しかったんですが二人の間に漂うぎこちなさは胸が辛くなるほど切なかったんです。
でもそれにめげずになんとか話を続けようとする桃坂先輩。先輩はもう少しでも青葉さんとお話がしたかったです。
「そ…そういえば「合唱部」も説明会の出し物とか決めたんですよね?「合唱部」は昔からすごく人気がありましたから部員もいっぱい来るはずです。」
「そうですね。私達は「演劇部」も兼ねていますから絞るだけで一苦労でしたがなんとか決められました。」
落ち着いて先輩の質問にちゃんと答えてくれる青葉さん。「合唱部」も兼ねている「Scum」の先輩の話によると実は「合唱部」の出し物が決まるのに時間がかかったのは殆ど青葉さんが原因だったらしいです。
皆「伝説の歌姫」と呼ばれる青葉さんをメインにして進めたかったんですがなんだか青葉さん本人からあまり気が進まないっと振る舞ってしまって…
結局青葉さんを中心にした劇を入れ込むことで一段落ついたようですが未だに本人はあまり気が向かないようです。
みもりちゃんは多分青葉さん自身が皆に顔を合わせられないから遠慮しているっと言いました。自分のせいで辛い学校生活になってしまった皆にどうしても申し訳なくてって…
青葉さんの性格から見ると十分あり得る話ですね。多分せめて皆の楽しみまでは奪わないようにしなきゃっとか思っているでしょう。
だって青葉さんは去年、今のみもりちゃんや桃坂先輩と同じことをやっていた人ですから。
「楽しみですね、うみちゃんの演技。」
それは私も同じですね。なんと言っても青葉さんはこの時代で最も偉大な表現者ですから。見ている人々を魅了させてしまう感性的で豊かな彼女の演技にはただ見ているだけでいつの間にか夢中にさせる魔力が潜んでいます。
そして何よりその可憐な歌声は一度聞いたら絶対忘れられないほど美しくて切ない…ああ…今度はぜひみもりちゃん、緑山さんと一緒に見たいですね。
でもなぜか話を続けない青葉さん。きっとすごく喜んでいるはずなのになぜかぐっと黙っている青葉さんのことを私は不安な気持ちで見るだけでした。
「そう…ですね。皆で来てください。きっと楽しいですよ。」
まもなくぜひ来てくださいっと先輩を招いくような言葉で答える青葉さん。
それが純粋に先輩に来て欲しいっと願っているということなのか、それともただ先輩をがっかりさせたくなくて仕方なく招待するのかは分かりませんが私は多分青葉さんは純粋に先輩に自分を見せたいだけではないかと思います。そうではなければあんな嬉しそうな顔は多分無理でしょう。
「素直じゃないですね…」
あんなに嫌がって遠ざけても好きな気持は止められない。だから青葉さんはお姉様のことで桃坂先輩が挫けないように気遣ってくれたんですね。きっとお姉様のことで一番戸惑っているのは桃坂先輩のはずだから。
必死に避けていても決して逆らえない好きという気持ち。あなたはまさしく「愛」をしています、青葉さん。
明日からあなたは元通りに戻ってしまっても今日、こうやって先輩のために一緒に歩いてあげたあなたの優しさだけは私は絶対忘れません。
***
「ゆりちゃん…もう学校行っちゃったんだ…」
朝練のため早起きした朝。いつも私を起きてくれたゆりちゃんは既に部屋から出ていませんでした。
「やっぱり気にしているんだ、あのこと…」
未だに昨夜ゆりちゃんから聞いた話の衝撃から逃れられない状態の私。まだ頭の中がぐちゃぐちゃでしっちゃかめっちゃかですが私はいつもどおりにゆりちゃんに接することにしました。多分今のゆりちゃんにはそれが一番いいことだと思ったので…
でも…
「はあ…」
さすがに今のゆりちゃんにいつもと同じく振る舞ってもらうことはなかなか難しそうですね…ゆりちゃん、昨日からずっと気兼ねていて…せっかくあんな格好までして一緒に寝ようとしたのに
「すみません、みもりちゃん…今日は一人にしてください…」
って断れちゃって…あんな元気なさそうなゆりちゃん、初めてみました…私と揉めた日とはまた違う感じでめげているゆりちゃん…とても心配です…
私まで怯んでいてはいけないって思ってはいるんですがしきりにこう思ってしまうのです。ゆりちゃん、私なんかはもう飽きちゃったのかなって…偉そうにあんなこと言っちゃったけどうまくできるのかも心配し…本当どうすればいいものか…
って…
「先輩からの電話…」
ふと目についた携帯の画面に映っていたのはなんだかすごく久しぶりのようなみらい先輩の番号でした。なんでしょう…確か一昨日だって一緒だったのになんだかすごく久しぶりのような気分…
「おはよう、みもりちゃん。起きましたか?ごめんなさい、こんな朝早く電話しちゃって。」
電話の向こうから私を迎えるのはいつもと同じの穏やかでおっとりした先輩のきれいな声でした。なんかいつもと同じみたいでちょっと安心しました。会長さんのことで落ち込んでいたらどうしようって思っていましたが幸いいつもの先輩ですね。まあ、無理矢理に平気そうにしているかも知れませんが…
でも珍しいですね。まだ集合時間まではちょっと残っているのに。
「いえいえ、もう起きていましたから。」
「そうですか。良かった。実は今日の朝練、少し早めたいと思いまして。」
「私は別に構いませんけど…」
どうしたんですか?こんな朝から急に。
「深い理由があるわけではありませんが。とにかく準備が終わる次第に部室へ来てもらえますか。」
「分かりました。あ、でも多分ゆりちゃんは難しいかも知れません。生徒会の仕事があって。それに…」
今のゆりちゃんじゃ多分練習ところか何をやっても手につかないでしょう…だって今一番困惑しているはゆりちゃん自身のはずですから…
「そうですか…赤城さんからもそう言われましてなんとなく分かっていましたが…」
すごくがっかりしているような声…なんだか今日の先輩、ちょっと急かしているような気がしますね。本当どうしたんですか?
「ん…実はセシリアちゃんに私達の練習するところを見学してもらいたくて…」
「ええ?会長さん、そのまま学校に来るんですか?」
驚きました…私はてっきりしばらく病院から過ごすって思っていたのに…
「最初はその予定だったんですがセシリアちゃんがあまり病院で過ごしたくない様子だったので学校から通院治療することになりました。だからしばらくは保護者として私と速水さんが交代でセシリアちゃんの傍についている予定なんです。もちろん「プラチナ皇室」からの護衛もいるし心配することはないんですが。」
「なるほどですね。」
先輩は多分会長さんに私達の練習を見学してもらって失った記憶から何かヒントでも見つけ出そうっとしているようです。なんと言っても会長さんは我が学校の誇り高き超一流アイドル「Fantasia」のリーダーなんですから。歌っている私達を見ていると何か浮かんでくるかも知れません!
でも本当に会長さん、私達のことについて何の記憶もないんでしょうか…あの明るくて頼りになった会長さんがまさかの記憶喪失だなんて…ニュースでは見ましたが私は本当に信じられませんでした…
会長さんへの一般生徒のお見舞いは控えるようになって結局私は行けなかったし…
「それで会長さんの様子は…」
「あ、心配しなくてもいいです、みもりちゃん。今ちゃんと私の傍にいますから。」
でも一体どんな顔で向ければいいのかちょっと迷っちゃいますね…思えば初めは会長さんの方から近づいてくれたから…それに聞いた話によるとなんかちょっと怖そうになったって…どう近づけばいいのか…
「いえいえ、それほどではないんですから。セシリアちゃんはただちょっとだけ困惑しているだけです。だからみもりちゃんはいつもと同じくセシリアちゃんのことを接してください。」
っと迷い込んでしまう私を安心させてくれる先輩。そ…そうですね。ちょっと難しく思ったかも知れませんね。ゆりちゃんのことならすぐ決断できるけどやはり他の人のことについてはまだまだですね、私も。
「分かりました。じゃあ、かな先輩の方は私から連絡しておきますね。」
「助かります。私達もそろそろ学校ですから。それじゃ部室で。あ、朝食は私が作ってきましたから部室で一緒に食べましょうね。」
先輩、手際いい!朝から先輩の手料理か…先輩、お料理めっちゃうまいからきっとめっちゃうまい料理に間違いありません!うまいだけに!なんちゃって!
ここまでが先輩との会話でしたが話を交わすこの短い間、私は色んなものを気づきました。先輩は本当に会長さんのことが好きなんだって。なんかいいですね、こういう絆。何があってもぶれない関係…私も皆とそうなりたいです。
多分この時間なら起きているでしょう、かな先輩。勤勉な人ですからいつも朝練の前にランニングしているし。電話したから向かいに行けばちょうど中間あたりで会えるでしょう。えって…かな先輩…かな先輩…あ、こっちにありますね。
「もしもし?モリモリ?どうしたの?この朝から。」
「あ、先輩。おはようございます。」
電話出るの早っ!息を切らしているところから見るとやっぱりランニング中のようですね。やっぱりあの体力はただでできたものではないんですね。私も見習わなければ!
「おはよう。早いね。」
「はい。ちょっと目が早めで覚めてしまって。ちょうど今みらい先輩から朝練の時間をちょっと早めたいって電話があって先輩にもお伝えようっとして。」
「そうか。分かった。じゃあ、寮に戻ってすぐ準備するから。良かったら一緒に行こうか。」
「はい、私もそう思いましたから。私もまだ準備しているところですからゆっくりしても大丈夫です。」
先輩との登校か…そういえば今まだ一度もなかったんですね、ああいうの。先輩はチアの練習もあっていつも早めに学校行っちゃうし私もいつもゆりちゃんと一緒ですから。
ーコンコン
ちょうど着替えを済まして出かけようとしたその時、ふと部屋のドアから聞こえる音。こんな朝からお客さんですかね…
あ、もしかして会長さんのことで舎監さんから何かお話でもあるのかなっと思って
「はいはい!今行きます!」
ドアを開けた瞬間、私はその場で文字通り固まってしまいました。




