第18話
体調がちょっと良くないですね。皆様もぜひお体に気をつけてください。
いつもありがとうございます!
「可愛い!可愛いですよ!みもりちゃん!
写真!写真撮ってもいいですか!?」
「ど…どうぞ…」
「はい、みもりちゃん♥こっち向いて♥可愛くポーズ♥」
「チ…チーズ…」
大いに盛り上がって、ゆりちゃんとかな先輩に送るための写真撮影タイムに突入した先輩。
そんな先輩のノリに合わせて自分も精一杯笑顔を繕って先輩のカメラに向けてピースサインをしましたが、私、こういうのあまり向いてないかも…
「可愛いです♥写真はゆりちゃんとかなちゃんにも送ってましたから♥
あ、後、なんかセシリアちゃんも欲しがってましたから♥」
「そ…そうですか…」
もちろん、こんな私の気持ちなんて微塵も気にしてくれない先輩でした。
こうなったらあまり人の話を聞かないということを、私は先程、会長さんから聞いたばかりだったので、私は先輩のことをこのまましばらく放って置くことにしました。
何より、
「可愛い♥すごく可愛いです♥みもりちゃん♥」
先輩がこんなに喜んでますから、これくらいお安い御用です。
「みもりちゃん…!」
隣の空き教室で着替えてきた私のことを、満面の笑顔で迎えてくれた先輩。
驚きと嬉しさが混ざり合った表情で先輩から渡されたステージ衣装に着替えてきた私のことを、先輩は思いっきり喜んでくれたのです。
「とても可愛いです!まるで天使みたいです!」
「天使って…」
多少大げさな例えまでして、私のことを持ち上げた先輩。
でも、
「可愛い…」
鏡に映った今の自分の姿を見た時、私はほんの少しだけ自信みたいなものができたような気がしました。
前の同好会の先輩たちが着てた衣装をアレンジして作ったという制服風のノースリーブワンピース。
前はもう少し派手な衣装だったそうですが、今回はイメージチェンジも兼ねて思い切って袖を切って夏らしいデザインに変えてみたというアイデアは実にいい選択だったと、私は先輩の審美眼に内心感服していました。
たとえそれを着ているのが私という地味な子だとしても、その衣装は本当に可愛かったです。
それぞれのイメージに合わせた色付きの手袋とリボンの髪飾り。
どこから見ても立派なそのアイドルらしい可愛い衣装を着ている長い黒髪の女の子。
少し自身がない表情をして、薄らな緑色の瞳で鏡の向こうの自分のことを見つめているその少女は少し恥ずかしそうにほっぺを真っ赤に染めていますが、
「これが本当に私…」
それでも胸の底から湧き上がる嬉しさだけは抑えきれないように、そっと笑っていたのです。
もちろん、
「でも胸の方が…」
「あはは…私用ですからね…」
ダブダブの胸の辺りを見つけた時は、ちょっぴり悲しい気分になってしまいました…
「みもりちゃんだって立派ですが、私はランジェリーショップに行っても自分に合うサイズが殆どありませんから。
だからセシリアちゃんのところにオーダーメイドで頼んでます。
ほら、これが私のブラです。」
「うわぁ…!なにこれ…!?ボウル…!?というかあたっかい…!」
っといきなり自分のブラを外して私に見せくれる先輩の謎の行動…!
脱ぎたてのポカポカのブラは先輩の高い体温に温まって、まるで冬の肉まんみたい!それになんかめっちゃ蒸れていて…!
というなんかちょっと濡れてません…?これ…!なんかピチャピチャして、私が持ってはいけない気がして…!
「あぁ…♥可愛いみもりちゃんを見たらなんか母乳が止まらなくなっちゃいましたね…♥」
なんで…!?
でもあまりの大きさにツッコむことも忘れちゃった私は、
「でっか…!合わせたら私の頭より大きいかも…!」
改めて気付いた先輩の胸の凄さに何度も驚かされて、ただ呆然とそのボウルみたいなでっかいブラを眺めているだけだったのです。
「でもなんか腋の辺りがスースーして落ち着きませんね…
ゆりちゃんなら喜びそうですけど…」
袖がなくて開放感があるのはいいですけど、私はやっぱりこういうの、ちょっと苦手でして…
私、割と汗かきでよく汗かいちゃいますし、結構気にしてますから…
まあ、ゆりちゃんは、
「みもりちゃんのすべすべの真っ白な腋♥
甘酸っぱくて、しょっぱいゆりちゃんの大好物のスイーツです♥」
ってそれがいいってあまり隠さないでって言いますけど…って想像の中のゆりちゃん、怖っ…!
生まれてから毛が薄くて細いからあまりムダ毛の処理とかやったことがなかったんですが、中学校までは水泳部だったので、競泳水着を着ることが多かったんですから、ゆりちゃんに大事なそこだけの処理を頼んだことがー…
…はい?どうしてああいうところの処理を幼馴染に頼みますっと…?
そりゃゆりちゃん以外の人には見せたくありませんし、
「じゃあ、処理したみもりちゃんのお毛々は私が持ちますね♥
あ、もしお金が必要でしたらいくらでも出しますから♥」
本人があんなに欲しがってましたから…お金は要りませんでしたが…
水着からはみ出すのも嫌だったですし…
「まあ、いいじゃないですか。よく「腋は性器」って言いますから。」
誰がですか…?
デザインのことは後にしても、本音を言ったら私はただ純粋に楽しかったです。
こういうちゃんとした衣装は本当に久しぶりで、本当はもう一度着てみたいってずっとそう思ってましたから。
いつかゆりちゃんが言ってた「未練」ってやつかもしれないと、私はそう思います。
でも、
「ありがとうございます、先輩。もう着替えてきますね」
私はこれ以上、この服を着ていてはいけない、そんな気がしました。
「みもりちゃん…?」
先輩にも喜んでもらったし、自分でもいい気晴らしになった。
それで十分だと思って、着替えるために部室から出ようとする私に、
「そ…そうです!よかったら一緒に踊ってみませんか?」
先輩は突然私に一度一緒に歌って踊ることを提案したのです。
「今のみもりちゃん、すごく可愛いですから!
この衣装を着て、踊ったらきっと大注目間違いなしです!」
「で…でも…」
っといつの間にか私の手を握って、ちょっとだけでもいいから一緒に踊ってみたいという先輩。
先輩をがっかりさせたくない、そして私も先輩と一瞬でもいいから一緒に踊ってみたい。
そういう気持ちが自分にも確かにあるが分かっていましたが、
「す…すみません…私にはできません…」
結局、私は先輩の手を離して、その気持ちに応えてあげられなかったのです。
「汗かいちゃったかもしれないし、これは洗ってお返ししてもいいですか。」
っとまるで先輩への申し訳無さを誤魔化そうとするように、そう聞く私のことを、
「みもりちゃん。」
先輩はただ自分の体を強く抱き込んだのです。
「せ…先輩…?」
とっさに起こった出来事に頭がついていけない。
どうして先輩は部室から出ていこうとした私の抱き込んで、私の頭を抱きかかえて撫でてくれたのか。
「もう大丈夫ですから。」
和やかで穏やかな音声。
一気に心が落ち着いて、いつの間にか自分のすべてを先輩に委ねた気分。
それほど私は先輩の中を心地よいと、安心していたのです。
何より、
「先輩の鼓動…」
胸が破裂しそうに、大きくドキドキしている先輩の心臓の鼓動が私のことをずっと落ち着けてくれたのです。
「それになんか甘い匂いも…」
ふわふわで甘やかな先輩の匂い。
その匂いのことに、覚えているはずもない赤ん坊の時を思い出した私は先輩の匂いをお母さんからのミルクの匂いに似てるかもしれないとー…
…ん?ミルク…?
「あ…あの、先輩…!私…!」
「ちょっとだけ。ちょっとだけでいいですから。」
急に押し寄せてきた恥ずかしさに、私はなんとか先輩から離れるために暴れ出しましたが、そのたびに先輩の抱っこはどんどん強くなって、やがて身動きもできないほど私の体をぐっと抱きしめたのです。
「もうみもりちゃんを苦しめることも、傷つけることもありません。
だから何も怖がらない。」
そう言いながら私の頬に軽く口付けをした先輩を見上げたその時、
「全部知っていたんだ…この人は…」
私は先輩の透き通ったきれいな目を見て分かりました。
先輩は何もかも全部知っていました。
私の恐れも、夢への未練も。
「もっと笑ってください。みもりちゃんの人生はみもりちゃんの幸せのためのものですから。
特別ではなくても、それは皆同じことです。」
そして普通という自分をずっと呪っていたことも。
「だから幸せになってください。
だって私はみもりちゃんのことが大好きですから。」
真っ直ぐで偽りのない正直な気持ち。
ゆりちゃんの私への気持ちとはまた違う素直さに気づいたその時、
「先輩…私…」
私は溢れ出してきた思いを抑えきれませんでした。




