第165話
いつもありがとうございます!
うみちゃんのことは今も責任を感じている。何はともあれことりちゃんはうちの人間だったから。なぜことりちゃんが大好きだったうみちゃんにそんなことをしなきゃならなかったのか、私の戦いはそこから始まった。
史上最悪の第3女子校いじめ事件。文化芸術系として誇り高いここ第3女子校で起きてしまった一大事件として扱われてやがて世界政府からの介入まで引き起こしてしまった。
「青葉海」と同じく天才女優として名高った「赤座小鳥」による「青葉海」に対する集団いじめ事件。そのことは世界からこの学校の資質を疑わせて一生消すこともできない大きな汚名を着せられた。その責任者として魔界側の「紫村咲」、神界側の「速水愛」は重処分、このことに関わっていた全員は主導者であった「赤座小鳥」の除いて他校への転校すら禁止されて今後の人生の全ての道を防がれてしまった。
ツアーから帰った私は偶然うみちゃんの考えを見ることができた。誰もいない森の中で大勢に囲まれて皆の見世物になっているうみちゃん、そしてその姿をどうしようもない悲しい顔で眺めていることりちゃん。二人の中ではきっと何か私が知らない何があっただろう。でも私にはそれを調べる暇もなかった。その時の私はとにかくうみちゃんを助けなきゃしか考えなかった。
私は直ちに独断で生徒会を招集、関連証拠全てを確保した。そしてまもなく開かれた懲戒委員会でこのことに関わっている全員は退学され二度と学校というところには行けなくなった。
続いて調査を始めた世界政府により責任者として前理事長は辞退、新理事長として現理事長である「神族」の「朝倉色葉」理事長が第3女子校を引き受けることになった。
その事件以来、学校は100年前の大戦争の時のように神界と魔界で真っ二つに分かれていがみ合った。なんとかしたかっが私の力では精々直接的な衝突が起きないように縛っておくことしかできなかった。
でもいつの間にか同好会を中心に、いや、「虹森三森」という子を中心に学校が動き始めていた。
自分のことを何の特別なところもない普通だらけって言ったあの子はただひたすら皆と仲良くアイドルがやりたいと思っていた。真っすぐで折れることなく頑張るあの子は絶望していた私達を再び呼び覚ましてくれた。あの子こそ私よりみらいちゃんから言った「皆と仲良くアイドル」という理想をよく理解していた。
あの子のおかげでみらいちゃんももう一度うみちゃんと向き合おうしたから今も感謝している。
結局みらいちゃんに必要だったのは私なんかではなかった。私にはあの子を治せるのも、うみちゃんとのことも、元気づけることすらできなかったから。私はただの親友の一人に過ぎない。それでいいっと思う気持ちもあったけどやっぱりあの子にだけは特別な人になりたかった。
私にまで明かさなかった未来から来たという自分の正体も、私への気持ちも私たただみもりちゃんを通して知っただけでみらいちゃんは私に何も言ってくれなかった。
それがたまらなく悔しくて寂しかったけど私はそれがみらいちゃんから決めたことだから尊重しなければならないと思ってそのまま私だけの中に秘めておくことにした。
これでいい。これであの子はもう一度立ち上がるだろう。自分の夢のためにもう一度頑張れるだろう。だったら今の私にできるのは全力で君のことを手伝うだけ。
だから君は何も心配しなくてもいい。私の幼年時代をお姉ちゃんが守ってくれたように私も君のことを命がけで守ってあげるから。君はただあの時のようにひたすら楽しく、幸せな顔で皆に君の気持ちを届けてあげて。君は自分の夢のために歩いて。
私に励んでくれたように、私に夢を与えたようにいつもまでも美しくずっと…
でも今の私はなぜかあの時の誓いを思い浮かべない。自分の目の前で絶望していた君の顔を見ても私は君のことについて何も浮かばない。
あんなに愛していた君のことなのになぜ私は…
***
なんだか昨夜はすごい夢を見ました…はっきりとは覚えていませんですがなんだかすごく艶めかしくてエッチな夢…薄らかに残っている記憶を辿っていけばちらっと裸になった皆の姿が見えて…私って同じ女の子にも欲情したりするのかな…
でもなんだか皆ともっと触れ合うことができて心地よい夢でした。なぜかすっごく気持ち良かったし…
クリスちゃんから言った能力強化…?ってやつはうまくできたんでしょうか。
「でもなんで私は…」
でも決して私自身が自分の股から何かを探している行動については分かりませんでした…
「きっと何かあったような気がするんだけど…」
「ん…おはようございます…みもりちゃん…」
私からもぞもぞしていたせいで起きてしまったようなゆりちゃん。ご…ごめん!起こしちゃった!?
「いいえ…そろそろ起き上がる時間ですから…それよりなんでこんな朝から自分のお股をいじっているんですか…?」
「ええ…!?ち…違うよ、これは…!」
け…決して朝から欲情したわけではないから…!ただなんか重要なものがなくなった気がしちゃって…!
「そうですか…」
はわわ…!まさかこんな朝っぱらからこういう姿を見られるなんて…!このままだとまたゆりちゃんのスイッチが…!
「貴重品ならなくさないように気をつけなければなりませんから。もし不安でしたら今度から私から預かっておきましょうか?」
「え…?い…いや…大丈夫…」
あれ…?なんか私から思った反応とは違う…いつもなら…
「みもりちゃんの大切な貞操、私からお預かりさせていただきます♥」
っとまたベッドの下から変なベルトを出すはずなのに…確か貞操帯って名前の…
なんか今朝のゆりちゃん、普段とちょっと違いますね…昨日の練習、本当に疲れたかな…
やっぱりこの前、私がゆりちゃんからのお誘いから逃げちゃったからまだ怒っているのかな…
うう…やっぱりちゃんと謝らなきゃ…
「あのね、ゆりちゃん…その…この前はごめんね?急に逃げちゃったりして…」
謝る私に何をそんなことでって顔で
「それは私の方こそ悪かったんですから。みもりちゃんのことも考えずにまた勝手に暴走しちゃった結果だし。」
っと全然平気だと言ってくれるゆりちゃんでした。
「理事長と一緒に生活している間に改めて分かりました。あなたがどれほど私自身に大切な存在だったのか。そういうあなたを勝手に振り回そうとしていた私が悪かったんです。」
「そ…そう?」
なんか分かってくれたようですね。良かった…
「そ…そういうことは雰囲気とかシチュエーションが大事だからね!次は私も頑張って準備するから!あの時は毛の具合とかもいまいちだったし!」
何言っているんだ、私!?
でも私のいつものボケにもずっとしんみりした顔で少しぼーっとするゆりちゃん。まだ眠気が抜けなかったかな…
「あ…すみません…ちょっと頭がぼーっとして…」
「え?そう?もしかして熱とかあるの?」
「いいえ…そういうわけではないんですが…」
ゆりちゃんの額に手を乗せて熱を測ってみましたがゆりちゃんの言ったとおりにそういう気配はありませんね…確か理事長の課題とかもあったからちょっと疲れたのかな…今日は休もうか?
「いえいえ…風邪気味とかでは全然ありませんから…ただ…」
っと急に私の顔をじーっと見つめるゆりちゃん。ど…どうしたの…?
「い…いいえ…何も…」
でもすぐ私から目を逸らしてしまうゆりちゃんでした。
なんか心配ですね…顔色は結構いいんですがなんだかいつもとは雰囲気が違って…
「大丈夫ですから。体に問題はありません。むしろいつもより清々しくて体が軽いです。昨日よく寝たからでしょうか。」
「そ…そう?それなら良かったんだけど…」
「さあさあ、早く準備しましょう。今日からは朝の練習があるんですよね?」
そ…そういえばそうでした!もうすぐ説明会だから今日からは朝練もやるって先輩から聞いたのにすっかり忘れていました!先輩ならもう学校に到着しちゃったかも!
ゆりちゃんのおかげで朝練のことをやっと思い出した私はゆりちゃんと一緒に学校に行く準備をしました。
でも急いでいる間にも私はどうしても今朝のゆりちゃんから感じられる違和感を振り払えませんでした。
私から背を向けたゆりちゃんがなんだか遠く感じられるもやもやな朝でした…
***
「セシリアちゃん…?」
みらいは戸惑っていた。いつも目を輝かせて笑顔で自分を迎えてくれた一番の親友だったセシリアの輝きを失った冷たい目を見た瞬間、彼女は何か嫌な予感を実感してしまった。
「おはよう、みらいちゃん!今日のおっぱいもバカほどでかいね!」
っとおちゃめっ子な顔で自分に向けて笑ってくれた自分だけのお姫様は
「誰よ、あんた…」
今まで見たこともない冷たい目で自分を見つめていたのであった。
いつもと同じ光景の生徒会室。特に変わったところもない日常の姿だったがたった一人、みらいの理想のお姫様はその日常からずれていたのであった。
ただあの子だけが冷ややかな目で自分を見つめているっという事実が彼女をひどく痛めつけた。
「な…何があったんですか…?」
震える声でセシリアの様子を窺うみらい。
「またいたずらとかしちゃうんですよね…?朝からいたずらするのは勘弁してくださいね…?」
普段からよく自分をからかっていたセシリアだから今回もただの悪いいたずらだけと思ったみらい。いや、本当はそう思いたかった彼女であった。
全てを見抜いていて人を操ると言われて皆から恐れられていたセシリアの「神眼」。だがみらいにとって彼女のその目すらただの友達への優しさがいっぱい溜まっている普通の女の子の目に過ぎなかった。
だからみらいはその温かい目が本当に好きだった。何があってもいつまでも自分の傍にいてくれるようにずっと自分を見守ってくれたその目から今までいっぱい励まされてきたから。
だが今日のセシリアの目はなぜかその優しさを全部なくしてただ自分のことを警戒しているだけであった。
「君、失敬ね。先から人の名前を馴れ馴れしく呼んじゃって。」
無情な返事。やがてみらいはその嫌な予感が現実化されて自分の目の前に現れてしまったことを気づいてしまった。
「ここ、どこ?私は確か家でお姉ちゃんと…」
「お姉ちゃん…?」
急に回りをちょろちょろ見回すセシリア。やがて自分が立っているここは自分が知らないところというのを気づいた彼女は急に不安な顔になって
「お姉ちゃんはどこ…?一体どこなんだよ、ここは…?」
泣き出しそうな声で何度も何度も傍からいなくなった姉のことを呼び続けた。
「ま…まさかこれって…!」
自分以上で戸惑っているセシリアを見てみらいはいつか見た漫画のことを思い出した。
急に記憶を失って心が子供の頃に戻ってしまったヒロイン、そしてその記憶を取り戻すために孤軍奮闘する主人公。
「これはまさかの記憶喪失…!?」
みらいはいつも悪い予感ばかりを当てってしまう自分のことにまた絶望してしまった。




