第163話
いつの間にか投稿なしの日にも見てくださる方々が増えました。本当にありがとうございます!
皆様のおかげです!
いつもありがとうございます!
「そう…だったんですね…」
悲しそうな表情。別に同情する必要はない。皆それぞれの事情があるから。ただ私の運が悪かっただけ。
不思議な子…全くの初対面なのにいつの間にか私の傍に座っていて私の話を全部聞いてくれたなんて…何より一番理解できなかったのは今日初めて合ったこの子に自分のことを全部話した自分のことというのを知って私は自分自身の無防備さだった。
でもこの子の考えは全く見えない…まだ皆の考えが見えているってわけではなかったがせめて今の気持ちくらいは把握できるはずなのに…
普通の人だったら驚くのも最初だけ。その後はいつ自分のことが私に知られるのかずっとそわそわする。でもこの「みらい」という名前の子はその嫌悪感すら表さずにただひたすらずっと悲しそうな顔で私の手を握って…っていつから取っていたの!?
「あ…すみません…手、握るの嫌でしたか…?」
っと捨てられた猫みたいな顔で聞いてくる少女。ううっ…そんな顔、ずるいわよ…
「いや…別に嫌ってわけじゃ…っていうか結構体温とか高いよね、あんた…」
すっごくポカポカで心地よい…まるでお姉ちゃんみたい…
これは神様の最後の小さな情けだと思った。人々に不幸を撒き散らす私みたいな疫病神にも最後はいい思い出一つくらいは与えてあげたいという神様からの小さなプレゼント。あのお姉ちゃんさえにも捨てられたいいことなんて一つもなかった私への最後の憐憫。
もうこんな遅い時間。私のことを精一杯慰めているこの子も家に戻ったらいつかは私のことなんてすっかり忘れてしまうだろう。
でもそれでいい。最後だけはいい思い出に…っと私は思っていた。
「あのですね、セシリアちゃん。」
い…いきなり「ちゃん付け」…すごい親和力わね…
「私は病気にかかっています。」
「病気…?」
急にすごいことを告白する少女。病気って…顔色もいいし特に痛そうなところは見えないんだけど…
「私はある周期を持って全ての記憶を失ってしまいます。」
「…記憶を失う…?」
そのことを話していたあの時の少女の顔を私は今も忘れられない。彼女は私なんかでは測れないほどとても悲しそうな顔で私を見ていた。
「多分セシリアちゃんとのこの出会いさえもうすぐ忘れてしまうのでしょ。それはとても悲しいことです。私の思い出が、好きな人々が全部私の記憶から消えてしまう気分…私はそれが本当に悲しくて怖いです。」
言葉も出ないほど衝撃的な話。少女はそれが何の病気なのかは最後まで聞かせてくれなかったがその崩れそうな表情を前にして私も決してそれを聞けなかった。
嘘ではないかななんて一ミリも考えられなかった。実際「人の頭の中を見て操れる」というチートみたいな能力が私にもいたから。
それを知ったから私は少女の話はあまりにも残酷で非情なものだと思ってしまった。
「でもこれだけははっきり覚えています。私が何故にここに来たか、自分は何がやりたいのか、何が好きなのか。遺伝子に刻まれた遺伝情報みたいにそれだけははっきり思い出せます。それを思ったら胸が晴れそうにすっかりして胸の底からはなにか熱いものが湧いてきます。」
でも決して折れない強くて真っ直ぐな目をひらめきながら自分の信念を固める少女。かつて私は見たこともない「信念を貫く黄金の精神」を彼女から覗くことができた。
「好きなこと…」
全ての記憶を失ってもそれだけはちゃんと覚えているだなんて…それほどそれは君に大事なこと…?
っと聞く私はふと気づいた。私にはずっとそれほどやりたいことがなかったというのを。
ずっと自分の人生を恨んだばかりでこの子みたいに自分を保つほど強烈な熱意が自分にはなかったというのをその時の私は少女の真っ直ぐな目を見た瞬間、気づいてしまった。
一体何がこの子をこんなに強くさせているんだろう…っと思っていた私に少女からは
「私は「アイドル」が大好きです。」
っと答えてくれた。
「ア…アイドル…?」
その時、私は思わず「プッ」と笑ってしまった。
「ええ!?私、なんか変なことでも言っちゃったんですか!?」
いきなり笑いを噴き出す私のことに戸惑ってしまう少女。これがまた驚いたハムスターみたいで私は笑うのを止められなかった。
「あはは…!顔、真剣すぎ!私はてっきり「魔法少女になって世界を救う!」とか思ったよ…!でも諦めた方がいいよ!実際「魔法少女」はいるだから!」
「えええ…!?そ…そんなこと、言うわけないじゃないですか…!?っていうかいるんですね、魔法少女…」
何漫画みたいな展開を想像したんだよ、私…!あはは…!お腹痛いよ…!
「みらいちゃん…だったっけ?そのでかいおっぱい、実はミサイルとかビーム兵器とかじゃねえの?「マジカル・ミルク」とか出るの!?」
「ええ!?いきなりセクハラ!?っていうかひどい必殺技名!」
先まではもう死んじゃおうっと落ち込んでいたくせにこんなに笑い転げるのもすごくおかしいだがその時の私はお姉ちゃんがいなくなった以来、初めて気分が晴れるほど笑うことができた。
でもいきなり「アイドル」なんて、なんだかたかが皆の考えが見えるだけで悩んでいたのがバカ見たくなったっと私は思った。
本当に「アイドル」という存在がこの子の消えてゆく記憶の中でもはっきりと残っているものなら私も自分を保つほど強くてはっきりした自分だけの「大好き」を見つけよ。
皆に嫌われても堂々と自分の信じる道を歩みたい。決して折れない自分になりたい。失われてゆく記憶でもただ自分の好きなものを信じて笑えるこの子が私はひたすら羨ましかった。
「やっと笑ってくれたんですね、セシリアちゃん。」
「うん。おかげさまでね。ありがとう、みらいちゃん。」
私の笑っているところを見てやっと安心したような顔をするみらいちゃん。その時、私もいつの間にか彼女のことを「みらいちゃん」と呼んでいた。
「私は皆と仲良く大好きなアイドルがやりたいです。」
まだ私の手を握っていたみらいちゃんはそっと私を引っ張って自分の中に入れてくれた。ほんのりした桃の香りに私の冷めていた心が解れてゆく気持ちに包まれて、そういう私に彼女うはこう言ってくれた。
「大丈夫です。全部うまくいくはずですから。だからもっと笑ってください。あなたは幸せになるためにこの世界に舞い降りた天使様です。私があなたのために歌いますからどうかこの世界をもっと愛し、楽しんでください。私には分かります。セシリアちゃんはこの世で最も優しくていい人なんです。」
っと。
その時の言葉の意味が何なのかその当時にはまだ分からなかった。見た目は私と同じく子供だったがみらいちゃんはその年齢には合わない大人っぽいことを言ってたから。でもその母みたいな温かくて優しい気持ちだけはちゃんと届いたと私はそう覚えている。
「きっとセシリアちゃんのお姉ちゃん、お姉様も何か理由があってと私は思います。だってセシリアちゃん、こんなに可愛いですから。こんな妹さん、絶対ほっておくわけないですから。」
「そ…そこまで言われるとさすがにちょっと恥ずいかな…でもありがとう。」
この子と私は似ていたけどこの子には決して私には持つことができなかった何かが存在した。記憶の消失にもさらわれないように強い思い。私はただ周りの考えに自己を失われてあっちこっちへさらわれるだけだった。
胸が少し…いや、かなりでかいところを除けば何の特別もない普通な女の子。でもこの少女は私なんかよりずっと強くてしっかりした女の子であった。
その子の名前は「桃坂未来」。私の大切な初恋の女の子であった。
「でもこの楽しい時間もいずれ私は…」
ふとすごく悲しむみらいちゃん。いつか訪れてしまうこの思い出との別れを思っただけで胸が張り裂けそうだっと自分の痛みを話すみらいちゃん。彼女はこの病気のことを「呪い」みたいなものだと話して決して現代医学では治せないと説明した。
でも私はその同時に気づいた。お姉ちゃんから私の能力について話した「皆の力になる」ものというのはこういうことのための力ではないかと。
だから私は悲しむみらいちゃんの手をぎゅっと握って彼女にこう誓った。
「大丈夫!私が絶対治してあげるから!もしみらいちゃんが忘れても私が必ず覚えるから!」
私は絶対君のことを忘れないと。
「セシリアちゃん…」
その瞬間、いきなりボロボロっと涙を流し始めたみらいちゃん!ど…どうしたの!?どこか痛いところでも!?誰か呼んで来ようか!?
「いいえ…そうじゃなくて…ただ本当に嬉しくて…」
今の言葉が結構気に入ったようにみらいちゃんはずっと「ありがとう」っと何度も何度も繰り返すだけで何も言えずに泣き出さんばかりだった。
「もう…泣かないでってば。むしろ私の方こそありがとう。」
その時、私は君に救われた。だからその「ありがとう」というのはむしろ私の方から君に話したい。今もずっとそう思っていた。
その同時にあの愛しい子にこう約束した。
「私が星になるから。もしみらいちゃんが道を迷った時は私を見て私を思い出して。」
「セシリアさん…」
指切りの約束。私の初恋のあの子のために、そして私自身のために私達は夜空の下から約束した。
その後、私は一晩中ずっとみらいちゃんと話し合った。今覚えているお互いのこと、みらいちゃんの大好きなアイドルのこと、お姉ちゃんのことも、お姉様のことも。
その時、私は気づいた。「アイドル」というのを話す時のみらいちゃんは誰より楽しそうって。ただ歌ったり踊ったりするだけではなく皆に夢や元気を与えてくれる彼女達の眩しさをみらいちゃんは真剣に憧れていた。
何時間も目を輝かせてアイドルについて語るみらいちゃん。その時まで私はアイドルという存在に全く興味はなかったがその子の話を聞いていると知らず識らずのうちにどんどんその夢のような存在に興味が湧いてきた。
その日、私は初めてで本当の友達を、初めての夢を得られた。
「セシリアちゃん、私の歌ちょっと聞いてくれませんか。」
やがて私達以外に誰もいない街路で歌う彼女の姿を私はまるで妖精にでも惚れたようにずっと見ていた。月光に照らされて歌って踊る彼女は私にとって灰色の悲しみに沈まれていた世界を一瞬その眩しい光で晒してくれた。
今も忘れてない私だけの妖精さんはそうやっていつまでも私のために歌ってくれた。
でもいつの間にか眠っていた私が目を覚めた時、
「みらいちゃん…?」
私の初恋の女の子はどこにもいなかった。
そこで私はお姉ちゃんがいなくなったよりまぶたが腫れるほど散々泣いた。挨拶もせずにいなくなった寂しさよりただあの子がいなくなった自体がどうしようもなく悲しかった。
もう一度あの愛らしい子に会いたい。私は心の底から柄でもない神様への祈りまで捧げていた。
その後、私は家に戻ってお姉様に初めて
「アイドルになります。」
自ら自分の道を手紙に乗せて知らせた。
あの子の大好きのアイドルになっていつでも私を見るようにしてあげたい。あの子が言った「アイドル」という輝きになってあの子みたいに堂々と自分の道を歩む存在になりたい。
そしてもし君が私のことを見たらあの日のことを思い出して欲しい。あの日のときめきを、あの日の夢を、あの日の私の気持ちを。
必ず君だけの大好きなアイドルになってみせる。君の「皆と仲良くアイドル」という夢のために私も頑張るから。だからもう一度合った時はまた私のために歌って欲しい。
そうやってあの子から夢を与えられた私は神界史上初の「お姫様アイドル」になった。最初はお姉様だって皇族として皆の前で歌うことをあまり感心しなかったが私が自分の周りから離れていたら安心できると思ったのか私のアイドル活動を許してくれた。もちろん顔を合わせるのではなく電話で。
でもお姉様はこうおっしゃった。
「あなたはその世界で「女王」になるつもりで頑張ってください。」
っと。
初めてだった。生まれて初めてお姉様は私をちゃんとした人格で見てくれた。
いつも厳しくて最後は私を妹としても認めてくれないっと思っていたお姉様。未だに家にはちゃんとした連絡もしない私だがその気持だけは今もしっかり心に刻みつけている。
きっとみらいちゃんが言ったとおりお姉様にもこうするしかなかったお姉様なりの理由があったと私はそう思うことにした。
その後、私は人界の事務所からのオーディションを受け、人界の地下アイドルから本格的なアイドル活動を始めた。
神界からはいくらエルフと人間のハーフとはいえ正式の「プラチナ皇室」の子だったので誰も私を見下したりはしなかったがその世界は私の想像を遥かに超えた厳しい世界だった。
私の出身も、種族もあの世界の皆には少し変わった点に過ぎなかった。だから私は自分の力で、自分の意志でその世界の「女王」になろうとした。
誰もが必死になって誰かを礎にして這い上がろうとする競争世界。純粋な実力や人並みの努力は当然としてもっと上を目指すには人脈も、運も、とにかく何もかも全てが必要だった。
でも私にはくじけている暇なんて1秒たりとも存在しなかった。私にはただひたすらあの子との思い出のために頑張る道しかなかった。




