第159話
いつもありがとうございます!
「あなたは大丈夫ですの?」
「え?私?」
シャワーを浴びた後、休憩室に集まってコンビニに行ったかなとうみの帰りを待っていつところでふとクリスにそのようなものを聞くなな。
何も知らないふりっとしていたクリスだったがさすがにこれ以上隠しても無駄なこととういのを気づいてしまってななだけに自分の気持を解き明かそうとした。
「大丈夫…ようには見えないのかな、私…」
思わずため息までついてしまうクリス。頭ではもう分かっていると思っていたが体は未だに納得が行かなかったようにずっと何か詰まっているようなもやもやな気持ちが続いていた。
「全然平気っていうのはやっぱり嘘かな。結局私はみもりちゃんから選ばれてもらえなかったから。」
少し悲しく眼の前のコップを眺めるクリス。普段お気に入りのお茶なのに今日はなんだかその苦い味しか感じられなかった。
「でもこれでいい。みもりちゃんのこと、本当に大好きだけど緑山さんのことも大好きだから。だからあの二人にはずっと今までみたいにいて欲しい。子供の頃からずっと憧れてきたあの仲良しの二人で。」
「そう…ですのね。」
決して諦めたわけではない。ただクリスはその二人のことをこのままで守りたかっただけであった。
「ずっと夢だったから。あの時の二人みたいにキラキラになりたいって。だから私は私にできることを全力でするだけ。私はただ純粋に二人のファンとして、友達として応援したい。あの二人は二人ではなければならないから。私なんかが入れるところなんてどこにもいないの。」
「…強いですわね、クリスは。」
年は1個下だった自分とは比べられないほどクリスは強い子だった。自分の憧れを守るためなら自分の犠牲も惜しまなかった。
だからななはそれが心苦しかった。あの二人のためにひたすら犠牲のみを自分に強要するこのこのことがどうしようもなく悲しかった。
決して報われるようもない、ただ胸を裂く切なさと悲しみしかいないその道をこの子は自分で選んだ。好きな人に好きって言えないこの子が一体どれほど傷ついてしまうのが考えもしたくなかった。
「わたくしには到底考えすら及びありませんの…」
もしかなに捨てられたら自分は二度と立ち上げられないだろう。そのままこの世界が終わってしまったらっと思いながら自分の人生を恨んだり、呪ったりするだろう。
でもこの子は傷ついても前へ進む。例え二人が自分のことを振り向かなくてもこの子は前へ歩いていくだろう。
そう思ったななはただひたすらクリスのことを羨んでいた。
「これが「王」としての姿勢ですわね…わたくしには真似もできませんわ…」
だがその真剣さだけはちゃんと二人に届いたと思った。今やクリスも二人にとってかかけがえのない人。二人の人生において欠かせない人だった。
だからあのみもりしか知らなかったゆりにも認められたっと思ったななは
「でもあなたのちゃんと二人に認められたんですから。だから自分にもっと自身を持ってくださいませ。」
っとクリスのことを慰めてくれた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
クリスはそういう優しいななのことが大好きだった。
「あ、緑山さんからの電話。」
ふとポケットから鳴っている携帯から発信者を確認して少し珍しいっという顔をするクリス。
「おかしいね。緑山さんならまだお取り込み中のところのはずなのに。私の呪文だってまだ…」
その時、クリスは気づいてしまった。相当の性的欲求を満たされない限りいつまでも相手に求め続けるようになっているはずの呪文がいつの間にか解かれていることのを。
「せめて今日中には解けないはずなのにただ1時間で呪文の方が先に解かれてしまうなんて…こんなの、あり得ない…」
特にゆりのものはもっと念を入れて置いたものだったのでクリスはそこからなにか嫌な予感を感じてしまった。
「緑山さん、大丈夫ですか!?」
急いで携帯からゆりの無事を確認するクリス。だがそこから聞こえるのはただ快感に身を委ねて喘いでいるあるメスの声だけであった。
「た…助けてください…く…黒木さん…」
「緑山さん!?」
ほぼ泣き寸前だった顔でやっとちゃんとした会話をするゆり。だがそれはただ救助を求めているSOSのサインであった。
初めて聞くゆりのSOS。あの「怪物」と呼ばれるゆりすら自分に助けを呼ぶほど非常な事態になったというのを実感したクリスは
「どうしたんですか!?大丈夫ですか!?」
何度もゆりの無事を確認したが電話の向こうから聞こえるのは
「み…みもりちゃん…!今、電話中ですから…!ちょっと待ってくだ…!だ…ダメです…!またこんな乱暴に突き刺すと…!あっ…♥だからちょっと話を…♥」
後ろから襲った何らかの力によってまた喘ぎ始めたあるメスの嬌声だけであった。
そしてそれを最後に電話は無情に切れてしまった。
「な…何事ですの!?」
同じく事態の深刻性を気づいたななからクリスに聞いたがクリスはただ
「な…なにか間違っている…!こんなはずじゃ…!」
自分にも全然予想できなかった事態にただ恐れながら戸惑うだけであった。
「と…とりあえず私は緑山さんの救助に向かいます!お姉ちゃんは念のためにこのことについて知っている石川先生の手配を!」
「わ…分かりましたわ!」
かなとうみが帰り次第彼女達と合流してゆりのところへ向かうことにした後、ななは即1年生のC館に、クリスは夢の中ならどこでも現れる能力で一気にそっちへ飛び立った。そして心のなかで祈り続けた。
「どうか私が行くまでに二人共無事でいられるように…!」
***
「ゆうな。こちらの件もお願いするわ。」
「どれどれ。」
ゆうなの一日は短い。
「百花繚乱」の団長としての訓練や任務は欠かせないのは当然なものであらゆる事務作業、他の部や機関との連携のための打ち合わせ、生徒会や理事長への報告などなど生徒達の様様な活動を自ら先頭に立って一生懸命励んでいるゆうな。
「百花繚乱」のくせにいつも風紀を乱れている普段の行いからでは到底考えられないほどの勤勉な彼女は一応部員の皆から尊敬されている立派な団長であった。
「早く終わらせてみもりちゃんのおしっこ飲みたいな♥」
こういうところを除けば仕事の途中は大体真面目なゆうなだった。
「ゆうな…よくそんな顔でそういうもの言えるのね…」
そしてその団長としての自覚が全くなさそうな団長様を見ながら少し引いてしまう「百花繚乱」第3席のあい。
「ゆうなって一応神界を代表してアイドルもやっているんだからもう少し言葉遣いとか気にするのがいいんじゃない…?」
彼女は本当に自分の欲望に充実な団長様のことを心配していたのであった。
「本当に口さえ開かなければとんでもない美少女なのにな。」
「えへへ…そうかな…」
「別に褒めているわけではないんだけど…」
普段あいのことを結構怖がっているゆうなだが意外にあいとはこういう冗談もする仲だった。
「それにしてもあいちゃん、今日はなんかご機嫌だね。なんかいいことでもあったの?」
「ええ!?私!?」
「なんでそんなにびっくりするの?」
特に深い意味ではなかったが意外の反応を見せてしまうあいのことを少し怪しむゆうな。
既にあいとすみれの関係を知っている数少ない人物の一人だったゆうなはすぐそのことに関してなにかあったということを気づいてしまったのであった。
「あ、分かった!すみれちゃんと何かいいことあったんだね!」
「ちょ…ちょっと…!」
部室にはゆうなとあい以外は誰もいないとしてもさすがにこういうプライベートな問題をこんな大声で話すのはまずいと思ったあいは慌ててゆうなの口を塞いだ。
「あ、ごめん…」
「まったく…そんなに気をつけて欲しいって言ったのにな…」
謝るゆうな。だが誰にでも聞かれたのではなかったのですんなり許してくれるあいだった。
「でもあまりそういう顔、見せないから、あいって。」
「まあね。他の目もあるし。それに…」
ふと昨日のことを思い出してしまうあい。
すみれの「灰島」所有のホテルから二人きりの時間を過ごした後、あいは自分とすみれが付き合っていることを目の前で幼馴染の「百花繚乱」の副団長である「石川金剛」に見られてしまった。
二人の姿を直で目撃してしまったこんごうは
「…このことについては後で説明してもらう。」
っと言った後、すぐその場から離れてしまったが
「あの副団長のことだから…きっと一発で気づいてしまったんだろうね…」
ゆうなの言ったとおりに彼女には既に状況を見て取っているのであった。
すみれとのことで浮かれている気分もあったが同時にそれを見られてしまったこんごうのことも頭から離れられなかったあいはずっとこのことを気にしていた。
「でも私…やっぱりすみれちゃんのことが好きだから…こう浮かれている場合ではないってのはよく分かっているんだけどすみれちゃんに女として認められたというのが嬉しすぎて…」
神界側の頭領としての責任感からの良心に恥を感じている気持ちはあった。だがそれを全く顧みないほどすみれのことが好きだったあい。
「でもこんごうだって私にはすごく大事な友達だから。今までずっと一緒だったし…」
だからあいはそういう大事に関係を大切な友達にまで隠してきたのが本当に済まなかった。もっと早く自分の言葉でちゃんと話すべきだと後悔していた。
「でもあの子、私と違って魔界のことが大嫌いだから…なんと言っても魔界の人のせいで森を失って死に損なったと思い込んでいるからさ。」
今に至っては真実はもう突き止められない。森は全部燃えてしまって証拠になれるものは全て消えてしまった。「サイコメトリー」の能力者を呼んで森の残骸を読み取ろうとしたが
「世界政府はできるだけ誰もその森に近づかせたくないから。」
「神樹様」に牙を剥いた逆徒の種族である「ゴーレム」の森への許可は決して下りられなかった。
「それに今じゃ時間が経って過ぎてその残留思念っというのも薄くなってしまったし。」
「そうね。」
当時はもし魔界のせいで起きてしまった事件とういのが判明される場合、せっかくの平和協定が瓦解されてしまう恐れがあるのでそれを防ぐため世界政府から根回ししたという噂もあったがそれは神界旧世代の力の象徴である「黄金の塔」の方も同じ意見であった。
同じ「黄金の塔」とはいえ「ゴーレム」は一度「神樹様」に逆らった種族。「霊」のおかげでその名目は維持しているだが彼らは既に見捨てられた反逆者だった。
「だから「黄金の塔」の老いぼれ達は犠牲になるのはゴーレムだけで十分だと思ってその件をそれで片付けようとした。あの爺爺達はいつもそうなの。自分達の身の安全しか考えない。だから嫌なんだ、私は。」
反逆者をかばってくれる義理はない。そう思った「黄金の塔」はあいの「霊」の除いてほぼ満場一致で世界政府の意見に従うことにした。
「少しは手伝ってあげてもいいじゃないのよ…そのせいでこんごうはずっと一人で…」
震えるあい。だが今、一番許せなかったのは他でもない自分自身であった。
「…でも結局私もあの子を一人にさせてしまった。あの老いぼれ達と同じことをしてたの。すみれちゃんとのこと、一番で言うべきだったのは他でもないこんごうだったんだ。」
「あいちゃん…」
心底から後悔しているあい。だがあいは決断力のある子だった。
「だからちゃんと向き合おうとしている。こんごうに私達のことをちゃんと説明するつもりなの。私達のことを認めてもらうの。」
自分にとってこんごうはすみれほど大事な友達というのをよく知っていたあいはこれ以上あの子だけにはもう隠さないようにした。
誰とも言葉を交わさずずっと一人で部屋にこもって絵ばかり書いていたとてつもなく不器用で無愛想な子。だが誰より寂しくて侘びしかったその子をあいはほっておけなかった。住む家も、家族もなくたった一人でこの厳しい世界をくぐり抜けてきたあの子のことをあいは本当の意味で尊敬していた。
その子にもう少し近づきたくてあいはこんごうにまで本当に自分を見せなかった。もしあの子に甘えてしまったら二度と強くなれないと思ったから。
「でもそれは間違っていたの。本当の友達ならきっと受け止めてくれるはずだから。私はただ怖くて逃げ続けていただけ。だから私は明日、ちゃんとこんごうに話すの。これが本当の私って、この人が私の大好きな人って。」
「あいちゃん…」
真っ直ぐで強い信念が宿っている目。この子は自分とは比べられないほど強いんだな、っとゆうなはついそう思ってしまった。
「ゆうなにもちゃんと話すべきだった。そんな形ではなくて。ごめんね、ゆうな。」
「いいよ、別に。私だって時々魔界の子達のパンツとか盗んじゃうし。」
「そうか…ってえええ!?」
もちろんゆうなはこういう時でも通常運転であった。
「とにかく明日、こんごうに全部話すつもりなの。ゆうなはいつもどおりでいいから。」
「うん、分かった。でも何かお手伝いできることがあれば何でも言ってね。団長ではなくただ友達としてあいちゃんを応援したいから。」
「ゆうな…」
珍しくいいことを言うゆうなの話にふと感動までされてしまうあい。やはり団長っという名前は伊達ではなかったと思ったあいは
「ありがとう、ゆうな。」
友達としての気持ちをいっぱい込めて彼女にお礼を言った。
「でもパンツとか絶対あげないけどね。」
「ええ…?あいちゃん、それ言っちゃうの…?」
「じゃあ、用済みのティッシュとかもいいから…」っと切なくお願いするゆうなを見ながら呆れて笑ってしまうあい。
だがその時のあいはまだ知らなかった。後数日後、現実からこの夢のことが起きた次の日、あいの大切な彼女と友達がお互いの全学校生活を賭けたタイマン勝負をすることを。




