第149話
いつもありがとうございます!
「…ううん…」
やっと目が覚めたようななな。朝からずっと自分が寝ていたところが保健室というのを気づいたななは
「また眠ってしまったようですわね…」
ベッドから下りて外を見回した。
「誰もいないようですわね…」
朝が極端に苦手だったななはこうやって保健室で休むことがたまにはあったがかなと仲直りした後はその回数が著しく減ったので今日はまた珍しいなっと思われるくらいだった。
「…確か会議の後、会長と別れた途端急に体調が悪くなって…」
まだ眠そうな目を擦って記憶を振り返ってみるなな。
急に体の調子が悪くなって自分の足で保健室に行こうとしたのは確かに覚えていた。だがまもなく息も荒れてもう一歩も運べなくなってある建物の影に少し休むことにしたななはそこで偶然通りすがりであった「Scum」の副部長「結日優気」と並んでいたかなと鉢合わせた。
それからかなとゆうきが一緒にななを保健室まで運んでくれたというのがななが覚えている全てであった。
「あの人が運んでくれたんでしょうか…」
徹底的な暗幕の個室。うちから鍵もちゃんと掛けていたところを見ると多分誰かが間違えてそこに入らないようにかなから気を使ってくれたというのをすぐ分かることができたが目が覚めた時、傍から
「おはよう、なな。」
っと挨拶くれるかながいないのがちょっとした名残だったななであった。
「あ、起きたんだ、なな。おはようー」
「あなた!?」
もちろんそれもとっくに遠い昔のことに過ぎなかった。
「まさか朝からずっと付きっきりで見守ってくれたんですの!?」
いきなり廊下の向こうから現れたかなのことに驚いたななはまだ昼食もできずにずっと眠っていたななのためにコンビニに行ってきたかなにそう聞いたがそれが何か問題でもあるの?っと答える彼女にそれ以上何も言わなかった。正確に言うとずっと傍にいてくれた彼女の気遣いにどうしようもなく恥ずかしい気分になってそれ以上何も言えない状態になってしまったということであった。
「お腹空いただろう?パン、買ってきたから一緒に食べよう。」
っと言ってななの大好物であるカレーパンを見せるかな。その姿がなんだか懐かしく感じられたななは柄でもなく地味に感動してしまった。
そしてその後を追っかける自分への嫌悪感に思わずかなから目を逸らしてしまった。
「…まだ覚えてくれたんですわね…」
数日前まではあんなにひどい振る舞いを見せつけていた自分のことをずっと覚えてくれていたかなの優しさにななの胸は片隅から痛くしびれてきた。
自分勝手にかなから捨てられたと決めつけて自分のことをずっと好きにしてくれていた彼女にそんな風に傷ついてしまった自分のことが未だに許せなかったなな。ななはそういう自分のことを心底から嫌悪していた。
そしてこの世で最もななのことを理解していたかなはそういうななを見て何も言わずに固まっていたななの手を握って中の休憩室の方へ引っ張ってくれた。
「そんなに気にしなくてもいいから。ちょっと遠回りしたけどこうやってななは戻ってくれたし。だからそんな顔はもうお終いにしようね?」
誰もいない休憩室で適当に席を取るかな。できるだけななを日光の方に近づけたくなかったかなは全窓にカーテンを引いて内側のテーブルで食事をすることにした。
「前のことはもういいよ。ともあれななが戻ってくれたからそれで十分だよ。私はまたななが私の傍にいてくれるようになったことのがすごく嬉しい。」
「あなた…」
ななの前に買ってきたカレーパンと飲み物を差し出すかな。
「…わたくしも嬉しいですわ…」
「そう?良かった。」
そしてそのパンを嬉しそうな顔で持ち上げたななはこれ以上かなから気にするようなことは言わなかった。あえて言葉にしなくてもかなの真っ青な目は全てを語ってくれていたから。
「先はごめんなさいですわ…その…」
なぜか謝るなな。多分みもりとのことをまだ気にしているだろうっと思ったななはいつものような爽やかな笑みでななを慰めた。
「それは仕方がなかったから。いやー本当すごかったよね、モリモリって。私、男根とか初めて見たよーあ、でも女の子についていたから女根ってとこかな。」
「ちょ…!そういう単語、お止めなさい!誰か聞いたらどうするつもりですの!?っというかこれっぽっちも面白くありませんわ!?」
慌ててそんな可愛い顔をしてそういう単語を口にするかなを止めようとするなな。かなは意外にそういうことにためらいがないタイプであった。
「あはっ。やっと笑ったね、なな。」
いつの間にか自分と一緒に笑い合っているななを見て大声で笑ってしまうかな。落ち込んでいた自分を笑わせるために気を使ってくれた彼女の心遣いが限りなくありがたかったななはその返事として
「全く…あなたっという人って…」
照れくさく笑ってみせた。
「とりあえずちょっと遅かったけどお昼ご飯でも食べようか。なな、具合はどう?気分悪かったりしない?」
「あなたが見守ってくれたおかげで全然平気ですわ。しかしわたくしのせいで授業を抜けにしてしまって申し訳ありませんわね。」
かなから差し出したパンを一口ながらまた謝るなな。だがかなはそういうことを全く気にしなかった。
「いいよ、別に。先生にもちゃんと許可取ったし。それに私、ちょっとあれじゃん?アホとか。」
何気なく自分のことをアホっと話しているかな。文化芸術系とはいえ成績的には進学校の第1女子校の次だった第3女子校にギリギリな成績で合格したのも全部ななのおかげだったかなは医者の家系の子にしては結構勉強が苦手な子だった。
だがそんなことよりななは何より自ら自分のことをアホっと呼ぶかなの口癖に機嫌が悪くなった。
「前からずっと思ったんですがあなたには時々自分の価値を下げるような発言を自分から言う悪癖があるんですわね。」
「そ…そうかな。でも本当のことだし私自身はあまり気にしないけど…」
目を剥いて自分の言い方について食らいつくななに少し戸惑ってしまうかな。だがそういう怯えているかなにも関わらずななは彼女への説教を続けた。
「あなたはこのわたくしが初めて認めた人。誰に衰えることもないすごい人なんですの。だから二度と自分の価値を下げるような言葉は言わないでくださいませ?将来赤城家の人になるものなら自分を信じなければなりませんわ。」
「なな、お母さんみたい…でもありがとうございます…」
何かちょっと気になることも聞こえたような気がしたがななから話しているのは全て自分のためというのを誰より分かっていたかなはそう言ってくれるななに感謝の気持ちを表した。
「大体あなたはいつも他人のことを応援してくれる側の人なのにそのような頼りのない姿勢はチア部の部長としてどうかと思わせますの。あなたの部長としての自覚や目標などをもう一度見直さなければ…」
無論そんなことでななの説教は止められなかった。
「それにしてもお義母様も、お義父様も随分伺わなかったんですわね。お二人共お元気ですの?」
「うちの母さんと父さん?もちろん元気だよ?病院もうまく行ってるし。…っていうか何かちょっと気になるな、漢字…」
「?」
ちなみにななは毎年かなの両親の病院にななの母親から経営している会社の名前であらゆるお土産を贈られているのであった。
「そういえば最近色々あって電話もしなかったな。久しぶりだしななの声も聞かせちゃおうかな。」
「と…唐突ですわね…仲直りしたこと、ちゃんとお伝えしたんですわよね?」
「もちろん。」
「なら喜んでお話させていただきますわ。」
いきなり決まった両親との通話だったがかなの両親とも仲が良かったななにも久しぶりに二人の声が聞きたいっという気持ちがあったのでななはかなからの提案を喜んで受け入れた。
「やはりアピールが大事ですわ。」
「なな…?」
もちろん別の目的も密かに存在した。
「それにしても説明会が終わったらななはツアーに行っちゃうんだね。私も皆と行くから。」
「本当ですの!?期待に答えられるように精一杯歌いますからぜひお越しくださいませ!あ…でも…」
かなからの見に行ってあげるっという約束にも関わらずなぜか急に暗い顔になってしまうなな。なにか悩みでもあったような浮かない表情のななはかなからのその言葉を純粋に喜べなかった。
「どうかしたの?なな。」
「い…いいえ…ただ…」
簡単にその理由について語れないなな。実はななには今回の全国ツアーに関していくつの悩みが存在した。その一つとしてが
「実はわたくし…「Fantasia」の中で一番人気とかいないのでそれがあなたに恥をかかせてしまったらどうしようっと思って…」
であった。
先の自信満々だった姿はもはや見られないほどめげてしまうなな。みもりに関しては限りなく弱くなるゆりと同じくななは自分のことなら周りのことをあまり気にせずに押し通したがかなのことが関わると明らかにいじけるタイプであった。
「わたくし…あまりファンサービスとかそういう方面に気が利く性格ではありませんですし…それに…」
固唾を呑み込むなな。ななは今、「Fantasia」の「真紅のシンデレラ」、「赤城奈々」の一大の秘密を解き明かそうとしていた。
「会長には既にお見通しされたと思いますが実はわたくし…「Fantasia」に入ったのは全部わたくしのエゴでしたの…あなたを見返させるための…」
「私を…?」
なんとか状況が見えてきたかな。多分中学校の時に一緒にアイドルをやろうっとした自分の言葉が原因だっただろう、かなはそう思っていたのであった。
「だってあなたから先にお誘いしたのにいなくなりましたから…だから振り向かせたかったんですわ…わたくしとアイドルをやらなかったことを後悔するのがいいですわっと…まったく…どこまで利己的なのか…」
ななはずっと自分がセシリアやルルと違ってファンの人から応援をもらえないのは当然なことだと思っていた。生まれつきからアイドルであったセシリアはもちろんあのルルさえ何か企みはありそうだが純粋にアイドルっという仕事を本気で楽しんでいた。
「でもわたくしは違いますわ…わたくしはたった一人、あなたのことを思ってアイドルを始めたんですの…そういう清らかない意図でこの業界に足を踏み入れたわたくしのことを心底から応援してくれるファンなんて存在するはずがありませんですもの…」
仲直りした時からかなはずっとななと一緒だった。お昼休みの時も、部活の時も一日中できるだけずっとななに付きっぱなしであった。「吸血鬼」という種族の都合で外から通学しているななだったが毎晩寝るまでにメールをしたり電話で喋り合った。無くしてしまった二人だけの時間を取り戻すためにかなはななにずっと付きまとっていた。
だがななは今まで一度も自分がアイドルになった理由について話してくれなかった。同じくかなも本人から言わないのをあえて聞いたりはしなかった。
そうだったななが今、自分の目の前で初めて自分のアイドルとしての理由を話していた。多少、いや、かなり衝撃的な事実だったが一方最後まで信じてくれなかった自分のことをそこまで思い描いてくれたななのことが限りなくいじらしくて愛らしく感じられた。
その同時にこのことの全貌を知りながら何も言わずにななの「Fantasia」の参加を許したセシリアの大きいたまに感心してしまうかなであった。
だからかなはななを手伝ってあげたかった。もしなながアイドルとしての理由を見つけられなくて迷っているのなら一緒にその理由を見つけてあげよう。ただ遠いところで応援するだけではなく同じ場所で共に歩きながらこれから成長してゆくななのことを自分の目で確かめたい。
そう思ったかなはななの手をぎゅっと握って静かに自分の気持について語り始めた。
「じゃあ、今度はちゃんと見せちゃおうよ!新しく生まれ変わったアイドルとしての「赤城奈々」を!今度は私だけじゃなく皆のために、そしてなな自身のために歌おうよ!」
「自分のため…」
温かく包んでくるお日様みたいな手。そしてしばらくの間は絶対洗わないと決意するななであった。
「ちょっとファンの数が少なくてもいいじゃん!私のななは世界一番の可愛子ちゃんだからこれから皆を虜にさせちゃえばいい!それにななのことを応援してくれる人もいるはずよ!だってなな、歌う時すごくきれいだから!モリモリもななのこと、大好きって言ったし!」
「あの人が…」
少し照れてしまうなな。こんな風に誰かが応援してくれるっというのを直接聞いたことがほとんどなかったななにとっては最大級の褒め言葉っといっとも過言ではなかった。
「私が千人分、いや!百億人分応援するから!私が歌で皆に夢と勇気を与える真のアイドル「赤城奈々」を全力で応援するから!」
っと言ってさっとななを引き付けて抱きしめるかな。そしてまたしばらくの間は絶対シャワーもしないっともっと強く心を奮い立たせるななであった。
「私、約束するよ。あの時、守れなかった約束、絶対果たして見せる。絶対ななにふさわしい立派なアイドルになって見せるから。その時が来たらステージの上で皆と一緒に歌おう?だから一緒に頑張ろうよ、なな!」
触れ合った体から伝われてくる鼓動。その熱い気持ちに一点の偽りも存在しないっということを実感したななはただ
「…はい。」
っと小さく囁いた。
「…もう取り戻せない時間っと言ってもいい…その分、わたくしはこの人と共にもっと強くなりますわ。そして世界中の皆に見せてあげますの。これが生まれ変わった「赤城奈々」だって…会長にも負けない最強のアイドル「赤城奈々」だって…
そしてわたくしは絶対叶えてみせますわ。あなたと約束したその日の夢を必ずわたくしの手で掴んでみせますの。」
少し力を入れてかなを抱く付くなな。
「だから一緒に頑張りましょう、かな。」
そい思ったななは初めてできた「アイドルとしての理由」を胸の底に大切にしまっておいた。
皆に夢を与えるアイドル、そして自分の意思で歌う真のアイドルへの道を選んだなな。やっとスタートラインに立てたような初心者の気持ちを大切にしながらななはこう思った。
「…家に戻ったら絶対婚姻届から書きますわ…」




