第143話
いつもありがとうございます!
「はい、赤座さん。温かいミルクですよ。」
「あ…ありがとうございます…いただきます…」
みらいから差し出した温めたミルクを気まずい表情で一口飲み込む彼女の名前は「赤座小鳥」。
世間には天才女優として知られている彼女は神界最凶悪犯罪組織「赤座組」の現ボス「赤座蛍」の双子の妹であり「魔法の一族」、通称「魔法少女」呼ばれる種族であった。
幅広い演技力、そして豊かな感性。明るくて自信満々のキャラで愛されてきた彼女はついに魔界の伝説の歌姫「青葉海」と肩を並べるトップスターとして頂点に立ち上がった。
だが昨年の第3女子校集団いじめ事件の主導者という事実が解き明かされたことによって彼女の威信は文字通り地に落ち、その事件に関わっている全員は神界側のトップ「霊」の「速水愛」によって全員揃って退学、彼女の要請によって他校への転学すらできなくなってしまった。
幸いことりの場合は双子の姉である蛍の息のおかげで進学校である第1女子校への転学で済んだが彼女はあいによって今後、「赤座小鳥」の第3女子校への接近、及び生徒への接近を一切禁止されたので誰もその以来、彼女のことを見ることも、彼女から見るために来ることもできなくなった。
何よりあいは
「神界の恥であるお前が私の目の前に現れたらその場で足を砕いてやる。」
っと決して自分の目前に現れないようにすることを言いつけた。
「温かい…」
少し落ち着いたようなことり。去年と全く変わらない姿の彼女を見てうみのことによる怒りより思わずの懐かしさまで感じてしまったみらいであった。
赤いっというよりみらいと同じく桃色に近い髪色をしていた八重歯の女の子。初めて見た時はうみとお揃いで結んだツインテールだったがうみとの仲が軋み始めた頃に彼女は振り向かずに髪を切ってしまった。
今は結構伸びてあいくらいの肩丈の髪形になった彼女はテレビの中で人々を潤させていたその頃と同じく相変わらず愛しくて可愛い姿のままであった。
「どうして赤座さんがここに…」
不安な口調で自分の家を訪ねた理由を聞くみらい。
あいから命令を逆らって自分に会いに来たのが一体どれほど無茶なことなのか、そしてもしこれがバレたらあいからどう動くのかをよく知っていたみらいだったが一方どうして彼女がそういう危険を冒してまであえて自分を合うためにここまで来たのか、ただそれが純粋に分かりたいという気持ちも存在した。
「すみません…こんな時間にいきなり来てしまって…」
謝ることり。自分が考えても迷惑極まりない突然な訪問というのには間違いはない。だが彼女にはこういう時間でなければならない理由があった。
「でもこういう時間じゃなきゃこの辺りに来ることさえできないですから…人の目がある昼はなおさら…」
「ま…まあ、確かにここも「百花繚乱」さんや「Scum」さんからパトロールしますから…特に「百花繚乱」の側に見つかったら直行で速水さんに報告されるでしょう…」
普段人の気分などはどうでもいいっと全く気にしないように振る舞っていることりでもあいからの命令は絶対的だった。だからみらいはそれを破ってしまったことりのことが心配だった。
「先輩がこのマンションに入る姿を偶然見かけたんです…勝手に家を尋ね当てて申し訳ありません…でも今のことりに会える人って先輩しかありませんから…」
怖気づいている声。さすがに彼女にも今の状況がまずいというのくらいは分かることはできていた。
だが彼女にはその危険を冒してまでみらいを合わなければならない理由が存在し、その理由について彼女は静かに語り始めた。
「ことりは…謝りたいです…うみっこにごめんなさいって…」
彼女はただ償いたかった。
「そう…だったんですね。」
一緒に一口飲み込むみらい。彼女はなぜか今のことりの言葉に少しほっとしたそうな顔をしてしまった。
「安心しました。赤座さんがまだうみちゃんのことを好きにしてくれていて…」
そう言ってことりの小さな手をそっと包んでくれるみらい。その温もりに少し驚いてしまったことりだったが彼女は何も言わずにじっとしていた。
「だから勇気を出してここまで訪ねたんですね。大好きなうみちゃんに謝るために。どうしてそういう気持ちになったのか、そんなことわざわざ言う必要もないでしょ。多分ずっとそうしたかったはずです、赤座さんは。」
「…はい…」
みらいはことりに対して憎みの気持ちを抱いていたわけではなかった。みらいはただなぜ彼女から大好きだったうみにそうするしかなかったのか、そしてそのことで二人が二度と噛み合わなくなってしまったらどうすればいいのか、純粋に二人のことを一生懸命心配していただけだった。
みらいにとってあの優しかったうみを歪ませてしまった原因であったことりさえ皆と同じく可愛い後輩の一人に過ぎなかった。
「分かりました。赤座さんさえ本気というのなら私も精一杯お手伝いします。いいえ、お手伝いさせてください。」
「せ…先輩…」
みらいにセシリアみたいな人の考えを読める能力はない。だが彼女は人の目を見ると相手の真心を分かる奇妙な感覚があった。それがただの都合のいい適当な取り繕いなのか、それともみらいの中に本人も知らず潜んでいる本能なのかは自分自身にも分からなかったがせめて今のみらいの目にはことりの本気が手に届くように見えていた。
かつての自分の過ちを反省し、最初からやり直したいという真剣な気持ち。もう取り返しがつかない戻れない道だろうと自ら全ての非難と責めを背負って歩き出そうっと決めた本気。
その真剣で切な願いを彼女の瞬いていた瞳の中から覗くことができたみらいはそれ以上何も言わずに彼女への協力を約束した。
「ありがとうございます、先輩…」
「いえいえ。もういいですから。」
みらいからの言葉が涙の窓を震わせたようについに涙を見せてしまうことり。彼女から流れていたのは演技の涙ではない心底から湧いてしまった感謝と後悔の塊であった。
「ことり…全部聞いたんです…今の学校がどうなったのか、うみっこがどうなったのか…全部ことりのせいです…」
自分のせいで神界の皆から背を向けて彼らの宿敵になってしまったうみのことを思いながら後悔に体を震わせることり。それを聞いた時、ことりは今まで一度も感じたこともない大きな罪悪感にひしがれてしまった。
「皆にも悪いことしちゃいました…ことりのせいで学校がバラバラになってしまって…でもことりはただうみっこのことを昔のうみっこに戻したかっただけだったなのに…」
「赤座さん…」
一体あの子達の間で何があったのかは今のみらいには知る道もなかった。そのことについてはうみやことりはおろか一番の親友だと思っているセシリアさえ話してくれなかった。だからいつもその中でうろうろしただけであまり良くない選択を取ってしまった。
彼女は自分のそういうあまい選択のせいで結局うみも自分の傍から離れてしまったっと後悔し、何もできなかった無力の自分に大きな失望感を抱いていたのであった。
「あの人の言う通りに従えば全部うまく行くっと思ったのに…」
だが今のみらいはもしかすると今まで誰も知らなかった大きな真実に触れてしまったかも知れない。一方その事実を分かったのはもう少し先のことであった。
***
「久しぶりのみもりちゃんとの授業なんですね。とても楽しみです。」
「私も初めてだからなんだかちょっとドキドキしてきました。」
「二人共大げさだよ。」
楽しそうですね、ゆりちゃんも、クリスちゃんも。そんなに嬉しいんでしょうか。
「そうですね。何せよ緑山さんの場合は一週間ぶりのみもりちゃんとの授業なんですから。」
「そういう黒木さんだって初めてのみもりちゃんとの授業ですから心ゆくまで楽しんでくださいね?」
「もちろんです。」
完全に意気投合している…普通の歴史授業なんだからそんなに張り切る必要はあるんでしょうか…
「じゃあ、授業始めようか?まずは前回の授業のお浚いからちゃちゃっとするね?」
授業の始まりを知らせるチャイムと共に教壇に立つ石川先生。
結局私達に石川さんのことについては何も言わなかったんですが先生のおかげで火村さんがなんとか元気を出せることになりました。今はそれだけで十分だとゆりちゃんとクリスちゃんも言いましたからこの問題については先延ばしにすることにしましょう。
「すみません、みもりちゃん。私、今日教科書持ってなかったので見せてもらってもいいでしょうか。」
「ん?うん、いいよ。」
「ありがとうございます。」
珍しく教科書を置いてきたそうなゆりちゃん。普段こういうことはあまりないのに…やっぱり昨日は結構疲れていたようですね。まあ、外の世界では今こうしている間にもぐっすりしているようですが…
「じゃあ、お邪魔しますね。」
っと言って隣に寄り付くゆりちゃん。ほんのりした百合の香りになんだか鼻がくすぐったい気分ですね。いつもいい香りがするよ、ゆりちゃん。っていうか近すぎ!
「たまにはいいじゃないですかー」
「ゆりちゃんったら甘えん坊さんだな。」
でもまあ…別に悪いことでもないしいいってしましょうか。
「すみません、みもりちゃん。実は私も教科書を忘れてしまったんですが一緒に見てもよろしいでしょうか。」
「クリスちゃんも?」
続いて一緒に見てもいいですかって聞いてくるクリスちゃん。二人共、今日は本当におっちょこちょいなんですね。まるで二人で何らかの約束でもしたそうにほぼ同時に…
まあ、そういう時もあるんですよね。私だってたまに体操服とか忘れちゃってゆりちゃんからの余分を借りたりしますから。
でもおかしいんですよね。体育がある日はその前日の夜にちゃんと用意してから寝るのにいつも朝になると体操服が消えちゃって後で全く違うところから出るだなんて。結局ゆりちゃんから借りられたから良かったんですがこれじゃまるでゆりちゃんが自分の体操服を私に貸すために私のものを隠している感じじゃないですか。さすがにそれはないですよね?
「うふふっ…♥どうでしょう…♥」
なんでだよ!?
「失礼しますね、みもりちゃん。」
「あ、うん。」
同じく私の方へきっしりくっつくクリスちゃん。クリスちゃんにはいつもポカポカなお日様の匂いがします。晴れた日に干した布団から匂ってくる心地よい匂いになんだか心までポカポカ。
でも…
「よいしょうっと。」
今日はなんだかほんのり甘みもある艶めかしい匂いもして変な気分ですよね…そういえばクリスちゃん、まだ夢の中だから今も本気出しているのかな…
それにこんなにくっついているとさすがに気になりますよね、このでかいおっぱい…一体何をどうすればこんなにでかくなれるんでしょうか…生徒会長さんとほぼ同じくらいの大きさかな、これ…
「あら?そんなに気になるんでしょうか、私のおっぱい♥」
「えええ!?」
いきなり服をひらひら靡かせるお仕事モードのクリスちゃん!なんで!?っていうかまさかクリスちゃん、中に何も履いてないの!?
「一目で見てもあれはそういう仕事着のではありませんか♥下着とか到底持ち来られませんよ♥ちなみにこっちも何も履いていません♥チラチラ♥」
「ちょ…ちょっと…!」
別にスカートの中まで確認させなくてもいいからとりあえずそのひらひらするのやめろ!!
「あら。黒木さんったら随分大胆ことを。じゃあ、私も…」
脱ぐな!!
ど…どうしよう…!なんだかめっちゃ嫌な予感がしてきました…!どれほどめっちゃくちゃなことが起こるのか見当も付きません…!
うっかりこの二人をこんなに近くまで近づけさせちゃったかも…!ゆりちゃんとクリスちゃんの間に挟まれている今の状況はかなりまずいです…!
「楽しみですね…♥みもりちゃんとの授業…♥」
「頑張って一緒にお勉強しましょうね、みもりちゃん…♥」
しかも二人揃って目も完全に本気モードだし!!
それからが始まりでした。私の嵐のような午前の授業は…




