第140話
いよいよ明日ですね。N1の合格発表。どうか受かったら良いのですが…
いつもありがとうございます!
「んーもうこんな時間ですね。」
椅子から長く伸びをするみらい。彼女は今、説明会から使う予定の曲や振り付けの構成を再度確認しているところであった。
窓から見える静寂の街。夜空に浮かんだあまねく星達は夜はもうこんなに深くなったというのを知らしているように輝く瞬いていた。
「今日はこの辺でお開きにしましょうか。」
既に日付が変わったというのを気づいたみらいはまだ済ませなかった今日のことに対する名残惜しい気持ちをかろうじて宥めて後、寝る前に温かい牛乳でも飲むつもりでやっと部屋から出られた。
放課後の練習で体は疲れまみれになってまるで水をたっぷり吸い込んだ濡れた服のように重かったが自分が書いた曲で同好会の皆が歌って踊ることを想像すればその疲れももはやなんとことでもなかったみらい。彼女はこのような充実な毎日に感謝の気持ちを感じているのであった。
「今年の始まったばかりは私とかなちゃんだけだったのにいつの間にかこんなにたくさんいい後輩ちゃん達ができちゃって…」
レンジに温めた牛乳を持って外を眺めるみらい。今年の春、偶然部室で出会ったことができたある黒髪の女の子のおかげで今年の同好会は去年とは同じだがまるで別の部のように大きい変化を迎えた。みらいはその事実にもう一度改めて驚いてしまった。
自分のことを「虹森三森」っと紹介したその子は少し自分に自身を持てない子だったが誰にでも負けないくらいとても愛らしくて可愛かった。まるで子供の頃、誕生日にもらった職人の日本人形のように黒髪がとても似合っていたその子は自分と同じくアイドルが大好きだったので初めて合った時はその子から運命みたいな感覚まで感じられたみらい。
自分をあの極端人間主義者である「大家」の子だったというのを告白したその子はそのことのせいでいくつのトラウマを抱き、苦しんでいたがなんとか勇気を出してちゃんと前を見て進められるようになった。
今はもう同好会にとって欠かせない存在になったその子はもはや自分のもう一つの大切なお頼りだった。
「みもりちゃんが入ってくれた後、色んなことがあったんですよね。」
そして今までのことをまた思い返してみるみらい。セシリアのおかげでそれまでなんとか同好会のことを続けられたが部員不足も含めて部の最低条件にも及べなかった同好会は存続すら怪しかったがその頃に入ってくれたみもりのおかげで彼女は今もこうやって説明会の準備を続けられた。
「みもりちゃんと皆のおかげで私、アイドル続けられました。」
そう言ったみらいは今の自分のことを支えてくれた多い仲間達に心底から感謝の気持ちを申し上げた。
「私、頑張りますね。うみちゃん。」
っと改めて覚悟を引き締めるみらい。今はもう普通な先輩と後輩の仲になってしまったがみらいにとってうみは相変わらずこの時代で出会った宝物の一人。だからみらいは失ってしまったその頃のうみとの時間を取り戻したかった。
「何があろうとも私は決して諦めません…」
っと強い願いを込めてぐっと拳を握ってみるみらい。彼女はこれ以上もう迷わなかった。
ーピンポーン
その時、真夜中の静寂を打ち叩くベルの音。その突然な来客に少し肩までびっくとしたみらいは
「だ…誰…?もうこんな時間ですよ…?」
っと元のおどおどするしょぼいみらいに戻ってしまった。
モニターを見るために足を運びながらみらいは思った。こういう遅い時間に訪ねてくるのは二つ。よほど急用があるあまり嬉しくない客、それとも
「不審者かも…」
っと。
生徒の中でみらいのように一人暮らしをやっている生徒はそれほど多いのではなかった。他人との生活の中で思わずのトラブル、例えば寝ている間、誰かがうっかりしてカーテンを開いたりすることで命を落としてしまうかも知れない危険な状況のを常に恐れているななの「吸血鬼」や規格外の体の大きさを持っているせいで部屋に入れない「巨人」、「オーガ」、他人との生活に支障を与えられる習性がある「人鳥」や特殊な環境ではないと日常生活を営めない「人水」などはほとんどみらいのように一人暮らしを行っていた。
みらいの場合は特殊ケースとして認められたのでセシリアの好意で生活に必要なものを支援されているのであった。
だがもう午前2時になっているところに突然訪ねてきたこの怪しい客のことをみらいは純粋に迎えられなかった。何せよドアの穴から覗いた外には
「な…何ですか…!あれは…!」
黒いフードを目も見えないほど深く被っている怪しい人が立っていたから。
「ほ…本当に何ですか…!?」
かろうじて口を塞いて声を抑えているみらい。
「な…なんであんな人が私の家の前に…!セキュリティーは作動してないんですか…!」
だが恐ろしくて物騒な向こうの相手に対してはどうすればいいのかどうしても判断がつかなかった。
そんなに高い背ではなかったがフードを掛けていたせいで感じられる不穏な雰囲気。一目で見ても健全な目的でやってきたのではないのを実感したみらいは
「け…警察を呼ばなければ…!」
っと慌てていたやがて外から聞こえる
「先輩…」
っと自分のことを呼ぶある女の子の声に警察を呼ぶところだって手を一旦止めざるを得なかった。
「みらい先輩…」
再びドアの向こうから自分のことを呼ぶフードの人。今度は名前まではっきり呼んだのでみらいは確実に自分に用があってここを訪ねたのを気づいた。その以前、みらいは自分のことをうるうるしながら呼び続けているその声を覚えていた。
今も忘れずにはっきり覚えている幼い声。それはまるで小鳥達のさえずりのように愛しくていじらしい。その同時に自分とうみの間に、そして第3女子校に大きな波乱を呼び寄せてしまった嵐の笛。昔のテレビにもよく流れてきた彼女の声は今はもうどこでも聞けなくなったがその声の持ち主は何の兆しもなく突然みらいの家の前で現れた。
「赤座…さん…?」
信じられないっという顔をしてドアを開けてやっと彼女のことを自分の目で確かめるみらい。そしてそういうみらいのことを以前と比べないほど弱い目で見上げる小さな女の子。
「先…輩…」
彼女こそ屈指の芸術文化系名門、第3女子校を真二つに別れさせてしまったきっかけであった「赤座組」の次女、かつてうみと共に天才女優と呼ばれていた「魔法の一族」、通称「魔法少女」「赤座小鳥」であった。
***
「だから火村さんはこの学校に入学したということですね。」
「はい。」
すごい…すごすぎますよ、火村さん…
クリスちゃんの紹介で再会できた去年の石川さんの展覧会で合った女の子。燃え盛る炎色の長い髪、そして焦げた炭のように薄く灰の色が敷かれている乾いている真っ黒な肌。何より今の私達に見せている優しくてちょっぴり切ない笑み。
名前は「火村祭」。美術専攻で隣の担任「火村紅丸」先生の娘さんである間違いなく去年のあの炎人の子です!
「その時は本当にお世話になりました。虹森さん、緑山さん。」
「いえいえ。大したことではありませんでしたから。」
本人もその時のことをはっきり覚えていたように礼を言っているんですが世間って本当に狭いものですね!まさかあの時、私達がデパートの屋上遊園地で慰めてくれた子が同じ学校に、しかも隣のクラスにいたなんて全く思えなかったんです!
「時々クリスちゃんから話は聞いたけどまさか火村さんが去年の子だったなんて、信じられないよ!」
それにすぐお隣さんだったのに一度も合ったことがなかったのも信じがたいです!
「私もです。黒木さんから何度もお二人さんの話を聞いていましたがまさかあの時の二人さんだったなんて…結局お名前も聞けなかったからどうお礼すれば良いのか困っていましたがこんなところでお会いできるとは!」
どうしてもお礼がしたいって言っている火村さん。それはとてもありがたいですが別にお礼とかまではしなくても…
でもそうですね…どうしてもお礼がしたいのなら個人的にはその…ゴニョゴニョ…
「もしよろしければうちのみもりちゃんとお友達になってくださいませんか。もちろん私も。」
「ゆりちゃん!?」
まるで私の考えていることでも読み取ったようにいきなり火村さんにお友達になろうっと言っちゃうゆりちゃん!エスパー!?
「だってみもりちゃん、せっかく再会したから火村さんと仲良くなりたいっと思っているのではありませんか。このゆりはあなたのことなら何でも知っていますよ?」
「そ…そりゃそうだけど…」
でにいくらなんでもいきなり過ぎっていうか…!知り合ったばかりだし火村さんだって困っちゃうかも…!
「いえいえ。私でよろしければ喜んでそうさせてください。」
「ほ…本当…?」
合ったばかりなのにそうしてくれてもいいの…?
「もちろんです。私、あの時、お二人さんのおかげでなんとか立ち直りましたから。」
立ち直るって…何か諦めたくなった時とかあったとか…?
っと控えて聞く私に相変わらず優しい笑みを向かっている火村さん。彼女はその頃の気持ちを私達に淡々と語ってくれました。
「実はその頃の私、もう描くの辞めようか思っていました。子供の頃から絵を描くのがそんなに楽しかったのにいつから詰まっていた感じだったから疲れてしまって…もういいんじゃないかなっと思って両親にも相談して別の道を歩こうっとしました。そんな時、私は見てしまったんです。あの人の絵を…」
自分にとって決して忘れない大切な思い出を見返している火村さん。その表情には仄かな愛情まで宿っている感じでした。
「なんと美しい絵なんだろう…初めてそれを見て瞬間、私、ちょっと恥ずかしいですが涙まで出ちゃったいました。どれも全部心が揺さぶるほど美しくて感動的、その同時に痛いほど悲しい…風景の絵も、人々の笑顔を収めたものさえあんなに悲しくとは…あの人、「石川金剛」っという人はその時、私の廃れていた絵への情熱をもう一度蘇らせてくれました。」
「火村さん…」
なんとなく分かる気がします、その気持ち…私もクリスちゃんの応援がなかったなら多分ロコドルの活動もそれ以上続けられなかったんでしょ…誰かにはなんとことでもないありきたりなことかも知れないけどそれは案外誰かの人生を変えられるかも知れない、その頃から私はそう思っていました。
「だから石川さんと合うことができたその日は嬉しくて心臓が止まっちゃうかとしました。ずっと憧れていた人でしたから。いつもテレビや雑誌で見てきた人が目の前でいるとは…どうしても信じかねることでしたね。」
「私もみもりちゃんのことを初めて見た時はそんな気分でしたからよく分かりますね。」
っと「神社」で初めて合った時のことを思い出すクリスちゃん。そ…そう?何か照れちゃうよ…ありがとう…
「素敵な人…少し冷たく見えますけどそんなに美しくてきれいな人、初めてでした。私なんかとは違って真っ白でキラキラで…眩しすぎてまともに目も当てられませんでしたね。
黒木さんと虹森さん、緑山さんみたいにお友達になったら本当に嬉しかったはずですが残念ながらあの人は私なんかとは格が違いましたから…まして石川さんにはあんな事件もあったし私みたいな魔界の子のことは当然嫌でしょ。」
火村さん…そんなに石川さんのことが好きだったんだ…私にとってあの人はただファンの火村さんのことを傷つくひどくて怖い人に過ぎなかったのに…
「もちろんそのことは今もとてもショックです。あまり親しい人ではないのは承知していましたがまさかあんなことまで言われるとは思ってもなかったんですもの。正直その時は何もかも全部嫌になって「絵なんてあの時に諦めて置いた方が良かった」っと思ってたくらいです。でも…」
急に話を止めて私とゆりちゃんのところに目を移す火村さん。
「その時、虹森さんと緑山さんのおかげで私は描くことも、石川さんへの気持ちも諦めませんでした。お二人さんが私の好きって気持ちを嘘じゃないっと言ってくれたから。だから私はあの人を追いかけてこの学校に入学しました。」
平気そうに笑っている火村さん。見た目と違って火村さんは私達の想像以上の強い子でした。
その時のことなら私も、ゆりちゃんもはっきり覚えています。もしそのことでこの子の中で大切な何かが壊れてしまったらどうしようって火村さんの心をしっかり支えてくれようっとしました。このことでこの子の好きって気持ちが自分自身に否定されたらそれはとても悲しいことだと思ったから…無論勢いで石川さんの悪口も浴びまくりましたが…
「本当にありがとうございました、虹森さん、緑山さん。お二人さんのおかげこうやって諦めずに来られました。ちょっと遅くなりましたがこの際に感謝の気持ちをお伝え申し上げます。黒木さんも本当にありがとうございます。こんなに素敵な出会いをご用意してくれて。」
っと挫けなくまた立てる力を与えてくれた私とゆりちゃんと思わずこんなありがたい席を用意してくれたクリスちゃんに心を込めて感謝の言葉を渡す火村さん。その時と全く代わりもない可愛いのままの火村さんでしたが心はもう一回り強くなったそうです。私達、火村さんにちょっとだけ役に立ってたのかな?
そうやって心底の感謝を伝える火村さんに私達3人は
「どういたしまして。」
言葉を合わせて彼女の心に応えてあげました。




