第137話
いつもありがとうございます!
「エミリア。ちょっといいか。」
「はい。」
久しぶりに自分に向けて声をかける「覇皇」「ガイア」。普段あまり話をしない彼だったこそ久しぶりに聞いた彼の声が懐かしくまで感じられる彼女は手入れ途中の盆栽から離れて彼に目を合わせた。
「何でしょうか。」
同じ「地獄」としても彼は彼女にとって特別な意味を持つ尊敬たる人だった。つい最近までちょっと気まずくになってしまったあまり話し合う機会がなかったので彼女はもっと丁寧に彼を部屋に迎えた。
「あいつはいないか。」
少し周りを見回すガイア。あのふるつわもの彼にとっても今言及した「あいつ」の存在はかなり脅威的な未知の生物というのをよく知っていたエミリアは今は大丈夫だと彼に伝えた。
「先外に出たから今はありません。お話してもよろしいです。」
「そうか。」
目の前に置かれている椅子に座り込むガイア。ゴレムである故あまり表情を読みきれない彼だったが今回だけは珍しく複雑な顔をしているのをエミリアはつい気づいてしまった。
彼には自分みたいに外には家族があった。今はもう別れてしまった同じ種族の前妻の間で生まれた高校生の娘が一人。父をそっくり似ていてあまり話すのが好きではないだが根は優しかったゴレムの女の子。幼馴染の女の子だけが大好きで一人で絵を描くのが唯一の趣味だった不器用な女の子。外で何度も合ったこともあったが毎度その可愛い顔が今の自分が見ているこの無口で不器用な男を思い出してしまった。
今はもう前妻の方も、娘の方も合わなくなってしまったが彼は相変わらず彼女達のために、そして失ってしまったゴレムの領域を取り戻すためにこの老いて砕けた体を今も休ませなかった。
こうやって彼は大切な家族のこと並の大事なことになるとよくエミリアの方へ声を掛けてきた。
「次の上陸は。」
「影」の人は外に出かけるのをよく「上陸」と言った。そしてエミリアはその上陸の数が結構多かった。
「今度の週末ですね。まだ手がかかる年ですから。」
彼女にも外には幼稚園に通っている小さくて可愛い双子の娘達があった。「ダークエルフ」の自分と「人間」の夫の間で生まれたその双子の娘達は彼女にとってかけがえのない大切な宝物であった。
「全部夫に任せっぱなしのわけにはいかないし週末くらいは一緒にいてあげなきゃ。」
「そうか。」
薄い反応。だがこれが彼から見せられる最大の相槌というのをよく知っていたエミリアだった。
「お前はどう思うか。あいつのことを。」
そろそろ本論に入る頃だっと思われる時に本題を差し出すガイア。「鬼」という種族と同じように何事も直接的に対する彼らしい入り方であった。
「やはりあいつと同じところにいさせるのは良くないっとわれは思う。あいつはここで仕留めなければならない生物だ。」
そう言っている彼だったが本当は今の自分の拳がその生物に届けるのかは自分にも怪しかった。
「あれはこの星で最高で優れた種族を支配者として選んで良い星にするのが目的だっと言ったがどう考えてもあれがもたらす結果は破滅のみしかない。われらはあれの思うまま遊ばれまくった果に捨てられる兵士達に過ぎないんだ。」
彼は最後まで反対した。自分達とは次元自体が桁外れだったあの圧倒的な存在を見た後でも彼は反対した。彼女、「ルル·ザ·スターライト」からの「影」への進出を。
「種族の復興をそんな得体も知らないものに任せ切ってしまうとは…この世界ももう終わりだ。」
「でも実際彼女はそれほどの力を持っています。私達なんかなんて立ちはだかった瞬間、その場で消えてしまうのでしょ。」
「女帝」と呼ばれるあのエミリアさえそのでかいお団子頭の宇宙人を初めて見た時、その場で全戦意を失ってしまった。それほどその宇宙人の力は想像を遥かに超えたものであった。
「普通あり得るんですか…そんな能力…」
「「現実の権利の持つ」…」
実在存在し、実在で起こっている事実や状態。それらをまとめた今の唯一な真実「現実」。誰にでも公平で誰にでも当たり前に与えられたその真実を人々は恐れながら受け入れようとする努力を怠らない。
だがあの生物だけは例外として容認されていた。
「あれが認めなければ起こらない、そしてあれが認めたら全ての因果関係を無視して起こってしまうなんて…何という化け物なんですか…」
本気で恐れるエミリア。それはもうはや力や能力のところのものではないのをこの世界から一番強い8人の一人である彼女はよく知っていた。
もしあれは「自分の前に生きて立っていることを認めない」っと思ったりしたら自分は何をされたのかすら知らずに死んでしまうだろうっと思ったエミリアはそのアホらしい事実を心の底から恐れていた。
「でも未だに彼女にあれといった動きはありませんから。実際彼女はすでに「影」の私達と「世界政府」やあらゆる種族を自分だけの天秤に掛けて公平に我々の価値を比べているだけです。「世界政府」を含めて世間にはまだ私達の存在を否定的に見ている偉い方々がたくさんいますからもしうまく行ったらこの世界によりふさわしい種族として彼女に選ばれるのは私達の方でしょう。」
そう言ったエミリアだったが口元には嫌味の苦い味が漂っていた。
「私はあれがこの世界に来てああいった提案を仕掛けてきた時、初めてその提案に賛成したものです。未だにその時のことについて迷いはありません。私達「ダークエルフ」やガイアさんの「ゴレム」は外の世界でなんとか生き続いていますが「世界政府」からの積極的な保護がない限りいずれ否定の種族として没落してしまう運命です。今の平和を脅かすテロリストとか適当な口実をつけられて…」
彼女は既にこの世界に絶望していた。「神樹様」によってかつて成し遂げられなかった平和の時代を迎えたと言われているだが実際自分の「ダークエルフ」や「ゴレム」、「魚人」や「獣人」などの「影」の種族は過去の事件によって外の世界から拒まれている存在だった。
今は「種族保護法」のおかげで直接的な危害はなかったのが社会にはまだ過去のことに縛られている色んな差別が暗々裏行っている状況であった。
「私達は社会から逃げ出してきたこの世界からもっと強くなれば世界が我々の声に耳を傾けてくれるはずだと信じていました。単純に力の腕試しや組織のためにこの世界に住んでいる人も少ないのではないんですがせめて私はそう思っていました。でもこのままではダメだと分かってしまったんです。このままじゃガイアさんの娘さんも、私の天使達もいくら経っても「テロリストの種族」の子達だと名付けられてずっと社会の落ちこぼれのままでしか生きられないんです…」
悔しい顔で自分の怒りを吐き出すエミリア。その表情にはもはやこの世への絶望と失望だけしか残っていなかった。
「一体あの子達が何をしたっと言うんですか…!ただ私の子として生まれただけなのになんで「コーデリア」と「ジュリア」が、「あの子」がそんな差別を受けばければいけないんですか…!」
ふと話を止めてしまうエミリア。彼女はまだこの世に残っていた世界の真実を心底から嫌悪していた。
世界は今も「平等」と「公平」を前にして唱え続けているのだがその実在を知っていたエミリアにはそれら全部が一握りの真実もない偽りの塊にしか見えなかった。
「夫が頑張ってくれているのは分かっています…弁護士という職を生かして我々の処遇改善のために夜昼もなしに一生懸命頑張っているのは誰より分かっています…!でもそれほどで世界は私達の話に耳を貸してくれないんです!」
だが彼女がこの世の理不尽を気づいてどんな手を使ってもなんとかしたかったのは他にあった。それはエミリアにこの世界への行きを選ばせるほど彼女の人生にとって最も重要な問題であった。
今も目を閉じたら聞こえるような小さな女の子の泣き声。それこそ彼女を真の闇の一族に引き込んだ一番の理由であった。
「この世界はあまりにも歪で理不尽で偽っています…戻すなら初めから全部やり直すしかない、そう思っただけです…私はあの子のためなら、私の天使達のためなら何でもやります…例えあの得体も知らない生物に我ら種族の運命を全部託すことになっても、お姉様の世界を敵にしても…!私が支配する側に立たなくてもいいです…ただあの子達がもっといい社会で暮らせるのならそれでいいです…!」
そのためなら自分の命くらいは何度でも払えるエミリアであった。
社会の裏側に潜んでいる漫然の差別。自分から知ってきたその辛さを決して自分の宝物達にも継がせたくなかったエミリアはなぜか手にファンタを持っていたお団子頭の宇宙人からそう提案した時、自分から賛成側になって先頭に立って「地獄」の全員を説得した。
そのことで最後まで反対側だったガイアとは結局気まずくなってしまったがそれも含めて全部エミリアが自ら選んだことの結果だったので彼女は文句も言わずに全部受け入れた。
「でも実は私、ガイアさんからお話を掛けてくださった時はちょっと感動までしちゃったんです。もう私には構ってくださらないと思っていましたから。」
「…そうか。」
ぎこちなく笑んでしまうエミリアとは違って顔に何も浮かべないガイア。
「正直言うとまだお前のことを許したのではない。われはゴレムだ。だから頭が硬くて自分達のこと以外は信じられない。そんなわれは唯一に信じていたのがお前だったがまさかお前が真っ先でわれを裏切るとは思わなかった。」
「そ…そこまで言われるとすっごく申し訳ないんですね…」
相変わらず何も表してくらないガイアに面目ないっとした顔を向けるエミリア。
「だがそれでやっと分かった。お前の意思。もうわれからお前の決心を引き戻すことはしない。」
「ガイアさん?」
椅子を押し入れながら席から立つガイア。いつも無感情の彼の顔には何の変化もなかったがエミリアはなんとなく彼から僅かな笑みを感じていた。
「われはわれのやり方でゴレムの「森の守り人」としての尊厳を取り戻す。お前はお前のやり方で戦え、エミリア。」
「ガイアさん…」
部屋から出ようとするガイア。彼の心にはもはや一抹の迷いもないということを不意に気づいてしまうエミリアであった。
「だが気をつけるのがいいのだ、エミリア。あれには確かに悪意やわれに危害を加えようとする気はない。だからこそわれはあれが怖いのだ。純粋な悪意ほど怖いのだ。「無知の悪意」が。」
「無知の…悪意ですか。」
彼は自分の意見と完全に別れてしまったエミリアに僅かな寂しさを感じていたが今日ここまで来た一番大事なことを言うのを忘れなかった。
「あれはついにお前の妹がいる学校の生徒達も手を出し始めた。多分われのような「候補者」の程度ではないだがそのためのサンプルくらいではないかとわれは思っている。」
「そ…それはどういう…それじゃ約束と違うのでは…それより彼女には私達以外は興味もなかったのでは…!」
不意打ちでも当たったようにぼーっとしてきた頭を抱えて混乱に落とされてしまうエミリア。だがその反応さえ既に予想していたように彼は話を続けた。
「あれにとってわれなんかただの模型の玩具に過ぎない。だから今お前にできるのはあれの親切をどう利用するのか、そして自分の大事なのをどう守り抜くのか、全力で考えることだけだ。」
「が…ガイアさんはどうやってそれを…!」
慌てて聞いてくるエミリア。先「妹」という言葉を聞いた後、彼女の行動は明らかにせかついていた。
「あいつから聞いた。その学校のこと。だから用心深く行動しろ。あれはわれの敵意はないかも知れないがとはいえ全く味方でもない。」
何度も彼女に注意を入れ込むガイア。彼の懐には数日前に外からもらった例の学校の教師で働いているある女性の手紙が潜んでいた。
「…肝に銘じております、ガイアさん…」
複雑な心境で彼の言葉を心の中に密かに溜まっておくエミリア。そういう彼女の姿を見た後、ガイアはやっと部屋から足を運ばせた。
まるで嵐でも残って去ったような静かな空気。その中で不安な気持ちになったエミリアは震える唇で
「…セシリアちゃん…」
っと過去の自分にとっても、そして今の自分にとってもいつだって大切だった腹違いの妹の名をそっと呟いた。
「なんで君があの世界で差別を受けばければならなかったんだ…」
彼女はただ悲しかった。腹違いの妹のことで住んでいた世界の全てから背を向けてしまった自分のことより何も知らずに皆から異物に扱われたあの小さくて可愛かった子のことを思いたしたら今でも胸が張り裂けそうだった。
だから彼女はルルからの怪しい提案に喜んで応じた。どうせ何も変わらないのなら自分が頂点の側になってこの世全てを覆してやろうと。




