第125-10話
いつもありがとうございます!
赤城さんとかな先輩の話はこうでした。
「私達が小学生だった時、なながコンクールやらレッスンやらで忙しくなって学校まで来られなくなったことがあってね。
電話でお話はしたけどやっぱり直接会えないのはすごく寂しかったんだ。」
ピアニストだった祖母と母の影響で子供の頃からエリート教育を受けた赤城さん。
もちろん強制にやらされるわけではなく、赤城さんはピアノを弾くことを本当に楽しんでいて、自分でも誇りを持っている愛しているのです。
「今ももちろん世界一で可愛いんだけど、あの時はあの時だけの初々しさがあってすっごく可愛くてね。
ちっこくて、何を言ってもトゲトゲのツンツンして。
でもピアノを弾く時になると誰よりも真剣になって私はすごく憧れて。」
「あなた…」
透き通るほどの真っ白なお肌。
咲き誇るバラのような真紅の髪を靡かせながら夢中になってピアノを弾くあの時の赤城さんに今も憧れの気持ちを抱いているというかな先輩の言葉に、赤城さんは依然として、
「よ…よくそんな恥ずかしいことが言えますのね…」
というツーンとした反応を見せつけましたが、
「…でもありがとうですわ。」
あの頃と違って少しだけ素直に自分の気持ちが言えるようになったのもちゃんと教えてくれたのです。
毎日続くレッスンとコンクールの参加。
同時に勉学と訓練、「赤城」家の当主のなるためのその全てを全部一人でこなさなければならなかったという赤城さん。
それ故に自然とやむを得ず学校を休む日もできて、かな先輩は赤城さんのいない学校での時間をいつもより長く、そして寂しいと感じてしまったそうです。
「来週なら学校に戻れると思いますわ。」
「そう?えへへ。早く来てよ、なな。
なながいないから全然楽しくないよ。」
「と…当然ですわ…!こんなに可愛いわたくしのことですから、寂しく思うのも当たり前…!
わたくしだってあなたにどれほど会いたいのか…って何でもないですわ…!」
って感じでお互いへの懐かしさだけが積もっていくばかり。
その時、二人をつなぐ架け橋となったのが、「縁結びの神様」のクリスちゃんでした。
「あれ?なな?」
「あなた…」
ある日、見知らぬ空間に呼び出されて、いつの間にかお互いの顔を見つめ合っていたというかな先輩と赤城さん。
「確か私、寝ていたけど。どういうこと?」
寝ていたはずの自分がなぜコンクールのことで遠い場所に離れていた赤城さんと顔を合わせているのか。
そのことに何が起きたのか未だに分からないかな先輩に引き換え、
「あの子ったら…」
なんとなく状況が分かってきた赤城さんは、
「ここはおそらく夢の空間。
そして招いたのはクリスですわ。」
代わりに自分からその現象について説明することになったそうです。
赤城さんとクリスちゃんは幼馴染。
当然、赤城さんの大親友のかな先輩もクリスちゃんに会ったことがあって、一緒に遊んだことがありました。
3人でキャンピングに行ったり、お泊り会をするほど仲が良かったので、クリスちゃんもかな先輩のことを赤城さんと同じくもう一人のお姉ちゃんと思って大切にしていたそうです。
そして相思相愛のお姉ちゃんたちを助けるために、今回みたいに別の夢の空間を用意したクリスちゃんはその空間にお二人を招いて一緒に楽しい時間を過ごせるようにしてくれました。
「クリクリはそういうこともできるんだ。本当にすごいよ。」
というかな先輩の言葉に、
「ええ。わたくしの自慢の妹なんですから。」
赤城さんはクリスちゃんへの尽きることのない愛情を表して仄かな笑みを浮かべるだけだったのです。
クリスちゃんが頑張ってくれたおかげでどんなに離れていてもいつでも夢の中で会うことができた二人。
目が覚めた時は夢の中でのことなんて全部忘れてしまうようになってちょっぴり寂しくてなったりしましたが、それでもその朧げの記憶の中にあるお互いへの愛情の温もりだけは胸が熱くなるほどはっきりと残されていて、それだけで二人は胸がいっぱいになるくらいでした。
赤城さんとかな先輩が喧嘩した後は赤城さんの方から心という夢のチャンネルを閉じてしばらくつながることができなかったそうですが、無事に仲直りできたからは再開してたまにつながったりしているらしいです。
特にやることはなくても顔を合わせておしゃべりするだけで楽しいと、かな先輩はいつも自分たちのために頑張ってくれるクリスちゃんへの感謝の気持ちを表しました。
赤城さんはこう言いました。
「あの子はただ自分の趣味だけのために力を使う子ではありません。
あの子には心と心を紡いで、繋いであげたいという優しい気持ちがあります。
ここもきっと虹森さんと緑山さんのことを思いやった上でのことですから、あまりあの子のことを責めないでくださいまし。」
クリスちゃんは本当に自分が好きな人たちの心が結ばれることを願っている。
そのためなら自分の力を惜しまないのクリスちゃんは陰から誰かの絆を支えてきたのです。
そしてそれが子供の頃の憧れである私とゆりちゃんの「フェアリーズ」という名前のご当地アイドルがきっかけだと聞いた時は、
「ええ…!?」
さすがに動揺を隠しきれなかったのです。
「あの子はよく言いました。彼女たちのように誰かと誰かを紡げる人になりたい。
笑顔と夢を届けられるそういう温かい人になりたいと。
実際、わたくしはあなたたちの歌を聞いた時はあの子が言っていたことが何なのか、それが理解できましたわ。」
っと私達から大きな可能性を感じたというトップアイドルの赤城さんの言葉はちょっと照れくさすぎてどういう顔をしたらいいのか、自分でも迷ってしまうくらいでしたが、
「あ…ありがとうございます…」
私はやっぱり自分たちのことが誰かに認められたことがどうしようもなく嬉しくて仕方がなかったのです。
その時、私は思いました。
責めるどころか、私はむしろクリスちゃんにこの胸いっぱいのありがとうを届けたいと。
クリスちゃんの期待に応えてあげたい、その優しい気持ちにちゃんと応えて安心させてあげたいと。
そう思ってギュッと握った拳の中から出てきたのは、
「ゴム…」
先、クリスちゃんから渡された色付きのゴムでした…
「…無論取るものは取るちゃっかりしたところはありますが…」
「あはは…」
これを見た赤城さんからそう言われた時は、さすがにちょっと呆れたって感じで笑ってしまいましたが、
「縁結びの神様…か。」
私は今までの自分には知らなかったもう一人のクリスちゃんのことを知ったような気がして、前よりもっと仲良くなったできたような充実感を味わうことができたのです。
***
「それで私達は今どこへ?」
「んーそれはねー」
赤城さんとかな先輩からクリスちゃんの話を聞いて、ほんの少しだけ私達へのクリスちゃんの気持ちと期待感を垣間見ることができた自分。
そんな私に一緒に行きたい場所があると、私をどこかへ連れて行く青葉さん。
私は一体青葉さんが私と一緒に行きたい場所がどこなのか、気になって何度も目的地について聞きましたが、
「私、虹森さんにならいいかなって思うから。」
青葉さんはただそう言って詳しくは何も教えてくれなかったのです。
学校内の敷地を移動する時に必要なバス。
小さな街を学校で利用していると言っても過言ではないここはまさにれっきとした学園都市です。
様々なレジャー施設まで完備されたここは世界政府付属校の中でも特に力を入れた学校で、お嬢様学校というイメージにふさわしいほど豪華でゴージャスです。
どこへ行ってもきれいな街並みと自然を楽しめるとても素敵なところなんですが、一つだけ、誰も近づかない場所があって、
「南の森…ですか。」
それは1年生の校舎から少し離れたところにある南の森。
そこには森林管理用の小屋があるんですが、今は中の機材を新築の倉庫に全部移したため、誰にも使われていないらしいです。
でもその倉庫は今は退学になった不良の2年生たちが去年まで拠点として使っていたため、今は誰も近づかない場所となって、私がこの学校に入学した時だって、
「いいですか?みもりちゃん。その森には決して近づかないでください。
エッチしたいのなら部屋で十分ですから。」
「わ…分かった…」
ってゆりちゃんに言われて私はあまり興味も持たないようにしてー…ってなんか変な言葉が混ざっているような…
でも本当は誰も近づかないわけではありませんでした。
たった一人、その不良の2年生たちに悪質で陰湿ないじめをされた当事者の青葉さんだけは密かに出入りしていていたそうです。
そこで私に知ってもらいたいことがあると言った青葉さんは相変わらず穏やかで落ち着いた表情で窓の外を眺めていたのです。
その時、私はなにか大きな秘密を知るようになれるような、とてつもない予感を感じて、少し動揺してしまいました。
あの森には青葉さんにとって何かとても嫌な思いがあるのに違いない。
これから自分はこの学校で起きた、この学校を狂わせた例のいじめ事件に足を浸かることになるかもしれないと。
それは果たして自分が関わってもいいのか、自分に背負えるものなのかと、正直なところちょっと不安だったのです。
でも私は自分で決めました。
先輩と青葉さんを必ず仲直りさせてみせると。
私のことを受け入れて支えてくれた先輩の笑顔を取り戻してみせると。
だからこの先で待っているのがなんだろうと、私はあの時の先輩のように受け入れて、自分にできる精一杯をやると、そう誓ったのです。
だから青葉さんに、
「これを聞いたら虹森さんは前よりずっと私と先輩のことに関わりたくなる。
それでも後悔しない?」
こう聞かれた時、
「もちろんです。私は何があっても青葉さんと先輩の力になると、自分でそう決めましたから。」
迷わず、そう答えられたと思います。
嫌な思いのある南の森。
そこで青葉さんに私に伝えたいとしたのは何なのか、一度心を決めた私には知っておく必要がある。
でもその前に、
「虹森さん…?」
私は心を強くして青い目で窓の外を眺めている青葉さんの手をそっと握って、勇気を出してくれた青葉さんに自分は一人ではないということを教えてあげたかったのです。
「ありがとう。でももう大丈夫だから。」
こんな私の気持ちが分かったように、青葉さんはただいつもの優しい笑みで私の目を見つめてくれるだけだったのです。




