第125-9話
いつもありがとうございます!
「というわけで頼りになる先輩方にお集まりいただきました。」
「頼りになる先輩方って。大げさね、モリモリ。」
そして放課後、私は部室に集まってくれた2年生の先輩たち、今はすっかり信号機トリオとしてつるむようになったかな先輩、赤城さん、そして青葉さんにまずお礼を言って、相談に乗ってもらいました。
石川先生との話で少しずつゆりちゃんの願いを叶えてあげようという方に心が傾いてきた私でしたが、やはり今はまだ勇気が足りない。
先生にも言われたのですが、私はゆりちゃんとの関係、健全な幼馴染という関係にこだわりすぎて、たとえここが夢の中だとしても好きなように振る舞うことができないのではないかとー…ん?
「今度の図工時間で何を作るんですって?
それはもちろんみもりちゃんの子供に決まってるのではありませんか❤」
「へ…へえー…そうなんだー…」
健全な幼馴染…
まあ、子供の頃からちょっと情熱すぎるところはありましたが、それでもゆりちゃんが私のために何をして、何を諦めてきたのか、それを知っている以上、私はちゃんとその努力に報いてあげたい。
そして私ならきっとそれができると思ってクリスちゃんはこんな席まで用意してくれたと思います。
「単に自分が楽しむだけかもしれないけどね…」
っと私は先程、闇に潜んでひどい目にあった私を見ながら一人でたっぷり堪能したというクリスちゃんのことを思い出して、ちょっとだけ複雑な気持ちになりましたが、それはまあ、良いとしましょう。
とにかく私はまず、私とゆりちゃんと同じく幼馴染でありながら、恋をしているかな先輩と赤城さん、そして経験豊富の青葉さんを交えて、今の迷いを解決しようとしました。
「なるほどね。」
「つまり思い切って一線を越えたいってことですわね。」
「なんか表現そのものは間違ってませんけどそうまとめられるのはちょっとあれっていうか…
まあ…でも大体そんな感じです。」
この世界がクリスちゃんによる夢の中の世界ってこと、そしてゆりちゃんに対する私の考えを先輩たちに話して、それから先輩たちは割と真剣に私の相談に乗ってくれました。
特に赤城さんに及んでは、
「幼馴染といってそんなに考え込む必要はありませんでしてよ?
むしろ形振り構わず食いつくべきですわ!」
って感じで、クールで合理的なイメージとはまた真逆の情熱的な攻め方を勧めてきたのです。
それは普段赤城さんがかな先輩に対して取っている態度だってことが分かって、
「やっぱりこの人、ゆりちゃんに似ているかも…」
私はどうしてゆりちゃんが赤城さんに好感を抱いているのかがちょっと分かるような気がしました。
「まあまあ、なな、落ち着いて。
モリモリは癒し系なんだから、そういうのはちょっと不向きかもしれないよ。」
「赤城さんってこういうことになったらすぐ熱くなるんだから。」
「し…失礼…」
思わずつい自分の考え方を押し付けてしまったことを謝る赤城さんでしたが、
「でも積極的っていう点からすると私も一応それに賛成かな。」
残りのかな先輩や青葉さんも赤城さんの意見には一旦賛成の意思を示したのです。
「モリモリってちょっとおとなしすぎるところがあるからね。
強いていうと受け身って感じかな。
ちょっとだけ勇気を出せばゆりゆり、すごく喜ぶと思うんだけど。」
「もちろん今もままでも緑山さん、虹森さんのことが大好きで仕方がないって感じだけど、人はたまに直接確かめさせてあげなきゃ不安になるものだから。」
っと意外と私のことをちゃんと見ていたかな先輩と青葉さん。
でも確かに先輩たちの言う通りかもしれないと、私は割とすんなりとその言葉を飲み込んでしまったのです。
最初にゆりちゃんに声をかけたのは自分ですが、確かにゆりちゃんへの愛情表現は少し乏しかったかもしれない。
もちろんバレンタインとか、クリスマスとかのイベントには欠かさず一緒に盛り上がったりはしましたが、普段のことを考えたらいつも好きって先に言ってくれたのはゆりちゃんの方で、私はただそれに応えるだけでした。
私は自分を巡ったものに当たり前なことはない、その全てには見えない特別な何かがあるという日々感謝する気持ちを持ちなさいというお父さんの教えをそれなりにうまく実践してきたと思いましたが、一番大切なゆりちゃんには全ての努力を尽くしてなかったのです。
いつも傍にいてくれて、この先もずっと一緒だと、信じて微塵も疑ってなかったから。
私はゆりちゃんという大切な存在に安心して、ずっと甘えていたのです。
でも本当はゆりちゃんだって私に自分への愛情を確かめたかったかもしれない。
体は大きくなって力も強くなっても、中身はまだまだ小さい幼馴染のゆりちゃんのままだから。
私はゆりちゃんの寂しいという気持ちをそこまで察してあげられなかったのです。
「相手のことを全部知っていて、自分のことなら何も話さなくても分かってくれると思うのはただの慢心。
大切な人だからこそ分かろうと、知ろうという努力をたゆまず、惜しまないのが本当の意味の愛ですわ。」
そして相手が大事であれば大事なほど、真剣に向き合うことが大切だと、赤城さんは相変わらずの真っ直ぐな意志を示してくれたのです。
一時はすれ違った思いが呼び寄せた誤解でさまよう時もありましたが、この前のことでその重要性を改めて思い知らされたという赤城さんのその言葉に一点の偽りもないと、私はそう感じたのです。
「でも別に虹森さんが自分の心を表現するに消極的って意味ではないからそこは一応安心して欲しい。
虹森さんだって私達から見ると割とちゃんと自分の言葉で緑山さんへの大切さを表しているから。
ただ緑山さんって完璧超人ってイメージの割に子供っぽいところがあるから、そこはちゃんと言ってあげた方がいいよ。
もちろん焦りは禁物で、自分のペースで少しずつやっていけばいいと思う。」
出会ってから日も浅い私達のことをよく見ていた青葉さんは、決して私が自分の気持ちの表現に乏しいわけではなく、むしろゆりちゃんのことを今もずっと大切にしているというのが分かるほどだと言ってくれました。
それを分かっているからゆりちゃんも必要以上に私を急かしたり、ねだったりしない。
でもゆりちゃんには子供じみたわがままなところもあるから、それを全部飲み込めなかったかもしれない。
だから私とクリスちゃんの仲を誤解して暴走してしまったと、今になって私はそう思います。
先輩たちの話からなにかヒントみたいなものを掴んだような気がした私は、まず先輩たちに相談に乗ってくれたお礼を言って、もう少し自分で真剣に考えることにしました。
こんな私に、
「そうだ。虹森さん、この後、少しだけ付き合ってくれない?」
青葉さんは一緒に行ってもらいたいところがあると、少しだけ時間を分けて欲しいと言いました。
私はもちろんそうすると答えたのですが、あの時、青葉さんが私を誘ったのはきっと夢の中というこの限定された空間の中で伝えたいことがあったからだと、後に私はそう感じてしまったのです。
「しかしまさかここがモリモリの夢の中で、しかも学校中の皆まで招き入れられているなんてね。
クリクリって毎回すごいことをするねー。」
「子供の頃からああいう子だったんですから。穏やかな割にやることなすこと一つ一つ大げさというか。
まあ、そういう思い切ったところがまたあの子の長所ですが。」
仕方ない子ですことっとそっと笑ってしまう赤城さんでしたが、その微笑みに込められた妹分のクリスちゃんへの愛情はかな先輩へのものと比べてもそう変わらないほど大きかったので、私はクリスちゃんのことを赤城さんがいかに大切にしているのかすぐ分かるような気がしました。
赤城さんの中にいて、私には知らないクリスちゃん。
私にとってクリスちゃんは穏やかでおっとりした素敵なお姫様で、たまに突飛な行動をしても、思いやりがあって私とゆりちゃんのことをすごく大切にしてくれるかけがえのない親友です。
それはもちろん姉分の赤城さんにとっても同じでしたが、
「わたくしはあの子のことを内心「縁結びの神様」ではないかと思ってましたわ。」
彼女は一段とクリスちゃんのことを特別な存在として思っていたようです。
赤城さんの祖母は有名な魔界のピアニストであるあの「赤城アナスタシア」さんで、孫の赤城さんと同じくここ第3女子校の出身である私達のはるか遠い先輩です。
赤城さんはその祖母からピアノを教わって、この学校に音楽特待生として入学したのですが、そんな赤城さんと違って「神殿」の「神官」、つまりあの巫女のルビー様やシスターのサファイア様と同じ神職関係者として入学して、より丁寧な扱いを受けているのです。
その上、魔界のお姫様という高貴な身分と相まって、本来なら私のような庶民には一生お目通りできない雲の上の存在があのクリスちゃんということです。
赤城さんとクリスちゃんは赤城さんのおばあさんに一緒に音楽を学んだ音楽仲間だったのです。
赤城さんはクリスちゃんのことを義理の妹として大切にして、そんな赤城さんのことをクリスちゃんは実の姉のようにすごく懐いたらしいです。
「今はあんなに大きくなって、わたくしのことを見下ろすようになりましたが、無邪気で純粋だったあの頃の面影はちゃんと残っていますわ。
体の方は恐ろしいほど大きくなりましたが。」
「二度も言ったね、なな…」
今やすっかり大人になって、数年前から自分の方から見上げなければならなくなったという赤城さん。
でもそのでかい胸が視界を遮ってその顔さえ見えなくなったと、赤城さんは内心思ったよりずっと大人になってしまったクリスちゃんのことに複雑な思いを抱きましたが、
「それでもあの子はあの頃と何の変わりない、わたくしの大切な妹なんですの。」
心はあの頃と同じく純粋で、優しいままだと、私にそう教えてくれたのです。
そして彼女はこう言いました。
「ここはおそらくあなた達へのあの子なりの思いやりだと、わたくしはそう思いますわ。」
ここは多分クリスちゃんが私とゆりちゃんのために用意してくれた、羽を伸ばせる空間のはずだと。
「実は前にもあったんだよ、こういうの。」
「ええ。わたくしたちの小5の時に。」
「本当ですか?」
そして自分たちにも似たような経験があるということを、赤城さんだけではなくかな先輩もよく覚えていました。
「今まですっかり忘れていたけど、何故か急に思い出してね。
ここが夢の中だからかな。」
っと急に思い出した自分たちの経験を話してくれるかな先輩。
その話を聞いて、私はどうして赤城さんがクリスちゃんのことを「縁結びの神様」と思ったのか、その理由が分かるような気がしたのです。




