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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第125-8話

いつもありがとうございます!

刻み込まれた感触、そして快感。

そのすべてを解消できず、そのまま迸らせた私は、


「ゆりちゃんのバカ…!」


心の中で本気でそう思っていました。


今もあそこがウズウズして、ビンビンになっている。

どうしてあんなことをして…いや、理由は大体分かりますが、それでも幼馴染の、しかも同じ女の子を相手にするのはさすがに間違っていると思ってます…!

先は授業中で、勢いで何もできませんでしたが、文句でも言ってあげなや気がすまない、そう思ったんですが、


「どうしたの?虹森さん。顔、真っ赤だよ?」


どうやら今はそれどころじゃなさそうです…!


「もしかして言い方が悪かったのかしら…

ごめんね…?でも先生は虹森さんのことが本当に心配で…」


っとあまり落ち着いてない私のことを気にかけてくれる石川先生。

娘さんの石川さんの方はあれだけ怖かったのになんという穏やかさ。

親子なのにこんなに違うんだなと、内心感心しましたが、


「だ…大丈夫です!全然そう思ってませんから…!」


私はとりあえず先生を安心させることからしました。


「そう?なら良かったけど…」


っとひとまず今の会話に問題がないということを確認した石川先生は胸をなでおろしながら安心してくれましたが、


「もしかして最近緑山さんとうまく行かないの?」


割と意外なところを鋭く突っついてくる先生の洞察力にはさすがにちょっと焦ってしまったのです。


「ど…どうしてそう思うんですか…?」


っと私が慌ててそう思った理由を聞いたら、


「だって虹森さん、なんか最近お嫁さんとなにかあったみたいなって感じだったから。」

「お嫁さんって…」


快くゆりちゃんのことを「お嫁さん」と呼んで、最近先生の目で見た私達の関係を割と正確に述べる先生。

その観察力や洞察力にはさすがに舌を巻いてしまいましたが、


「別に難しいことではないわ。

関心を持って一人ひとりよく見ればいいのよ。」


先生はこれをなにか特別な能力ではなく、誰にでもできる普通なことだと、私にそう教えてくれたのです。

それはつまり、先生は普段から私のことを興味を持ってずっと見ていたことで、私はそのことをなんだか恥ずかしそうに感じましたが、それでもやっぱり素直に嬉しかったです。

この人はちゃんと私のことを一人のちゃんとした人間として見てくれたんだって。

こんな普通で何もない私のことを。


「特別でなければ生きる価値などない。

つまり今のあなたには何の価値もないということですよ、みもり。」


同じ教える立場としても私のことを全く人間として見てくれなかった人もいましたから。

だから私は彼女のことが、石川先生のことが好きです。


その時、私の目についたのは、


「家族…写真?」


先生の家族と見受ける一家団欒の家族写真でした。


随分前のものだと思われる古い写真。

写真の中の3人の家族はそうやって自分たちの幸せを満面の笑みで物語っていました。

特に真ん中の白い髪の女の子、その小さな少女の笑顔はあまりにも幸せそうだったので、なんだか私は心まで温かくなる気分だったのです。

でもその隣に立っている、自分の娘の手をギュッと握りしめているのが昔の石川先生であることに気づいた時、私は自然にその少女が昔のあの石川さんであることが分かってしまったのです。

そして今のその親子のギクシャクな関係を知っていたからこそ、私はふとその家族写真のことをなんだか少し悲しく感じてしまいました。


私達にとって親密感が溢れて話しやすい石川先生ですが、彼女は何らかの事情で娘さんと複雑な状態になっています。

でも先生はそのことを隠したり、誤魔化したりはしていないです。

だから私は先生のことも、石川さんのことも余計に気にかけているかもしれません。


「あ、これ?見てる通りに家族写真なの。」


っと特に隠す気はなさそうに割とすんなりとその写真を私に見せてくれる石川先生。

額縁の中に大事に収まっている褪せた写真は過ぎた時間の流れを教えてくれるように少し古びていましたが、その中に詰まった大切な記憶だけは今もこんなにはっきりと残っていたのです。


今もかなり若く見える石川先生ですが、写真の中の先生は恐ろしいほどの童顔だったので、将来のためその秘訣を学んでおきたいと思ったくらいでした。

私とそんなに変わらなく見えたので、


「先生ってちょっと早く結婚したのかな。」


っと思ってしまったのです。


「あまりちゃんとした写真館もなかったし、そんなに裕福な家計ではなかったからこういう写真しか取れなかったの。

保管状態も悪くてこれが一番マシな方だったわ。もちろんこれはコピーなんだけど。」


きれいな額縁に収めていつでも見られるようにできるだけ手の届く場所においておこうとしている。

今の技術ならもっといい画質のものに復元することもできると思いますが、


「でもここにしか宿ってない思い出があるから。」


先生は今はこれでいい、私にそう言いながらその頃の思い出を胸にそっとしまっておきました。


無邪気に笑っている小さな石川さんとそんな娘さんのことが愛しくて仕方がない石川先生。

そしてその隣の大きい体の「石人(ゴーレム)」の人は、


「あれ…?この人、なんか見覚えがあるような…」


不思議にどこかで一度会ったがあるような、何故かそんな気がしました。


「ゴーレムの男って見た目は大体こんな感じで女のゴーレムと違ってなかなか見分けがつかないのよ。

それに性格も不器用で無愛想でよく誤解されて、怖がられがちで。」


今は別れてそれぞれの道を歩くことにしたという先生とその男の方。

事情があって結局別れることにしたという先生でしたが、


「でも本当はとても優しくて思いやりが深い人なの。」


それでも相変わらず愛していると、先生は一途の思いを率直に表しました。


私は先生にとって単なる生徒の一人。

こんな私に自分の気持ちを素直に話してくれるこの人は心の底から私のことを信頼していて、だからこそ私にこんな話ができたと思います。


先生なら今の私の悩みをぶつけられる。

ちゃんと受け止めて、一緒に真剣に考えられる。

そう思って、


「せ…先生、実はですね…」


思い切って自分のアレのことを先生に明かした私に、先生は、


「ひ…()()は忘れないでね…?」


何故か避妊の大事さを念入りしたのです。


***


「つまりここは虹森さんの夢の中で、あの黒木さんの能力で私達が現実のように感じているってこと?」

「らしいです…」


誤解を解くために一部始終を説明した私の話に、先生は、


「すごいわね。本物の現実みたいわ。」


っと初めてはすごく驚きましたが、


「でもまあ、本物の神様だっているんだし、そんなに珍しいことではないかもね。」


割とすぐ慣れてくるすごい適応力を見せてくれたのです。


「実際、うちには本物の神様もいるからね。

まあ、お会いしたのはかなり昔のことで私はもうあそこには戻れないから。」

「戻れないって…」


っと先生は自分はもう元の場所、つまり故郷には戻れないと、淡々とそう言いましたが、


「あ、でも他の人には内緒でね?

夢なんだし、すぐ忘れちゃうけど。」


最後には口外無用でお願いすると、秘密は守って欲しいと頼んだのです。


ますます深まる石川先生に対する謎。

大好きな先生だからこそ力になってあげたいという気持ちは大きい。

でもゆりちゃんに言われた通り、こんな気がかりすら本人たちには余計なお世話になりかねますからこれ以上、むやみに踏み込むのもどうかと思いますし。


「ここが夢ならあの子に許してもらえるのかしら。」


でもその最後の一言だけはやっぱり忘れられないと、そう感じたのです。


それから私はしばらく先生と面談も兼ねたおしゃべりをしました。

たとえこれが単なる夢の中の会話で、起きたら忘れられることだとしても石川先生は私の話を真剣に聞いてくれたのです。

最近自分にあったこと、感じたこと、同好会のことや先輩たちのことも、そしてゆりちゃんとクリスちゃんのことまで。

もちろんゆりちゃんや皆のプライベートなものは抜きにして話をしたので、あの変なところとか、先生には全然分からなかったと思います。


そして私は自分でも驚いてしまうほどずっと喋っていましたが、先生はこんな私のことを笑ったりすることなく、むしろ元気で活発だと言ってくれました。


「虹森さんって大人しくていつも緑山さんとしか話さなかったから少し心配だったけど、もうその必要ななさそうね。」


っと入学ばかりの時と大分変わるようになった私のことを、先生はそう言ってなんだかほっとするような顔を見せてくれたのです。


「でもまさか虹森さんがアイドルだなんてね。

そういえば経験者だったわよね?」

「ま、まあ…一応はですね。あはは…」


お父さんと知り合いである石川先生は私とゆりちゃんが子供の時に地元でご当地アイドル、いわばロコドルをやったことがあるのを知っていて、前々から私達の存在について知っていたそうです。

私達二人はとても仲が良くて、お互いを支え合う幼馴染以上のなにか特別な関係に見えましたが、


「でも虹森さんは時々自分の役割に関わりすぎるところがあると思うの。」


ゆりちゃんと違って私は自分たちの関係をはっきりしようとするところがあると、先生は自分が感じたことを率直にそう言ってくれました。


「多分仲がいいほど、緑山さんのことが大切すぎるほどお互いの関係性と距離感を尊重し、守ろうというのが虹森さんの考え方かもしれないと、先生はそう思う。

でもそれは決して悪いことではない、むしろすごいことだと思うわ。

大人と言ってもお互いの距離感を測れず、むやみに踏み込んでその関係を台無しにすることが多いから。」


大切な関係であるほど、守りたいと思うほどお互いのことを尊重する必要がある。

仲が良いって理由で勝手に相手の領域に入れると思ってはいけないと、私がお父さんから学んだ人と人の関係性はそういうものでした。

先生はそれはとても思慮深い成熟した考え方で、よほどの大人ですら真似できないことだと、そう称えてくれました。

でも私の場合はその大切さが少し大きすぎて、もっと踏み込むべきでなかなか進めないのではないかと、先生は今の私の状況を真剣に考えてくれたのです。


「緑山さんって何でもできる完璧超人で、家柄もすごく偉いお嬢様だけど、いつも虹森さんからの愛情を確認し続けるちょっと子供っぽいところもあるから。」


でもその考え方がゆりちゃんから求められる愛情を確かめたいという純粋な気持ちにちゃんと応えてない。

私達のことをちゃんと見ていた石川先生が自分の目で見たのはそういうことでした。


「ああいう緑山さんだからこそ虹森さんが必要だと思うわ。

もちろん虹森さんにも緑山さんが絶対必要だけど。」


そしてそんな私だからこそゆりちゃんに応えてあげたい気持ちがあると、石川先生はそう言いました。


「悔いのないような選択。

それはとても難しいことだけど、先生は自分の生徒たちにはどうか自分の人生に何度も振り返ってしまう悔いを残さないで欲しいの。

そしてそれは虹森さんだって同じだから。」


今自分にゆりちゃんのためにできること。

いつもゆりちゃんのことを大切にしている私なら最も理想的な選択肢が見えているはずだと、先生は私の可能性と潜在力を信じてくれました。


「ちゃんと伝えた方がいい。

虹森さんの気持ち、そして受け入れたい気持ち。」


っと最後に私の手を握ってありったけの勇気を吹き込んでくださった石川先生。

でも、


「先生はあまり真面目な人にはなれなかったから。」


その最後の一言だけはとても悲しかったので、私はなんと言えばいいのか分からず、ただ石川先生の深みのある寂しい灰色の瞳を見つめているだけでした。

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