第125-4話
いつもありがとうございます!
今日は珍しく私とゆりちゃんのクラスとクリスちゃんと火邑さんのクラスが珍しく共同授業をすることになりました。
普段こういうことはめったにありませんが、クリスちゃんたちのクラス担任の「火邑紅丸」先生が急な出張で留守になって、今日だけは特別に一緒に視聴覚室でドキュメンタリー映画を見ることになりました。
当然、年頃の女の子たちである皆は、
「面白くなさそうー」
「絶対寝ちゃうよ、私。」
って反応でしたが、
「みもりちゃんは好きですもんね、ドキュメンタリー。」
「えへへ…そうなのかな…」
本音を言うと、私はこういうドキュメンタリー映画とか結構好きなタイプです。
飾らない事実に基づいたありのままという自然さが好きってこともありますが、何より自分に知らなかった世界の一面を学ぶことができる有益性が好き。
見聞を広めて、より開放的な視界を持つことができる。
それによって思考が豊かになって、一層多様な考えができ、懐が広くなって、理解が深まる。
地元の大学の教授であって、歴史学者であるお父さんの影響なのか、私は子供の頃からそういうことが好きでした。
こんな私のことを皆は年寄り染みるとか、ジジ臭いとか言ってからかったりバカにしたりしましたが、それでも私はアイドルと同じくらいドキュメンタリーや自分には知らなかったことを学ぶことが好きだったのです。
ゆりちゃんの場合は、
「みもりちゃんが好きなら私も好きです。
でもあなたのゆりの興味はいつだってあなた、みもりちゃんたった一人であることをどうか忘れないでください。」
って私の趣味に付き合ってくれて、そのおかげで私は自分の好きなことに没頭することができました。
そして今回もまたゆりちゃんが私のことを信じて、背中を押してくれたおかげで、もう一つの大好きであるアイドルに再チャレンジすることができて、私はそれにすごく感謝をしています。
だから少しでも、ほんの少しだけでも今までゆりちゃんが私のことを支えてくれたその恩返しができたらと思うのですが…
「どうしたんですか?みもりちゃん。先からジロジロって。
あ、もしかしてやっとやる気になったりして?」
「そ…そういうんじゃないから…!」
私、やっぱり自分の心に素直に応えてないかも…って脱がないで…!
でも火邑先生の不在のおかげで、私たちは思いがけない出会いに巡り合いました。
皆にはちょっと悪いのですが、私はやっぱり今日の共同授業のことがすごく好きー…って
「あれ…?そういえば火邑先生の名字って確か火邑さんと同じ「火邑」なんだよね?
それに同じ「焔人」…もしかして…」
っという私の些細な疑問に、
「あ、はい。うちのお父さんです。」
火邑さんは割とすんなりと自分と火邑先生の関係について教えてくれました。
元世界政府所属の特殊消防官の一種である「火消し」として人々の人命と財産を守ったという火邑さんのお父さん「火邑紅丸」先生。
かつて「不動明王」と呼ばれた最強の火消しはある日、作戦の途中、テロリストの攻撃によって右腕を失い、そのまま消防官を辞めることになりました。
でも自分の仕事に誇りを持っていた火邑先生はたとえ現場には出られなくても、別の方面で火消しのお仕事を続け、今はこの学校で教師として教鞭を執っているのです。
「元々教員資格は持ってましたし、消防学校で講義をやったこともありますから資質については問題ないんです。」
担当科目は科学。
あの樹芸部の灰島さんが部長を務めている「Vermilion」の顧問まで兼ねている火邑先生は、本格的な火消しになる前までは有名な進学塾で授業もして、なんとあの理事長さんと「灰島」から積極的に推薦した逸材だそうです。
「鬼」の遠い親戚の種族である「焔人」である火邑先生と娘さんの火邑さんには「灰島」の「赤鬼」の血が薄く流れていて、実際、あのすみれさんとも血の繋がりがあるらしいです。
だから「灰島」は特に「消防庁」に協力的で、いろんな装備や物資を資源しているそうです。
地元の大学で教授をやっているお父さんがいる私と似ていて、火邑さんに一段と親近感を感じるようになった私でしたが、
「あのテロは「大家」が関わっていた事件で、多くの犠牲者が出たらしいです。」
火邑先生の右腕を奪い、先生から火消しのお仕事を辞めさせた事件が自分の素性に絡んでいることが分かった時はとても申し訳がないという気分でした。
御祖母様の「大家」が支援するテロ組織による攻撃から民間人を保護、救助する作戦を任された当時の火邑先生。
一般の消防官と違って火邑先生のような特殊消防官は軍人と一緒に現場に直接参加するため、救助訓練だけではなく戦闘訓練も受けているそうです。
そしてそのエリートの火消しの中で頭角を現していたのが「不動明王」と呼ばれた火邑先生ですが、作戦中、罠にかかって片腕を失って二度と現場には戻れませんでした。
崩れる建物の中、負傷した同僚たちと保護した民間人を守るために自分を犠牲にした火邑先生。
なんとか命だけは取り留めましたが、先生は崩れる残骸に右腕が潰れて、火消しのお仕事を続けられなくなりました。
でも先生はあの時の自分の選択を後悔することも、今の自分を惨めに思うこともせず、
「いつだって誰かを助けられる優しい人になるんだぞ、まつりちゃん。」
娘さんの火邑さんにそう言うだけでした。
そんなお父さんのことを尊敬して高校に入って「Vermilion」に入部したという火邑さん。
顧問には教師のお父さんが、部長には遠い親戚である灰島さんがいて、それだけでも彼女は「Vermilion」の中で特別扱いを受けましたが、彼女は自ら他の生徒と同じく扱って欲しいとお願いしたそうです。
灰島さんはそんな彼女の意思を尊重してそうすると約束しましたが、
「いや、まつりちゃんは「あかり」さんと俺の可愛い娘だからとことん可愛がってやると決めた。」
筋金入りの親バカである火邑先生は火邑さんの意見を受け入れくれませんでした。
「…火邑先生ってああいう性格だったんだ…
なんかクールでちょっとむっつりした人だと思ったのに…」
高校に入っても未だにちゃん付けで呼んできて、危ないからって訓練にも参加させてくれないという父。
もちろん「Vermilion」のことは殆ど灰島さんが主導しているから結局、皆と一緒に訓練を受けるようになりますが、どうやら先生はそれが少し不満だそうです。
ストイックでクールなイメージのあの先生が自分の娘さんのことにはマジになるっていうのは少し想像しがたいですが、とにかく先生の娘さんへの愛情の大きさが分かるような瞬間でした。
そんな火邑さんから大好きなお父さんの腕を奪ったのが自分の素性に関わる「大家」という呪であることが分かった時、私はたとえそのことに直接的な関係がなくても良心が咎めるような、とてもむしゃくしゃで面目がないという気分でした。
今更隠す気はありません。
でも「大家」が自分の素性であって、「鉄国七曜」が自分の祖母であることを知った以上、私は「大家」に関わる全てのことに自分が無関係とは言えません。
ゆりちゃんは別に私が悪いことをしたというわけではないから、そのことに罪悪感を持つ必要はないと言ってくれましたが、どうもそのむしゃくしゃな気持ちだけはなんとかできませんでした。
この平和な世界から見たら「大家」は疑いようもない悪。
世界各地で起きる一連のテロ事件には必ず「大家」が関わっていると言っても過言ではないほど、「大家」の裏の世界での影響力は絶大。
そしてその血を引く私もまた…
「みもりちゃん?どうかしましたか?」
「あ…!うん…!なんでもない…!」
っと私のことを少し心配そうに見つめてくるゆりちゃんの声に気がついた私は何でもないと、自分の嫌な気持ちをごまかしてしまいましたが、
「私もいつかあんな人になっちゃうのかな…」
その漠然とした恐怖だけはどうすることもできませんでした。
「はい、皆。席について。」
まもなく教室に入って授業の始まりを告げるきれいな声に、私達の視線は一斉に集まって、
「出張の火邑先生の代わりに今日の共同授業を行うことになった「石川ダイヤ」です。
皆、よろしくね?」
教室の前で私達の方に満面の笑顔を向かっている白銀のように真っ白できれいな一人の女性を見るようになりました。
それと同時にほんの一瞬だけ眼差しが揺れてしまう火邑さん。
でもそうなるのも無理ではないということであるのを私達はもう知っています。
だって彼女、うちの担任の「石川ダイヤ」先生は火邑さんと何らかの因縁を持っている「石川金剛」さんの実の母親、つまり本物の家族だからです。




