第125-3話
いつもありがとうございます!
「ただいま、みもりちゃん。」
「あ、ゆりちゃん…!おかえり…!」
ようやく授業準備が終わって、やっと私のところに戻ることができたゆりちゃん。
臨時の学級委員とはいえちゃんと責任を果たしたいというその真面目な精神は称賛に値すると、私は心からゆりちゃんのことを尊敬しています。
普段は、
「みもりちゃんの潤った腋でおにぎり握ってちょうだい♥」
って感じでふざけたりセクハラしたりすることしか考えないように見えますが、
「ではそちらの件はお任せします。」
仕事モードのゆりちゃんはいつも真剣で、たるみがなくて本当にかっこいいです。
中学校の時は生徒会長、高校生になってもなお次の生徒会長になるために日々努力しているゆりちゃん。
どんな大変な仕事も文句の一言も言わずテキパキこなして、完璧に処理するゆりちゃんのことを皆すごく頼っている。
自分も壇上の上で、大勢の前で堂々と自分の考えを述べるゆりちゃんを見て何度もドキッとしたことがあるほど、ゆりちゃんは子供の頃からずっと私の憧れでした。
そんなゆりちゃんの唯一の弱点が自分であることをよく分かっている私はちゃんとその気持ちに応えなければならない義務がある。
自分のためにゆりちゃんが何を犠牲にして、何を諦めたのか。
今、自分が当たり前のように享受している日常はゆりちゃんの犠牲の上に成り立っているのだから。
だからたとえ夢の中だとしても、ゆりちゃんには子供の頃からずっと夢見てきた「みゆ」ちゃんのことを叶えてあげたいのですが、
「でも絶対無理だよ…!だって私たち、幼馴染なんだから…!」
私の理性は最後まで私に思うがままに行動することを許してくれませんでした。
この前、ゆりちゃんがまたあそこに行ってしまったことで、私は改めてゆりちゃんの大切さが分かりました。
あんなおっかないところでゆりちゃんが自分のために何をして、自分の人生で何を諦めたのか。
きっと私のためだと、ゆりちゃんは喜んで、なんのためらいもなく差し出したのでしょう。
それにはちゃんとした報いがしたいって、そう思う自分ですが、
「でもやっぱり私にはできないよ…!」
結局、私はゆりちゃんのためになんの勇気も出せなかったのです。
あれだけ欲しがってたゆりちゃんの「みゆ」ちゃんのために何もできない自分。
ここが夢の中で起きたら全部忘れてしまうということが分かっても私の理性はいつまでも私とゆりちゃんの関係を幼馴染、もしくは家族に止めている。
本当はもっと、もっと伝えたい気持ちがあるというのに。
そんな私の悩みともどかしい気持ちが分かっているのか、
「はい♥みもりちゃん♥みもりちゃんの大好きなゆりちゃんの下着であやとりしましょう♥」
「なんで!?」
いつものように平然とした顔で性的なイタズラを仕掛けてくるゆりちゃんでした。
「みもりちゃん、緑山さん。」
「あ、クリスちゃん。おかえり。」
その時、ちょうどトイレから戻ったクリスちゃん。
私とゆりちゃんはクリスちゃんをいつもみたいに迎えましたが、
「お二人に紹介したい人がいます。」
そんな私とゆりちゃんにクリスちゃんは授業が始まる前に紹介したい人がいると言って、
「はい、まつりちゃん。こちらがみもりちゃんと緑山さんです。」
「ありがとう…!クリスちゃん…!」
私たちに後ろから出た一人の少女を会わせてくれたのです。
でもその少女の姿は、
「あなたは…」
まるで去年の記憶からたった今、飛び出て来たようにあまりにもはっきりしていて、
「確か去年の…」
私とゆりちゃんはしばらく呆然と彼女のことを眺めているだけでした。
「お…お久しぶりです。」
っと私たちに向けて照れくさく笑っている黒髪の少女。
私とゆりちゃんは去年、その少女に一度会ったことをよく覚えていて、彼女もまた私たちのことをよく覚えていたことが分かりました。
燃え盛る炎が揺らめいている黒い髪。
それはまるで竈を思い出させるほど熱くて、焚き火を見ている時のように心が落ち着いて、私は一瞬、その温かみのある神秘な髪の毛に魅了されてしまいました。
「手芸部」の部長でありながら、「Vermilion」の部長を務めている赤い目の「鬼」、「灰島菫」さんのような滑らかで美しい炭色のお肌と揺らめくオレンジ色の目。
鬼の遠い親戚と知られている魔界の「焔人」である彼女のことは今もよく覚えている。
あれは私とゆりちゃんが受験も終わって気晴らしのために行ったある作家さんの展示会のことでした。
「お…応援してます…!」
トイレの前で恥ずかしいような、嬉しいような表情で誰かに手紙を届けていた少女。
その展示会には特別に本人の作家さんが来ていて、彼女は憧れであるその作家さんに自分の気持ちを届けようとしていました。
でも、
「興味ない、そんなの。」
その作家さんはただそう言って、彼女の勇気を練り込んだ大切な気持ちを無下にしてしまったのです。
そしてその作家さんこそこの第3女子校に在籍している「百花繚乱」の副団長、筋金入りの魔界嫌いとして名高い「石川金剛」さんであることを私は知ってました。
あの時、彼女に自分の気持ちが拒絶されて悲しんで泣いていた魔界の少女。
泣いていた彼女を初対面の私とゆりちゃんが慰めてあげたのが去年のこと。
もう会うことはなくても彼女に悲しい記憶だけを持ち帰って欲しくなかった私とゆりちゃんは精一杯名前も知らない彼女を慰めて、なだめてあげました。
幸い彼女はなんとか元気を取り戻して、
「ありがとうございます…私、もう大丈夫ですから…!」
私とゆりちゃんにお礼を言った後、家に帰りました。
そして彼女が再び私とゆりちゃんの前に現れて、
「「火邑祭」です。
また会えて嬉しいです。」
初めて自分の名前を教えてくれた時、私たちはこの奇妙な因縁に改めて驚かざるを得なかったのです。
***
クリスちゃんと火邑さんは入学の時に知り合って、それからずっと一緒だそうです。
すぐ隣のクラスなのに今まで一度も会ってないのは、単にそれぞれのクラスに生徒が多すぎてお互いを見つけられなかっただけ。
しかもこの間までゆりちゃんとクリスちゃんの仲があまりよくなかったので、あまり紹介する機会がなかったというのがクリスちゃんからの話。
でも無事に二人が仲直りできて、ようやく親友の火邑さんのことが紹介できて嬉しいというクリスちゃんは、
「でもまさかまつりちゃんが去年会ったという仲良しの二人がみもりちゃんと緑山さんだったとは思えませんでした。」
自分が思わず導いてしまったこの奇妙な出会いに何度も驚いてしまいました。
それから私とゆりちゃんはクリスちゃんのおかげで再会できた火邑さんといっぱいお話をして、彼女が去年、私たちと同じ普通科としてこの学校に入学したことを知ることができました。
「実はまつりちゃん、来年には芸術科に行く予定なんです。
絵を描くのがすごく上手でして。」
っと火邑さんの得意は絵を描く美術であることを私たちに教えてくれるクリスちゃん。
でも来年に予定されている彼女の転科を早くも名残惜しいと思っているクリスちゃんはほんの少しだけ寂しい顔をしていました。
「だからあの時、石川さんの絵を見に行ったんだ…」
あえて言葉にはしなかったのですが、去年、私たちがあの展示会で一度でも火邑さんに会ったのは単なる偶然ではありませんでした。
絵が得意な火邑さんは画家として名高い石川さんにあこがれて、彼女に自分の気持ちを届けようとして、それを石川さん、本人に拒まれてしまった。
それはとても残念なことでしたが、もうそのことを火邑さんは気にしていないように見えて、私は内心ほっとしたのです。
でも私はやっぱり大切な気持ちが届かずに、そのまま悲しい記憶になってしまうことはとても嫌な気がして、
「どうしたんですか?みもりちゃん。」
「ううん…!なにも…!」
思わずゆりちゃんの方を見てしまいました。
「でも残念ですね。せっかくお友達になったのに起きたら忘れてしまうって。」
「そうだね。私だって火邑さんともっと仲良くなりたいのに。」
火邑さんには予めここが私の夢の中に作られた夢の世界で、皆は夢のチャンネルを通して私と繋がっていると教えました。
当然、最初の時はすごく驚いた火邑さんでしたが、
「さすがクリスちゃんです。すごいです、本当。」
すぐ状況を飲み込んで、改めてクリスちゃんの凄さに舌を巻きました。
起きたら全部忘れてしまう夢の空間。
そこで私とゆりちゃんに出会った火邑さんは今の記憶がなくなってしまうことにすごく残念がりましたが、
「大丈夫ですよ、まつりちゃん。」
クリスちゃんは案ずることは何もないと、全部自分が解決してあげると、彼女にそう言いました。
「みもりちゃんと緑山さんがまつりちゃんに出会ったこと自体嘘ではありませんし、ここでのことなら残してあげてもいいです。
私、それくらいはできますから。」
「いいの?クリスちゃん。」
「ええ。」
ここで私たちがまた出会って、友達になって、同じ時間を過ごしたことは忘れないようにする。
クリスちゃんは私たちのためにそうしてくれることを快く約束してくれました。
「ありがとう!クリスちゃん!」
「良かったですね!虹森さん!」
っとお互いの手を握って舞い上がるように喜んでいる私たちのことを穏やかな目で見ていたクリスちゃんは、
「これからも仲良くしてくださいね。」
ただそう言いながら新たにできた私たちの絆を祝福してくれたのです。
もちろん、
「じゃ…じゃあ、みもりちゃんのちんちんのことも…」
「ダメです♥」
ゆりちゃんの無茶苦茶な希望はきっぱりと没にする断固なクリスちゃんでした。




