第120話
いつもありがとうございます!
「あ、先輩。お疲れ様です。」
「みもりちゃんもお疲れ様ですー」
やっと仕事を終えて部室に戻った先輩。
今回、私達はオープンキャンパスの時の出し物の確認を実行委員として任されたわけですが一番頑張ったのは多分先輩だと私はそう思います。
実際、先輩はあの多い部を一人で全部回って私達の負担を減らしてくれましたから。
魔界の方もクリスちゃんがいて結構楽でしたし、私はあまりやることなかったかも知れませんね。
「黒木さんは一緒じゃないんですか?」
「クリスちゃんならもう部室に戻りました。」
「そうですか。一緒にお茶でもしようかと思いましたけど。」
っと今日の働きをねぎらうために細やかなお茶会を計画していたという先輩。
かな先輩と赤城さんはそれぞれチア部のことと生徒会のことで留守で、ゆりちゃんも赤城さんを手伝いに行ってますから今日ここにはいません。
つまり私は久しぶりに先輩と二人っきりというわけですが
「こうしているとあの時のことを思い出すな…」
私は改めて考えると先輩と出会ってから色んなことがあったんだな、ついそう思ってしまうのです。
あの日、偶然迷い込んだ部室で出会ったきれいな先輩。
音楽特待生というおっぱいの大きい桃色の髪の毛を持ったその3年生の先輩は私と友達になって、
「大丈夫ですよ、普通でも。」
私があの悪夢から抜け出せるように助けてくれました。
あの悪夢から完全に目を覚ましたわけではありません。
でも私は忘れかけてきた自分を愛する方法を思い出して、日常の大切さを改めて分かるようになりました。
皆とすごく楽しい毎日。
そのなんてこともない時間の中で、私は安静と安らぎを覚える。
そしてその幸福に包まれて、次の日を待ち望む。
そうしているうちにあの家での辛い記憶はどんどん楽しい記憶に上書きされて、徐々に薄くなっていく。
先輩が教えてくれたのはそういうものだったのです。
ゆりちゃんと一緒にまたアイドルができて嬉しい。
かな先輩と一緒に踊れて、赤城さんと一緒に歌を歌えて嬉しい。
先輩と一緒に精一杯アイドルを好きになれて嬉しい。
クリスちゃん、会長さん、青葉さん、すみれさん、寮長さん、ゆうなさんとゆうきさん、皆と知り合って毎日を楽しく過ごせて嬉しい。
かけがえのない幸せな時間。
覚めたくない幸福の夢。
でもこれが今自分の目の前にある現実であることを、あなたの時間はこんなにも幸せになれますと教えてくれた先輩のことが私は大好き。
きっと先輩もこんな私の気持ちに気づいて、一緒に喜んでくれていると私はそう信じていました。
「どうしたんですか?みもりちゃん。そんなにじーっと見つめて。」
私からの視線を感じたのか、なにか話したいことでもあるのかなと聞かれた時、
「あ…!す…すみません…!」
自分はただ慌てて何もないとごまかしてしまいましたが
「なにか相談して欲しいことがあったらいつでもマミーを頼ってください。
だって私達はもう友達ですから。」
そんな私のことを嫌がることなく、先輩はただいつもの温かい笑顔を向けてくれたのです。
不思議な人。
静かな部室の中でたった一人で輝いているようなキラキラで温かい人。
いつも春めいた空気に包まれて、私達を抱きしめて、慰めてくれるその人は私との関係を「友達」と言ってくれました。
それだけで私が彼女を手伝う理由には十分。
私は初めて先輩の「未来から来た」という秘密を知ったその日、必ず先輩のお力になると決めたのです。
そのために私はこれからももっともっと先輩と仲良くなる。
だって私は誰かの力になるのがすごく嬉しくて、先輩はもう私の大切で特別な人なんですから。
「はい、みもりちゃん。マミー特製ミルクティーです♥」
「あ、ありがとうございます。ってまた母乳入りなんじゃないですよね?」
「ど…どういう話なのでしょうか…?」
目…めっちゃ泳いでいるんですけど…
まあ、ちょっと変わった体質でたまに何考えているのか全く分からなくて困った時もありますが、基本誠実で心優しい人なのは確かです。
ゆりちゃんもなんか先輩に対しては焼き餅を焼きませんし、先輩なら大丈夫って思っているらしくて、ちょうど私が先輩に感じている感情に似ていると思います。
要するに無難ということなんでしょうか。
まあ、そこが気楽で触れやすいですから私的には助かりますが。
「でもやっぱり先輩のこと、もっと知りたい。」
前々からずっと考えていたこと。
先輩が未来から来た「未来人」であることは先輩の口から聞いて知っていますが、それ以外、私は先輩のことについて何も知りません。
前にかな先輩が言ってた通り、先輩は自分のことは殆ど話しませんから。
私が知っているのは先輩が未来から来たということとアイドルが大好きってことだけ。
先輩が上からの指示があって詳しい事情は話せないと言ってましたが、それでも私はやっぱり先輩のことをもっと知りたいです。
でも自分で言うのはやっぱりちょっと恥ずかしいですし、何より予め分かって欲しいとお願いした先輩のことを余計に困らせることになりかねませんから。
先輩に迷惑をかけちゃダメという気持ちとそれでも先輩のことを知りたいという気持ちがごちゃまぜになって拮抗していたその時、
「そういえば先、クリスちゃんが言ってたな…」
ふと頭に思い浮かんだクリスちゃんの話。
それを思い出した時、私は、
「これだ!」
そのひらめいたアイデアに自分でも感嘆せざるを得まなかったのです。
***
「私の夢?」
「はい。」
クリスちゃんは確かにそう言いました。
「今夜、私がみもりちゃんの夢に訪れます。
夢は心の窓や心象の鏡などで呼ばれることもあるし、みもりちゃんの無意識に内在している考えを垣間見ることができます。
私は私の知らないみもりちゃんのことをもっと知りたいです。」
「ええ…それはちょっと恥ずかしいよ…」
自分は今回のことでゆりちゃんのことをもっと知るようになって、今後は私のことをもっと知りたい。
これから普通に知り合っていくのもいいけど、
「みもりちゃんは私にとって特別な人ですから。
私はみもりちゃんの力になりたいです。」
どうやらクリスちゃんは他にも色々考えているようです。
「夢魔」であるクリスちゃんは自由に他人の夢に出入りできる。
その力は悪用されたら大変なことになるに違いはありませんがクリスちゃんにその意図はないということを私は親友として確信しています。
でも夢を、特に無意識のことを覗かれるのはさすがにちょっとした戸惑いを感じてしまいますね。
なんか変なことでも見せたらどうしようって…
「大丈夫です。年頃の女の子は皆そういうもんですから。
それに起きたら全部忘れますし。」
「…別にそういう意味じゃないんだけど…」
やたら慣れているみたいに見えるのは気のせいなのかな…
まあ、あんな感じでちょっとだけ迷った自分でしたが、
「うん、いいよ。」
私はこれはクリスちゃんにもっと近づけるチャンスだと思って快くクリスちゃんのお願いを聞き入れることにしました。
「嫌でしたら断っても構いません。
私はもうみもりちゃんと友達ですからお互いを知る機会はこれからもいくらでもありますから。」
っと気が進まなければ断っても問題ないとクリスちゃんはそう言いましたが、私だってクリスちゃんのことをもっと知りたい、これでクリスちゃんに私のことをもっともっと知ってもらいたい。
そう思って自分の夢にクリスちゃんを招待することにした自分でしたが、具体的なことまでは話してくれなかったのだから何をどうしたらいいのか、正直に見当もつきません。
クリスちゃんはただ寝れば分かるって言ってだけですし。
それに、
「私の力になりたいっていうのは一体…」
やっぱりその話…やっぱりちょっと気になるかも…
でもこれなら多分先輩の夢にも入れて先輩のことをもっと知ることができるかも知れません。
もちろん事前に先輩に説明して許可を得る必要はありますが。
そのために、私はまず自分の夢を持ってクリスちゃんの能力のことを知っておく必要がある。
だってクリスちゃんが私のことを知りたいと思ってくれるように私もクリスちゃんのことも、そして先輩のことももっともっと知りたいから。
「みもりちゃん。」
「ええっ!?」
って感じで少し考え込んでいた私に突然声をかけてきたのは、
「ど…どうしたの…!?ゆりちゃん…!」
私のルームメイトであり、子供の頃からずっと一緒だった大切な幼馴染である、ゆりちゃんでした。
というか顔が近い!
「寝る前に何をそんなに考えているんですか?」
「べ…別に何も…?」
ぐいっと顔を近づけて真正面から私のことを見つめているゆりちゃん。
鼻息が当たるほどの至近距離。
そっとしたそよ風のようにその甘い鼻息が鼻をくすぐる時、鼻の中をいっぱいにする濃厚な百合花の匂いがあまりにも気持ちよくて、ついドキッとしまうほどでしたが、
「久々の私と一緒に寝るのにどうして私に集中できないんですか?」
肝心の本人はちょっと不機嫌のようです。
透明な目を凝らして私のことをじーっと見つめるゆりちゃん。
学校に戻って初めて一緒に同じベッドで寝る大事な時間に自分に集中してない私のことがあまり気に入らないのか、ちょっと剥れ気味のゆりちゃんは、
「今…他の女のことを考えたりしました?」
鋭い質問で意外のところを突っついて来たのです!
「ち…違うよ…!ちょっと気になったことがあっただけだから…!」
「そうですか。まあ、どうでもいいですけど今はあなたのゆりに集中してくださいね?」
「が…がってんしょうちです!」
っと布団の中で私の懐に潜り込んでくるゆりちゃんを私はそっと抱き込んで、
「お帰り。ゆりちゃん。」
小さな声で私の傍で疲れた体を休めているゆりちゃんの頭をそっと撫でてあげました。
ここ数日、離れ離れになっていた私達はお互い寂しい夜を過ごしてきました。
こんなに広い部屋に自分一人だけという、そのあまりにも寂しい感覚は時々去年のことを薄く思い出させましたが、
「大丈夫…一週間だけだから…」
あの時と違って今回は一週経てばすぐ会える。
そう思って、
「枕元に緑山さんの写真とぬいぐるみって…」
「あはは。ユリユリと同じことをするね、モリモリ。」
「二人共、可愛いです♥」
「も…もう…ほっといてくださいよ…」
私はここ一週間、枕元にゆりちゃんの写真を入れといて眠りにつきました。
ちなみに私が寝る時に抱いているこのゆりちゃんぬいぐるみは、
「はい♥みもりちゃん♥マミーからのプレゼントです♥」
「これって…ゆりちゃんのぬいぐるみ?」
一週間も離れる私達のために先輩が作ってくれた大切なものなんです。
栗色の髪の毛と愛らしい目まで本物にそっくりなちびのゆりちゃん。
先輩はゆりちゃんにもこれと同じ、私の顔をしたちびのぬいぐるみをゆりちゃんに渡しといたと、そう言いました。
「うまく作れたかは分かりませんが、喜んでくれたら嬉しいと思います。」
っと照れくさく笑ってしまう先輩でしたが私は大事な宝物がもう一つ増えたと、
「ありがとうございます!先輩!一生の宝物にします!」
心から先輩の優しさに感謝をしました。
見事な出来栄え。
何より先輩の私達への心がいっぱい込められてこんなにも温かい。
ぬいぐるみなんて本当に久しぶりだったので私はこの特別なプレゼントを一生の宝物にすることにしました。
「ぬいぐるみですか?みもりちゃんの傍には私がいるんですから要りません。
というか、寝る時にみもりちゃんとずっと一緒って、羨ましすぎますから絶対ダメです。」
っと何度もぬいぐるみに対する反感をアピールしてきたゆりちゃん。
でも実際、私のぬいぐるみをもらった時、
「みもりちゃん…!」
ゆりちゃんはその場でギャン泣きになってしばらくあそこから立てられなかったそうです。
そしてその数日後、
「挿れるね…?ゆりちゃん…」
「はい…♥優しくしてください…♥みもりちゃん…♥」
ゆりちゃんが私とゆりちゃんぬいぐるみで変なお人形遊びをすることを目撃した私はしばらく自分のぬいぐるみも自分で預かっておくことにしたのです。
色々ありました、なんとか一週間の寂しい夜を耐えてきた私達。
私はゆりちゃんの苦しさをよく分かっていて、それはきっとゆりちゃんも同じはず。
私達はお互いの傍に帰ったことを心から喜び合って、そうやってお互いの傍で眠ることになりました。
そして目が覚めた時、
「え…?なにこれ…?」
私は目の前に起きた現状に全くついていきなくなってしまったのです。




