第116話
いつもありがとうございます!
謹慎中みもりちゃんには一切会えないという罰を与えられた私。
そんな私の寂しさを慰めるために毎晩夢の中で会いに来てくれたのが
「時間通りですね。」
つい最近まであんなに嫌がっていた黒木です。
「本当に規則正しい生活をしてますね、理事長って。」
「いくら説教が長引いても決まった時間には必ず寝させてくれますからね。」
今日で3日目。
毎晩決まった時間に寝付いて夢の中で彼女に会うのももうすっかり日課となりました。
透き通った青空。地平線の彼方まで広がっている百合のお花畑。
その真ん中には私達のお茶会のためのティーテーブルがあってその上には今まで黒木さんが味わってきた、そして他の夢から借りてきたあらゆるスイーツの幻がズラッと並んでいます。
完璧にコピーした味わい。いくら食べても現実の自分は絶対太らない。
これは一体なんという贅沢なのでしょう。
夢の中で作られた幻の空間。
「お邪魔します。」
私は毎晩ここで彼女と「みもりちゃん愛好会」主催のお茶会をしています。
着席する私の前に出される高級紅茶と一流のシェフが作った抹茶味のケーキ。
この香ばしい香りとケーキのふわっとした食感とほろ苦い味は本物となんの違いもありません。
「すごいとは知ってましたがまさかここまで再現できるとは…」
「えへへ…喜んでもらえて良かったです。」
何度見てもすごいと感心している私のことを微笑ましく見つめている黒木さん。
彼女は自分の「夢魔」としての力が大好きな「フェアリーズ」の役に立っていると思っているのかここ最近毎日が楽しそうに見えます。
そんな私の思っているのが全部見えているのか
「もちろん楽しいです。だってようやくみもりちゃんと緑山さんのお友達になれたんですもの。」
っとただ純粋に今の関係に満足感を表している黒木さん。
みもりちゃんのような彼女の素直な反応がまだ慣れてない私は
「か…勝手に見透かさないでいただけます…?」
そうやって不器用な照れ隠しで自分の気持ちをごまかしてしまったのです。
謹慎の間、私は一週間という短い時間の中で彼女の色んなことを知るようになりました。
一番好きな私達の曲がデビュー曲であった「Dreamer」で私達の真似がしたくて衣装まで買ってもらったことやライブを見るために雨の日に無理したせいで翌日風を引いたことなど私達は色んなことを話し合いました。
話せば話すほど私とみもりちゃんの「フェアリーズ」への思いが溢れてきて
「あなたはずっと見えないところで私達のことを支えてくれたのですね。」
私の彼女への感謝と親密感はぐんぐんまして行ったのです。
そんな彼女のために結成したのが
「「みもりちゃん愛好会」…ですか?」
「みもりちゃん愛好会」。
つまりみもりちゃんの、みもりちゃんによる、みもりちゃんのための同好会です!
思いついたのはつい最近のことでどうして今まで思いつかなかったんだろうと思わせるほどのグッドアイデアに間違いない。
そしてその第一の部員として最初に勧誘したかったのが
「良いんですか?私で…」
私達の恩人である黒木さんでした。
最初に誘った時、黒木さんはこの前までの私達の関係を考えて少し答えを迷いましたが
「はい。私で良ければ喜んで。」
最後には首を縦に振りながら勧誘を受け入れてくれて彼女と私は一緒に部活をすることにしました。
活動内容は至って簡単。
「みもりちゃんのことを愛して大切にすること。それだけで十分です。」
「なるほど。例えばどんな活動があるのでしょうか。」
っと律儀に例えまで求めて質問する誠実な黒木さん。
そんな彼女のために私はまず頭に浮かんだ簡単なことから例えとして話してあげることにしました。
まず毎朝起きたら枕元のみもりちゃんの写真に「おはようございます♥みもりちゃん♥」と挨拶して目覚ましのチューをすること。
食事の時も常にみもりちゃんのことを思いつつ、食材への感謝も忘れずよく噛んで食べること。
常にみもりちゃんに行動に気を配りながら何をするのか、どこへ行くのか把握しておくこと。
自分の愛を飾らずただひたすら真っすぐにぶつけて自分がどれだけみもりちゃんのことが大好きなのか伝えること。
天地万物その全てはみもりちゃんのために存在し、みもりちゃんのために成り立っている。そしてその源もまたみもりちゃんであることを常に心がけること。
他にもいくつかありますが一番大事なのはどこで何をしようと常にみもりちゃんのことを第一として思うことだと私は自分の信念のこもった掟を自身を持って唱えました。
「何かの宗教みたいですね…」
「なんですか?その目。」
一体どこが気に入らなかったのかいつからかほんのちょっとだけ「怖いね、この人…」って目をしている黒木さん。
どうやら彼女の中の私に対する認識が少し変わったみたいです。
ちなみに私は実際「みもりちゃん教」という宗教法人を立ち上げようとしたことがあり、お父様にその意見を届けましたが
「却下だ。」
その場でボツになってしまったのです。
そうやって私が学校に戻ったら早速同好会申請書を提出するつもりですがその前に私は後一人で何日かの地獄のような時間に耐えなければならない。
みもりちゃんがいないと私の精神は崩壊、制御が効かないほど気が短くなる。
中毒者のような症状を見せ、発作まで引き起こす。
みもりちゃんのことを心配させたくなかったので本人には大丈夫って伝えましたが私はやっぱりみもりちゃんのない長い時間に一人で耐えきる自身がありませんでした。
それはおそらく私が去年の恐怖から抜け出していないという証拠。
みもりちゃんだけが去年のことにまだ恐れを抱えているわけではないということでした。
二度とみもりちゃんのことを奪われたくない。
みもりちゃんが傍にいてくれなければダメ。
そんな思いが強ければ強いほどその反動としてみもりちゃんのいない時の恐れがその大きさを増していく。
その圧倒的な恐怖心には決して抗えないということを私は自分の身を持ってよく知っていました。
そんな私のためにこの夢の空間を用意し、招待してくれたのが黒木さん。
黒木さんは素敵なお茶会を用意してくれるところか
「おかえりなさい。ゆりお嬢様。」
なんとここでの私の世話をする私専用の専属「みもりちゃんメイド」まで用意してくれたのです!
漆黒のような、でもなお日光に照らされて燦々と輝く黒い髪。
心を癒やしてくれる爽やかな深緑の瞳。
胸の大きさ、安産型のどっしりしたお尻までどこをどう見ても私の知っているみもりちゃんに間違いない。
黒と白のメイド服がとてもお似合いであるなかなかのレアなみもりちゃん。
初めて彼女に会った瞬間、私はあまりの尊さに目が眩んでしまい、気が遠くなってしばらくあそこから動けなくなってしまいました。
食べ物の味の再現もなかなかのものでしたがまさかみもりちゃんのことまでこれほど完璧に作り上げられるとは。
しかも
「スンスンー…」
この百合花の香りと新緑の爽やかさ、みもりちゃん特有の独特な体臭、瞬きのくせや指の細やかな動きまで…
優秀すぎて逆に怖いくらいですね…
もし本物と見分けることができるのかと言われたらほんの一瞬くらいは悩んでしまいそうです…
もちろんみもりちゃんには自分にも知らない私だけが知っているくせや特徴ががいくつかあって私なら絶対当てちゃいますけど。
「こちらでのみもりちゃんは私の記憶と緑山さんの記憶を組み合わせて作った幻影ですから多分緑山さんの知っている情報はすべて入っていると思います。
というかそんなことまで知ったんですか…?しょ…処○膜とか…」
「当たり前でしょ?私のことを何だと思ってます?」
何当たり前なことを言ってるのでしょうか、この人。
みもりちゃんの初めては私に決まってますから毎日チェックするのは当然でしょ?
「それにしてもやっぱりすごいですね、黒木さんって…さすが「幻影王」と呼ばれる「ファラオ」です…」
「まあ、まだ正式に玉座を譲ってもらったわけではありませんし学生の身分で「王」と呼ばれるのはやっぱりちょっと恥ずかしいですけどね。」
っと何度見ても不思議だと感動している私に未だに「王」の称号が苦手だと率直な心境を明かしてくる黒木さん。
とか言っても彼女自身には「ファラオ」としてのプライドも、誇りも確かに存在しているとこの前私は副会長から聞いたことがあります。
「確かに自分に自身がなくて遠慮するところも多いですが自分の立場をよく理解している上であの子なりに「王」としての自覚もちゃんとありますわ。
やる時はちゃんとやるしっかりしたわたくしの自慢の妹ですのよ?」
あの気難しい完璧主義の副会長からそれほどの高い評価を受けている彼女。
副会長は黒木さんならきっと包容力のある強くて優しい立派な魔界の王様になってくれると信じ、自分も全力で彼女のことをサポートすると張り切っていたのです。
私は彼女の絆こそこの世界の支える大きな力になることを心から信じてやまなかったのです。
「今日もメイドのみもりちゃんは可愛いですね♥」
フリフリした黒と白のクラシックメイドの衣装を着て私の傍に立っているみもりちゃんを見たら何度もその美しさにうっとりしてしまう。
でもただ見た目だけが似ているわけではありません。
「あのね♥みもりちゃん♥パンツ見せてください♥」
「えええ…!?」
こうやって私が現実でもやりそうな無茶を言ったら見せてくれるこの初々しい反応♥
本物のみもりちゃんも確かにこんな感じでびっくりしちゃうんですもんね♥
「うぅ…ちょ…ちょっとだけですよ…?」
そして最後には必ず言うことを聞いてくれるところのも本物にそっくりです♥
「ガーターまでつけて今日のメイドのみもりちゃんは張り切ってますね♥
ご褒美として私がしっかり見届けてあげます♥」
「や…止め…!」
っと急に可愛いメイドにいたずらを仕掛けたくなった私が彼女のスカートの中に頭を入れたその瞬間、
「あ!また「私」で遊んでる!」
外の方から聞こえる懐かしい声。
聞いただけで胸いっぱいで愛しさが溢れて涙まで出そうなどこか胸がキュンとするその声。
「止めてよ…!「私」が困ってるから…!」
必死に私の体を引っ張って彼女のスカートの中から引き出そうとするか弱い腕。
でもそこから伝わってくる温もりはもうこんなに熱くて胸がこんなにグッとする。
そして外に出て見上げたそこには
「元気だった?ゆりちゃん。」
いつものようにあなたが少し困りそうな顔で笑っていました。
黒木さんが用意してくれたのはただ楽しいお喋りができるお茶会だけではありませんでした。
たとえ罰としてもお互いから離れたくなかった私達。
まるで七夕の彦星と織姫のように相思相愛する私達のために「夢」という渡橋を用意してくれた黒木さんはそうやって和やかな笑みでお互いの手を握っている私達のことを見ていたのです。




