第105-2話
いつもありがとうございます!
「朝倉色葉」。
「神樹様」の以前から神界に存在していた現存する神と言われている「神族」の一人である同時にこの第3女子校に新しく就任した新理事長。
本来魔界の「魔神族」と共に各自の世界で崇められていた種族でしたが救世主「光」によって顕現した「神樹様」に彼女達は自分達の神としての役目をすべて託し、普通の種族となって社会の一員となりました。
でも今でも心の支えとしてなお神界の人々を正しい道に導き、人々の安寧を祈ってー…
「…そんなPVみたいのは少し恥ずかしいから止めてくれないか…」
っと丁重に恥ずかしい自己紹介は終わりにして欲しいという理事長さんのお願いに
「あはは…すみません…」
私は決まり悪そうに頭を掻いてしまったのです。
かつて「開闢」と呼ばれた百年前、一度世界を救ったという大英雄。
そんな人に今から会えると思った私は心のどこかで彼女との出会いを期待していたかも知れません。
もちろん怒られるのはすごく怖かったんですが「神様」なんて初めてですから本当は内心一度会ってみたいなって思ったりして…
「神と言ってもそんなに大したものではない。だからそんなに緊張しないでくれ。」
っという理事長さんから頂いた温かい一言で私はほんのちょっとだけ自分を取り縛っていた緊張の綱を緩めることができました。
でもそんな理事長さんに
「に…「虹森三森」です…!この度は大変なご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません…!」
私はまず今回勝手に「影」なんかに行ってしまったことを謝罪しなければなりませんでした。
いくらゆりちゃんのためだったとはいえあそこは普通の人には足を踏み入れてはならない否定の地。
「神樹様」の恵みの光が届かないあんな場所に私達だけで行ってしまったのは確かな重罪でした。
退学はもちろん最悪の場合世界政府で働いているゆりちゃんのお父さんまで罷免になりかねないという状況もありえる。
それだけはなんとか防ぎたかった私は自ら今回の過ちを認め、反省することから始めたのですが
「反省しているのならそれで良い。」
思ったより理事長さんはあっさりと私達のことを許してくれたのです。
「怪我はなかったか。」
「あ…!はい…!」
っと私達の身を真っ先に案じてくれた彼女は
「全員無事だったらそうで十分だ。」
皆大丈夫だったという返事を聞いてすごくほっとしたような顔をするようになりました。
かつて彼女は教師だったという寮長さんの言った通り彼女は生徒のことを真っ先に思ってくれる立派な教師だったのです。
「ジンさんからの連絡もあってな。とりあえず退学みたいなことはないから安心し給え。
君達はこれからも勉学に励むがいい。」
っと普段お世話になっている「女将」さん直々の頼みでまず退学などのことはないということを私達に知らせる理事長さん。
その言葉に私はやっと一息つくことができましたが
「チッ…退学じゃなかったんですか…」
どうやらゆりちゃんはこの仕打ちがあまり気に入らないようです…
「とはいえさすがに何の処罰もないというのもなんだろう。」
「え?」
っともうこの件は終わりかなと思いきや突然私達に罰の代わりに別の何かを提案する理事長さん。
彼女は
「君達はいずれ社会人になる。なら自分の行動には責任を持つ姿勢を常に心得ておく必要がある。」
「ううっ…」
っと言い返せないほどの正論を叩きつけ、
「ここの全員には「オープンキャンパス」の実行委員をやってもらおう。そして「緑山百合」、君は明日から一週間私の家で謹慎だ。」
ゆりちゃんを除いたここの全員に例の「発表会」と一緒に行われる「オープンキャンパス」の実行委員を命じました。
部活の成果を外の人達にお披露目する例の「発表会」。
毎年行事が多いこの学校でも特に多くの注目を集めるこの行事は実は来年の入学生に学校のことを紹介するオープンキャンパスも兼ねている行事です。
第3女子校は世界政府付属の高校の中でも進学校の第1と共に特に人気のある学校なんですがだからといって何もしなくても自ずから生徒が来るってわけではありませんから。
芸術文化系として伝統と誇りを持っているからこそこの学校は皆に愛されて、私達にはそれを皆にお披露目する責任と資格があるということです。
「ほお。君は優秀な生徒だな。我が学校をこれほど誇らしく思ってくれるとは。」
「えへへ…」
このご時世、自分の学校などあまり知るもしないのにちゃんと調べたと私のことを優等生だと褒めてくれる理事長さん。
皆の前での突然の褒め言葉。
それに私は一瞬ものすごい照れくささを感じましたが神様に褒められるのは初めてだったので不思議なような嬉しいようなそんな気分だったのです。
「…本当、あの「七曜」にそっくりだな…」
でも彼女の口から御祖母様、「大家」の首長である我が祖母の「鉄国七曜」のお名前が出てしまったことに気が付かなかった私はあの時、自分の血筋に一歩近づける機会をそのまま逃してしまったのです。
「…納得できません…」
でもこの仕打ちが本当に気に食わなかったゆりちゃんはものすごい不機嫌そうな顔で罰として与えられた謹慎について不満を表しました。
「私、みもりちゃんと仲直りしたばかりなのにそれを突然と引き裂こうと…
これはもはや横暴と言わざるを得ません…」
「ちょっとゆりちゃん…!」
っと止める暇も与えず、ありったけの不満を並べるゆりちゃん。
これは絶対怒られちゃうと思ったその時、
「本当母にそっくりでこんな無茶なことをよくするな。君は。」
っと理事長さんはただ懐かしそうな顔でゆりちゃんのことを見ているだけだったのです。
「君の母も同じことを言ったことがある。遺伝というのは恐ろしいんだな。」
「お母様のこと…ご存知ですか?」
ゆりちゃんに問いに少し思い出に浸る理事長さん。
彼女は昔ゆりちゃんのお母さん、私はおばさんって呼ぶ「緑山ワンダ」さんの担任を務めたことがあるということを話してくれました。
「ちょうど君のように栗色の髪が綺麗だった生徒だった。
プライドが高くて負けず嫌いでまさに誇り高き「緑山」家の女の子だったがー…」
っと言いかけた理事長さんは
「何より優しさと一途の真っ直ぐで気高き性格を同時に併せ持った魅了的な女性だった。」
今も覚えているその高貴たる姿は皆の憧れだったとあの頃のおばさんのことを話しました。
そしてその真っ直ぐな性格をそのまま譲ってもらったゆりもまたあの頃のおばさんに劣らない素敵な女性だと私達にそう言ってくれたのです。
「なんですか…もう…」
突然の褒め言葉になんだかちょっと照れくさくなったようなゆりちゃん。
本人にはまだ気がついてないと思いますが実はゆりちゃんとおばさんって照れ方もほぼ同じなんです。
遺伝って怖いですね。
「君は…」
っとふと私達の後で微笑んでいる先輩の方へ移る理事長さんの視線。
その時、その黄金の目に映っていたのは
「なろほど。」
ただひたすらの懐かしさと慈しみだけであることにお私はなぜかなんとなく気づいていたのです。
でも彼女から特に先輩に話を掛けたことはありませんでした。
ただ寮長さんに
「相変わらずおせっかい屋だな、さき。」
いつまで経っても困ったやつって目で彼女のことを見ているだけだったのです。
「それと…」
っと最後にクリスちゃんのことを見つめる理事長さん。
「魔界王家」の姫であり「神官」も兼ねているクリスちゃんはこちらの神様と面識があって特に私達のような珍しいって感じはありませんでした。
「随分おてんば娘になったな、クリス。」
「あはは…」
っと久しぶりにあってご近所さんと話をするように普通に神様の理事長さんと会話しているクリスちゃんを見て私はさすがねっと思っちゃったのです。
「彼女は元気だったか。というよくあいつが許可したものだな。」
「ジン様のことでしたら大丈夫です。それと「にほ」様の件でしたら「アンジュ」ちゃんが。」
「アンジュまで巻き込んでたのか。勘弁してくれ。」
「あはは…すみません…」
っとこれ以上厄介なことは起こさないで欲しいという理事長さんに面目ありませんと謝罪するクリスちゃんと
「なるほど…そういうことでしたか。」
そこで一つ謎が解けたって言うゆりちゃん。
ゆりちゃんはクリスちゃんが単独であそこまでたどり着けたことがずっと気になっていたらしいですが
「お知り合いがいるとは聞きましたがまさかあの第1女子校の校長だなんて。」
やっとその正体を知ることができたそうです。
第1女子校校長「夜羽仁穂」。
元世界政府情報局局長であって魔界の神様「魔神族」の一員としてこの時代に住んでいる人なら知らない人がいないほど名前だけでも十分有名な人なんです。
それに加わったその娘さんである「夜羽杏樹」さんにまで協力を求めていたとは。
どうやらクリスちゃんはゆりちゃんをあそこから連れ戻すことに私達が思っていた以上本気だったようです。
「私から言いたかったのはこれで以上だ。謹慎中の授業は代わりに私が見てあげよう。」
「…みもりちゃんとの保健体育の授業がずっといいですけど…」
「別にそんな授業、やったことないよね…?」
っと理事長さん直々ゆりちゃんの勉強を見てあげるという話はすごくありがたいですがどうもそれすら気に食わないようなゆりちゃん。
そんなゆりちゃんに
「あ、言い忘れたが謹慎中に会いに行くのは禁止だからそのつもりで。」
きっちりととどめを刺す理事長さん。
その辺でゆりちゃんはギャンなきになってしまったのですが
「まあ、でも退学よりはずっとマシだろう。」
寮長さんのその一言で私達は与えられた現実をそのまま受け入れることにしました。




