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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第4章「みもゆり」
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第87-28話

いつもありがとうございます!

「今日もみもりちゃんがお父さんでちゅね。」

「えー?またー?」


不満そうな表情。

珍しくはっきりと拒否の意思を示してくるみもりちゃんの反応に私は一瞬ムキになってこう問い詰めるようになったのです。


「なんでちゅ?嫌でちゅか?みもりちゃんはわたちのことが大好きでちゅからわたちの言う通りにしなければならないでしょ?違いまちゅか?」


いつもの幼稚園のグラウンドでのおままごと。

例の誕生日の件でみもりちゃんの優しさと同じ女の子であることも関係ないほどのかっこよさに目覚めた私はそれ以来すっかりみもりちゃんの虜になってみもりちゃんの傍にべったり付きまとうようになりました。

みもりちゃんがどこへ行っても必ず付いていって交友関係も好転しつつようになって毎日が楽しかったです。

でもその反動として自分の中にはもう一つの自我が芽生えて新しい足枷となって自分とみもりちゃんを縛り付けてしまったのです。


それはみもりちゃんのことに関しては自分は常に一番になること。そしてみもりちゃんの全てを自分が支配すること。

そんな子供遊びにおいてさえ私はみもりちゃんを自分の翼下に置きたくて仕方がなかったのです。

でもその日に限ってどうもみもりちゃんはいつものお父さん役がやりたくなくないと私に文句をつけて来ました。

あの時の私はみもりちゃんから拒まれたような気がして随分不機嫌になってしまったのです。


たとえみもりちゃんであってもお母さん役は譲りたくなかった。

私はみもりちゃんのお嫁さんでみもりちゃんには毎日私が作ったご飯を作ってもらいたいと私はずっとそう思ってました。

仮に子供達のおままごととしても私はみもりちゃんとの幸せな新婚生活をずっと夢見ていたのです。


「嫌だ!私、いつもお仕事ばかりだから!お仕事なんてもうやりたくないよ!」


でもその日、みもりちゃんはやけに意地を張ってどうしても自分がお母さん役をやると主張しました。


「私だってゆりちゃんにご飯も作ってあげたいし子守もしたいよ!夜遅く帰るのはもうたくさんだよ!」

「ダメったらダメでちゅ!どうして今日はこんなに駄々っ子なんでちゅか?」


そんなみもりちゃんに更にムキになって立ち向かった自分。

今ならあの時のみもりちゃんの偶には違う役もやりたいという気持ちが十分理解できますがあの時の自分はただみもりちゃんに拒否されたような気がして何を言っても微塵も耳を傾けない骨張りの状態だったのでそう簡単にみもりちゃんの要求を受け入れてくれなかったのです。


「みもりちゃんはいつもわたちの言う通りにしてくれるいい子じゃなかったんでちゅか?本当はただの意地っ張りのワガママばかりのお子様だったんでちゅか?

みもりちゃんには子守よりわたちだけの「みもり」ちゃんにしていればそれで十分でちゅ!」


今やあんなに大人しくて私の気持ちをよく理解してくれるとても成熟なみもりちゃんですがあの時のみもりちゃんはまだ幼稚園生に過ぎなかったのできっとあんな理不尽な扱いに耐える限度があったのでしょう。

でも幼い私もまたそんなみもりちゃんの気持ちを分かってくれないほどの単なる子供に過ぎなかったのです。


「ゆ…ゆりちゃんの方こそいつも自分のことばかりで全然私のことを考えてくれない悪い子じゃん…!私がどんだけ頑張ってるのかこれっぽっちも分かってない…!」

「そんな悪いことを言うみもりちゃんにはますますお母さん役はあげられないでちゅ…!」


友達になって初めての喧嘩。

それまで大抵のことは武力で解決してきた私でしたがさすがにみもりちゃんを相手に暴力を振る舞うわけにはいかなかった。

かと言ってこのまま大人しく役を譲るのもなんだか癪だったので私はただ自分の考えだけを優先してみもりちゃんのことを何度も責め立ててしまったのです。


「わたちはみもりちゃんと遊びたくてお母様に新しいおもちゃをおねだりして買ってもらったのになんでそんな悪いことばかり言うんでちゃか…!」

「ちょ…ちょっと止めてよ、二人共…!」


他の子からもう喧嘩は止めようと言われましたがあの時までみもりちゃんの「いや」という言葉を聞いたことがなかった私はその衝撃で何も考えられませんでした。

ただ二度とその可愛い唇から「いや」という言葉が出ないようにしてやるという考えで頭がいっぱいだったので私は周りの阻止にも関わらず更にきつくみもりちゃんを追い詰めました。


「弱いくせに…!みもりちゃんなんてわたちよりずっと弱いくせに歯向かわないでくだちゃい…!

みもりちゃんは黙ってわたちの言うことに従っていればいいんでちゅよ…!」

「何よ…!それ…!」


くだらないプライド。

今も多分そうですが私は昔から器のちっこくて度量の狭い人だったのです。

私は自分の気持ちを素直に明かすみもりちゃんのことを自分のつまらない自尊心のため傷つけてしまった。

私を信じて自分のありのままの気持ちを話してくれた自分にとって一番大切な子を初めて傷つけてしまったのです。


「人前ではすぐビクビクしてオドオドするくせに…!弱いみもりちゃんのことを強いわたちが守ってあげているというのに一体なんでちゅか…!その言い方…!」


それはみもりちゃんとの喧嘩で私がよく使う言い回し。

私はみもりちゃんとの間で揉めことが起こる度にその言葉でよくみもりちゃんのプライドに傷をつけました。

なんと卑劣で卑怯なやり方なのか。私はつくづく自分の浅ましさに驚かされてしまいます。


みもりちゃんが自身を失えば失うほど私に縋るようになる仕組み。

実際ある程度効果はあって中学校に入る頃にはもはや依存症と言ってもいいほどみもりちゃんは私に自分の殆どを頼るようになっていました。

私がどれほど生徒会長の仕事や個人的な用事で忙しくてもみもりちゃんは常に私だけを見ていて私の帰りだけを待ち望んでいて私は自分が我ながら実に悪魔的な発想なのか、そう思うようになりました。

一番おっかないのはそれを私は幼稚園の時から思いついたということ。

私はそれを自由自在に使いこなしてみもりちゃんを自分のものにしようとしました。


あまり良くない方法ということは承知の上でした。

実際みもりちゃんはそのせいか結構長い間自分のことにあまり自身を持てなくてそれは去年あの家に攫われた時、爆発的に悪化してしばらく病院生活を続けなければなりませんでした。

本当のみもりちゃんはもっとすごい人なのに私はただ自分の傍にみもりちゃんを縛り付けておくためにそれが発揮できないようにみもりちゃんの心の芽、可能性というものを踏みにじってしまった。

でもこれでみもりちゃんのことを独り占めできれば私は世界から罵られて貶されても構わない、ずっとそうやって自分の決意を固め、言い聞かせて周りから目を背けて来ました。

無論みもりちゃんの気持ちからも…


もし私がちゃんと自分の魅力を持ってみもりちゃんに愛されられる人だったら、ちょうど目の前の黒木さんのように強い人だったら私はみもりちゃんを傷つけることなくずっとあの子の傍にいさせてもらえたんでしょうか。


でも本気でみもりちゃんを自分の傍に縛り付けようと決めたのはあの時のことがきっかけでした。


「なんで…なんでそんな酷いことを言うのよ…ゆりちゃん…」


みもりちゃんが私がいなくなることを恐れていたのではない。

本当は私の方がみもりちゃんが自分の傍から離れることを恐れていただけです。


「もういい…ゆりちゃんなんて知らない…」

「ち…違いまちゅ…みもりちゃん…わたちはみもりちゃんが嫌でそんなことを言ったんじゃ…」


急に泣き出してきたみもりちゃんの反応に早速戸惑ってしまった自分。


「わ…分かりました…!今日はみもりちゃんにお母さん役、譲ってあげまちゅからもう泣かないで…!」


っといくら自分が宥めても止まないみもりちゃんの涙。

みもりちゃんの泣き声にあっという間に他の子供達が集まってきてやがて先生も駆けつけてくるようになりました。


あの時、みもりちゃんが泣いたのはただお母さん役をやらせてもらえなかったからということだけではありません。

みもりちゃんは大好きな私に認めてもらえなかったのが悲しくて悔しくて泣いたのです。

仲良くなりたいと、お友達になりたくて頑張った対象である私から自分のことを見下しているような話を聞かれたのが悲しかったのです。


「あ…あ…」


でも幼い自分はそんなみもりちゃんの気持ちに気づいてあげられなくて


「ゆ…ゆりちゃん…!?どこへ行くの…!?」


その挙げ句、その場から逃げ出すという最悪の選択肢を取ってしまったのです。


もしあの時、ちゃんと謝って仲直りできたらあんな怖い思いはしないで済んだかも知れません。

泣いているみもりちゃんに「ごめんなさい」という一言ができたら私はあの恐怖を一生知らずに生きられたかも知れません。


でも友達と喧嘩なんてしたこともない自分はどう行動すればいいのかまともな判断もできずただあそこから逃げ出してしまった。

ただみもりちゃんのことを悲しませ、泣かせてしまったことが急に怖くなって泣いているみもりちゃんをほったらかして止める先生の声が聞こえないほど走り去ってしまった。

あの時は子供だったから、自分も混乱していたからなんてただの卑怯な言い訳に過ぎない。

ほんの短い時間だったが私は一瞬自分の命より大切なみもりちゃんを置いて一人で逃げてしまったことがどれほど自分を恥ずかしくしたのか。

その罰としてやがて私は思い知らされてしまいました。


「ここ…どこでちゅ…?」


いつの間にか足が止まってしまった見知らぬ町。そして傍にいないみもりちゃん。

自分のことを愛してくれる人が傍にいないという感情の限界を遥かに超えた原初的な恐怖。

その圧倒的な感情に押されてしまった私はただあそこで俯いて非力な涙を流すしかありませんでした。


「みもりちゃん…わたちが悪かったでちゅ…みもりちゃん…」


どんなに泣いてもあがいてもみもりちゃんは私を探しに来てくれない。

あの時、私は今の自分にとって一番怖いものが何なのか自分の身を持って恐ろしいほど思い知ってしまったのです。


そしてやがて気づいてしまったのです。

自分は自分が思っているほど強い人ではない。

みもりちゃんがいないと何もできない非力で無力なただの臆病者に過ぎたいということを。

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