第87-26話
いつもありがとうございます!
「みもりちゃんのこと…そんなに好きだったら何故横取りとかしなかったんですか?」
「ふぇ…?」
むしろ本命はこちら。
私が彼女に本当に聞きたかったのは私がいない隙に乗じて何故みもりちゃんとの距離を縮めなかったということでしたが
「あ…すみません…もう一回話してくださいませんか…?」
お取り込み中だった彼女はもう一度聞いてくれることをお願いしてたのです。
「も…もう…本人の前でパンツの臭いを嗅ぐのは止めていただけます…?それはあくまであなたがみもりちゃんの私物を持ってきてくれたことに対する私なりのお礼ですしこれ、一応死ぬほど恥ずかしいんですから…」
「あ…でも緑山さん、いつもみもりちゃんの下着を幸せそうに堪能していてそれってみもりちゃんに喜んで欲しいって思っているからではないかと思って私もこうすれば緑山さんに喜んでもらえるのかなって…」
「喜ぶって…」
見た目だけは可愛いのに随分ピントのズレた考えをしているんですね、この人…
もしかしてわざとですか?
「女の子の匂いがしてなんだかすごく落ち着きます…芳醇でほんのり甘くて…
それと以外に緑山さんって毛深かったりするんですね…こちらについている陰毛、私が頂いてもよろしいのでしょうか…?」
「ど…どうぞ…」
わざとでは…なさそうですね…
というか私今なんだかちょっとだけみもりちゃんの気持ちが分かったかも…
「い…言っておきますがみもりちゃんは特別です…みもりちゃんは私が何をしても愛してくれるしもっと自分を感じて欲しいって思ってるんですから…」
ってなんでなんという都合のいい人なんだろうって顔をしてるんですか、この人…
「あなたには分かりませんよ…みもりちゃんがどれだけ私のことを欲しがっていてその何十倍で私がみもりちゃんのことを求めているのか…」
それはまさに渇望、死に際に求める救いと言っても過言ではない強烈な欲望。
あの子のことならどのような些細なことでも自分のものにしたい、愛してあげる自身がある。
私は初めてみもりちゃんのことが好きになった以来、ずっとそう思ってきたのです。
だからこそ自分の前に現れた初めての恋敵には負けるわけにはいかないと思いました。
目に見えるものでけではなく、あの心も全部自分のものだから。
励ましてあげるのも、悩ませるのも全部自分でなければならない。
…なのに…
「私達のことを応援してくれるファンがいるんだ…私、本当に嬉しい…」
あの時、落ち込んでいたみもりちゃんを元気づけ、奮い立たせたのは自分ではなく彼女からの応援。
それがどれだけ私に絶望感と屈辱を与えたのか。
まるで自分の生きる意味も、あの子のために生きる時間も全てを奪われてしまったような空が崩れるような絶望に私はずっと藻掻き続けていました。
入学した時から彼女のことはよく知っていました。
こうなることも心のどこかで薄く予想できたかも知れません。
だからなるべくみもりちゃんには彼女に対する興味を持たせないようにして偶然でも顔を合わせることがないように常に気をつけていました。
もし彼女に出会ってしまったらきっと抑えきれなかった彼女の気持ちがみもりちゃんに知られて醜い自分の心が大切なみもりちゃんにバレてしまうから。
だから永遠にみもりちゃんを閉じ込めて二人で一緒に暮らせる「楽園」が欲しかった。
もう誰から邪魔されることも、みもりちゃんのことを取られたらどうしようという恐れもない二人だけの楽園が。
でも彼女は私にこう言ってくれました。
「あなたの楽園はずっとお傍にありました。」
っと。
それが誰のことを示しているのかあえて聞く必要もない。
でも私にはどうしても確認しておかなければならないことがありました。
みもりちゃんに対する彼女の気持ちは私とそう変わらないもの。
みもりちゃんは彼女のことを大事なファン、大切な親友として思っていると思いますが私には分かる。
みもりちゃんと一緒にいる時の彼女は魔界の姫では単に恋に落ちた一人の少女の目でみもりちゃんのことを見ていたのです。
その恋に満ちたアメシストのような目がどれだけ私の心を揺さぶって惑わせたのか。
でも彼女はあの時の自分のことをこう話してくれました。
「でも私が見ていたのはみもりちゃんだけではなかったんですから。」
自分の目にはみもりちゃんだけではなく、もう一人の少女のこともちゃんと見ていましたと。
「確かにみもりちゃんのことは好きです。初恋と言ってもいいほど好きです。
おこがましいですがきっと緑山さんの気持ちとそう変わらないと思います。」
偽りのない素直で率直な気持ち。
ただ私のことを説得し、懐柔して元の場所に戻らせるためではなく、彼女は心から私と会話がしたくてここに来たということが分かる瞬間でした。
「みもりちゃんがいてくれたおかげで私はあの永眠の恐怖に飲み込まれず耐えることができました。
それにはちゃんと感謝していていつかお礼もしたいです。」
でもあの頃の自分を支えてくれたのはみもりちゃんだけではない。
そう言いながら私の手を握ってくれた黒木さんは
「ずっと言いたかったんです。支えてくれて、歌ってくれて本当にありがとうございました。緑山さん。」
やっとお礼の言葉ができたと少し照れくさく微笑んでいました。
重ねた手からぐっと伝わってくる熱さ。
高い体温に更に熱い気持ちが乗せられて身も心ももうこんなにポカポカになっている。
何よりその紫色の瞳から流れてくるあの子に似た優しさに私はやっと気づいてしまいました。
「じゃあ、あなたは私のこともずっと…」
っと聞く私の言葉に彼女はただ静かに頷くだけだったのです。
気づいてあげられなかった気持ち。
いや、おそらく心のどこかで目を背けようとした気持ち。
私はみもりちゃんとの大切な「フェアリーズ」の存続に関わっている彼女の気持ちを長い間放置し、ぞんざいにしていたのです。
憧れの人から疎まれ、憎まれ、嫌われてその挙げ句、その気持ちさえ否定されてしまった惨めさ。
それでも彼女はなお勇気を出して私と向き合おうとしていました。
「ずるいじゃないですか…こんなの…」
そして私は只今、同じ相手から二度目の屈辱を与えられてしまったのです。
自分がせこい人というのは承知しています。
お父様からはいつももっと心を広く持ちなさいと言われていて自分でも自分のちっちゃい器にそれなりに悩まされているつもりです。
でもこんなんじゃ私だけが一方的に悪者になるのではないですか…
初めて思い知らされた人としての格。
今まで一度もぶれたことのない自分に対しる確信が一瞬だけ揺さぶった瞬間、私はふと鏡に映った自分の姿がとても褪せているように見えました。
でも彼女はこんな私のことをあざ笑うことも、見下すこともせず
「それでもあなたは私の永遠のアイドルなんですから。」
ただそう言いながら悔しさに震え、涙を流している私を優しく抱きしめてくれるだけだったのです。
そして私の耳元でささやくその甘い音声は
「結局私はお二人の仲には入れませんでしたから。」
少し憂鬱そうな口調でそっと自分の気持ちを表したのです。
「みもりちゃんが緑山さんのために焼いたクッキーのこと、覚えてますか?」
っとこの前、みもりちゃんが焼いてくれたクッキーのことを聞いてくる黒木さん。
私はみもりちゃんが私と仲直りしたくてそれを焼いてくれたことも、その場に彼女が一緒だったことも知っていました。
みもりちゃんが私のことを思いながら大切に焼いてくれた抹茶チョッコクッキー。
豊かな渋みの抹茶味を優しく包み込むほんのりした甘み。
焼き具合も程よくて形にも十分念を入れ、可愛いラッピングまで施したみもりちゃんの心がいっぱい込められた絶品の一皿。
両親が忙しくて幼い頃から家事全般を担っていたみもりちゃんの腕前と私への気持ちを覗える見事なお菓子に私は心から感動しました。
まあ、陰毛一つや二つくらいは入れてくれても良かったんですが何も入ってないというのは少し残念でしたね。
全部食べちゃうにはもったいなくていくつか密封して保管しておこうかとも思いましたがせっかくみもりちゃんが焼いてくれたものですから自分もそれにふさわしい食べ方をしなければならないと思って
「オ○ニーしながら食べました。」
「あ…はい…知ってます…」
っと言われるまでのことでもないと言う彼女の話。
彼女が私の監視役として数日前から私の周りで見張っていたのは気づいていましたがまさかあの家でみもりちゃんに自分の愛を注ぎ込んだ時に感じた凄まじい欲情がそれを見て興奮してきた彼女が原因だったとは…
彼女いわく
「「夢魔」はいわば「媚薬の塊」のような存在ですからね…興奮する時ににじみ出る汗とか唾液自体が相手を欲情させる惚れ薬で呼吸だけではなく皮膚からも吸収されるから…
さすがに私は恥ずかしいからあまり人前では興奮したりはしませんけど…」
夢魔は相手を誘惑することに特化した種族であらゆる方法で相手の性欲を高めさせることができる。
その中で興奮する時に出る体液には催淫剤と同じ、いやその数倍は強力な成分が多く含まれていて一度浴びただけで理性が吹っ飛んでしまうほどらしいです。
それをあんな狭い部屋で浴びまくった私がみもりちゃんを前にして耐えられるわけがないと彼女はそう説明しましたが
「なるほど…どうりで急にみもりちゃんのことを犯したくなったわけです…」
「それ…いつもそう思っているのでは…?」
彼女は多分私はみもりちゃんのことに対しては年中発情期と言いました。
「というかあなた…もしかしてあの時…」
「あ…はい…」
っと真っ赤な顔であの時にオカズにしてしまって申し訳ありませんでしたと謝る黒木さん。
ってことはやっぱりこの人、あの時、私とみもりちゃんのことを見てオナ○ーしたってことですか?
見た目は大人しいのに随分大胆なことをしますね、この人…
「みもりちゃん、すごく真剣になって緑山さんに渡すクッキーを焼いたんです。
緑山さんに届けたい気持ちがあるから、ちゃんと仲直りしたいからって一生懸命になって。」
でもそのクッキーの中にはただ私へのみもりちゃんの気持ちだけが込められていたわけではないということを私は今の彼女の話から分かることができたのです。
「私、あの時のみもりちゃんを見て改めて分かったのです。ああ…やっぱりこの仲に私の入る場所はないんだなって。」
少し憂鬱そうな、そんな寂しい表情であの時に見たみもりちゃんのことを思い出す黒木さん。
「結局みもりちゃんは緑山さんのことを、緑山さんはみもりちゃんのことを。
お互いのことを強く思っている。私にはあまりにも尊くて愛しいその光景が却って自分を傷つけしまった時、私は寂しくて仕方がなかったんです。」
端から心配することもなかったみもりちゃんとの絆。
黒木さんはそれを自分の目で確かめた時、多分私が彼女から受けた初めての屈辱や敗北感と等しい絶望を味わったと彼女の寂しい目を瞬間の自分はそう気づいてしまいました。
そして彼女は私はこう言いました。
「最初から緑山さんが「楽園」を求めてここに来る必要も、私のことをみもりちゃんに接続させないために頑張る必要もなかったんです。
あの子の心はとっくに昔からずっとあなたのものでした。」
今でも倒れそうなか弱くて切ない顔。
彼女は最後まで自分の絶望について詳しく話しませんでしたが私は初めて彼女のことを心から同情するようになりました。
そしてその同時に彼女の真剣さに敬意の念を抱かせられました。
どうもがいても、求めても報われようもない恋心。
行き先を失ってしまったその気持ちはただ虚しく移ろい、さまようだけ。
それでも自分の大好きな憧れの人達の幸福を心から願って偽りも、戸惑いも消し去ってその気持ちを私にぶつけてくる。
私には到底たどり着けなかった勇気の彼方に彼女は既に足を踏み入れていたのです。
それこそ屈辱の正体。
胸がこがれてしまうほどの、腹の底から炎が吹き上がるほどのその悔しさに私は自分を抑えずこう言ってしまったのです。
「…やっぱりずるい人ですね…あなたという人は…」
自分だったら耐えられなくてどこかおかしい方向に爆発させたはずの気持ち。
それをうまく往なして治める彼女の大きい器に思わず感服してしまう自分がいる。
「えへへ…よく言われますよ、それ…」
そしてこんな器の小さい私を見てあの子と同じ笑顔で笑ってしまう彼女のことが未だに気に食わない自分は
「…まだやり直せるのでしょうか…」
いつの間にかみもりちゃんではない他人に初めて自分の本当の気持ちを明かしていたのです。




