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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第4章「みもゆり」
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第87-23話

いつもありがとうございます!

子供の頃の自分は特に体の弱い子でした。

世間には私達「夢魔(サキュバス)」は性欲の象徴として旺盛な生殖活動をしていると思われていますがそれと関係なく夢魔の生殖機能は非常に低くて産める子供の数は限られています。

それも進化を重ねた結果の一つだと私はそう教わりまして実際私には兄弟が一人もいませんでした。

仲良くしてくれる親戚の子は何人かいましたが体が弱くてあまり外で遊ぶことはできなかったのです。


4歳の頃、両親と使用人達と一緒に遠いところまでピクニックに出たことがあって


「クリス…!どうしたの…!?」

「医者…!医者を呼んでくれ…!」


そこでいきなり倒れてから両親はあまり私を外に行かせてくださらなかったのです。


お医者さんは


「誠に申し上げにくいのですがこの調子だとお姫様のお体は長く持っても6歳まで…」


っと両親だけにそう伝えてお母様は衝撃で1ヶ月も寝込んでしまいました。

私は特に持つまで時間がかかって様々な困難があった子だったのでお母様の衝撃は計り知れないほど大きいものだったのです。

お父さんは体に良い物なら何だって取り寄せて試してくださったのですが私の病気は自分の能力によるものだったので病状に何の進捗もありませんでした。


自分の能力「鏡」は夢の中のみならず現実の世界にも干渉できる強力な力ですがそれゆえに大きな代償を要しています。

今は改善に改善を積み重ね、修行の成果としてちょっとだけ性欲が強まる程度で抑えるようになりましたがあの頃の自分は体も、精神力もそんなに強いわけではなかったのでいつその力に飲み込まれてしまうのか分からず、常にその力に怯えていました。


もし一歩間違えたら二度と夢から目が覚めなくなってしまう。

仮に力の使い方が分かってもその力を完璧に受け入れられない限り私は6歳になる前に死んでしまう。

それだけで私は一度も自分が望んだことのない力による死の恐怖に常に恐れるに十分だったのです。


そして王位を継ぐ代わりの子がいなかったため一家の間では既に誰が代わりになるのかの見えない神経戦が繰り広げてたのですが皆「守護王」と呼ばれたお父様のことを恐れてむやみに出ることはできなかったのです。


その頃、お父様は私の療養のため1年ほど他所の町で暮らさせることを計画なさってました。

醜い権力争いから私のことを離して守るためにお父様はお母様と話し合って私を魔界ではなく外へ行かせることにしました。


「あそこはとてもきれいで素敵な町だ。若い頃、お父さんもあそこで面倒を見てもらったことがあってな。

お前と別れるのは寂しいが一度こういう機会も必要だと思って。

新しい環境でゆっくりすればいい気分転換にもなるだろう。」


っと思いっきり私のことを抱きしめてくださったお父様。

でも私はあの時、お父様のお体がすごく触れていることになんとなく気が付いていました。


行き先はお父様もお暮らしになったことがある神界と人界の堺にある小さな町。

一緒に行くのはお母様と護衛の人達、使用人達だけ。私が療養に専念できるように特殊対応のタスクフォースまで組織されて王位争奪絡みの関係者は一切近づくことも、覗くことすらできませんでした。

おかげさまで私はとても静かに暮らせたのですが


「私…このまま死んじゃうのかな…」


私は常に死の恐怖に怯えていたのです。


話し合う友達もいない寂しい生活。

見慣れた魔界とは違ったきれいな町並みは私のことを一時的に新鮮な気分にはさせてくれましたがその寂しさだけはどうすることもできませんでした。

実家にいた時に偶に遊びに来てくれた親戚の子達も王位争奪戦に巻き込まれて会えなくて私はいつも家に引きこもって本か、それともゲームばかりでした。

偶にはお母様と一緒に森まで出かけることはありましたが体が弱かったせいでそんなに遠いところまでは行けなかったからまもなく私はその生活に飽きてしまったのです。


限られた退屈な生活。そして毎晩私を襲ってくる死の恐怖。

お父様は療養とおっしゃいましたがその環境は却って私のことを蝕んで病ませるだけだったのです。

そんな私のことをお母様はすごく心配しましたがお父様のご命令で私と会える人は限られていてどうすることもできませんでした。

私はただお母様の懐でいつか訪れる死を怯えながら待つことしかできなかったのです。


その頃、私は偶然出会ってしまいました。


「こんにちは!「森の妖精」みもりちゃんと!」

「「山の妖精」ゆりちゃんですー」


自分の今までの人生を、そして今からの人生その全てをひっくり返してくれる存在に。


「あら。この子達って確かー…」


いつか偶然テレビで見かけた可愛い少女達。

自分と同い年に見える彼女はここの地元で活動しているロコドル「フェアリーズ」、今のみもりちゃんと緑山さんだったのです。


元気で明るい笑顔が素敵だった黒髪のみもりちゃんとしおらしくておっとりした雰囲気が魅力的だった栗色の緑山さん。

初めてお二人のことを見かけた時、私はなんと素敵な組み合わせなんだろうとそう思うようになってしまったのです。


「緑山」家はその当たりの地域において一番偉い一族。

そんな家系の跡取り娘さんがアイドルをしていることにはいささか不可解の念を抱えてしまう自分でしたが


「可愛い…」


はっきり言って私は彼女達に一目惚れしまったのです。


その可愛い歌声は聞いている人達に元気を与えてくれてそのキラキラな笑顔は嫌な気分を一気にふっとばしてくれるほど温かい。

何より皆のことを元気づけたいというその優しい気持ちがこんなにも胸いっぱい強く伝わってきてただ見ているだけで体が震えてウズウズしてしまう。


「お…お母様…!この方々は一体…!」


っと慌てて彼女達のことを聞いてくる私のことに少々驚かされたお母様でしたが


「この子達はアイドル。可愛いでしょう?」


お母様は心を込めて私に彼女達のことを教えてくださいました。


それから私は彼女達のことをもっと知りたいと思うようになって「フェアリーズ」に関するその全てを片っ端から調べ尽くすようになったのです。


「なるほどなるほど…」


市役所の公務員で働いているみもりちゃんのお母さんの主導によって結成されたローカルアイドル「フェアリーズ」。

メンバーは仲良し幼馴染のみもりちゃんと緑山さんでそれぞれ「森の妖精」、「山の妖精」と名付けられてステージに立っている。

自然と共に町の人達に寄り添っていくというフレッシュで親しみの溢れるコンセプトで活動している彼女達。

私は特に元気な歌声と愛くるしくて弾ける笑顔が持ち味だったみもりちゃんが推しでしたが穏やかでなど堂々とした緑山さんのことも大好きでした。

そしてその出会いは私の毎日は一気に変えてくれたのです。


彼女達の歌から生きる勇気と元気をもらった私は毎晩みもりちゃんと緑山さんに会う夢を見ました。

会ったことのないお二人でも夢の中でならいつだって会える。

そう思っているうちに私はどんどん能力の使い方を自然と身に付け、自分の力を恐れないようになりました。


もう自分のことから目をそらさない。

ちゃんと向き合ってもっと未来に向けて歩いて行こう。


やがて完全に自分の本当の力に目覚め、受け入れた時、私は次の「ファラオ」、「幻想王」として皆から認めてもらうようになったのです。


一つ些細な問題があったとしたら


「なんでしょう…お二人のことを思ったらこんなに体が熱くなって腹のそこがウズウズします…

なんだか大切なところがくすぐったい気分で…」


芽生えてきた新しい感情のことに気づくのが少し早くなったことなのでしょうか。


「えへへ…みもりちゃん、可愛い…ゆりちゃん、可愛い…」


その頃、すっかり「フェアリーズ」オタクになってしまった自分。

でも私はいくらお二人のことが大好きで会いに行くことはできなかったのです。


陰キャの自分と違って「フェアリーズ」は本物の妖精のようにキラキラ輝く存在。

こんなみっともない自分なんかがファンだってことがお二人に知られてしまったらきっとがっかりしてしまう。

そう思った自分は何度も彼女達に会わせてあげるというお母様の提案を拒み続けましたが


「こ…ここで待ってれば会えるのでしょうか…」


結局そのしつこい説得に敗れた私はついに自分の足で彼女達に会いに行きました。


そして本物の緑山さんに出会った時、


「私達のファンだなんて…本当に嬉しいです…」


私は会いに来て本当に良かったとそう思うようになりました。


不人気だった地元アイドル。

自分達が地元のために何もできていないと思っていた彼女達。

活動の活力を少し失って落ち込んでいた彼女達に自分が少しでも力になれたというその事実だけで私はすごく嬉しかったのです。

こんなちっぽけで何もない私なんかでもちゃんと彼女達の役に立っている。

そう思ったら私もまたいつまでも彼女達のファンを続けられそうな気がしたのです。


でもその幸せな長く持ちませんでした。


「みもりちゃん…今日もすごく可愛いな…」


それからちょくちょく彼女達の仕事場を見に行くようになった私。

あまりにも尊くて直接会うことは叶わなくてもこうやって陰から見守ることならできる。

今までの自分だったら不可能であったことが一つ一つできるようになるのが楽しくてワクワクして仕方がない私でしたが


「でも緑山さん…こっちをすごく睨んでいる…」


突然変わってしまった緑山さんの態度にはどうしたらいいのかただ戸惑ってばかりでした。


初めてはあんなに喜んでくれた緑山さん。

私のファンレターをすごく大切に受け止めた彼女の感動に満ちた顔はあの時だってはっきり覚えていたはず。

彼女は私に


「私…いや、私達、もっともっと頑張って歌います…止めずに大きな声で歌います…応援に応えられるように頑張ります…」


っと歌うことを止めないと約束してくれた。

私はそんな彼女の言葉を信じて自分もまたファンを続けることを約束しました。


あの時に交わした約束を彼女が破るはずがない。

そう信じようとしても何故自分が彼女にそんな目に見られなければならないのか分からなかった。


「あれは完全に私のことを敵にした目…」


明らかな敵意。

何故、どんな理由で彼女が私にそんな気持ちを向けるようになったが正直に私は先程緑山さんから本当の話を聞く前までは見当も付きませんでした。


彼女が怒るのはいつだってみもりちゃんに関することだけ。

みもりちゃんのことを愛しすぎたせいで生まれてしまった憎しみと妬み。

それが分かった時、私はほんのちょっとだけほっとしてしまったのです。


「あぁ…この人は相変わらずみもりちゃんのことが大好きなんだな…」


っと。


その本当の気持ちが分かった瞬間、私はやっと暗いトンネルから抜け出せたようなスッキリした気分になることができました。

まだ自分が彼女に許されていなくてもあの二人だけは未だにお互いのことを愛し合っているということが分かるようになりましたから。

たとえその中に自分の存在はいなくても。


私の手紙が彼女達の元へ届くことは二度とありませんでした。

緑山さんは一度も私と言葉も交わしてくれなくて私は毎晩悩みに苦しんで涙を流しました。

自分が生まれ変われるようにしてくれた憧れの人達に憎まれ、疎まれる気持ちは想像以上苦しかった。


それでも私は諦めませんでした。

どんなに憎まれようとも私には彼女達から受け取った夢がありましたから。


「私も彼女達のように皆に元気を与えて笑顔にできる人になりたい。」


その強い想いがあったから私は彼女達のファンを続けられたのです。


それからしばらく時間が経ち、私は町から離れて元のところへ戻ることになりました。


「本当にいいの?クリスちゃん…挨拶しなくても…」


っと別れの挨拶もせず町を出ようとする私に心配そうな顔でお母様はそうおっしゃいましたが


「大丈夫です、お母様。」


私は泣きそうな気持ちをあえて抑えて最後の最後まで彼女達に会いに行かなかったのです。


自分の能力を受け入れ、克服できるようにしてくれた町。

そこで出会った大切な存在と夢。

辛い思いもしましたがそれでも私は彼女達のことを忘れない。


そう思った自分は魔界に戻り、正式に王位を継ぐ修行を始めるようになったのです。


そして時間を超えて高校の入学式の時、


「みもりちゃん…!緑山さん…!」


私は偶然自分と同じ学校に入学したことを知り、


「部長…!わ…私…!アイドルになります…!」


推薦で入った「Scum(美化部)」の部長の紫村さんにワガママを言ってアイドルになったのです。


あの時にもらった夢への恩返し。

自分がアイドルになった理由はただそれだけでした。

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