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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第4章「みもゆり」
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第87-18話

いつもありがとうございます!

「緑山がいなくなった?」

「そ…そうなんですよ…!」


夜中にいきなり押しかけて藪から棒に何言ってんのって顔で私のことをずっと見つめている寮長の「紫村(しむら)(さき)」さん…!

でも私には彼女の説明する時間も、心の余裕も何一つ残っていませんでした…!


「く…詳しいのは説明できません…!とにかくゆりちゃんのことを誰かが迎えに来て連れて行っちゃっていうか、自ら付いて行ったっていうか…!」

「おいおい、ちょっと落ち着きなよ。タバコ、吸うか?」


っと胸元からタバコを取り出す彼女にさすがに私は


「ま…間に合ってます…!」


そう言って遠慮しなければなりませんでした。


ゆりちゃんは確かに一人ではありませんでした。

窓側に誰がいたのははっきり知っています。

でも顔も、身長も何故かまったく思い出させなくて…

そんな彼女にゆりちゃんが何のためらいもなく付いて行ってしまったことがよほどショックだった私はゆりちゃんを追いかけるためにまず寮長の紫村さんに外出の許可を取るためにここに来たわけですが正直こんな状況で信じてもらおうだなんて無茶苦茶にも程があるんだろうと自分でもそう思っています…


誰に付いて行ったのか、何をしにこんな夜中に寮を抜け出したのか、何一つ分からない状況。

でもそれは決していいことではないと私は強く感じていたのです。


「お…お願いします…!紫村さん…!私、早く行かなきゃ…!」


もし今夜ゆりちゃんを見つけ出さなかったら今まで以上に大変なことが起こるかも知れない。

確証はありませんでしたが何故かそんな嫌な予感がして仕方がありませんでした。


いつか先輩に自分の決心を知らせるために今みたいに紫村さんに外出の許可を取りに来た私。

でもあの時と今は状況が違います。


「ゆりちゃんってすぐ暴走して一人で突っ走るところがあります…!だから早く見つけ出して抑えなくてきっと取り返しがつかなくなっちゃいます…!」


一度決めたことがあればその目的のために手段を選ばないゆりちゃん。

たとえそれがどんなに大きな危険を伴うことになっても意地でも最後までやり通すのがゆりちゃんです。

目的を果たすためなら自分の身を壊すことすら厭わないゆりちゃんとそんなゆりちゃんのことをいつも心配していた私は今日みたいに何度も喧嘩を繰り返してきたのです。

私はただゆりちゃんにもう危ないことはしないで欲しかっただけなのにゆりちゃんはそれをもう自分のために頑張らなくてもいいって間違った聞き取りをして…


「ゆりちゃん…」


私はポケットの中に入れておいたゆりちゃんの古い髪飾りをギュッと握りしめて震えてしまいました。


先程ゆりちゃんの机の上で見つけたボロボロの髪飾り。

それは私が初めてゆりちゃんの誕生日に作ってあげたゆりちゃんの宝物だったのです。


「これはゆりちゃんがいつも大切に身に持つものでよほどのことでなければ肌身から決して離さない私からの初めてのプレゼントです…!

これをわざと外したということはそれだけ私には決して見られたくないことをやりに行くってことです…!」


それはおごりではない悲しいほど分かりやすく感じてしまった確信。

ゆりちゃんの決意に気づいてしまった私は一刻も早くゆりちゃんが自分の身を投げ出そうとしているあそこからゆりちゃんを取り戻したいと強く思っていました。


「もうゆりちゃんが傷つくことは嫌です…ゆりちゃん、いつも私なんかのために頑張っているのに私はいつもゆりちゃんに酷いことばかり…」


大好きだからこそ、大切だからこそ思わず飛び出てしまう本音。

私は素直に思っていることを伝えられなかった自分のことに大きな恥を感じてついに涙まで出るようになりました。


その時、


「わ…私からもお願いします…!紫村さん…!」


突然部屋に入ってきたもう一人の少女の声に私と寮長さんはそこを振り向かざるを得なかったのです。


振り向いたあそこに立っていたのは


「せ…先輩…!?」


何故かものすごく汗だくになっている先輩が焦った顔で私達を見ていました。


寮暮らしをしてない先輩が何故こんな時間に学内の寮に、しかも1年生のいるのか。

その全ての答えは


「すみません、紫村さん。ちょっと話が聞こえちゃって。」

「セシリア…」


先輩のいるところには大体一緒にいる会長さんのことから代わりに話してくれました。


最近ゆりちゃんの様子がおかしくなったことがずっと気にかかったという先輩。

でも夕方からゆりちゃんと全然連絡が取れなくて心配になって勝手にゆりちゃんに会いに来ちゃったという先輩とそんな先輩が寮に入れるように手伝ったという会長さん。

お二人は今夜ゆりちゃんの悩みを一緒に相談してあげようと思っていたそうです。


「紫村さん、今まで留守でしたから勝手に寮に入らせて頂いたのは謝罪します。でも二人の部屋に行ったらみもりちゃんも、ゆりちゃんもいなくて…」

「それで私のところに聞きに来たわけか。」


寮長の自分の許可も取れず勝手に1年生の寮に入ったのはいつも世話になっている会長さんに免じて不問に付してあげるという紫村さん。

このことに先輩が後で怒られることがなくなったのはとても良かったんですがまさか先輩がそこまで私とゆりちゃんのことを考えていたとは思いませんでした…


「すみません…先輩…なんか迷惑かけちゃって…」

「何言ってるんですか、みもりちゃんったら。みもりちゃんだって私のために一生懸命頑張ってくれたんですからこれくらい当然ではありませんか。」


っと前のことについて改めて感謝の気持ちを表す先輩。

そういえば前に一度だけ先輩のことを励ますために今みたいに寮長の紫村さんから許可を取りにきたことがありましたね。

あの時はただ元気づけてあげたいという気持ちの一心だけでしたが


「今度は私がみもりちゃんの力になってあげたいです。」


今度は先輩があの時の気持ちを私に返してくれそうです。


「私からもお願いします、紫村さん。責任は私が取りますから。」


そんな先輩の願いを何とか叶えてあげたいと生徒会長の責任まで掛けて私の方を持ってくれる会長さん。

でも私はゆりちゃんのことならどんな些細なことでも自分がやってあげたいとただその気持ちだけ受け入れることにしました。


「分かったからお前ら、ちょっと落ち着け。」


そんな私達の気持ちが届いたのか寮長の紫村さんはまず


「外出許可と言ったな?許可するよ。」


すんなりと外出の許可を出してくれたのです。


「でも心当たりとはあるのか?言っておくけど前の家には向かわなかったと思うぞ?」


っとどこの家のことを言っているのかさっぱり分からない紫村さん。

でも私には一箇所だけゆりちゃんが行きそうなところを知ってました。


そしてその場所のことを紫村さんに正直に話した時、


「そうか。じゃあ、私が同行しよう。」


何故か紫村さんは私と一緒にあそこに向かうことにしてくれました。


「じゃ…じゃあ、私も行きます…!」


でも先輩まで一緒に行くと言い出した時は正直に戸惑ってしまったのです。


「だ…大丈夫ですよ…!先輩…!あそこ、結構危険ですし…!」


っと止めてはみましたが


「いいえ!私はみもりちゃんとゆりちゃんのマミーですから!」


っと無茶苦茶な屁理屈で行くなら行くって意地を張る先輩も成り行きで行くことになっちゃったのです。


でも一番驚いたのは


「まあ、いいだろう。でも二人共、私の傍から絶対離れるなよ。」


紫村さんからそんな先輩に一言の「ダメ」も言わなかったことです。

まるで前からあそこに先輩を連れて行きたかったと思っていたように紫村さんは自分の傍から離れない条件で先輩の同行を許してくれたのです。


でも許可を取ったとしても残された問題はまだ山積み。

ゆりちゃんはああ見えても追い詰められたら必ず悪手を打ってしまう。

前例のないクリスちゃんという協力なライバル。

ゆりちゃんにはきっと私のことをクリスちゃんに奪われたように見えてたかも知れません。

そこでゆりちゃんが望むもの、そして取れる手段を考えたらきっとあの場所へ向かったはず。

でもあそこに行くにはあそこの関係者からの協力がなければまず入場すらままならない。


去年は私が偶然ゆりちゃんの部屋からあそこまでの地図を見つけたから入れたんですがゆりちゃんの話によると一度使われた道は機密の漏洩を防ぐため即閉鎖になるそうです。

となると今のところ、私にあそこに行く術は何一つ残されていないってこと。

もうあんな場所に二度と行きたくないのですがこれでゆりちゃんを取り戻せるのなら私は最悪の場合、薬師寺さんに協力を申し出る覚悟もできています。


「お嬢様には特別にいつでも私と連絡が取れるホットラインを教えて差し上げましょう。

もし外の世界が嫌になってここにお戻りしたいと思われた時、いつでもこちらでご連絡ください。」


あの家から出る時、私だけにこっそりと教えてくれた薬師寺さんの連絡先。

それは薬師寺さんだけが使う直通の回線で認可された人でしかつながることはできない特別な連絡線です。

薬師寺さんに会うというのはまたあの家のことに関わるということですごく怖くて嫌なんですがこれでゆりちゃんを助けられるのなら私はどんなことでもしますと決めましたから。


「確かに「影」と言ったな?何人か知り合いがいる。行く術なら私が用意してみせよう。

お前には二度とあの家と関わらせない。」


でも私に薬師寺さんから教えてもらったホットラインが使われることは決してなかったのです。

何故なら紫村さんは思ったよりあそこの世界に深く関与していて


「「大家」なんかには指一本触れさせない。」


御祖母様の「大家」に何かの因縁を持っている人だったからです。

その時、私はほんのちょっとだけ紫村さんが抱えている闇を覗き見することができました。

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