第87-7話
いつもありがとうございます!
「だから早く捜索に…!」
「まあまあ、落ち着けって。赤城さん。」
珍しく朝っぱらから興奮しているなな。
そんなななを落ち着けるためにうみは実家から送ってくれたトマトで作った一杯のジュースを冷蔵庫から出した。
「なんという美味ですの!これ、もしかしてご実家から直接育てられた作物でして?」
「うん。うちの畑で取れたやつ。」
多少粗朴だがさっぱりした味と溢れるジューシーさに舌がびっくりして思わず驚嘆の言葉を口ずさんでしまう。
今まで色んなトマトを食べてきたななにしても素朴ながらも愛情がいっぱい詰まっているそのトマトの味は格別なものであった。
「あ…!いけませんわ…!」
その美味しさに危うく本来の目的を忘れかけたなな。
幸い再び思い出すことができたが
「もう一杯頂いてもよろしくて?」
その味にもう一度触れたいという気持ちは手放せなかった。
突然うみがいる「合唱部」の部室に飛び込んだなな。
生徒会の副会長であるなながここを訪ねてくるのは決して珍しいことではないだが
「た…大変ですわ…!青葉さん…!」
顔色も青白くなって自分の助けを求めるその言葉にさすがに理由を聞かざるを得なかった。
「み…緑山さんと虹森さんが二人揃って学校に来てないんですの…!」
数日前、性格にはななとかなの神前式の時から様子がおかしかった仲良しの二人。
うみから聞くところではどうやら何か揉めことがあったそうでななはそのことを連日ずっと気にかけていた。
「や…やはりわたくし達のせいで…」
「そうだね…」
自分達を仲直りさせるために頑張ってくれた二人がそのことのせいで喧嘩をしてしまった。
そのことに自分達なりの責任感を感じるようになったななとかなは今度は自分達が二人を仲直りさえてあげようと思ったが
「気にしないでください、副会長。特になんともないですから。」
「大丈夫ですよ、かな先輩。喧嘩なんていつものことですしすぐ仲直りできますから。」
ななが生徒会室でゆりに声を掛けても、かなが同好会の部室でみもりに仲直りを提案しても二人はただそう言いながらその話題から離れるだけであった。
「ま…まるで前のわたくし達のようですわね…」
「あはは…皆、苦労したんだ…」
そして今更あの時の皆の苦労が分かりかけてきたななとかなであった。
そういう感じで無駄な時間だけが過ぎて一先ずしばらく様子見の態度を取っていた二人だったが
「緑山さんと虹森さんですか?今日は学校に来てませんよ?」
今朝二人の教室に寄った時、ななとかなはあの二人から決して目を離してはいけなかったということに気づいてしまった。
「な…何か事件に巻き込まれたんでしょうか…!?ま…まさかあの「大家」からまた…!」
「と…とにかく私はサキサキのところに行って捜索を要請してくるよ…!」
一度だけ「大家」の人間からみもりを救い出したことがあるななは彼女にまた彼らとの接続による何かの事件でも起きたのではないかと早速かなと一緒に「Scum」のところに彼女達の捜索を要請するようになった。
そして
「申し…!早速お母様に連絡を入れて「メルティブラッド」の招集を要請してくださいまし…!」
ななは大切な後輩達の捜索のため、「赤城財閥」の力を惜しまず使おうとした。
「串刺し部隊」と呼ばれる「メルティブラッド」は戦闘のプロフェッショナルでありながら人探しにも非常に長けている。
「大丈夫ですわ…!匂いを辿っていけばすぐ見つけられますの…!」
あらゆる魔術の頂点である「吸血鬼」に人探しなど造作もないこと。
時間的にまだ「大家」の本丸までにはたどり着けなかったはずと予想され、今捜索を始めれば被害を最小限に抑えられるとななはそう判断した。
「あの根城に入られてしまったらもう手遅れなのですが今ならまだ間に合いますわ…!結界の中に入られたらそれ以上の捜索は不可能ですがそこら辺の結界ならこちらから打ち破れます…!
だからあなたにはその耳を貸して頂きたく…!」
二人の捜索にできるだけの手段を全部使うことにしたななは音に敏感な「人魚」であるうみの力も借りようとした。
だがパニック状態になってテンパっているななと違って割りと冷静なうみの態度にななはそろそろ腹が立ってきた。
「もしかしてこの人って本当にわたくしが思っていたより冷酷な人なんですの…?」
っとほんの少しだけがっかりと思ったこともあったが
「大丈夫。絶対「大家」とかそういうんじゃないから。」
どうやら今回もまたうみの思うつぼの一つだったようだ。
「本当のことを言うと今回の件は緑山さんの暴走みたいなものでね。」
「暴走…ですの?」
まるで初めから全部見通していたという口調。
そこでななは先日、自分とかなのことに一番関わっていたのがこの人魚の「歌姫」であることを思い出した。
巫女を巻き込んで色々手を回してくれた自分と同じ音楽特待生の同年代の女の子。
青黒い三つ編みの普通な眼鏡キャラを装っているがそのすさまじい存在感は隠しきれず自然と溢れ出ている。
済む世界や国を問わず時代や世代を超えた伝説的な人物である彼女が何故このようなことにわざわざ自ら関わろうとしているのか、その真意までは完璧に把握できないが確かなのは彼女は決して自分のことしか考えない冷血漢ではない。
そう思った瞬間、ななは一瞬たりともうみのことをそのように決めつけたことについて大きな恥じらいを抱えてしまった。
「少し落ち着いた?」
「ええ…まあ…」
少し落ち着いたななのことにそっとした笑みを浮かべてまず何も説明せずいたことについて謝るうみ。
うみはこのように後輩達のことを思ってくれたななのことに感謝の気持ちを表した。
「ごめんね、赤城さん。別に騙す気はなかったんだけどなんかそんな風になっちゃって。
でも私はやっぱり赤城さんがあの二人のことを心配してくれてすごく嬉しいよ。」
「あ…当たり前ですわ…わたくしは先輩でしてよ…?」
テンプレのような反応。
うみは何故かながななのことが大好きで仕方がないのか少し分かるようになってきた。
「赤城さんってそういう素直なところがまた可愛いんだよねー」
「…今、それ関係ありまして…?」
そしてななはうみから自分を少し子供扱いしているような気がしてほんの少しだけムットするようになった。
「まあ、とにかく赤城さんがそんなに心配することはないというのだけははっきりと言える。
緑山さんが虹森さんのことを傷つけたりすることなんてありえないでしょ?」
「それはそうかも知れませんが…」
だが未だに胸のざわめきが収まらないなな。
そんなななのためにうみは自分が予め仕組んでいたセーフティーの一つを彼女に教えることにした。
「それに中黄さんが行かなくても既に「Scum」は二人のために動いていたから。」
「そう…なんですの?」
数日前、うみは自分の方から「Scum」の部長「紫村咲」と接続したことを明かした。
そこでうみは彼女と相談し、万が一の状況に備えるために「Scum」の協力を得ることにした。
その一つが
「心配しないください…みもりちゃん…私が命がけで守ってあげますから…」
現在、みもりが監禁されているあの屋敷に潜り込んでいる「Scum」「特殊対処班」所属の魔界の姫、次世代の「ファラオ」である「黒木クリス」であったが
「ああ…♥みもりちゃん…♥なんというはしたない格好…♥」
残念ながら彼女はゆりに仕付けられているみもりを見ながら絶賛自分探しの真っ最中であった。




