第87-3話
いつもありがとうございます!
時間は少し遡り…
「ゆりちゃん…ちょっといい…?」
高校に入ってからの初めての喧嘩。
私はちゃんと自分の過ちを認め、あんなひどい言葉を大切なゆりちゃんにぶつけてしまったことを反省してゆりちゃんに許して欲しくて何度も話を掛け…
「すみません。今少し忙しくて。」
話を掛け…
「急いでいるんで。後にしていただけますか。」
話を…
「…」
こんな感じで最後にはほぼ無視されてまともな会話はできませんでした。
前だったら
「もう…今回だけですからね…?」
って最後にギュッとして仲直りしたはずなのに…
部屋でも、教室でも私達は一言も交わしませんでした。
ゆりちゃんは生徒会のことや個人的な用事でいつも多忙でしたし私はちゃんと相手してもらえなくてちょっと疲れてました。
そんな私達のことを気にかけて
「虹森さん、緑山さんと喧嘩でもしたの?ダメじゃんーお嫁さんを怒らせちゃったら。」
「あゆこちゃんこそいけません。事情も知らずそんな軽々しく。」
「んーでも私はやっぱり二人には仲直りして欲しいな。だって二人共、すごく仲良かったから。」
最近お友達になった野田さん、前原さん、高宮さんが心配してくれました。
チラシ配りの時、応援するって言ってくれた野田さんと前原さん。
ゆうなさんと知り合う時にお世話になった高宮さん。
皆、今は私の大切なお友達なんです。
「だから緑山さん、ここ最近すごくご機嫌斜めだったんだ。そりゃ無理もないか。」
褐色の肌と元気な笑顔がすごく可愛い黒い髪の魔界生まれの「陸上部」の「野田歩子」さん。
うちの学校は伝統的な芸術文化系の強豪なんですが体育系はメッチャクチャ弱くて大半は近くにある「第4女子校」に行っちゃうんです。
でも入学初日から部のエースとなった野田さんが結構いい成績で活躍してくれたおかげで少しずつ部員も増えてきて最近いい感じになっています。
なんでも自分の代で陸上部を復興させて全国で優勝するのが夢らしいです。本当すごいですね。
「そうですね。あんなに仲が良かったんですもの。でも虹森さんならきっと上手くできると信じています。」
おっとりした笑顔がとても似合う色白の金髪の神界の少女「前原栞」さん。
神界の有数の大手企業「前原財閥」の次女である彼女は先輩のお友達でいつか私達の衣装を作ってくれたあの「鬼」の「灰島菫」さんがいる「手芸部」の部員です。
さすが世界的なアパレル企業の娘さんですね。
灰島さんがよく彼女のことをすごく頑張る部員だと褒めるっていつか先輩も言いましたよね。
ちなみに前原さんと野田さんは小学校からの知り合いで私とゆりちゃんみたいにすごく仲がいいんです。
「そうだね。付き合い長いし喧嘩なんて今まで何度もやってきたんでしょ?じゃあ、ごめんって言うの造作もないよ。」
そしてオレンジ色のショートカットの弾ける笑顔と明るい性格が持ち味の「高宮ゼマ」さん。
神界の軍人であるお父さんの後を継いで「百花繚乱」で活躍している高宮さんは私達のクラスの臨時委員長ですがいつも皆を引っ張ってくれるとても頼りになる人です。
「カラカル」ってあだ名で呼ばれている高宮さんは次期団長候補と通じているほどとても優しくて強くて同い年なんですがすごく憧れになります。
同好会のことでできた大切なお友達。
皆は心から私とゆりちゃんのことを心配してくれたのです。
「でも相手にすらさせてもらえないのは厳しいんだよね。」
「そうだね。緑山さんってなんか拗ねると頑固になるタイプっぽいし。」
「二人共、女の子なのに本当に女性の気持ちが分かりませんね。」
っと前原さんは少しは少女の気持ちに寄り添ってくださいっと言いましたが割りと的確な分析だと思います。
たまにあるんですよね、ゆりちゃん。一度拗ねちゃったら結構根に持つタイプっていうか。
まあ、そういうところ素直で可愛いとは思いますけどやっぱりちゃんと謝って元の仲に戻りたいです。
「じゃあ、プレゼントとかはどう?チョコとかクッキーとか。虹森さんの手作りならもっといいと思うんだけど。」
「プレゼントか…」
まずは野田さんからの提案。
一応ゆりちゃんだって女の子だからそういう甘いものは好きですし結構イケそうな判断した私は
「それ、いいかも!」
早速放課後家庭科室を借りてゆりちゃんのためにクッキーを焼くことにしました。
***
「す…すごいですね…虹森さん…」
「本当だよ…まさか姫様と知り合いだったなんて…」
思いっきり驚く前原さんと野田さん。
特に野田さんの方は
「ひ…姫様…いつ見てもお美しい…なんという尊さ…」
感激すぎて昇天寸前の危険な境地まで至ってしまったのです。
「お…お邪魔します…」
照れながら皆に挨拶をするクリスちゃん。
実はクリスちゃんは私からの誘いで放課後のクッキング女子会に参加することになったのですが
「ありがたやーありがたやー」
このままだと野田さんがクッキング前に倒れそうでそろそろ始めたいと思います。
「「黒木クリス」と申します…今日はよろしくお願いします…」
声は少し小さくてもちゃんと自分のことを紹介できたクリスちゃん。
「Scum」でアイドルをやっているとはいえ個人ではまだ人と接するのが苦手だそうですがその気持ち、よく分かります。
私だって人に見られるって意識しちゃうとすぐオドオドして足がすくむようになっちゃったりしますから。
立場上、人と接することが多いから今のうちに視線に慣れたいというクリスちゃんにまず私の大切なお友達のことを知ってもらいたく、また野田さん達にもクリスちゃんのことを紹介したかったのです。
あ、ちなみにクリスちゃんの「黒木」って名字はここでの名前らしいです。
会長と同じく固有言語の名前は別にあるらしいですが会長の時と同じくその名前をここでの言葉で呼ぶには多少の難しさがあって特別に「黒木」って名字を使っているそうです。
「姫様には真名があるんだけど「魔界王家」と一般住民とは言語体系が違うから。
王族にはその中だけで通用される独立的な魔力言語があってー」
そして続くのは野田さんからの言語学の授業。
すっかり忘れていましたがここの学校ってそれなりに学力高かったんですよね。
でも野田さん…もうそろそろ止めた方がいいと思うな…
だって…
「なんですか…あゆこちゃんったら…先から姫様、姫様ばかり…」
なんかそっちのお嫁さんの機嫌がすごく不機嫌そうなんだけど…
「緑山さんはいいんですよね…虹森さんはこんな天然系で人の気持ちなんてまったく気づいてくれない唐変木みたいな方ではありませんから…」
「そ…それほどではないと思うんだけどな…」
そしてなんか私のところに話が回ってきてもう本当の本当にお菓子作りを始めなければならなくなったのです。
ちなみに私だって割りと結構ゆりちゃんから言われるんです。唐変木とかわからずやとか…
「まあまあ。だったらとびきり美味しいやつを作って取り戻しちゃおうよ。」
っと落ち込んでいる前原さんを奮い立たせる高宮さん。
彼女の言葉に勇気が出たのか
「そ…そうですね!私、頑張ります!」
すぐ張り切るようになった前原さんでした。
今日焼くのはゆりちゃんの大好物の抹茶チョコクッキー。
実は子供の頃、何度も作ったことがあって焼き方なんて全部頭に入れているんですよね。
バレンタインとか神社でやったお土産交換とか。あ、バザーとファン感謝祭のために焼いたこともありますね。
皆すごく喜んでくれてとても嬉しかったんですよ。懐かしいですね。
でもやっぱり私が焼いてきたクッキーを一番喜んでくれたのは
「私、みもりちゃんのクッキー大好きです♥陰毛とか入ってたらもっと趣があっていいと思いますが♥」
いつもゆりちゃんでした。
形が悪くても、ちょっと焦げて味が悪くなってもいつも笑顔で受けてくれたゆりちゃん。
先輩のクッキーに比べたらまだまだですがその笑顔がまた見られるのならここでは頑張って焼くことしか…
ってなんか今、なんか変な単語が混ざってませんか?
「しかし虹森さんって以外にスペック高いんだよね。成績もいいのにお菓子作りもできるなんてね。
そういえば緑山さんと一緒に第1の推薦選抜だったよね?あっちは進学校なのにすごいじゃんー」
「じゃあ、勉強できる人?後で教えてよ!」
「ダ…ダメです…!あゆこちゃんは私が…!」
っとクリスちゃんから私のところに回ってきた話題。
勉強を見てあげるのは別にいいけど前原さん、ほぼ泣く寸前だから野田さんは自分のお嫁さんから教わった方がいいと思うな…
まあ、推薦選抜ってことは否みません。
去年あんなことがあって色々大変でしたが傍にはいつもゆりちゃんがいてくれたおかげで割りと勉学と療養を両立することができました。
勉強はそれなりに得意ですしそのおかげかゆりちゃんと一緒に進学校の第1女子校に推薦選抜で入学できたんですが最後に芸術文化系の第3女子校を選んだのは私のワガママでした。
まだゆりちゃんと一緒にやったロコドルのことも、アイドルが大好きな気持ちも諦められなくて…
お父さんも、お母さんもこんなワガママを
「大丈夫。それでみもりが幸せになれるのなら。」
っと受け入れて応援してくれて。
そして私の一番大切なゆりちゃんもこう言って一緒にこの学校に来てくれました。
「あなたがいるところならいつでも、どこでもお供します。」
っと。
なのに私はそんな大切なゆりちゃんにあんなひどいことを…
ここはちゃんととびきりの美味しいやつでビシッと決めてしっかり謝らなきゃ…!
「虹森さんはお姫様と一緒に緑山さんのに集中してもいいよ。野田さん達は私が教えてあげるから。」
「え?それでいいの?」
エプロンまでバッチリ決めて張り切っている高宮さんからの気遣いに私はすごく恐れ入りましたが
「大丈夫大丈夫。早く仲直りできたらいいね。」
そんな私に彼女はただ心からの応援の言葉だけを渡してくれました。
「まずはこのボウルに抹茶と薄力粉をふるいにかけてー…」
「なるほどー」
「前原さんもやってみて。」
「分かりました。」
そしてやっと始まるクッキングタイム。
野田さんと前原さんの隣で丁寧に二人を指導してくれる高宮さん。
そしてまたその隣で私とクリスちゃんがゆりちゃんのためのクッキーを焼くことになりましたが…
「なんかクリスちゃんって本当に「夢魔」って感じだよね…」
「そう…ですか?」
「分かる…」
っと私の発言に激しく同意してくれる皆…
だってクリスちゃんって同じ女の子から見てもすごい美人さんですから…
黒紫色の長い髪の毛をきれいにまとめ上げて背中の方に回したエプロン姿のクリスちゃん。
宝石のような大きな目と妖艶な濃いめの化粧、潤った健康美溢れる褐色の肌。その上、先輩並みの凄まじい大きさの胸とちょうどいいふくよかさのお尻。
なのに腰は細くて声だってこんなにきれいでなんかとてもいい匂いもしてまさに「エロス」の塊としか言うようがな恵まれたいエゴ的なプロポーション。
本人には全く自覚がないようですが相当人気者だったんでしょうね、クリスちゃんって。
だからクリスちゃんの隣に立っているとそれだけで叩き潰されているって気分で自分は女としてどんな風に見られてるのかなって…
「女としての可能性を試されるって感じだよね…?」
「さすが姫様です!強い!」
まあ、それも野田さんにはあまり通用されていないようでちょっとほっとしました…
「でもクリスちゃんって何でも尻尾とか羽とか出してないの?あ…こんなの聞いちゃったら失礼だよね…?」
「いえいえ。そんなの、全然ないですから。」
人のデリケートなところは詮索してはいけないと教わった私はつい口走ってしまった今のことについて即謝りましたがクリスちゃんは顔色も変えずその疑問に笑顔で答えてくれました。
「特に深い理由があるわけではありません。「夢魔」の女の子は成人になるまではあまり自分の正体を明かさないのが昔から掟になっていてそれに従っているだけです。」
「そうなんだ…」
そういえば昔本で読んだことがあります。
「夢魔」は「魔界王家」の歴史が「夢魔王朝」になるまでは代々「神殿」の「神官」を務めるか、それとも…
「みもりちゃん?」
私からの視線を感じたようなクリスちゃんからの声。
私…今の時代が平和な時代で本当に良かったと改めて「神樹様」に感謝するようになりました…
たくさんの夢魔の子が戦争で孤児になって裏の街に売られました。
暗闇の中でもがいてさまよって苦しんでいました。
「夢魔王朝」を立ち上げた「太陽王」は神に選ばれた神官の一人だと伝わっていますがもし彼が現れなかったならもっとたくさんの人達が苦しみの中で生きられてしまったんでしょう。
ゆりちゃんはあんなに嫌がってましたが私、やっぱり今こうやってクリスちゃんといられて、そしてクリスちゃんが私達のファンで本当に良かったです。
「クリスちゃん。私、頑張るよ。」
「はい?」
必ずゆりちゃんと仲直りしてゆりちゃんにもクリスちゃんの気持ちを伝わせてみせる。
今はもう昔みたいなそういう時代じゃないから。
せっかく会えたんですもの。もう戦う必要はないし仲良くしたらそれが一番…
「分かりました。虹森さんと緑山さんが喧嘩した理由。」
前原さん…?




