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モテモテ5



 HRが終わり、やっと始まるモテ男への道、略してモテ道。

 あまり略されていないのはこの際どうだっていい。


 俺は、隣の席で小説を読んでいる飾霧に声を掛けるか迷っていた。


 昼を終えてからもこいつは、殺意と言う名の謎のオーラを放っている。無論それで怖気づいてるわけじゃあないんだ。


 昨日の出来事がトラウマになったとかでもないんだ。ただ単に、なんだかとても……怖いんだ。


 この言葉で表せない恐怖感をわかって頂けないのは、残念この上ない。


 やはり、飾霧は魔王の魂を受け継いでいる。モブの俺には荷が重いので一時撤退。戦略的撤退というやつだ。


 昨日も撤退していた気がするが、モブにはよくある。


 俺は逃げるように親友へ駆け寄った。


 いや、逃げるわけじゃないから。本当だから。


「おい。涼太」


「なんだ?」


 振り向く姿もイケメンなのな。ーーおっと、それどころじゃない。


「話があるんだよ。聞いてくれるか?」


「別にいいけど」


「あそこに居る魔王の話なんだが」


 飾霧に気付かれないよう目線で合図しながら小声で話す。


「そんなのどこにいるんだよ」


「おい! お前の目は節穴か? よく見てみろ。俺の隣の席に人の皮を被った魔王がいるだろ」


 少し声が大きくなってしまったが、飾霧には気付かれてないようだ。


 それより女子の視線を感じる。いつもの事だけど。


「それを言うなら人の皮を被った悪魔だろ。それに、俺には今日転入してきた飾霧さんにしか見えないぞ」


 淡々と間違えを指摘する涼太に少し腹が立ち、顔を顰め、強めの口調で言う。


「ばっか。言葉の例えだろ。しかも見えてんじゃねぇか!」


「彼女のどこが魔王なんだ? そう言えば直は知り合いなんだよな。朝のHRで叫んでいたからな」


 涼太はあくまで冷静な反応だった。すかしやがって、遅いんだよ。今頃聞いてくるんじゃねぇよ。


 あくまで小声で話す。


「ばっか! ほんとばっか! 聞いてくんの遅杉田玄白かよ! こちとら今までお前が聞いてくるの待ってたんだからな!」


「そりゃ悪かった。興味なかったしな。それで彼女がどうかしたのか?」


 悪かっただぁあ? 許すに決まってんだろ。興味は持てよ少しでいいから! 後、杉田玄白の件に関してはツッコミを期待してた。ただそれだけのことである。


「スルーかよ。まぁいい、本題に移らせてもらう。昨日おこった出来事を親友であるお前に全て話すーー」


 俺は掻い摘んで、昨日涼太と別れた後の出来事を小声で説明した。


 時より頷きながら聞いてくれた涼太は話が終わると口を開いた。


「そんな事があったのか。それじゃあ今日からモテ男になるために教えてもらうって訳だ」


「そうなんだが、今話した通り魔王は超毒舌だ。口を開けば罵詈雑言の嵐が巻き起こる」


 昨日はすごかった。初対面でアレだぞ、もう顔見知りだし、更にパワーアップしそうな気がする。


 これはきっと、気のせいじゃない。


「それでビビって声がかけられないと」


 涼太が爽やかに笑いつつ図星を指すもんだから、慌てずにはいられなかった。


「ちっげーよ。誰がビビってるって、俺は勇者だぞ。魔王にビビるわけねぇだろ」


 自分で言ったのもなんだが、俺は勇者だったらしい。


「それは初耳だな。なら今から世界を救って来てくれ。俺のことなら気にするな。先に帰ってるから」


 初耳ならもっと驚けよ! しかもちゃっかりものすごいこと頼んでくるし、だか乗るしかないだろう。このビッグウェーブに。


「そ、そうか? それならいいんだ。それだけが気がかりだったからな。そんじゃいっちょ、世界を救うとしますかねって、ーーなるかああああああああああッ! 勇者なんて嘘に決まってんだろ!」


 叫ばずにはいられなかったが、飾霧は相変わらず椅子から動いてないし、こちらを見てもいない。読書に勤しんでいるようだ。


 よかったと言うべきかクラスにまだいる連中は俺に釘付け。きゃあ、照れちゃう。


 そんな事はお構いなしに、鞄を持ち席を立つ涼太。


「じゃあ後は頼んだ。俺は行くから」


「ちょっと、待て。スルーするな。めんどくさいからって」


 涼太の肩をガッチリと掴んで、助けを求める視線を送る。

 そんな俺を見て呆れながら溜息を吐いた。


「……早くしないと飾霧さん帰っちゃうんじゃないのか?」


「それはないだろう。約束したし」


 飾霧は約束は絶対に守る。昨日嘘はつかないって言ってたし、それが本当なのかは知らんが。


 会ったばかりでこんな信じるのも変だが、なんだかあいつには、地味な親近感があるんだ。しかも今のところ、モテるにはあいつを縋る意外に道は無いしな。


「ほら。早く」


 いきなり押されてコケそうになった俺は、飾霧の席の前で止まった。


 後ろに振り向き眉に皺を寄せ、怒りの感情を全てを乗せ涼太に向かって小声で言った。


「わかったから、押すんじゃねぇよ!」

 

 恐る恐る魔王の方を見ると、残念なことにこちらに気付いたようだ。パタンっと力強く小説を閉じ、冷たい視線で「何? 死にたいの?」と言ってる気がする。


 あいつが本当に口を開く前に何かを言わないと。


 焦った俺は軽く手を上げ挨拶。


「飾霧様ハロー」


 そう、テーマは爽やかボーイ。


「茂木直何?」


 冷たい視線のままだが、思ったよりはいいぞ。爽やかボーイ使えるな。


「人を四字熟語みたいに呼ぶんじゃねぇよ!」


 せっかく上手くいったのに、ツッコまずにはいられなかった。そういう性分なもので。


 そんなの御構い無しに飾霧は淡々と言い捨てる。


「馬鹿敬語」


「無理矢理、四字熟語みたいにしてますよねぇ!」


「貴方も四字熟語みたいになってるわよ」


「これはわざとじゃなくて、事故なので」


 ほんとだよ? 今のはわざとじゃないんだよ!


「それで何かしら?」


 無表情で小首を傾げる。可愛い。嘘。可愛い。


 でも、よかった。今日は機嫌が良いみたいだ。会ってまだ二日目だけどすごいわかる。


「昨日のことは覚えてますよね?」


「覚えているわ。それで?」


「今日からやるんですよね?」


「ええ、そうね」


「それじゃ、まずは何からやりますか?」


 よし。いい感じで話が進んでいるぞ。このまま機嫌を損ねないようにしなくてわ。


「ここではなんだから場所を移動しましょう。作戦も考えてきたわ。とその前に感謝の意を示してもらえるかしら」


 場所と作戦まで考えてきてくれたのか、助かるな。ここまではいいんだけど、どうして余計な事を言ってしまうのかしらこの子。マジでうぜぇ。


「突然、なんですか?」


「日本語が理解できないのかしら?」


「出来ますけど! じゃあ。ーーありがとうございます!」


 相手の目を見ながら元気よくお礼。飾霧が気に食わないのか小首を傾げる。


「それは何? 行動で表しなさい」


「ありがとうございます!」


 俺はお辞儀をした。角度は90度渾身のお辞儀だああああっ!


「それで示したつもりなのかしら?」


 何言ってんのこいつ? 可愛いからって、流石に怒ったぞ~。


「はい!」


 ここで怒るようなミスはしない。モテモテになる為に。


「そう。なら行くわよ」


「はい!」


 なんとか納得してくれたのか、小説を鞄に仕舞い席を立つ。そのままスタスタと歩き出したので涼太に別れを告げ、後を追いかける。


 元気な返事は邪悪を祓うってほんとだったんだな。じっちゃんありがとな。天国で見守っててくれ。


 飾霧の華麗に歩く姿にすれ違う生徒は見惚れているが、仕方のない事だろう。口さえ開かなければ美人そのものなのだから。


 それにしても俺にまで熱い視線が、全くこれからモテ男になる男は違うぜ。


 まぁ視線と言ったが、ほんとは死線なんだけどな。しかも全て男からのモノだ。せめて女にしてくれよ。


 そんな地獄を耐え抜き、黙々と歩くと下駄箱についた。そのまま靴を履き、外に出るのだった。


 ここまでは黙って付いて来たが、どこに行くのか疑問に思ったので尋ねる事にした。


「どこに向かってるんですか?」


「離れに建物があるのだけれどわかるかしら?」


 飾霧は歩きつつも前を向いたまま淡々と言う。


「そこなら、知ってますけど」


 確か、校舎の一番端にある。家三件分くらいの建物。噂だと昔の合宿に使ってたとか、老朽化して使ってないとか、この噂は加藤から聞いた。


 加藤は学校一の物知りさん。情報屋ってやつだ。


「そこよ」


「そこって立ち入り禁止なんじゃ」


 これも加藤から聞いた。


「大丈夫。全て話は通してあるわ」


「そうですか」


 流石は学園長の娘ってところか、コネ最高だな。


 やっと見えてきた。見た目は屋敷って感じだな。策があり扉は中世ヨーロッパとかでよくある茶色でシックな半円の大きい扉だ。少々ぼろいがシックなデザインがいい。気になるのは崩れたりしないかだけだな。


 目の前で見ると思ったより大きい。飾霧が策を抜け 、扉を鍵で開け中へと入った。中は天井が高く開放感が凄い、中央には存在感のある階段。それを上り二階に着くと、左に曲がって進む。奥の部屋で立ち止まり、飾霧は口を開いた。


「この部屋よ」



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