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モテモテ4



 高校生なら皆が待ち望んでいるだろう昼休みになった。


 かという俺も昼休みを待ち望んでいた。

 今日は学食で何を食おうかと、授業中ずっと考えてたぐらいだ。

 流石に一限目からじゃないぞ、二限目だ。


 待ち望んでいたのにはもう一つ理由がある。

 今日転入してきた飾霧が転入早々やらかしたせいで、クラスの雰囲気がよろしくない。

 みんな飾霧を避けている。


 普通は転入生の周りって人が集まるもんじゃないのかよ。しかも美人だぞ。って思ったが、本人が普通じゃないから集まらなかったんだろうな。


 俺はいつものように涼太と学食に向かう。


 学食は別棟の一階にあるので、三階にある二年の教室からは少し遠いが、ご飯の為ならなんのその。


 軽い足取りで階段を降りていると、すれ違う女子がキャッキャと浮かれながら涼太に挨拶をする。

 当然俺にも挨拶はしてくれる。


 まぁ、明らかに声のトーンが違うので、ついでなのがバレバレなんですけどね。


 ふざっけんな! パンツ見せろよ……。


 いかんいかん、つい願望が、煩悩を消し去らねば。


 (かぶり)をブンブンと振っていると、隣を歩く涼太が声をかけてきた。


「急にどうしたんだよ」


「うるせぇイケメン」


「どうしたんだよ。なんかあったのか?」


「あったよ。お前が何もしなくたって、近くにいるだけで傷つく人間もいるって事を肝に銘じておけ」というのも釈然としないので、自分で考えてもらおうか。少しは悩めイケメン。


「自分の心に聞いてみろよイケメン」


「……聞いてもわからないんだけど」


 俺はこの目ではっきりと一部始終を見たぞ。お前、三秒しか悩んでねぇじゃねぇか!


「それはお前がイケメンだからだろうイケメン」


「その語尾にイケメン付けるのやめてもらえるか?」


 そんな切実に頼まれてもやめないけどな。


「お前がイケメンやめたらやめてやるよイケメン」


「なんだよそれ。無理ゲーだろ」


 諦めんじゃねぇよ。前みたいに言ってくれよ。「イケメンじゃねーよ」ってさ……。


 もう、お前はただのイケメンだ。


「ついに正体を現したなイケメン」


 俺は一階に着き立ち止まり両手を構える。それを爽やかに無視するイケメン。


「常に、正体は現してたけどな」


 笑うイケメンが、俺を置き去りにしたので背中をどつこうと狙いを定めていると、すれ違った誰かが物を落とした。

 それを咄嗟に拾って踵を返して呼び止める。


「ちょっと待った! --これ!」


 少し先で止まったのは女子生徒だった。

 長めの黒髪、目は前髪で隠れ、眼鏡をかけている。身体は華奢なのに胸は中々ありそうだ。制服が大きいせいでわかりにくいが俺にはわかる。


 この(スカウター)があるからだ。神が俺に唯一与えた産物と言えよう。


 茶色い紙袋を二つも持ち、小走りでこちらに駆け寄って来る。

 その子に向かって拾ったパンを--えっ? パンだったのか。全然気付かなかった。


「こ、これ、き、君の?」


「は、はい。あ、ありがとうございました」


 ロボットのような喋り方になったのは俺のせいじゃない。

 彼女にパンを渡そうとした時にシャンプーのいい香りがしたせいだ。

 あれはローズの香り。色っぽいぜ!


 それにしても俺に負けじとおどおど、ぺこぺこしてたな。

 見たことはないし、あの感じからすると一年か。

 それより紙袋の中身全部パンだったぞ。どんだけ大食いなんだよ。


「直は優しいな」


 そう呟く涼太に少し照れた俺は、それを誤魔化すかのように強く言う。


「聞こえてんだよ。たまたま目に入ったから拾っただけだ」


「そんな事はない。お前は見えてなくたって拾う。そういうやつだよ」


「どんなやつだよ。エスパーかよ」


 照れ隠しのためにツッコまずにはいられなかった。

 涼太はツッコミなどなかったかのように、意味深な表情をしていた。


「そうかもな。それよりさっきの子、大丈夫かな?」


「何がだよ」


「いや、なんでも」


 その顔は、なんでもある時の顔だろう。親友ナメんな。


「なんだよ。言えよ」


「なんでもないから気にするな」


 その後もはぐらかされ、気付いた時には学食に着いていた。

 腹が減っているので、もうどうでもよくなった。今はご飯に集中。


 今日はカレーにしようと決めていた。

 当然のように大盛のカレーを頼む。涼太はBランチだ。

 なんとなくイケメンムカつく。


 俺達は、料理を受け取ると入り口から見て左側の角のテーブルに座る。そこは全面ガラス張りで外が見える。


 滅多に角は空いていないのだが、今日は空いていたのでいいことがあるかも知れない。

 やはりモブは角に限る。角を落ち着くと思った奴、全員モブだからな。覚えとけよ。


「珍しく空いてたな」


 爽やかに微笑むイケメンを横目に、俺は魔王のような笑みを浮かべる。


「ああ、我に流れが来ている。そう、我の為に地球は回っている。がははははは!」


 最後に馬鹿笑いをすると、それを見てか涼太はこっそりと囁く。


「直。周り見てみろ。全員お前のことを見てるぞ」


「そうか、やはりこの世界は我を中心に回っているようだな」


 俺は周りを見渡し、悪びれる事もなく実に深みがある表情で言うと、適当にあしらわれる。


「はいはい。いいから食べようぜ。時間なくなるぞ」


「流すんじゃねぇよ。お前が流したらただの痛い子になっちまうだろうが」


「流さなくても痛い子だろ」


「ほーん。やっぱりイケメンにもなると、全ての人間が痛い子に見えるとかそう言うことなんですかねぇ?」


 涼太に素の顔で言われたので、俺は仕返しとばかりに捲し立てた後に可笑しなくらいに顔を近づける。


「いや、お前しか見えない」


 間近で囁かれた俺は後ずさる。


「ーーーーどこの口説き文句なんだよ。かっこいいじゃねぇか……」


 ツッコミが遅れちまったじゃねえか。これがイケメンの破壊力かよ……。


「そりゃどうも。それより早く食べよう」


「そうだな。俺のカレーちゃんが熱々のうちに食べてと、猛烈にアピールしていることだし食べるとするか」


「……」


「スルーして食い始めるとはいい度胸だ。お前より先に食べてやる」


 初めから一人でしたみたいな顔で食べ始める涼太は、食べ方までかっこいい。


 ーー負けん。絶対にこれだけは譲れん。


 俺はすごい勢いで食べ始める。涼太にも火が付いたのか食べる早さが上がる。


 二人同時に食べ終え、俺は水を一気に飲み干し机の上に荒っぽく置いた。


「ーー流石は俺のライバルだ」


「いつの間にライバルになったのかは知らないけど、いい勝負だった」


「そうだな。ちと休憩だ」


「同感」


 腹を撫でながら椅子に寄りかかる俺とは違い、涼しい顔で外を眺める涼太を呼んだ。


「涼太」


「どうした?」


「お前って、好きな子いるか?」


「なんだよ。藪から棒に」


 少しくらい動揺したらどうなんだこら! 

 しかもイカした言い回ししやがってからに。負けないぜ。上を行ってやるよ。


 ーー更に向こうへ! プルスウルトラァァァァァァッ!


「おい。それを言うなら藪からスティックだろうが」


「同じだろ」


 軽く流されたが、端からイケメンになど期待はしていない。


 俺はさっきの続きを小声で話し始めた。


「まぁいいから聞け。これから俺はモテモテになってしまうからお前に構ってやれなくなる。すると、俺しか友達がいないお前は一人ぼっちで寂しくなってしまうだろう。ここまでいいか?」


「全然」


「どこら辺がだ?」


「モテモテの辺り」


「最初じゃねぇか! ナメてんのか?」


 涼太の当然の事だとでも言いたげな顔に腹が立ち、声が大きくなってしまった。


「ごめん。嘘だって、話しを続けてくれ」


「ったく。話の腰を折るなよな。ーーじゃあ続けるぞ。友達のお前を独りにはしてはおけない。なのでお前は彼女を作れ。既にモテ男なんだからそのぐらい簡単だろ?」


 あくまで小声で話す。お互いの顔が近くなる。羨ましいだろ女ども。


「簡単って、昨日言った事覚えてないのかよ」


「覚えてるに決まってる。俺とお前の仲だろう」


 この前確かに、「好きでもない人と付き合えないだろ」と言っていた。つまり好きならいいって事だ。


「ならーー」


 そう言った涼太の声を遮る。


「だから好きな子を聞いた」


 涼太は少しだけ考えて「いない」そう言ったんだよ。

 信じられない。同じ生き物とは思えない。イケメン怖い。


「嘘だ。俺たちは花の高校生なんだぞ。好きな子の一人や二人や三人や四人や五人はいるだろう」


「どんだけいるんだよ。そんなにいるのは直だけだろう」


 イケメン何を笑ってやがる。


 まさか、そんなこと……あるかもしれない。

 こいつは昔からモテるのに異性と付き合ってるところを一度も見た事がない。あまり女子とも遊ばないし。

 いや、一回も遊んでないんじゃ……


 モテるのに俺並みに女子と遊んでない。いつも俺といるし……嘘だろ?


「お前まさか……俺のーー」


「それはない。絶対ない。今後何がおきてもない。絶対ない」


 俺の声を遮る声は力強かった。言動、表情、仕草、どれを取っても嘘じゃないと思った。


「……よかった。いくらお前とだって、オーイェーイは勘弁だからな」


 吐いた息と共に胸を撫で下ろした。


 女子生徒の視線をいつも以上に感じるのは気のせいだろうか。

 否。そう否である。


「まぁ、そう言う事だから俺の事は気にせずモテモテになってくれよ」


「涼太。……おめぇってやつは、どれだけいいやつなんだよ。おらぁ、涙が出てくるぜぇ」


 俺は感動した表情を浮かべながら、目の上に手を当て俯いた。矢先、俺は顔を上げて淡々と続けた。


「ーーまぁ、全てお前がイケメンじゃなければの話だけどな」


「そこは関係ないだろ」


「関係ありありありオオアリクイなんだよ。一生お前にはわからないだろうが、俺はお前を見捨てたりはしない。俺の唯一の親友だからな」


「直は稀に、物凄いくさいセリフ吐くよな」


「ーーなんだと。今は完全に熱い友情が芽生えるところだろ」


「そうだな。直のそう言うところが俺は好きだよ」


「告白すんじゃねぇよ……」


 涼太がにこっと微笑むからキュンとしちゃったじゃねぇかよ。責任はとってもらうからな。


 言っておくが変な意味じゃない。俺は女が大好きノーマルタイプだ。


 断じて変な意味じゃ無いからなあああああああああああ!


 俺のどうでもいい心の叫びに共鳴するかのようにチャイムが鳴り響いた。




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