モテモテ3
翌日火曜日。
二年一組の教室に着くや否や、席にも着かずに窓際最後尾、主人公の特等席に当たり前のように風を感じながら座っている涼太の元へと駆け寄った。
「なあ、聞いてくれよ。俺は今日からモテ男になる」
「朝っぱらからどうした?」
「朝とか夜とか俺には関係ないんだぜ。そんなのもわからんのか。これだからイケメンは」
「イケメンは関係ないだろ」
呆れた顔でため息を吐く涼太を尻目に俺はポンと肩を叩く。
「まぁ、今日のところは目を瞑っといてやるよ。俺はご機嫌だからな」
「よくわからないけど一応ありがとう。とだけ言っておく」
「うむ。苦しゅうない」
腕を組んで大きく頷く。それを見た涼太は薄く笑った後に神妙な面持ちで口を開く。
「昨日とは違う意味でおかしいな。またなにかあったのか? ーーまさか病気とかじゃ……」
「誰が万年モテない病だこら! バカにしてると痛い目見るぞ」
「そんなこと言ってないんだけど……」
怒りに任せて机を叩き声を荒げる姿を見て、涼太は呆れたようにため息をついた。
「細かい事は気にしない。イケメンならわかんだろ?」
「わからないから」
「ほうほう」
顎を擦りながら意味深な顔で続ける。
「イケメンは認めるのに、わからないと、この恥知らずが! 恥を知れ。馬鹿者が!」
「いや、もう訂正するの疲れるんだよ。訂正しても毎日のようにイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンって、呪文のように繰り返されて、頭がおかしくなりそうだ」
頭を掻き毟る親友を見て、俺は意味深な顔でコクコクと頷く。
「イケメンにも悩みはあるということか……勉強に、なるな」
「悩みの種はお前なんだけど……」
「皆まで言うな、お前の気持ちはよくわかってる。親友なんだから当たり前のことだ」
「いや、もう全部言ってるんだけど」
「さっきからちまちまちまちま。お前はちまりん加藤か!」
声を張り上げて言うと、クラスメイトが振り向く。それを気にせず涼太は怪訝な表情になる。
「誰それ? 聞いたことがない」
「今作った。天才だろ? 天才なおちゃんとは俺のことだ」
両腰に手を当て偉そうに高笑いをする。涼太は気持ちが全く籠ってない投げやりな声で、
「すごいすごい。やっぱり天才なおちゃんはすごいなー」
「次、天才なおちゃんって言ったらぶっ飛ばすぞ!」
「直が言ったのにか?」
「そうだ。生みの親だからこその決断だ」
俺は腕を組み大きく頷く。それを見て涼太は呆れてため息を吐いた。
「ーーなんだよそれ。まぁいいけど」
「やっぱりイケメンは違うなー」
「はいはい。ーーほら、先生来たぞ」
「へいへい」
予鈴と共に担任の高島先生が入って来た。
俺は急いで、涼太とは真逆の廊下側最後尾の席に座った。
高島先生は四十代で焦げ茶色のズボンに白いワイシャツ、変な柄のネクタイをグイッと締めている。白髪が混じった短髪、顔は渋い。
声が大きいこと以外は普通の先生だと、今は言っておこう。
「お前達! 席に着けぇぇぇえい!」
ほら、でかい。
そんな腹から声出さなくても聞こえてるから、後ろの席なのに耳が痛い。
「よしっ! みんな席に着いたな! 前から言っていたと思うが! 今日は転入生がいます!」
その言葉を聞いてクラスが活気づき、色んな声が飛び交う。「どんな人だろう」「男? それとも女?」「イケメンだったらいいな」「女来い!」「誰でもいいし」「可愛い子可愛い子可愛い子可愛い子」といった具合に。
言うまでもなく最後のは俺だ。
騒がしい教室を静かにするのはやはり先生だった。
「静かにしろおおおおおおおおおっ!」
あんたが静かにしろおおおおおおおおっ! ってマジで言いたくなる声だった。
でも、効果覿面で教室は静まり返った。
怒号の高島の異名は伊達じゃないと思ってしまった。
「よーしっ! 静かになったところで入ってもらう事にしよう。飾霧入れ!」
そう呼ばれて扉から現れたのは、銀髪の美少女だった。
優雅に歩き先生の横で立ち止まる。大騒ぎになると思われた教室は静まり返っていた。
皆は余りの美しさに言葉を失っていたのだ。
そう、俺以外はーー
「ああああああああああああああああああっ!」
さっき静かにしろとか思っていたくせに自分の方がうるさくなってしまい。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
指を差して大声を上げたせいで、クラス中の視線が一気に俺に集まる。飾霧より前に先生が口を開いた。
「なんだ! お前等知り合いか⁉︎ そうか! そうか! 丁度空いてる席も隣でよかったな!」
「いや……」
俺の小さい声をかき消すようにして先生は続ける。
「ーーそんじゃ飾霧! 自己紹介頼む!」
そう言い促すと、飾霧はチューク持ち黒板に達筆な字で名前を書き始めた。
クラス中が前に向き直りその可憐な姿に釘付けである。
書き終わると、チョークを置きパンパンと手を払う。
絹のようなキメ細かい銀髪をかき上げ優雅に振り向くと、自己紹介を始めた。
「皆様。今日より転入致しました。飾霧ノアと申します。下民と仲良くなる気は毛頭ないので、どうか気になさらず。声もかけないで下さい。では、これからよろしくお願い致します」
その綺麗な装いからは想像できない発言と、汚物を見るような冷たい瞳にクラス中、いや先生すらも凍りついた。
飾霧はそれを横目に、女王の凱旋の如くスタスタと歩き俺の横に座った。
恐怖のあまり、一瞥すら出来なかった。
「昨日振りね。茂木直。これから楽しくなりそうね」
優しく微笑んだ。それを見て悪寒がした俺は後頭部を掻きつつ、はははと苦笑いを浮かべた。
「ーーそ、そうですね」
飾霧は小悪魔。いや、魔王のようにニヤリと笑うと、前に視線を移した。
先生はやっとの事で呪縛から解放され、珍しく普通の声で言った。
「まぁ、あれだな。珍しい自己紹介だったな。きっと緊張していたんだろう。皆仲良くするように、これにてホームルーム終了。ーーそうだ。欠席はいないよな?」
流石の高島先生。それとなくフォローをしたつもりだろうがあまり意味はないだろう。
クラスの様子がおかしいのは明白だ。
「いませーん」
クラスの男子が言った。
あれは優等生の山岡武。この空気の中よくやった。
「そうか。よし解散。授業に遅れないようにな」
そう言い残し高島先生は教室を後にした。
いつもは各々席を立ったり、授業の準備などをしているのだが、皆席に座ったままひそひそと悪口ではないとしても噂をしている。
そりゃそうだろう。あんな自己紹介したんだからな。あれじゃまるで事故紹介だろ。とかうまいこと考えていると、この雰囲気をまったく気にしてない張本人が話しかけてきた。
「昨日の事、覚えてるわよね?」
「も、もちろん覚えてますとも」
挙動不審みたいになってる俺は悪くない。全て飾霧の纏う空気のせいだ。
「そう。ならいいわ」
無表情で言った後に授業の準備を始めた。
ただその程度のことをする姿ですら、可憐だ……目を覚ませ俺!
見てくれに騙されるな。こいつとは、モテる為に協定を締結したに過ぎない。さーて、放課後が楽しみだ。
ーーいや、楽しみじゃないかも……
ここまで読んで頂いた方々ありがとうございます。
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そして、コイキングのように飛び跳ねます。
なるべくエタらないように頑張りたいと思います。