モテモテ1
新作書きました!!!
書き溜めたのを出していくのでストックがある限りは1日1話投稿する予定です。
少しでも楽しんでもらえたら幸いです!
気になった方はブックマークなどよろしくお願いいたします。
空を見上げると、雲一つない青空が広がる。太陽の光を浴びながらゆっくりと歩く。
心地よい春風が吹き抜け、花びらが舞い散るとともに、周りを歩く女子生徒の短いスカートも靡く。
「ーーピンクか」
そうか、これがJK……やはり破壊力が違うな。これが人生最大にして青春の舞台だというのか。
緩みかけた表情に力を入れ直す。
桜の木に囲まれた並木道を抜けると、そこは青春学園。
そう、今日から俺が通う高校。校舎は青春を絵に描いたような外装だ。
俺は高校生になるこの日を夢見ていた。高校生になればモテモテになれると聞いていたからだ。
ついに、その時が来た。俺のモテモテライフが今日から始まる。
待ってろよ。可愛い子猫ちゃん達。
「……とか思ってた俺を殴りたい。殴りたい。殴りたい。殴りたい。殴られたい。殴られたい。殴られたぁぁぁぁあい。ーーおっと、つい願望が入っちまったぜ。俺の悪い癖だ。なぁ涼太?」
窓際最後尾一つ前の椅子にまたがっていた俺は、目覚めたように言い放った。
放課後、誰もいない教室。窓からは夕日が差し込み。外からは運動部の活気溢れる声、中からは吹奏楽部が奏でる演奏。
そんな青春の一ページにでも出てきそうなシチュエーションの中。
男二人は友情を深め合っていた。
残念だがここに華はない。だが爽はある。
「いきなりなんだよ。殆どお経みたいで聞き取れない」
頬杖を解くと、爽やかな声を奏でるこのナイスガイが俺の親友の津賀涼太。
ピシッと着こなした制服にサラサラの茶髪、整った顔、そして特徴的な切れ長の目。
頭も良く、運動神経抜群。
女子からの人気も高く、もうそろそろ絶交しようと思っている。
「おい。つれないこと言うんじゃねぇよ。お前少しかっこいいからって調子のんじゃねぇぞ」
少しどころじゃねぇ。異常なまでのイケメンだ。殺意が沸くレベルだぜ。
体を捻って顔を無理やり覗き込む。涼太は嫌な顔もせずに答えた。
「別に、調子になんか乗ってない。ーーてか近いな」
「ははーん。そういうことね。かっこいいのは認めるわけね。ほーん。こちとら、腹立ちまくりんこでぷーだぞこら!」
「どうした? 今日はいつもの倍、意味がわからないんだけど」
肩をすくめやがってかっこいいじゃねぇーか、この野郎。
「お前にわかってもらえるはずがない。イケメンのお前には、ーーだっ」
キメ顔でビシッと指を差す。それをものともしない彼は爽やかな表情で言う。
「別にイケメンじゃねーよ。聞いてやるから言ってみな」
「はーん。次は否定した上に相談まで乗ってくれると、ちょっとカッコよすぎはしませんかねぇ? どうなんですか? ねぇねぇねぇぇぇえ?」
おかしいぐらいに首を傾げ全力で煽る。それでも嫌な顔一つしないのが、津賀涼太という男だ。こいつとは小中高と一緒で、昔からこんな感じだ。
ーーイケメン滅びろ。
「ほんと、どうしたんだよ。そんな嫌な事があったのか?」
「あったよ。ありまくりだよ。高校生になってからずっと、ありまくりすぎてありまくりくりだよ」
実際ありまくりだった。
高校生になったのに何もなさすぎる。
一年以上通ってるのにモテないどころか異性の友達すらできない。
「もう完全になにを言ってるかわからない。一旦落ち着け」
そう言い肩に手を置く。俺はそれを薙ぎ払うと更に捲し立てる。
「これが落ち着いていられるのか。あぁん? いられねぇーよ。いられるわけがねぇ。いられるわけがねぇーんだよ……」
最後の方に思いが込み上げてきて涙を流す。
「おい。急にどうしたんだよ」
「気にすんなよ。悪かったな……」
目をゴシゴシと腕で拭うと続けた。
「ーーお前に当たるなんて俺は友達失格だ。絶交だな。俺なんかとはもう絶交だな!」
「いやいや、俺は気にしてないから」
「優しいな、お前はよう。結婚してくれよ」
涼太の手を両手で強く握るが、彼はそれを振り払うと即答した。
「それは無理」
「即答するんじゃねぇーよ。少しくらい考えろよ。友達じゃねぇーのかよ? あぁぁあん?」
その行動に変なスイッチが入った俺は煽る。これでもかと言うぐらいに煽る。
それでも涼太は冷静な表情で、
「いや、無理だろ。結婚は。そもそもお前は女と結婚したいだろ」
「してぇーよ。めっちゃしてぇーよ。いればなぁ、相手が、いればだけどなぁ!」
生まれてから十六年、彼女ができた事は愚か女子と喋る事もあまりない。
俺の顔は平凡かも知れないが、自分はわりかし好きだ。
身長だって低い方じゃないし、太ってるわけでもなく、どちらかというと筋肉質。
髪型だってイカしたトサカヘアーだ。
--あれ? なんでモテないの???
「まだ人生長いんだからこれからだろ」
「イケメンにはわかんねぇんだよ。この気持ちは……」
本音が出た。
わかるわけがない。こんな人生勝ち組イケメン野郎に。
本当ならぶっ飛ばしてやりてぇよ。でもこいついいやつなんだよ。俺の親友なんだよ。
「そんな事ないと思うけどな」
「根拠があるなら聞くぜ。言ってみろよ」
「いや、俺も彼女いないからーー」
その言葉を聞いてカチンときちゃいました。
こんな奴親友でもなんでもねぇよ。
ただのイケメンだ!
勢いよく机を叩くと同時に身を乗り出した。
「ーーお前は選り好みしてっからだろーが! 今まで何人に告られたんだ言ってみろ! ぁああん? ナメてんのか俺の事、そんなにペロペロしたいのか?」
「そんなつもりはない。それより、好きでもない人と付き合えないだろ。後、ナメてもないし。ペロペロもしたくない」
最後の方は真顔だったので、ちょっと怖かったじゃないか。
「ほーん。好きな人じゃないと付き合わないか。イケメンはやっぱり違うわ、惚れちまいそうだわ」
「お前に惚れられてもな」
「バカか? 今のは皮肉だろうが、わかれよ。おたんこなす」
「そうだったのか。わりぃ」
こいつなんなんだよ。
こんな意味のわからない俺の話を笑顔で聞いてくれるなんて、俺は惨めだ。
ほんと……惨めだ。
「いや、悪いのは俺なんだけどな、そんなのわかってんだよ。俺だってそこまでバカじゃねぇーんだ。わかってはいるんだよ。…………すまねぇ、今日は先帰るわ」
「ーーわかった。なにか悩みがあるなら言えよな」
鞄を持ち席を立つ俺に、優しく声をかけてくれるこいつに惚れそうになった。
「ああ、ありがとな」
本当にありがたい。
だからこそ少し頭を冷やそう。
こいつにこれ以上愚痴りたくもないしな。
俺は教室を後にした。
夕日に照らされ輝いている廊下を歩きながら窓の外を見ると、下校している生徒がちらほらと見える。
なんとなく青春って感じだ。
そのまま外を眺めていると、ある少女が目に入った。
その少女はこれほど遠くから見ていると言うのに、美少女だと一瞬で確信させるほどのオーラを放っていた。
ここからだと、銀髪なのとモデル並みの体型なことくらいしかわからなかった。
俺は何故か走っていた。
もっと近くで見たいと言う衝動が無意識に身体を動かしていた。
急いで階段を駆け下り、躓きそうになりながらも耐え、更に降りた。
一階に着くや否や下駄箱までダッシュ、靴を完全に履かぬまま走り出した。
「……頼む」
息切れしている口から心の声が漏れる。
外に出て少し走ると、校門近くに生えている大きな桜の木を見つめている美少女の姿。
近くで見ると、さっきよりも百倍。いや、一万倍美しかった。
制服は綺麗に着こなされていて、風に揺れる絹のような美しい銀髪は腰まである。
華奢な身体に白くきめ細やかな肌。ガラス細工のような青い瞳。整った顔の中に見え隠れする幼さ。
それは、ハーフを彷彿させる出で立ちだった。
ーーこんな生徒この学校にいたっけ?