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9話

 母から病気の進行のことを聞いてすぐ、検査や新たな治療の計画が決まった。私は1度、他の病院に転院しなくてはいけないらしい。早ければ1月程度でまたここに戻ってこれるそうだ。

 

 私はずっと怖くて聞いていなかった病気の進行状況を母の立ち会いで先生に教えてもらった。


 私には知る必要があったのだ。できるだけ正確な、私に残された時間を。




 病状はやはり、あまり良くなかった。


 私の脳腫瘍は前頭葉の中間部に存在する。この付近にはブローカ野という部分があり、ここまで腫瘍の影響がくると、上手く喋ったり書いたりすることができなくなるらしい。

 私の場合は、思考が遅くなり、次第に注意力・意欲の低下が表れて無関心になっていくそうだ。


 手足の痺れについては、腫瘍が脳から脊髄に転移していてそれが原因となっているようだった。


 転移という言葉が出てきたことで、私は急に死の気配を感じ始めた。


 【1年】という目安を知った私は、先生にお礼を伝え、ロビーへと向かった。




 貴方からの返事はまだ来ていなかった。


 それでも、手書きの文字を見るだけで荒んでいた私の気持ちは落ち着いた。


 気づけばメモは1枚では収まりきらず、小さなメモ書きが3枚になっていた。


【Q.貴方は誰?】

 私の悪戯から始まった貴方との関係。

 最初から最後まで目を通すと涙が出た。理由は簡単だ。

 遠いようで近い未来を想像してしまったのだ。



 死にたくない。強くそう思った。


 私は、貴方に会いたかった。





 翌週、バタバタしていて彼の返事を確認できないまま、私は転院の日を迎えた。


 ロビーを通るとき、少しだけ待ってもらい返事を確認させてもらった。

 

 書きたいことがありすぎて、その場で返事を書くことが出来なかった。


 【悲しい】・【気になっている】という言葉が私に熱を灯す。目頭が熱くなり、私の中に勇気が沸き上がった。

 病気になんで負けてらんない。


 

 帰ってきたら貴方に会いに行く。


 そう心に刻み、私はずっと出ることがなかったこの病院を去った。


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