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1話

 泣き疲れてしまった。


 やり場のない気持ちが溢れて、ただれて、腐敗していく。



 久しぶりに流した涙は、やっぱりしょっぱくて、何故か苦く感じた。



 これから僕はどうすれば…


 先のことを考える余裕はなく、気づけば僕は、これまで歩んできた道程を思い返していた。

 折角だしふり返ってみよう、僕が辿った道を。





 小さな頃から勉強はできた。それ以外のことについては、他人に自慢できることは何ひとつありはしなかった。


 これといった趣味も持たず、それ故に暇さえあれば英単語を覚えたりと、もて余した時間は自然と学習にあてがわれていった。言ってみれば勉強が僕の趣味だったのかも知れない。


 思春期特有の漠然とした不安を和らげるのに勉強はもってこいだった。学生時代の勉強はやって損はないし、周りの大人からの評価も上がる。


 同級生は僕のことを陰で馬鹿にして笑っているようだがそんなことは問題にもなりえない。心底どうだって良かった。


 僕には他の同級生の行動が理解できなかった。

 彼らの行動の大半は僕には意味のないことに思えた。


 好んで時間を浪費する彼ら彼女らは何を考えて生きているのだろうか?

 僕には解きえない問いだ。


 僕はよく、心の中で自問自答を繰り返す学生だった。「解く」ということが好きだったのだ。それは癖と言ってもいいだろう。



 クラスメイトのはしゃぐ姿を目にする度にこんなことを考えていた。


 彼らはなぜ群れるのだろうか?

 集団にはメリットよりデメリットが多く存在すると僕は考える。なのになぜ…


 恐らくは楽しいのだろう。

 それは端から見ていれば伝わってくる。しかし理解はできない。

 この難題を解くのに必要なのは余弦定理でもケーリーハミルトンの定理でもない。


【深い人間関係】だ。


 友達とでも言い換えられるだろう。


 つまりと言うかやはりと言うか、僕には解くことができないという結論に至る。解くに値しないほどの簡単な証明を終え、手元の単語帳に目をやり、元の作業に戻った。



 友達か…昔はいたような気がした。遠い昔の話だ。



 いじめにあった日から僕は集団というもののリスクにばかり目が行き、群れることをやめた。

 小3にしてこの結論を出せた自分はもしかしたら少し変わっているのかも知れない。

 あの時、それほどまでに僕は恐れていたのだろう。


 他人が、怖くなった。


 それだけのことだ。


 それに今の僕には別に必要ないモノだ。

 これから先何十年も続く人生で、学生時代に友達の一人もいないのはちょっとどうかと思うけど。

 まぁ大人になって昔話を誰かとするとき、ちょっと寂しいかもしれないな…


 あれ?

 過去を語り合う仲間を未来の自分が作っていることを想像するなんて…

 これは成長と言っても良いのかもしれない。


 僕は人間が大嫌いだからね。


 


 なんとまぁ酷い…


 今ならわかる。もっと君(過去の僕)は他人と関わるべきだったんだ。じゃないと君は…


 僕は…どうすればいいんだい?




 


 受験を控え、勇んで進級をした高校3年の春。



 僕は病に巣食われた。



 誰もが通る道を歩めなくなった。



 誰もいない、薄暗い道を、僕は一人で歩き始めた。


 背後からは崩れ始めた道が、底無しの黒い谷へ落ちていく音が聞こえた。


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