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夏の怪談

作者: プレイヤー1

 大学に入ってもう三年になるそんなある夏の日のこと。

 大学近くのアパートに部屋を借りている友人の元に集まって皆でゲームをしたり他愛もない話をしたり酒を飲んだり、兎に角騒いでいた。その中で誰が言い出したか怪談話をしよう、ということになった。

 この時私はあまり乗り気ではなく、そのせいなのか、私からという事になった。

「仕方ないなぁ、じゃあ話すね」

「待って待って、電気消すからちょっと待って」

 彼女はそう言って立ち上がり、壁についたスイッチを押しに行く。

「わかったか、待ってろ」

「もういいよ」

「もういいぞ」

 その言葉を合図に私は話し始める。

「これはね、実際にあった話なんだけど、その日は週末でみんなで遊ぼうって言う話になったんだよね。やることも別になかったし、まあいいかって遊ぶことにしたの。その日の休み時間にトイレに行ったんだけど、奥から二番目のトイレしか空いて無かったの。そこは和式だから普段あんまり使わないんだけど、空いてないから仕方なくそこを使うことにしたの」

「ちょっといい? ごめんね、ろうそくの代わりに携帯使っていい? 」

 話していると、友人がそんな能天気なことを言って遮ってきた。

「ねえ、まぶしい」

「おい、まぶしいぞ」

「ごめんごめん、ゆるしてー」

 おどけたようにそう言うと彼女は明かりを調節すると、裏向きにして携帯電話を置いた。

 彼女に悪気があるわけではないと分かってはいるので、怒ることもなく深く息を吐いてから再び話し始める。

「で、仕方なく和式トイレ使うことにしたの。それから個室出たんだけど、他の所いつの間にか全部開いててちょっと不思議だったの。そこのトイレ消音機能付いてるから聞こえなかっただけなんだって、思い込むことにして手を洗っていると何か違和感を感じて顔上げたんだけど、鏡があるくらいでそれ以上何にもなくて。で、トイレ出ようとした時水の流れる音が聞こえてきたの。トイレだから深く考えないでそのまま出たんだけど、やっぱり違和感を感じたの。でも、ちょっと怖くて戻って確かめようなんて思わなかったの。問題はそれからで、なんだか、見られてる気がし始めたの。後ろの人とか、隣の人とかじゃなくてもっと近くから、じっと見られてるってそんな感じ。授業が終わってもやっぱりその視線っていうか気配みたいなものはなくならなくて、もうずっとなにかがいるってそんな感じで、怖いし、なんかちょっと気持ち悪くて。そんな時、丁度友人たちが来てくれて、これで気がまぎれるかなって思ったんだけど」

「ねえ、なんかちょっと寒くない? 」

 友人の一人がそんなことを言い出した。

 確かに私も少し寒いと感じるが、それは怪談話が原因だろうと思うことにしていた。

「わかる、なんか寒い。エアコンのリモコンどこ」

「そこにあるぞ」

「暗くて見えないって」

「携帯使えばいいじゃん」

 友人は携帯電話を手に取って辺りを照らし出す。

 明るくなるとリモコンはすぐに見つかった。それは友人から案外近くに置かれていた。

「でも設定温度二十六度だよ」

 友人は携帯電話のライトでリモコンを照らし、設定温度を確認する。

「えーうそ、全然二十六度って感じしない。寒い」

「怪談話が原因だと思うんだけど」

「えー、まあ、そうなのかなー」

 私の言葉にあまり納得していないようだったが、一応そういうことになった。

「よくわかんないけどさ、念のため二十七度にしとけばいいんじゃない? 」

「まあ、そうだね」

「もう続き話してもいい」

 友人たちに訊ねると大丈夫だと返事が返ってきた。

「えっと、ああ、友人たちが来てくれて気がまぎれるかなって思ったんだけど、やっぱり見られてるって感じが強くて。それから、授業も終わって友人の家に行こうってなったんだけどずっと見られてるの。ぴったり真後ろに張り付いてじっとこっちを見てくるの。でも、みんなが楽しんでいたいのに自分のせいでその雰囲気壊したくないから何にもないことを装ってたんだよね。頑張って元気な風を装ってても気付かれるみたいで、友人たちにちょっと心配されたんだけど、まさかそんなこと言い出すなんて、全然出来なくて、大丈夫だって、そう言ってごまかしたの。友人たちはその時怪しんでたんだけど、すぐにそれまでの調子に戻って、それで、自分のせいで楽しそうな雰囲気壊れなくてよかったそう思ったんだよね。夏だからちょっと暑くて、その友人たちはアイスが食べたいって言ってたんだけど、私は暑いなんて全く感じなくて寧ろ少し肌寒いくらいで」

「え、それ本当に実話なの。作り話みたい」

 友人の一人がそんなことを言う。これで私の話が中断されたのはもう三回目だ。

 つまらないならつまらないと言ってくれればいいのに、そう思うが口に出すことは無い。

「実話だよ、最後まで聞けばきっとわかるから」

「えー、でもそれって」

 暗くてよく見えないが、彼女は口調からして少し不満なようだ。

「それで、少し肌寒かったんだけどみんな食べてるのに一人だけっていうのも変だなって思ってその時私もアイス食べたんだよね。アイスが嫌いじゃないっていうのもあったんだけど。で、ここからなんだけどね、何も言えずに友人たちについて行ったの。ずっと後ろから気配を感じながら。それはずっと私についてきていて、その友人の家までずっとついてきて、それでも何も言えなくて、色々怖くて何も言えなくて、ずっと私の後ろにそれがいるの。何かわからないけど、私には何も分からないけどずっとそれがいるの」

「大丈夫、声震えてるよ」

 友人は心配そうに声をかけてくれる。

「どうする、もうやめる? 」

「やめない、続るぞ」

「やめなーい、つづけよつづけよ」

「じゃあ、つづけよっか。それでも大丈夫? 」

 友人の一人がやめようかと提案するが、怖いものが好きなのか悪いノリなのかっ続けることになった。

「私は大丈夫、私は。話、続けるね。その友人の家に着くまでにいなくなってくれることを必死に祈ってたんだけど全然だめで、いなくなんなくて、ずっとついてきたの。その友人の部屋にいる時にもずっと見られてて、なんだか数も増えてるような気さえして、ずっと後ろから見られてるのに廊下の方からも視線を感じるようになって、なんだか違う声も聞こえるようになって」

 その時、キッチンの方から複数の鈍い音が聞こえてきた。

 私も含め、殆どの人が驚いて戸惑っている中、部屋主の友人だけは落ち着いていた。

「今の何の音」

 皆の思っていること代弁するかのように一人がそう訊ねる。

「今のはただの製氷機の音だから気にしないで」

「このまま続けても大丈夫だよね。といってももうすぐ終わるんだけど。ずっと、ずっと見られてて、声も聞こえ始めて、そんな中で誰かが怪談話でもしようって言い出したの。それで、それで」

 話を切り、二、三回ほど大きめに息をして呼吸を整える。

「それで、怪談話をしようっていったのは、誰」

 その一言で部屋の中は静かになる。

「何それ、話のおちは無いの」

「それって実話なんだよね、それって」

「実話だぞ」

「ねえ、さっきからすっごい気になってたんだけど、低音で喋るのやめてよ。怪談の時にそういうのやめてよ」

 一人がそう言うとみんな誰がやってるのかと探し始めた。

「だから、声が聞こえるって言ったよね。怪談の前から」

「電気、ちょっと電気付けるよ」

 突然明るくなったことで目が眩み、視界が奪われる。

 見えるようになって右を、左を見ても私と友人たちしかいない。

「だから、いる。私たちとは別の何かが。ずっと見てるの」

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