第3話 「はじめまして」
「割の良い仕事が入ったぞ」
その魅惑的な言葉が私に向けて放たれる。
「え、でも、それは……」
「どうした?別に気にすんな、こっちから紹介してんだ問題は無い」
「えっと、そのぉ……、準備のお金とかが」
「なんだそんなことか、これ見ろ」
そう言って依頼書を私に見せてくる。
そこには、前金で、一回の仕事ではまず見られない金額。そして調査の結果によって追加報酬が用意される。と書かれていた。
「えっ!?前金でこんなに、しかもさらに報酬も出るんですか!?」
驚きのあまり青年に詰め寄ってしまった。
普通に働いておよそ一ヶ月分の給料が一回、しかも前金で。さらに追加で報酬が貰える可能性がある、というのだから驚きもする。
「え、ええ、もちろんです。新しい遺跡というだけでもかなりの価値があります。それに、それを初めて調査できるのですから、それだけでも学者としては素晴らしいことなのです」
詰め寄ったことにより青年は落ち着きを取り戻したようで冷静に説明をしてくれた。
「あ、すみません……」
私も落ち着いて、少し離れる。
だがそういうことなら遠慮する必要も無いだろう、確かに報酬も良いし是非受けさせて貰おう。
「いえ、えっと依頼、受けていただけますか?」
「はい、もち――」
「ちょっと待ったー!」
いきなり元気な声と共に少年が割って入ってくる。
「きゃっ」
「あ、わりい!なあ、オレも一緒に連れてってくれないか?」
現れたのは、まっすぐな瞳をした赤髪の少年だった。
胸に二枚羽のバッジを付けている。
その少年は割って入ってくるなり一緒に連れてってと言ってきた。
しかし私はびっくりしてしまい頭が働かずあわあわしてしまっている。
「あ、その、あっとぉ……」
「ちょっと落ち着け」
見かねたのかジュンに軽く頭をたたかれた。
「あうっ」
「落ち着いたか」
「はい……」
落ち着いた。うん、落ち着いた。
なんか子供のように扱われたような気がしてちょっと恥ずかしい。
昔からこういう突然のことに弱いのを気にはしているのだが、一向に良くなる気配がない。そのおかげで、子供達にからかわれていた事も思い出し、肩を落とす。
「じゃあ話しの続きだ。確か……ラディンだったか、お前も受けたいのか?」
「ああ、遺跡調査なんてワクワクするだろ!それに報酬も良いらしいじゃねぇか、ならなおさらだ」
「だそうだが、どうする?ちなみに」
「はい、人数が多いに越したことはありませんから」
ジュンがアイコンタクトで青年に意見を求めると青年は笑顔でそう答えた。
「だそうだ」
「えっとぉ……」
どうしよう。
ここは受け入れてしまって良いのだろうか。
といっても答えは考えるまでもなかった。
「うん、いいよ。一緒に行こう」
私は彼の同行を受け入れる。
何せ遺跡探索だ、何があるか分からないから、何かあったときにカバーできる相手が居るのはとても心強い。
「ありがとな!オレはラディン・エレアス、よろしくな!」
「私はソフィア。ソフィア・リス……」
慌てて口を噤む。
「リス?」
「えっ、その…リスティ!ソフィア・リスティ。よろしくね、ラディン」
「?へんなの。まいいや、よろしくな、ソフィア!」
「あはは…、よろしく」
互いに手を出し握手をする。
不思議がっていたがそれ以上追求はしてこなかった。
だがジュンの目が鋭く刺さった気がした。
先程の事でどう考えても追求しておかしくないのに、それをせずにそのまま受け入れるラディンを、有り難く思う反面、このままで大丈夫なんだろうかという不安が折り重なりなんとも言えない気持ちになる。
考えてみればラディンが冒険者として初めての仲間になる、そのことがうれしくてつい笑顔がこぼれる。
これからも仲良く出来たら良いな。
「ちょっと~、楽しそうじゃん」
そういって軽い調子のお兄さんが戻ってきた。
「ちょうどいい、お前もついてけ」
ジュンがさも当然のように言う。
「え?もちろん報酬も出るよね」
当然確認をするが、
「出る訳ねえだろ、この間何したか分かってんのか……」
「はい、ごめんなさい……」
一蹴されたうえ怒られていた。
なにをしでかしたのかは分からないが聞かないでおこう。
さっき見えたジュンの怖い顔がとんでもないことをしでかしたことを物語っていたから……。
ああいう顔が見えたときは大抵、ろくでもないことでひどいことをやらかしたときだから。小さな頃に似たような顔を見たことがある。
「これでチャラにするからしっかりやってこい」
「ありがとうジュンちゃん!」
その言葉を聞いた途端パアっと明るくなる。
……尻尾を振る犬が見える。
「というわけだからよろしく~。あ、ボクの名前はウィルだよ」
「これでも一応先輩だからいろいろ教えてもらえ」
というわけでウィルもついてくることになった。
「あ、はい、よろしくお願いしますウィルさん」
「敬語はなし、ボクも気楽に接していいからね、ソフィアちゃん」
「あーうん、よろしくねウィル」
わかってはいたが調子が軽い、だがバッジは四枚羽、つまりBランク。
こんな調子だが実力は間違いなくあるのだが、
「そうそうそんな感じ、なんならもっと仲良くしだっ!」
「そこまでにしとけ」
どう見ても実力のある人に見えない。
冒険者より遊び人と言われた方がしっくりきてしまう。
確かこういう人のことを呼ぶ言葉があった気がする。確か……昼提灯だっけか?
「いい加減にしねぇと今までのツケ全部今、払わせるぞ!」
「ごめんなさいそれだけは!」
「だったらいちいち女にちょっかいをかけるな!」
「それは聞けないよ!女の子と触れ合うことがボクの生きがいなんだから!」
「お前それで何回トラブル起こしたと思ってる!」
いつの間にかケンカが始まってしまった。
ただ聞いてるとどう考えてもウィルの方が悪い気がする。
どうしたものかと思っていたところ、それを納めるように今まで完全に空気だった依頼者の青年が声をかけてくる。
「えっと~……一緒に来ていただけるのは三人ということでいいですか?」
忘れかけていた。ばつの悪い気持ちから仲間を求めて周りを確認する。
私だけかと思っていたが、ジュンさん含め全員が忘れていたらしく、皆して目をそらしていた。
「そうですよね、ほんと、影が薄くてすいません」
その状況を見て、落ち込みながら謝っていた。
「いやいやいや、謝らなくていいですよ」
「そうだ、あんたが悪いわけじゃない、完全にこっちが悪い。本当にすまない」
「そうだよ、あんたが謝ることじゃねぇって」
「そんなことより」
「お前は黙ってろ」
「はい……」
皆で必死に励ます。
しかしあんまり効果はなく。
「いや、いいんですよ、学生だった頃も、似たようなことはたくさんありましたし。多分、生まれつき影が薄いんですよ。だから、気にしないでください」
余計に落ち込んでいた。
このままじゃまずい、なんとか話を戻さないと。
「遺跡!早く遺跡に行きましょう!ほら、新しい遺跡の調査が出来るんですよ?早く行かないと他の人に先を越されちゃいますよ!」
自分でも無理矢理な気がした。なんとか話を戻そうととっさに思いついたのがこれしかなかっただけなのだが、こうでもしなければ先程のように落ち込むのが続く気がした。
「ハッ!」
若干強引な気もしたが元気を取り戻し、シャキッとした。
「そうです、早くしないと先を越されてしまいます!では同行者は三人でいいですね、さあ早く準備をして行きましょう!」
ちょっとこちらが困惑するくらいに元気になった。
だがこれでよかった、おかげで話が早く進んでくれた。
「お、おう。そうだ、お前等はこれに魔力を流してくれ」
そう言って私達の前に大きめの水晶玉が置かれる。それは私とラディンを見て言っていた。
「はい」
ラディンはそれに魔力を込めた。
「ほらあんたも」
「あ、はい」
私もそれに魔力を込める。
するとバッジとそれがほのかに光った。
「これで準備完了だ。そこの二人は初仕事がんばれよ」
そう私とラディンを見て言った。
「ラディンも初仕事だったんだ」
「おう、昨日冒険者になってな、初仕事で面白そうな仕事ができてラッキーだぜ」
そうニカッと笑った。
それはまるで太陽みたいな笑顔だった。こんな素敵な顔をする人が、自分で言うのもあれだが、危険そうな仕事をするのだろうか。
それより、さっきの水晶玉は一体何なのか、と聞こうと思ったところでジュンが口を開いた。
「あれは依頼を受けるときに使う物だ。あれがバッジと繋がって、依頼中の状況を把握してくれている。ちなみに、これがどういう仕組みでバッジとつながっているのかは、俺らには分からん。十中八九魔法の力だろうがな」
「これ作った人はすごいよねー」
「「えぇ……」」
私とラディンは言い知れない不安感を覚えた。
冒険者は実はかなり危ないというか、怪しい仕事なのではないのだろうか。
「安心しろ。何かあってもお前達の骨はしっかり拾ってやる。この水晶玉はバッジの位置を写すことも出来るからな」
「「安心できない!(ねぇ!)」」
前言撤回。この仕事かなり危ない。
そもそも、魔物と対峙することが前提な時点で危なく無いはずがない。
「準備終わりましたか?なら買い物を早く済ませて急ぎましょう!」
先程から早く早くとまくし立てるように青年はそわそわしていた。
「はいはーい。じゃあ買い物して、遺跡に出発~」
「おー!」
ウィルとラディンが楽しそうに声を上げた。
それに併せて私も声を上げる。
「おー!」
そうして私の、私たちの初めての冒険が始まったのだった。
パソコンがご機嫌ななめ。