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序章第5話 「僕らの旅立ち」

 夜。

 孤児院の子たちと別れ宿に戻って横になっていた。


「はあ~、疲れた。」


 けれど旅の途中の気だるい疲れではない、すっきりとした疲れだ。

 しかしどうして子供というのはあんなにも元気で疲れ知らずなのだろうか不思議でたまらない。

 するとノックの音が聞こえてきた。


 「はーい。」


 ラビが来たと思い体を起こしドアを開ける。


「・・・お礼に来た。」

「すごく今更な気がするけどね。」


 私は笑ってそう言うが、彼は無表情のままだった。


「・・・入ってもいい?」

「うん、どうぞ。」


 彼を部屋に入れ座るように言ってベッドに腰掛ける。

 しかし彼は机に小さな袋を置いてこちらに向かってこう言った。


「・・・じゃあ服を脱いで横になって。」

「・・・・・・はい?」


 お礼の()が来ると思っていたため私の思考は追いつかなかった。






 日が沈んだ頃。

 そろそろと思いお礼の物を持って部屋を出る。

 そういえば僕が引きこもっている間ずっと子供たちの相手をしてくれていたようだ。

 そう思うとこの程度の物とアレだけで釣り合うだろうか、と思い小さな袋を見る。


「ラビ兄どこ行くんだー?」


 教会から出ようとしたところでシトラに声をかけられた。


「・・・ソフィアのところに。」

「なんだ~ラビ兄夜這いか~?」


 からかうようにニヤニヤしながら言ってくる。

 一体どこでそんな言葉を覚えたのだろうか、しかし今は彼女を待たせている立場なのであまりかまけている場合じゃ無い。


「・・・違う、お礼にいくだけ。」


 そう言って持っている袋を見せる。


「ちぇー、困った顔一つ見せねえのな。」


 ちょっとふてくされた。

 正直な話、表情に関しては自分でも変わらなすぎると思っているのでちょっと複雑だ。


「・・・じゃあ行ってくる。」

「いってらしゃい、ソフィア姉ちゃんによろしくなー。」


 手を振りながら外へ出て宿屋に向かう。

 小さな村なので広さはあまりないが神殿近くというのもあり、宿屋と教会はやや大きく距離も近い。

 そして宿屋に着き、ソフィアの部屋の前に着いた。


「・・・さて。」


 そう軽く意気込んでドアをノックする。

 すると中から声が聞こえドアが開く。


「・・・お礼に来た。」

「すごく今更な気がするけどね。」


 彼女は笑ってそう言った。

 確かにすごく今更だ、自分のつごうで数日待たせたのだから。

 今だけは表情が変わらないことに感謝したい、だって表情が変わるのなら落ち込んだ顔をして心配させてしまうだろうから。


「入ってもいい?」

「うん、どうぞ。」


 入室の許可を取って部屋に入り、手に持っていた袋を机に置いて、ちょうどよくベッドに腰掛けているソフィアに近寄った。


「・・・じゃあ服を脱いで横になって。」

「・・・・・・はい?」


 彼女は困惑していた。


(なぜだろう?・・・ああ、そうだった、ソフィアは初めてだった。)

「・・・ごめん、別に変なことをするつもりじゃなくて、旅もして、子供たちの相手もして疲れてるだろうから、マッサージでもしようかと思って。」

「あ、ああ、そういうこと、びっくりしたぁ。」

「・・・本当にごめん。」

「ううん、いいのいいの。・・・けど、ちょっと、近いから、少しだけ離れててもらえる?」


 ソフィアは顔を赤くして目をそらしている。

 服を脱ぐのだから近くにいられるのは確かに恥ずかしい、仮にも男と女だったことを失念していた。


「・・・ごめん、じゃあ、外にいるから声かけて。」


 と出ようとすると制止の声がかかった。


「脱ぐだけならすぐすむから中にいても問題ないよ、ただ、その、むこう、向いてて。」

「・・・わかった。」


 そういうことならと部屋の隅にむかってソフィアを見ないようにした。

 振り向いた先の彼女の持ち物の中に高価そうな指輪を見かけた。

 ずいぶん綺麗な宝石と美しい装飾が施されているが旅の途中で見つけたのだろうか、と考えたところでソフィアの準備がすんだようだ。


「もう、いいよ。」


 そう言われて振り向いて見えた彼女の姿は、シーツで体をを隠していて、その姿はとても扇情的だった。

 そしてあらためて彼女はかなりの美人だと思う。


 他の女性と比べて長身ですらっとしていて、顔立ちも整っている、そして胸も小さい方ではない。


 そんなことをこのタイミングで思うあたり自分も男だということをあらためて思い知る。

 いったいどうして近しい間柄でないというだけでこういう考えが出てきてしまうのだろうか。


 だがそれはそれ。


「・・・じゃあ、うつ伏せになって。」

「うん。」


 返事をしたソフィアはうつ伏せになった。


「・・・始めるよ。・・・大丈夫、緊張しないで、リラックスして。・・・そう、力を抜いて。」


 ソフィアの体に触れて、状態を確認し、ゆっくりとほぐしていく。






 マッサージが終わった。

 評判はいいという言葉に偽りは無く身体中のこりが無くなり今まで以上に体が軽くなった。

 しかし、行われていた最中のことはあまり思い出したくない。

 はじめは緊張していたがラビに(ささや)かれて一気に力が抜けて、身体に力が加わるたびに体が軽くなり、同時に快感が襲ってきた。それに何より、間違いでなければ変な声を上げていたからだ。

 やってもらって良かったことに変わりないが、今までの彼の様子を見るに無自覚でやっているだろうから恐ろしい。


「・・・そういえば、この後はどうするの?」


 不意の問いかけに思わず体が跳ねてしまう。


「・・・・・・大丈夫?」

「うん、大丈夫、大丈夫だよ。」

「・・・本当に?」


 さすがに自分でも変だと思っている、先程の行為のせいだとも言えるわけもなくやや不自然に続ける。


「さ、さっきこの後どうするか聞いたよね。」

「・・・うん。」

「とりあえず明日にでもこの村を発とうと思ってる、お礼も受け取ったしね。」

「・・・そっか。」


 相変わらずラビの表情は変わらない、けど声色でなんとなくだが落ち込んでいるように感じ取れた。


「そうだ、なんだったら君も旅に出てみない?」

「・・・旅に?」

「そう、旅に、というかこの村を出ていろんなものを見るの。」

「・・・そうだね、それもいいかも。」


 その言葉を言った彼の表情は、うっすらと笑っているように見えた。


「・・・あ。」


 といっていつもの表情に戻ったラビが机においた小さな袋をとってきて中身を取り出した。


「・・・はい、これも。」


 そう言って渡されたのは緑色の宝石のような石の付いたネックレスだった。


「綺麗な・・・ってこれ精霊石だよね!?」

「・・・?そうだけど。」

「そうだけどって・・・。」


 精霊石。

 精霊と呼ばれる生命から生み出される貴重な石。しかも無理矢理出そうとしても出ることは無く精霊自身が相手を認めないと生み出されないといわれる代物。

 特徴的なのがその透明度で、どんな大きさでも奥が透けて見えるほどであるため見ればすぐにわかる。


「こんなもの貰っちゃっていいの?」

「・・・いい、何個かあるし。」

「何個かって、これそういうものだっけ?」

「・・・さあ?」


 実はラビはものすごい人物なのではないかという考えが浮かんできた。ある意味ものすごい人物なのは間違いないが。

 だが自分が助けたわけではないが命のお礼として渡したと考えれば釣り合う気がしないでもないが、かといって受け取らないと何をされるかわからない。


「・・・・・・ありがとう、大切にするね。」

「・・・うん、それじゃあそろそろ帰るね。」

「うん、じゃあね。」

「・・・じゃあ、またね。」


 そう言ってラビは部屋を出ていった。

 最後に彼は“またね”と言っていた意味をそのときの私は特に気にもせず聞き流していた。




 次の日の朝、私は準備を整え村を出ようとしていた。

 うれしいことに村のみんなが見送りに来てくれた、本当にこの村はとっても暖かい村だった。

 神殿には入れるのが一ヶ月後くらいなのだが、それまでこの村にいるのも悪くないと思ったがそれはやりたいことをやってからまた次の機会に来ようと決めた。


 そうして私はまたどこか違う場所に向かう。

 まだまだ知らないことがたくさんあると思い知ったから、たくさんの答えを探しに行くために。






 ソフィアを見送った後、僕はシスターに僕が決めたことを話しに行った。

 それはこの村を出ること、そして冒険者になるということ、危険を伴うがこの世界のどこでも通用する証明書の役割も担っていることがわかったからだ。ちなみに積んであった新聞から手に入れた情報だ。

 それで自分の記憶の手がかりを探したかった。

 それに、世界中を巡ってまた彼女に出会えたときは共に笑顔を分かち合いたいから。

 シスターは不安げな顔をしたが、あなたが決めたことならと背中を押してくれた。




 それから数日。

 いよいよ村を出る準備が整った。

 村のみんな、特に孤児院のみんなは寂しそうにしていたがちゃんと送り出してくれた、必ず戻ってくると約束をして村を出る。


 この村を出たことでどういう風に変わっていくかはわからないけど、ちゃんと笑えるようになっていればいいなと期待を込めて道を進んでいく。

これにて序章終了。


深夜テンションでかなりハイだったかもしれない。

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