序章第1話 「人と同じに育った魔族」
序章は読まなくても問題ないように作ってあります。
のどかな昼過ぎ、昼食を終え心地よい微睡がやってくる頃、そこに声がかかる。
「ラビにいー、母さんが読んでるよー。」
「わかった。」
そう淡々と言い、母さん…シスターのもとへ向かう。
ここは山間に位置する首都から離れた小さな、いわゆる田舎村だ。
日々を農作業や子供の面倒などで過ごしているのどかな村。
山に囲まれていることもあり周りに村など、ましてや交流などはほとんどない。しいて言えば半分孤児院と化している教会に、4年に一度信者が山を越えた先にある神殿に向かう途中によるくらいだろう。
しかし孤児の数は少ないとは言い難い数はいる。
山に子供を捨てる者や、山に潜む魔物などに親を殺されたりするためだ。
ラビも孤児の一人として3年ほど前に拾われた。
12才頃に拾われたということもあって、今はラビがこの孤児院では一番の年上になっている。年上だった子は自立や出稼ぎなどで孤児院を出て行ってしまったためである。
もちろん、孤児ではなく普通の住民として村に残っている者もいる。シスターもその一人だ。しかし、色々なことを考えると、ここではなく大きな町などに行く方が良いため数は少ない。
「どうしたの、母さん。」
「アンナとシトラと一緒に薪とお夕飯になる物を取ってきてほしいの。」
「…わかった、ついでに山の一部を赤くしてくる。」
「いったい何をする気なの!?」
シスターは驚いた。つい昨日は狼の鳴き声がやけにうるさかったのでなかなか寝付けず、寝不足気味だったのか少々気が立っていたようだ。他の人より耳が良いというのも考えものだ。
「それはやめなさい。はぁ、たまに無表情でとんでもないこと言うわよねあなた。」
シスターは呆れていた、しかしそんなことも気にせずに一緒に行く二人を呼ぶ。
「…わかった、アンナ、シトラ、山に行くよー。」
「「はーい」」
元気な返事とともにこちらに駆け寄ってくる。そういえばこの二人は僕がいなくなったら一番上になるのか。
「どうしたのラビ兄こっちじっと見て。」
「…そろそろ16になるから。」
そう言うと二人は悲しそうな顔をして服の裾を引っ張る。
「ラビ兄もここ出てくの?」
「おにいと離れたくない…。」
そう少々泣きそうな声で言われる。どうするかはまだ決めていない、けれどそろそろ決めておかないといけない。
この世界の多くは16で成人になる、この村、というより国でも16で成人として扱われる。成人しても親のすねを齧っているわけにもいかない。
成人直前まで世話になっているのも、少々特殊な事情もあるからなのだが。
「…まだ決めてない、だから大丈夫。」
「うん。」
そう言って二人の頭をなでる。
「でも、おにいが何かするっていうなら応援する!」
「ぼくも!」
うれしいことを言ってくれる。そんなことを言われては残りたくもあり、ここを出て何か新しいことをしてみたいというなんとももどかしい気持ちになる。
「…ありがとう、二人とも。」
そういうと二人はうれしそうな顔をする。それとともにシトラがあっといったような顔もした。
「ラビ兄基本無表情だからよそじゃあんまりやってけないかも。」
「あー…。」
ずいぶん失礼なことを言われたが、事実その通りなので反論の余地はない。村の人にも夜中にはなるべく会いたくないとまで言われたこともある。子供たちと遊んでいるときはたまに笑っているそうなのだが自分ではまったく気が付かない。
…特に気にもしていないが。
「でもおにい綺麗だから受付に立ってるだけでも人が来るかも。」
「確かにありそう。」
などとこちらの話で盛り上がり始め、なかなか山に行きそうにないので「そろそろ行くよ」と声をかけるとちょっとあわてた様子で「まってー」とついてきた。
昨日は狼がうるさかったから、念の為ナイフと匂い玉を持って僕らは山に入った。