目覚めと回想
視界が眩しい。ぼんやりと意識が覚醒するなかで重い瞼を上げる。
目の前に広がるのは曙に照らされた草原。風が吹き草が揺れ、日の出直後の陰陽の具合でなかなか素敵な光景ではある。
(………夢じゃないか)
しかし胸中にあるのはそんな感動よりも、陳腐な言葉が出るほど改めて突き付けられた現実という絶望だった。
「ん」
隣に目を向けると、寝返りをうって朝日から逃げる琳冶。
ぼーっと弟の姿を見ていると、いつもならまだまだ夢の中にいるはずの時間に目覚めてしまい、頭がうまく回らない。それでも昨日から今に至るまでのことを思い出してしまう。
♪~♪~~♪ ♪~♪~~♪
微睡の中でスマホのアラームが聞こえて、半自動的に右手で止める。もはや一年近く続く朝のルーティン。
地元でも上位で有名な進学校に通うようになり、毎朝6時に目覚ましをかけている。
3月になってようやく寒さが和らいで起きるのに苦ではなくなり、すんなりと起きて顔を洗う。ニュースを見ながら朝食を食べて歯を磨いて制服に着替える。そのころに、弟が起きてきて朝食を食べる横でソシャゲのログインボーナスを入手する。慌てて身支度する弟を尻目に、前日中に用意した荷物をもって家を出る。朝の通勤通学ラッシュに埋もれながら、学校の最寄り駅を降りる。駅前のコンビニで漫画雑誌を立ち読みしてから学校へ歩いていく。ここまではいつもの朝の行動。
真面目に授業を聞いて、ノートにもしっかりとまとめ。昼休みは母親が作った弁当と購買で買ったパンを教室で食べ、放課後からは部活・委員会。終われば帰宅して勉強、晩御飯、入浴、寝るという毎日が過ぎていったはずだ。
――そのはずだった。部活を終えて帰ろうとしたところまでは
部活の違う弟と珍しく帰るタイミングが一緒になり、並んで歩いていく。
あえて普段と違うとすればここからだろう。実は通学路の途中に神社があり、境内を通れば駅までショートカットできる。時間・距離にして約半分。当然、生徒が皆通れば神社に迷惑をかけるので禁止されているし。教師陣も見回りに来たり、神主の目もある。とはいえ朝の遅刻寸前や、部活終わりに遅くならないようにこっそり利用するのは黙認されている。
そういうわけで、どうせならと昨日二人で敷地内を横切って帰ろうとした…はず。
いつの間にか森の中に居て、あてもなく彷徨い続けたら夜になり、月明りすら満足に届かない森の暗闇を電池が切れるまでスマホの明かりで何とか照らして進み、森を出たら明かり一つ見えない
わけもわからず混乱も相まって、さすがに力尽いて寝てしまったようだ。
―うん、長々と思い返してみたが意味ないな。