これが勇者の所業
「やっとここまで来れたな……」
「来れるとも思ってなかったし……感動ね。物は魔剣なんだけど……」
俺達は、魔剣の刺さる台座の前に立っていた。
ここに立つまでも苦労した。部屋は瓦礫と土塗れだし、魔法でどかす作業から始まった。それにトラップや結界に封印はまだ生きていたのだ。まず祠の中心とも呼べる、エネルギーの中継の起点になっている魔石を吸収して、祠の機能を停止させた。だがそれでもまだ、この部屋は魔剣が直ぐ傍にある為か、いくつかのトラップは直ぐに止まらなかった。おかげで部屋を動き回りトラップの魔石を吸収することになったりと、目的の魔剣を前にして右往左往していた。
「……で、どうしよう?」
「……今度はどんな問題が?」
もはや驚かなくなったハヅキ。俺が何も考えていないということが、この数時間で良く分かったようだ。
だが聞いてほしい、一応ここまでは想定通り。むしろ想定以上に順調だった。ちょっとハヅキに説明しなかっただけで。そっちには考え無しにしか見えなくても色々作戦立ててたんですよこれでも。
それで、今回の問題は、だ。
「これ、抜けないと思うんだよね」
魔剣に手を掛ける。
そのまま勢い良く引き抜こうとするが、魔剣はピクリとも動かない。
「封印は祠の機能とかじゃなくて、別に独立して掛けられてるっぽいな……」
「で? 対策は?」
「………………」
「……え?」
今まで散々突破方法隠して私で遊んでたんだ、どうせ今回もそうなんだろ、ほらさっさと抜けよ。そう言わんばかりの視線を向けてくるハヅキ。目で訴える技術もうまくなりましたね。そういえば目で語ってばっかの気がしてきた、いや、半分俺の妄想だが。しかしハヅキ、そんな目で見つめられても返せる言葉は一つしかないんだ。
「…………どうしような…………」
「えと、まじ?」
「まじ」
今度こそ、何の対策も考えてなかった。
「という訳で君の出番だハヅキ……! さあ見事にこの状況を打破するアイディアを出してもらおうか……!」
「無理に決まってるでしょ無茶振りもいいところじゃない!? っていうか本ッ当に何なの!? あれだけやってここまで来て阿呆なの!? 肝心の肝心、剣が抜けませんって本ッ当に馬鹿ァ!?」
「正直トラップに意識を奪われ過ぎてて完全に失念してた……! 前は封印解除されてたからな、うっかりしたァ!!」
「堂々と言いきってんじゃないわよどうすんの!?」
「だからここで君の頭脳が!」
「散々隠し事して人放置しといて今更何言ってんの!? ていうかあんたに分からない知識が私にあると思ってんのこちとら生後三日目だっての――――!!?」
ぜぃ、はぁ、と息を荒げる俺とハヅキ。
その場で五分ほど、もう自棄になるしかないと言わんばかりに叫んだ。ハヅキの罵倒が飛んだ。俺も意味不明な言い訳と解決策を唱えた。むろん、ただの勢いで中身は語る価値もない。
自分自身の余りにも間抜けなミスと、どうしようもなさそうな事態を前に、現実から逃げたかった。無駄に叫びあったのは、そういう思いも大きいだろう。
だが、叫び疲れた俺たちの前には、魔剣が悠然と、そこに突き刺さっていた。
「…………真面目に抜く方法でも考えようか……」
「…………そうね、例え抜けなくってももう抜くしかないのよね……」
「言ってることがおかしいがその通りだ……ここまで来て手ぶらで帰れるわけがない……!」
俺は魔剣を引っ張り上げる。微塵も動かない。動くものだという感触がない。
「これは絶対動かんな、封印解除するしかないのか……」
「いっそあんたの土魔法で衝撃与えてみるとか?」
「なるほど……まあ無理な気はするが」
「まあ無理でしょうけどね」
駄目元でも何でも試すしかない。やけっぱちな行動でも道は切り開けるかもしれないのだ。
「……そういえば、魔剣の真上に穴があるよな?」
「そうね」
「貫通してたんだし、あの杭、当たったんじゃないか?」
「あー……」
部屋には未だに屋根の一部と土が散乱していた。邪魔にならないくらいには魔法で、穴の上や部屋の隅に片付けたが、MPの消費も気にして大雑把な対処だった。
気になることを確認するために、瓦礫の埋まる土に魔力を通して、あるものを探し始める。目的の物は直ぐに見つかった。
「見ろ、杭の先端に使ったゴーレムの頭部だ……流石だな、あの衝撃で砕け散っていないとは」
「これなかったら天井壊せなかったんじゃないかしらね……」
「天井と同じ材質かと思ってたけどこいつの方が固いのかな……まあそれは置いといて、それでも流石にへこんでる訳だ」
「そりゃ、あれで無傷とかはあり得ないでしょう」
丸みを帯びていたゴーレムヘッドは衝撃を受けてかなり平らに潰れ、その中心程には小さい範囲だが、深くへこみが生まれていた。
軽い思い付きで、まさかなぁ、と思ったことだったんだが……このへこみ方を見て、その思いは、まじかよ……という思いに変わった。
ゴーレムヘッドをも持って、再び魔剣の前に立つ。
魔剣の柄頭を見る。そこには装飾として嵌め込まれたのか、それとも魔石のようなものなのだろうか、正八面体に整った宝石があった。
もう一度、ゴーレムヘッドに付いたへこみを見る。それは、ピラミッドのような、四角錐型のへこみ。
……そっと、魔剣に被せた。
「はまったな……」
「え、なに、本当に当たってたの!?」
完全にへこみとぴったり一致とまではいかなかったが、間違いなく、この魔剣によるへこみだった。
「いやもしかしたら傷とかから何か分かるかもなぁ、程度の思い付きだったんだが……ここまではっきりと痕跡残ってるとはっていうか何これ、普通こんななる?」
屋根を貫通しても勢いが消されず突き抜け、更にその丁度真下に魔剣があり、突き刺さる。どんな確率だ。
「驚く点が多すぎて言葉が出ないわ……」
「……と、とにかく、杭が当たったにも関わらず、魔剣は台座にがっちり刺さりっぱなしだった、と」
インパクトが強くて忘れかけたが、元々そこの事実確認の為にやってたんだった。これはもう、物理じゃどうしようもないと言うことだ。
「これは衝撃与えても解決は出来ないな。まあ、結果自体は予想通りか。結果だけは」
「過程のスケールが想像外よ……でもあれでびくともしないんじゃ無理よね。封印を解くしかないって事かしら。 封印の事については何か知らないの?」
「そんなに詳しくはないな……前回はもう解けてて調べる機会もなかったし。えーと、たしかクソヒゲに少し聞いたような。それと、その事件の後、興味を持った魔法使いが調べた歴史とかの話でも少し知ったくらいか」
どちらも大した情報はなかった筈だ。
「当時の聖女……その呼び方になったのはそいつが国を持ってからだが、その初代聖女様がかけた封印らしい。その聖女様は特殊な魔法が使えたらしくてな、他に誰も覚えることが出来なかったそうだ。魔法ではなくスキルの類だとかって話もある。結界や封印とか障壁を作るものだとか、回復魔法等が使えたとか。今、僧侶たちが使ってる回復魔法とかは、聖女様が皆も使えれば救われる人が増えると、現魔法都市の人達と開発した物らしい。僧侶がそう言ってた。まあ、オリジナルの効果には全く及ばないそうだが。話が逸れたが、この魔剣の封印に使われてるのがその、聖女様の特殊魔法って奴だ」
「聖女様にしか使えない特殊な魔法……聞くだに解ける気のしない響きね」
「何故世界を救う身で聖女の封印に挑んでいるんだろう……?」
「今更それを言うの!? 馬鹿だからよ!?」
「もう欠片も遠慮がない何て刺さる言葉を言うんだ。ともあれ知っているのはそれくらいだ。分かったのは、詳しい能力は当時の人もよく分からないものだから残ってないってのと、特殊なものだから普通の魔法の知識じゃ役に立たないって事ぐらいだな」
「それさ、つまりまとめると」
ハヅキが頭を押さえながら言う。
「何も知らないし何も分からないし何も分かれないってことよね」
「そうなるな」
「手詰まりじゃないの!?」
「い、いや待て。まだ、まだきっと何か……!」
そう、要は封印について分かってるのは俺の知識じゃ理解できないものですと言う点のみ。実際、軽く見てみたが魔法がかかっているような気配は無いのだ。ただ何か掛かってる気がするな、と言うくらいにしか封印を感じ取ることさえ出来ない。解除の仕方なんてとてもじゃないが見当も付かない。
「封印の解き方は分からない、調べようもない。物理手段での破壊も不可能。ここから取るべき手段は……!」
「無くないかしら!?」
「何か適当に色々やってたら奇跡的に封印解ける可能性だってあるだろ!?」
「奇跡的過ぎるでしょ!?」
「封印なんてのは祝詞捧げたり踊ったりしたら解けたりすんだよ! きっと!?」
「ああもう満足するのね!? 踊って歌えばその妙なテンションも満足するのね!?」
完全に自棄になってよく分からない、強いて言えば盆踊り……? のような踊りを魔剣を中心に回りながら歌い踊った。ハヅキも自棄だった。律儀に俺の後ろについて飛び、完全に意味のない踊りだと分かりきってる踊りを、それでも真似して舞っていた。歌とかは知らないのだろう、適当に合いの手を入れていた。ちなみに曲はアニソン。他に知らんし。こんな曲で解ける封印があってたまるか。歌詞覚えてなくて途中からルーとかラーになってるし。
「ラー! ラー !ラー! ラーララララーラー! ラララー!! ら……ってうお!?」
そして、無駄に熱中してトランス入ってたら転けた。そりゃあそうだ。ここ瓦礫と土まみれだものね!
「ったたたいって……………………ふぅ、俺は何してんだ」
「あんだけやって急に冷静になるのやめてくれない!?」
痛みで急速に冷めてくテンション。ものすごく冷静になった。
「まずは足場を整えるところからだったか……」
「そこじゃないでしょう――――――!?」
「冗談だもう二度とするか……って、あれ?」
転けた原因を探して辺りを見たが、足に引っかかりそうな瓦礫はそこには落ちてなかった。おかしいな、土で滑ったんじゃなくて足に何か当たった筈だが。
床を探ってみると、俺が転けた場所、そこには段差があった。
「ヒビ……? 床が割れてズレたのか?」
「土で分かりにくかったけど、この辺りずっと割れてるわね……魔剣がヒビの中心かしら」
ハヅキの言った通り、魔剣の刺さっている台座が中心で、そこから少し離れた位置に円状にヒビが辿っていた。
当然、祠のデザインというわけでもあるまい。前回も、こんなヒビがあった覚えはない。では、何でこんなものが出来たのかと考えると。
「まさか……魔剣と台座は封印で完全に固定されて破壊のしようもなかったが」
俺は床に手を置く。
「その台座と床も、非常に頑丈にくっついているみたいだが」
床の下にあるだろう、地面に、ヒビから魔力を通す。
「その床の強度は、天井と同じ……」
下から、土を隆起させる。
「ええええええええぇ………………」
ハヅキの驚きと呆れとが詰まった唸りの中。
魔剣と台座が、床ごと全部持ち上がった。
「……つまり、最初の杭は、天井を貫き、魔剣にヒットして、その勢いを全部床に伝えた、と」
右手で魔剣を握りながら、ぼんやりとそう言った。
現在、地上に出るため穴を上っている最中である。
右手には、今回の目的の物、魔剣が。
そして、足下……立っている地面には台座と床が。
そう、穴の中を床ごと、エレベーターのように上昇しているのだった。
「床も、全部割れてたなんてね……」
ハヅキも、その威力に感心したような、こんな強奪の仕方に呆れたような、複雑な様子で呟いた。
あの後、下から土を掘り直し、床下から出ることになって時間も掛かり大変だった。天井から帰ろうにも、天井の穴は人が通れるくらいの大きさしかなかったから、床が丸々くっ付いた魔剣は直接運び出せなかった。あの穴、広げようにも杭レベルの衝撃でやっと空いたものだ、硬くて拡張のしようもなかった。
その為、床の下から部屋の外側を壁に沿って通り、登り、やっと穴の下まで帰ってこれた。
運び出した魔剣は、一メートル程の八角形の台と、その台にくっついた床とセットで、かなりのサイズだったのだ。掘ってきた二メートルサイズの穴では、ギリギリ引っかかるくらいに。天井の穴なんて通りようがなかった。
そのため、床部分が通るように穴を広げながら、ゆっくりと上昇しているのだった。
「何はともあれ魔剣の確保には成功……成功でいいんだよな……?」
「あんたがコレでいいと思うならいいんじゃないの?」
「何もよくないよねー! 特に何がってさあ!」
俺はステータスウィンドウを出す。
そこには、右手になんとか装備中という扱いになった魔剣のステータスが表示された。
ディス・フィア
力 0 技 0
速さ 0 魔力 0
体力 0 運 0
防御加護 0
特殊
・封印中 能力の全てが封印されている。加護も能力も呪いも発動しない。
「能力の大幅アップを狙って来たのに加護も無い石の固まり付いたクソ重いハンマー手に入れただけじゃないか……!」
「本当に何しに来たのよ……」
「ていうか床の分本当に重い。ゴーレムとか祠の魔石分無かったら地上でる前に力尽きてるな」
ステータス表示のついでに現在のパラメータを見てみる。
天海 水星 職業 幼女の守護者
力 8→27 技 769→ 771
速さ 6→11 魔力 20 → 44
体力 8→15 運 100
目安防御値 4→13
ゴーレム十数体と祠の魔石分の合計上昇量がこんなものだ。使われた魔石の質は結構差があったらしく、全然伸びなかったりするのと上昇量が多いのがまちまちだった。ちなみに上昇量が少ない石の方が多かった。まあ、装備を作るのに比べたら、この吸収は数十分の一の効果しか得れないから、上昇量は元々すごく少ないが。一番最初に吸収した石は効果が高い方だった……というか、一個吸収してパラメータが上がるだけでも結構すごい。流石は魔剣なんて守ってる祠ということか。
「確かにこれだけ上がると普通の相手を普通に相手にする分には何とかならないこともなくなさそうに見えなくもないが」
「分かりにくいし曖昧過ぎる……つまり?」
「普通に街道に沿って歩き、道の途中で湧くようなグリズリーなどと戦い、徐々に装備を整えて、順番に強くなっていく普通の旅をするには困らない強さだな」
「つまり来た意味なかったってことね!?」
それをしない為に、いきなりの強さを求めて来たのである。魔剣が欲しい訳じゃなく、その強さに用があったのであって、俺が必要なのはこんな岩塊では断じてない。
「どうにか封印解く方法探さないとな……」
「今更だけど、これ、国で封印してたのよね?」
「ああ、そうだな?」
「そんなやばいものの封印解こうとする人って、どう見ても魔王の手先か何かにしか見えないんじゃ? 誰も協力してくれなくない? ていうか捕まらない?」
………………………………………………………………
「その発想はなかった」
「普通あるでしょどうなってんのあんたの頭!?」
「あ、あれ? 今の状況って、国王から逃走した奴が国の最重要機密である魔剣の事を何故か知ってて祠を強襲、そのまま魔剣を奪い逃走?」
「魔剣奪うだけでそうだと思うけど、完全に犯罪者の所業よ!? 今更何慌ててるのよ!?」
「い、いいいやほら!? 俺勇者だし!? 世界救うために必要な行いしてるだけだし!? ちょっと無許可だけど物持ってくのは勇者の特権だし!?」
タンスを漁り、壷を割り、何故か入ってる薬草を持っていく。それが勇者というものだろう。ちなみに、一周目でそんなことは一回もしたことはない。あたりまえだろう、犯罪じゃん? 不法侵入もしたことなんてないぞ。
「許可取らない時点で犯罪よ!? あと今のあなたのどこがどう勇者よ!?」
「見ろハヅキ」
「何よ!?」
「誰もなし得なかった祠の突破に魔剣獲得……これが偉業でなくてなんだというんだ?」
「歴史的な悪行よ!?」
その時、ぽぅ、と、一瞬腕輪が光った気がした。
「……今光ったよな?」
「そんな気もするわね」
「すごく嫌な予感がする」
ステータスを見る。開いた最初の行にすでに異変はあった。職業・盗掘者。
急いでページをめくり、称号の欄を開く。そこには、やはり、新しい文字が書き足されていた。
〈遺跡の大怪盗〉
『前人未踏の人外魔境、封印の祠を突破もせずにディスフィアを持ち出した偉業を称して。色々あり得ない。神様大混乱。それほどの衝撃を与えたあなたへ。』
効果
『私に白い目で見られます。それとちょっとした助言だけどあと30分』
「ほ、ほほら、神様も偉業だってよ……!」
「分かってるでしょうけど皮肉だから。100%ドン引きしてるから。神様すら引かせるとか、なるほど、これが勇者なのね……」
「待て、そんな勇者があってたまるか全面的な議論のやり直しを要求する……!」
「わーゆうしゅさまはすごいわー」
ハヅキにも神様からも勇者と認められたみたいだ。やったな! 訳あるか畜生!? っていうか〈幼女の守り手〉の件といいなんなの!? 神様暇なの!? 称号ってこんなフランクに言いたいこと言ってくる機能だっけ!? ていうか簡単に入りすぎじゃね称号!? ……簡単ではないな、実際に達成不可能に近い真似はしてるな、今回のこれ。いや、だからといって何だこの、称号欄の私物化。いいのか神様コレで。神といってもやはりサンの作った神ということか……
などと考えていて気づくのが遅れたが、二つの気になる点があった。
称号欄の最後、あと三十分。いったい何が、何のカウント?
そしてもう一つは、そろそろ地上が見えてきたわけだが……
「ハヅキ。何か……上、騒がしくね?」
「? ……そうね、何か、何の音かしら。地面が揺れる感じ……あと、叫び声?」
穴から空を見上げる。既に夜は明けはじめ、外は明るさを増している。明け方の淡い紫の色が見えた。
その向こうから、ドドドといった感じや、ゴゴゴみたいな感じとか、ぅぁぁぁぁとか、ぅぉぉぉぉとか、爽やかな朝の森丘には決して合わないだろう物騒な音が響いてくる。
外では、一体何が……
「あ」
「今度は何をうっかりしたの!? ほら!? 観念して吐きなさい!?」
高速で理解するハヅキ。以心伝心って奴だね? パートナーと呼吸があってきたようでうれしいなー。とか言っている状況じゃなかった。
俺は掘削を急ぎ、上昇速度を上げた。
「…………話したがらなかった、色々あった、って言った部分があっただろ?」
「ええ」
「魔剣を放置するわけにはいかないから、持って地上に、何とか、うん、何とか出たんだけど。あの時は単なる祠の機能の暴走かとも思ったけど、今の状況を見ると、アレ、魔剣を持ち出した際の最後の抵抗って奴だ」
「……つまり、外は?」
「どういう仕組みだか分からんが……祠の入り口にこれでもかっていう数のゴーレムが殺到する」
「え、ええぇぇぇ……」
「前は魔剣持ってた俺ばかり襲われたがものだが、この付近にゴーレムがいる気配もしない。穴掘って魔剣だけ持ってくとか想定外だったんだろうな、封印すら解けてないし。そのせいで魔剣の気配とかもないから、多分入り口にでも犯人もいないのに殺到して」
地表まで約五メートル。これくらいまで地上に近ければ、魔法で一気にどかしてしまえる。
床を持ち上げていた土と、周りの土を一気にかち上げ、地上へと噴出する。
外へと帰ってきた。
「うわ」
遠くに、ゴーレムが大挙しているのがここからでも分かる。
「やっぱり衛兵が襲われちまってるか!」
「ど、どうすんの!?」
「どうするもこうするも、俺のせいだしほっとく訳にはいかないだろ!?」
魔剣守護の任に付くだけあってここの衛兵はいい装備を持たされている。しかし、それを加味しても、どうあがいても勝てないような戦力の差がある。ゴーレム一体に対しても、だ。それが数えたくもない数がいる。防衛に専念して、何とか寿命が少しは伸びる程度だろう。
「でも私たちもあんな数相手じゃ勝ち目ないじゃないの!?」
ハヅキの言う通りだ。確かに、俺にはあの欠陥品ゴーレムを一撃で倒せる腕輪がある。が、それは魔石に触れられればの話だ。それが出来たのは、一方通行の穴の中、土で身動きを封じれたから出来た方法だ。あんな数の乱戦に入っても、魔石に近づけもせずに潰されるだろう。
頼みの綱の魔剣は――説明する必要もないだろう。役に立たない。
「正直勝てる見込みは0だ!」
「死ぬ気!? 今なら逃げれば何とかなるんじゃない!?」
「かも知らんが見殺しにはできないだろ!? っていうか俺が原因だし間接的な人殺しじゃん!?」
「そうだけどさ!」
「大体! お前が言ったんじゃないか!?」
勝ち目はない。死ぬ可能性が高い。たかがそんな事で、人を見捨てるわけにはいかないんだ。
だって、
「俺が、勇者だってなぁ! 人の命を見捨てて世界が救えるかァ!?」
「――――――――」
こちとら、創造神サン様お墨付きの、『お人好し』で選ばれた、勇者なのだ。
自業自得とも言えるこの状況で、逃げるなんて選択が取れる訳がない。
「それに、だ」
前回の記憶。ここの隊長と、ほんの少しだが話した記憶。
「ここの隊長さんは、一瞬の付き合いだったが、とても気さくで、真面目で、いい奴だった。奥さんも人柄に見合ったとても美人な人を捕まえたらしい。そんな奥さん似の、十歳になる娘さんがいるそうだ」
ここの衛兵たちにも、家族がいる。それは、
「そんな立派なお父さんが死んだら、娘のクリスちゃんが泣いて悲しむだろうが――!!!」
「結局そこ――――――!!?」
彼らが死ねば、悲しむ幼女がいる。それはいけない。断じて認められない。
「まあ魔剣持った奴が近くに行けばターゲットも移るかもしれないし、逃がしたり逃げたりするだけなら生き残る芽はあるはずだ。分かったな! 行くぞ!」
「あんたが行くしかないのはよっっっっく分かったわよ!? 死なないでよね!?」
そして俺たちは、使えない魔剣を片手に、死地へと急ぐのだった。
体調崩してました。元々不定期ですが輪をかけて不定期になりそうです。




