二周目、ハードモード(自爆)
向かい合う俺とハヅキ。
俺はその目に並々ならぬ気合を込めて、対するハヅキは目を泳がせ、覚悟なんて全くついてきてない困惑模様である。
「それじゃあ……覚悟はいいな?」
「いや全く良くないんだけど本当にやるの?」
「絶対に行くのは避けられない……すでにそこは決めたんだ諦めて拳を握れ」
「う、うう……」
「それじゃあ、いくぞ……?」
「じゃん、けん……ポン!!」
―――― ―――――― ―――――――――――――――
赤く染まる夕暮れの街道。
俺たちは、アーディアの街にほぼ踏み入ることもなくひたすらと、体力を使い切らない程度に、しかし出せる限界速度で――数時間街道沿いに進み続けていた。
「ぐ、日が傾いてきた……急がないと行き倒れる……!」
「いやいや街で何の準備もしないで飛び出したのあなたじゃない!?」
森での話し合い……互いに選びたくもない選択をするのを押し付け合い、結局『俺が勝ったら遺跡、お前が勝ったら魔石取りに、あいこだったら魔物退治だ。どうせ全部嫌なんだ、覚悟決めてランダムで行こう――!』とハヅキにじゃんけんのルールを説明して目的地が決まった。
さて、じゃあ攻略の為の準備を――といったところで気づいたのだ。
「そりゃあそうだ、王にあんな態度取ったんだ、今頃勇者をほっとく訳にはいかないってのと無礼者をひっ捕らえろってのとで街中は俺を探す騎士だらけだろう。そんなところで買い物は出来ん、金もないし。本当は王が用意してくれてたが」
「本当に必要だったの!? 必要だったのよねあの脱走!? ただ考えなしに馬鹿やったんじゃないのよね!?」
ハヅキのツッコみも大分容赦がなくなっている。うん、距離が縮まっていいことだな、うん、そういうことにした。
「はぁ、意気揚々と隣町を目指すって言ってたのはそういう訳なの……」
「そういう訳だ。ただでさえ黒髪は珍しいし、服もこれだからな、何もしなくても目立つ」
現在の服装はこの世界に転生したとき……正確に言うなら俺が死んだときに着ていた元の世界の服装だ。ジーパンに白のパーカー、上着に黒いジャンバーを羽織っている。最初に戻すとの通り、一周目の時に着ていた防御効果満載の重加護コートなどは当然消滅していた。
持ち物も、ポケットに入っていた携帯、財布、鍵、携帯ゲーム機、くらいのものだ。リュックくらい持って死ぬんだった。これでは実質、手ぶら無一文で放り出されたのに等しい。
「騎士団もいきなり町の外までは来ないだろうし、幸い、幸い……? 食料すら持ち歩いてないから移動速度だけはある。隣町ならしばらくは捕まらずに滞在できるだろう」
だが、隣町とはいってもこんな世界だ。町と町の間はそれなりに遠い。例えばアーディアの最寄りの大都市、魔法都市ミョルディアまでは大体三日かかる。今目指してるのは、その間にちらほらある小さな町の一つ、アーディア王国の食と産業を支える大農地だ。ここまでなら、普通に旅をして一日程度だ。身軽な俺なら頑張れば半日もあれば着くはずだ。
その町は、元はただの農村だったが、土地がよく、様々な作物を育てられる環境もあり、当時のアーディア王により国を挙げて開墾され、今では王国に欠かせない場所になるまで成長したらしい。そのため、土地や作物の管理のために施設も増え、人口は少なく、田舎じみた雰囲気だが、町としての機能は一通り揃っている。
「あそこなら旅に必要なものも揃うだけの店もあるし冒険者ギルドもある。畑仕事の手伝いとかも探せばあるかもしれない……!」
今の俺では飯も買えない、狩りをして自給自足をしようにもパラメータが足りない。仲間だった魔法使いのように、火の魔法とか水の魔法とか使えればサバイバル生活も余裕なのだろうが……当面使える当てはない。そもそも俺の魔法適正は土だしな。
パラメータ問題さえどうにかできれば、モンスター退治で金を稼いだり、売れる宝のあるダンジョンにも行ける。最悪、熊でも狩る。こんな食糧事情はどうにでもなるはずだ。だから、このミッション達成までを繋ぐ、旅の支度をどうにか整えなければいけない……!
「向かう先の脅威に目を取られて、生活能力がまるでないことを見落としていたとは……」
「全部王様から逃げたのが悪いんでしょ!?」
実際前回は快適な旅だった。王にもらった軍資金で支度は整えられ、旅慣れた騎士のリードがあり、魔法使いが加わってからは水にも困らない。そんな旅をしていたせいか、勇者としてのチートもない、身一つの男子高校生の無力さというものを初めて認識させられていた。それが味わう必要のあった行為かどうかは……ハヅキが疑っているが。
「どうあれやっちゃった以上他に道はない! 食事も水も補給できなくて体力が尽きて倒れるその前に、大農地にたどり着くぞ……! 普通に着く距離ではあるが夜になると不測の事態に陥るかもしれないからな」
「そうならないように祈ってるわよ……」
俺の肩に乗り、歩くわけでもないハヅキは今出来ることもなく、ただ俺が無事であるように……俺が飢え死にするような間抜けな頭の持ち主ではないように、祈りを捧げるしかしかなかった。
……もっとも、その祈りを聞き届けるような神様があんな幼女では効果もなかろうが。
ハヅキの祈りも意外と効果はあったのか、日もすっかり落ちてしまい、月明りしかない真っ暗な道を駆け抜けたが、特にアクシデントもなく町まで着くことができた。携帯――時計機能はサンがこの世界に合わせてくれた――で時刻を見ると二十二時を過ぎていた。
時間も時間なので入り口で衛兵に止められたが、
「路銀も尽きてしまい食料を求めて森へ狩りに行ってはみたものの何の成果も得られないどころか足を滑らせ崖から落ちそうになりその時荷物をすべて紛失してしまうわ日も落ちて道もわからなくなりひたすら彷徨っていたところ酒場の光を見つけてもう棒のような足を引きずり何とかやってきたんです」
などと涙ながらに大げさに語り明かしたところ、不憫に思ってくれた衛兵さんが宿屋に話を通してくれて、床ではあるが、寝床をただで提供してくれた。その上、女将の娘さんがとても小さく愛らしい子なのだが、具体的に言うと六、七歳前後で茶色の髪を三つ編みのおさげにしてくりくりと可愛らしい目でこちらを見つめて微笑んできてな、控えめに言って天使だった。その彼女だが夕食の余りだからとご飯を持ってきてくれた。とても暖かい人しかいない。みんないい人だ。ありがとう衛兵さん、あなたがいなければこのご飯にはありつけなかった。この恩は絶対に忘れない。ん? いや、ハヅキ、違うよ? 俺はこんな怪しい奴に宿とご飯までもたらしてくれたことに対する感謝であってね? 決して「幼女のごはんぃやっほぉぉぉおおおおおぉぅぅう」などと言いたいわけじゃないんですよ? 本当だって。いや……疲れで妙なテンションになってるかもしれない、駄目かも。
それから宿の明かりも落ちるころ、食堂に使ってるスペースで毛布を貰い、歩き通しだった疲れもあり、すぐに眠りについた。
翌日。
下がりに下がったパラメータであるこの身は、バリバリと疲労と筋肉痛に見舞われた。
だからと言って休んでいられる状況な訳もなく、何とか路銀を稼がないと――と思っていたら、宿屋の女将がうちで働かないかと誘ってくれた。
夫が王都に出かけていて足りていない男手が欲しいんだ、とのことだ。それも本当だろうが、路銀が無いという話を聞いて助けてくれたのだろう。本当にいい人だ。娘さんもかわいいし。
その日は一日、薪割りや、宿の畑で作った野菜を収穫したりして過ごした。その間、ハヅキは女将の娘さん、フローネちゃんに預けた。妖精という存在はこの世界にもいることはいる、が、なかなか見ることも珍しい種族なので、最初は驚かれたり珍しがられていた。まあ……そもそもサンに作られたこの妖精は本当の妖精族なのかは知らないが。しかし、すぐに慣れたのか、ハヅキとも打ち解け、むしろ俺よりも仲良くしてた節があった。幼女おそるべし。いえ、決して俺のハヅキへの扱いが悪かったり、いいとこ見せてなかったりするせいとか、そんな事は……
この日は働いてくれたからと宿の一室を使わせてくれた。今日の給料からは宿泊費も引いておいたから遠慮するな、と。確かにそうなのかもしれないが、もらった給料はそれでも一日分にしては多めだった。そろそろ逆に心配になって来る、お人よし過ぎるのではないだろうか。
「それで、やっぱりガイアはロリコン? て奴なのね?」
で、夕食をごちそうになり、ご飯を運んでくれたフローネちゃんの笑顔にほわほわしながら部屋に戻ると、いきなり聞こえてきたのがこの暴言だった。
「いきなり何を失礼なことを言うんだ、まったくとんだ言いがかりだ」
「いやだってあんたのフローネちゃんに対する態度、やばいじゃない」
「やばいってなんだやばいって、至極普通に接していただろ」
「いやまあ私なんかに比べれば確かに普通って言っていいかもしれないけど……」
「別にお前にも普通に接しているつもりだが?」
「どこが!? いえ、確かに普通の接し方をしてるんでしょうけど私への普通とフローネちゃんへの普通に天と地の差があるわ!?」
ギャースと喚くハヅキ。全く不可解だ。俺は常に自然体で行動してただけだというのに。そもそも前日の疲労もあって余計なことを考えたりは出来なかったしな。
「フローネちゃんの作ったご飯は子供にも伝わる言葉で情熱的に褒める。薪割り、畑仕事に忙しく働いてるはずなのに、店の手伝いをするフローネちゃんが困る度に気が付けば横にいるし。少し手が届かない、厨房に運ぶお野菜が重たい、走り回って転びそうになる、どんな状況にも気が付いたところで間に合わないようなタイミングで何故か確実に100%あんたが助けてたじゃない……」
言葉からは、理解できない存在を見たという念が、そしてこちらを見る半目からは、ドン引きだ、というオーラが、これでもかと漂っていた。
……いやしかし、確かにハヅキの言い分には引っかかることがあった。
フローネちゃんをずっと見ていれば、彼女の危機にすかさず駆けつけることができるだろう。いや、確かにフローネちゃんは見ていて癒される天使ではあるが、いや、だからと言って俺はずっと眺めているとかそんな変態じみた真似はしていない。断言してもいい。それに、だ。いくら見ていても、転びそうになったのを見てから転びきるまでに助けるのは、よほど横にでもいないと不可能だ。仕事中にそんな不自然な真似、流石に出来ないだろう。
「いくら俺でも……普通はあんなことできるはずないんだよな……アレでもあるなら話は別だが」
「あれ? 何? 幼女を監視する外道魔法でも使えたの?」
「おいちょっとハヅキ? 俺を何だと思ってるのか詳しくお話しする必要がありそうだな? ……そうじゃなくて、ええとあるはずないと思うんだが……」
俺は腕輪に触れ、ステータスを表示する。
この腕輪はパラメータだけでなく、所持しているスキルや魔法、そして称号までチェックできる。しかし、やり直しの際にすべて初期に戻され、スキル欄も魔法欄も白紙、称号も持っていなかったはずだが――
「…………なん……いや、この前森で見たときには確かに白紙だった……何で……!」
まず魔法欄、土魔法の文字がそこにはあった。だが、これは予想の範囲内だ、何故なら一回試してみたから。
魔法という概念を知らない前回と違って、今の俺は魔力を扱う時の感覚を覚えていた。そして、わずかではあるが腕輪で魔力に補正も掛かっている。装備の効果や高い魔力で扱っていた大魔法は使えないだろうが初歩の、相性のいい土魔法なら使えるんじゃないかと思ったのだ。そして事実、このように習得に至った。
だからまあ、この部分が更新されているのはいい。問題は次だ、称号。
「どうしてこの称号が戻っている……!」
そこに並ぶ文字は、そう、女神様大絶賛。
〈幼女の守り手〉
『時を超えても変わらないあなたの魂に敬意とか色々諸々を籠めて あとどうせ取るだろうからプレゼント』
効果
『スキル:保護者の眼差し獲得 幸運値+50』
そしてスキル欄にしっかり加わっている『保護者の眼差し』。
『保護者の眼差し』
あなたが知覚できる範囲の幼い女子の危機・障害・問題などを事前に察知する。また、あなたと強い絆を結んだ少女の場合、遠く離れていても察知できる。
「うわぁー……これが噂の……」
「おかしい、この称号はそんな簡単に手に入るようなものじゃないはず……!」
「……そこなの? ツッコむポイント?」
いやまあ、原因はわかる。書いてある。明らかに説明文が前と違っている。前はもっと頭のおかしい獲得条件が書いてあったはずだ。なぜ自分でも達成しちゃったのか意味不明な文章が。
「何がプレゼントだ……!? あの野郎ども、称号まで使って人を煽らなきゃ気が済まないのか!?」
「そう……このスキルを駆使して自然な動きで危機になる度に傍にいるように行動を調整していたのね……しかも無意識に完璧に使いこなして……」
「いや待て、前回の癖とかそういうものであってな」
「前回もこれを使って幼女ばっかり助けまくったのね……」
ハヅキの目に宿る非難の色は、既に黒々と溜まり、光の宿らぬ目で遠い存在を見つめるような視線を向けてくる。
「逆に聞きたい……目の前に困っている女の子がいたら助けるのが当たり前だろう……! 俺は人として正しい行いをしているだけだ……!」
「それが幼女限定なんじゃないの!? そこはおかしいわよ!?」
「別に限定じゃないし! ちょっとこのスキルで幼女の危機に敏感なだけで普通にみんな助けたし!」
「そのスキル取ったってこと自体がロリコンの証明じゃない!?」
「守り手って書いてあるでしょう!? 好きとかどうとかそんな不純な話じゃないんだ……! ただ俺は目の前で幼い命が危険にさらされるのが我慢ならなかっただけだ!?」
「じゃあなんで女の子限定なのよ!?」
「…………俺とて男だからな……!」
そりゃあ、どちらを助けたいかと言ったら女の子を救うしそういうヒーローに憧れるもんだろ!?
「と・に・か・く! 俺は別にやましい下心を抱えて幼女を救っているわけじゃないんだ! 好かれようとかそういうのもない! そもそも幼女が救われたという結果以上に求めるものがあるのか……いや無い!」
「……まあそこまで言うのなら、幼女が多かっただけで人助けは不純な動機じゃないっていうのは信じるわ」
「そうか……ありがとう」
「でもロリコンよね?」
「……守備範囲が広いだけだよ?」
うん、まあ、ね。別に恋人が幼女でもオールオッケーだ。いや、別に幼女じゃないとダメとかじゃないし、前にも言ったけど無理に幼女を彼女にしたいって訳でもないし。それでも大丈夫ってだけだから。だからロリコンと違うし。未成年に手を出したりとかしないよ?
ほら、その証拠に神も言っている、保護者、と。
抱いているのはあくまで父性のような感情だと、神にも証明されてる……ということだと、そう思いたい。そういうことにしようじゃないか。
「しっかし、本当にこんな称号を贈られるなんてね」
ハヅキは俺のステータスウィンドウを見ながら完全に呆れている。そんな称号を作った神の奴とサンに対してだろう。決して贈られた俺にではないはずだ。
「……ん? ねぇガイア、こっちのページは何?」
「うん? 称号ページが最後の筈だが」
「え、でもここ、何かない?」
ハヅキが指さしたのは俺のステータスウィンドウ、その右下の隅、称号の画面にだけ表示されているそのマークは、本の端っこ折ったような図。確かにそれは、ページめくりあり、の意味であろう。
「ステータスなんて半分以上白紙だったし、こんなとこまでチェックしてなかったな」
「それでそれで? 何の情報なの?」
俺はそのマークの部分に指で触れる。すると、ウインドウの表示が変わり、開かれた新たなページには、
「エンディング、リスト?」
そこにあった情報。それは、一周目の時には絶対なかっただろうもので。
バッドエンド1 『最初から道を間違えたあげく世界ごと心中した勇者の末路』
時間切れの手遅れ。まにあわなかった。それでも世界を救ったあなたの辿るエンディング。世界は救われた、残りの命があと3秒でも。
………………邪龍□□□□□□□□□□□□&時間がかかりすぎた。
…………そして隅っこに、『行動の参考にでもせよ サン』と、丁寧に犯人の名前まで入っていた。
何はともあれ、まず言わせてほしい。
「てめぇあの時人の心読んでやがったろ時間差でこんなところまで使っておちょくり腐りやがってぇぇええ!? ああそうだようっかりだったよ馬鹿だったよこれで満足か畜生がぁああ!?」
『最初から道を間違えたあげく世界ごと心中した勇者の末路』。俺が世界を救いきれなかったと女神に聞いた時、抱いた感想だった。
善意と悪意の混ざったその情報は、不意打ちで、更に俺の心傷をより強固なものにせんと抉り去った。
――この礼はクソヒゲ国王に全部ツケておくことにした。
「まあ、あれだ……冷静に情報だけ見れば重要なヒントをちゃんとくれたわけだ」
書いてある中身について考えるべく、何とか気持ちを落ち着かせる。
書いてあったのは、人をおちょくるエンディングタイトル、解説、そしてそのエンディング条件と思わしき一文だった。
得られる情報は、あからさまに伏せられてるのも含め、多くはないが、どの文も全部一つの事を強調していた。
時間切れ、手遅れ、間に合わない、時間がかかりすぎた、と。
「つまり、魔王を倒すのが遅すぎた、ってこと? 前の話ってよく知らないんだけど、そんなにのんびりした旅だったの?」
「大体一年かかったが、早いか遅いかと言われてもなぁ……確かに、結構各地で魔物に襲われた村を回ったり、色々寄り道をしてたといえなくもないが……無駄なダンジョン攻略とか、お宝探しとか、異世界観光とかしてた訳でもないし、あの時に出せるベストだったとは思うんだがな。これを見るに、それじゃあ駄目だったみたいだが」
右も左もわからない異世界で、魔物と戦うのも初めてな高校生だ。あの時、あれより早く魔王を倒すのは無理だろう。あのバッドエンドは、当時の俺じゃ避けられなかったってことか。
……それを思うと、サンの奴、もしかして最初っからループさせる気だったのか? そうだろうな。何せ二周目も期待していないくらいだ、一周目でうまくいくと思うか普通。いや、一周目があまりにも期待値を下回る結果だった……ないな、初めてにしては上出来だ、的な旨の発言を聞いた記憶がある。最初の俺、謀られたな。
…………まあ、特にそのことに問題だと思えないあたり、サンが選ぶ基準にした『お人好し』というのは正しかったんだろうなと、何か負けた気分だが、よく理解してしまった。
「これだけだと、すごく早く魔王を倒せばいい、ということだろうが……」
「この伏せてある部分、気になる?」
「気にしてくださいとばかりに、わざわざ『説明できないよ』ってことを説明してる感じだからなぁ……」
それにちょっと倒すのが遅れたのだけが問題なら、サンももっと違うことを言うだろう。わざわざあんな回りくどい言い回しをしたからには、もっと複雑な事情があるんじゃないだろうか。非常に面倒なことに。
「どうしようか……と言っても基本方針に変更は無いか。早く強くなって情報を集める、が予定だったしな。ただ、早めに魔王を倒すことも視野に入れて動いたほうがよさそうだな」
「簡単に言うわね……」
「言うだけタダだからな! まあそれに、そのショートカットの為に、今からチートして、本来もっと手のかかるアイテムを取りに行くんだしな」
「そういえば誰かが町に入れなくなったせいで詳しいこと聞いてないんだけど……大丈夫なのよね? やばいんでしょ? 本当に行くの?」
「ああ、女将さんのおかげで最低限の旅支度は出来そうだ。明日にも向かおうと思う」
「も、もう? 本当に大丈夫なのよね……あ、それで結局何を取りに行くの?」
あの時、じゃんけんで決まった目的。
ハヅキはグーで俺はパー、俺の勝ちだった。
すなわち三番――祠や遺跡に眠る秘宝の装備、が今回の目標物だ。
この近辺にあって、目的に沿うだけの強力な装備は、残念なことに一つしか思いつかなかった。ああ、本当に残念だ。物も出来れば他のがいいし、あの祠を突破するのも死ぬほどしんどい。神器クラスの性能なんか求めるからそうなるんだし、自分で首を絞めてるだけといわれては反論の余地もないが。ちなみに他二択も大差ない。普通より強力な、なんて言ったが、ちょっと強力なぐらいじゃ、わざわざ取りに行く必要ないじゃん? 前回の失敗を超えようと思ったら、やっぱり初っ端から神器格くらい狙っていかないとなぁ?
「本当は邪龍退治にも使った聖剣を開幕で取りに行こうとも思ったんだが……場所は遠いだけで済むが、封印掛かってる上に抜いただけじゃ意味無いからな、断念してな」
「……うん、諦めた訳だし、そのいきなり無謀な選択しようとしたのは聞かなかったことにしてあげるわ。それで、じゃあ何にしたの?」
「魔剣だ」
「え?」
「だから、魔剣」
「はあ!?」
そう、魔剣。
アーディア王国が、祠を建て、その深く、地の底に封印した魔剣と呼ばれる危険物。当然、悪用されたり封印が解けないよう、国によって厳重に管理されている。故に近場にあってしまった剣。
それを――強奪しにいくのだ。
幼女の守り手が何度周回してでも全幼女を救うようです。とかでも良かったかもしれない、作品タイトル。




