増やせロディアのMP
魔法を見て、干物を作って、狩りに出て、干物作って、魔法見て。
早くも森暮らしに順応し、しっかりとしたサイクルが確立され数日が経った。
森での生活を初めてから四日目。
本格的にロディに魔法を教え始めてから四日目でもある。
ロディの魔法を見守る間、空いた手で様々なことを行った。
保存食を作ったり、薬草から簡単な回復薬や薬を作ったり、不足していた道具を工作したりお箸を作ったり、補給の面は予定以上に物を得られてうれしい限りだ。
並行して、俺も魔法と、それからスフィアの訓練を行っていた。
魔剣錬成の出来る事、使える時間、魔法と併用した時の体力の残り具合など、生活で頻繁に魔法を使ったりしながらチェックしてみたのだ。
凡その感覚だが、今現在のマックスMPを100とした時、魔剣錬成と魔法の消費量はこんな感じだった。
果物ナイフ・鋸・鉋・鑢など……消費0.5
弓・釣り竿・……消費2
『脱水乾物』……消費3
十メートルロープ……消費5
作業机……消費6
『ウォール』……消費8
『水流舞』……起動8。操作量で更に減少(小)
全身鎧……消費10
テント……消費12
成金殴った時の杭……消費50
『ウォーターギア』……80。操作量で更に消費(大)
『縮・地星の埋葬』……推定800。MP限度超えても使用不可能。
魔剣錬成に関しては小物なら二百回は作ったり消したり出来るって事だ。その他、剣の長さ拡張とかちょっとした事もほぼ消費ゼロで運用できる優秀なスキルだと再確認した。少し厄介なのは剣本体と錬成部分は繋がってなきゃいけないって制約と、黒い魔力塊は自由に動かせるが作った物の操作は出来ないっていう点だった。
魔剣錬成は二つの工程があり、刀身から黒い魔力塊を伸ばし形作る工程と、その形を実体化させる工程だ。ねんどをこねて形作り、焼き入れて完成させる感覚。この時に刀身から離れると魔力が霧散し消えてしまう訳だ。
作った物の材質は金属に近い。が、大分融通が利き、バネの様な弾力を持たせたり、柔らかくワイヤーのようにすることも出来た。
例えば果物ナイフとかを作る時は腰にスフィアを差したまま、作ったナイフと本体を糸状の部分を作って繋いで使用している。ちなみに、そこまでして魔剣錬成のナイフ使う必要あるのかとも聞かれたが、何せ切れ味が全然違う、最近では糸をそのままにして果物ナイフも腰に差しているくらいだ。保持は消費ゼロだしな。
これがハサミとかになってくると面倒なのだ。ハサミは刃二つに接合部で三つに分かれる道具だ。接触しているだけでは本体と繋がっていることにならないようで、最初に作ったハサミは一塊の動かないハサミが出来上がった。
接合部だけ変化させ続ければ使えないかと思ったが、一か所でも変化中だと全体が粘土状に戻ってしまうようで、しかもその状態では物に干渉出来ない。押し当てても葉っぱ一枚動かせもしなかった。解決策としては全部を細い糸で繋ぐなどする必要がある。全身鎧も実はそうやって何処かしら繋がっていたりする。
俺としては良くあるワイヤーアクションで木とかにフック引っかけて飛び回る奴、要は立〇起動装置とかやってみたかったのだが、引き寄せようとしても魔力塊が返ってくるだけ、こちらが飛ぶことも遠くのものを直接引き寄せることも出来なかった。
実体化させた状態で上手くやれば何とかなるかな……木の枝に魔力塊を飛ばし、ロープ上に実体化させてターザンくらいしか思いつかない。魔法もそうだがもっと想像力磨かないとな。
魔法に関しては前回の経験もあり、大体想像がついていた通りだった。
戦闘で有効な最低限のレベルの魔法で十発ほど、やや大技だと一発だけ。
これはロディにも言える事である。
「……湧きあがれ赤い赤い炎……天焔」
天焔。地面から沸き上がり、天に昇る火柱で不意を打ち、燃やしつくす火属性の攻撃魔法。
得意な火属性ならこれ位は必須と習得を義務付けた高難度の魔法。点数で言えば30点クラス。
「はぁっ、よっ、しっ、も、安、定して、はぁ、出せる……!」
天焔を出し切り、ぱたりと倒れこむロディ。
おそらくロディのMPは俺と大差ないくらいである。その上で、俺と違い魔法に慣れていないロディではこの規模の魔法が発動するだけ大したものだ。当然、発動するだけで全体力を使うので地面に倒れた訳だが。
朝ごはんのスープの味を見ながらその光景を眺める。
「当然のように天焔まで使えるようになったか……必須の炎魔法は余裕でクリア。もうここまで魔法使えると攻撃魔法はクリアされたも同然だな」
「え? そう、なの?」
「戦略に幅を広げるために量を覚えてもらうのが目的だからな。難易度で言うなら天焔覚えれりゃ他も使えるだろう。火よりは苦戦するかもだが、合格点はまず取れると思うよ」
疲労しているロディに飲み物を出そうと、果物を搾る。
「防御はただブッパすればいい攻撃魔法に比べればやや技術が要るが、そう難しくも無い。習得が厳しいとなると緊急回避魔法だな。あれだけ難易度がおかしいことになってるし。ほらロディ、果汁ジュース」
「わ、ありがとうガイアさん」
「まあそれよりも、本気で合格目指すならそろそろ考えなきゃいけない問題があるな」
「んく、んく?」
起き上がり、ジュースを飲みながら目線でそれは? と問うロディ。
「この状況を見ろ。魔法一発で倒れるようでは、とても合格できないぞ」
「ぷはっ。ガイアさんだって私と体力変わらないくせに……!」
「俺はスフィアあるし? これ一本あれば十分戦えるしィ? 魔法とかからめ手程度に使えれば十分だしィ……」
「ふふーんー、そうなのだー」
「なにか納得いかない……!」
声が上ずってる俺に対し、自信満々に答えたスフィア。いや、自分で褒めたし、俺の援護に回ってくれてるのだけど、お前が言うな感を感じずにはいられない。
「けどせんせー、これは何とか出来るの? 魔法使い続ければ何とかなる?」
「ならないことも無いが、それだとめっちゃ時間かかるだろうな。実質無理だ……一応全力で面倒みるといった手前……方法は考えてはみたがな」
「ほんとっ」
「まあとりあえず、そろそろ朝ごはんにしよう。肉も煮えただろう」
「まずハッキリ言うけどMPを伸ばすのはほぼ不可能です」
ずずず、と食後のお茶を飲みながらそう切り出す。
あまりにバッサリな言い方に、言われたロディではなく横で果汁をすすっていたハヅキが吹き出した。
「げほ……いや、ガイア、それはあんまりなんじゃ」
「そうだよ! どういういうことなのー!」
「待て待て順番に説明するから」
MPが伸ばせない=試験達成が事実上不可能となるロディには死活問題であり、むしろだからこそこんな試験にしたわけだが……つまりはそういう詐欺じゃなんじゃないのかと言外の圧を感じる。
(まあ当然そういう詐欺だが。正直達成させる気ないし)
「せんせー! 今小声で何か言わなかった!?」
「まあ当然そういう詐欺だが。正直達成させる気ないし」
「大声で言い直した!?」
「まあ当然女の子との約束で嘘はつかないし、ちゃんと対等にクリア可能な条件を作りはしたさ。限りなく不可能に近づけたが」
「対等ってなに!?」
「お前の要求に合わせた対等だよどんだけ無茶言ってると思ってんだ? むしろ完全にクリア不能にならなかっただけ喜んでおけ」
またズズズとお茶を飲む。関係ないところでヒートアップしすぎたので、一旦落ち着かねば。
「それでMPだけど、まず普通に鍛えるのじゃ当然期限に間に合わない。一応ロディは体力が尽きるまで魔法、休憩してまた魔法と繰り返してるから少しはMPが増えてはいるだろうが、良くて2とか3とかだろう。なので、合格したければ別の手段で補うしかないんだが」
「その手段も無理なんだね?」
「はははよく分かってる。知っての通り、強くなるには魔石装備を手に入れるのが一番だ。加護の力に体力増加や魔法の消費軽減などの効果があるから、その装備があればクリアの可能性も出てくる」
俺が呪いのせいで投げ捨てた真っ当な正攻法とも言えない普通の解決策だ。まあ当然問題はあるが。
「どうやって手に入れんだよって話になるんだがな。作るならまず魔石を見つけなきゃいけない。今回の用途だと、一級品とまでは言わないが、効果の強い加護じゃないとロディのパラメータは補いきれないだろう。強い魔石自体がまず入手困難だし、魔法使い用の加護が付与できる魔石である必要もある」
「あ、そういう種類の差もあるんだね」
「持っていた魔物とか、入手した場所とかで、加護の中身はガラッと変わるからな。属性とか。だがまあ、魔石くらいだったらまだ何とかなる。かなり難しいが、俺が手伝えば入手も不可能ではない。問題はその手に入れた魔石を誰が装備に加工するんだよって話でな」
「それは街で職人さんに……ぃぃぃいいい……」
「ふふふ君がついて来た先生は一級の指名手配犯でね、街とか行けたもんじゃないんだ……! 職人に魔石渡して数日完成を待つ? 無理無理!」
「ガイアさんは加工できないのっ? 何でもできそうなイメージだけど」
「流石に無理だよ、何でも、もなにも出来る事は大して多くないぞ俺。それに作るとこ見たことあるが、あれほんとの職人技だぞ? ちょっとやそっとじゃ真似できないわあんなの。まあ、多少の調合技術なら旅先で学んだからこの回復薬は作れたが、それでも本当に効力の低いもの数種類だけだし。魔石の加工は習う暇も、習う理由も無かったからな……ああ、魔石は一応MPポーションの原料になるか」
「それは作れるの!?」
「……俺が作れるのは疲労回復効果のある栄養剤レベルまでだ。本当に簡単な薬草の加工法くらいしか知らないんだ。魔石から魔力を抽出してそこに加えられれば、余剰に魔力を蓄えられる薬になる……らしいが、俺に出来るのは本当に栄養剤程度だ。丁度よく、魔力に溢れた素材が一杯あるここで作ったのなら、MP20くらいは回復してくれるんじゃないか?」
「じゃあ、それが三十本くらいあれば!」
「そうだな! 一日分くらい何とかなるかもしれない! 腹ン中タプタプで戦いどころじゃないだろうけどなぁ!? どうやって持ち運ぶ気だ!?」
「気合と! 根性で!」
「まず飲みきれないし途中から過剰摂取でやばいからやめなさい。つっても……何も見つからなかったらこの手段しかなくなるんだがな」
ミョルディアで作ってるような薬だと一本で100は回復してくれる薬から500は回復する物もあるのだが……確保できなかったしな。金もないし。
「そういう訳で……保存食とかの準備も出来たしそろそろ移動しようかと思ったが、予定を変えてもう少しこの辺を探索しようと思う」
「そういえば、見つからなかったらって……何か探すの?」
「ああ、実質最後の手段にして運任せの方法。ほぼ不可能をひっくり返す唯一の可能性」
「それはっ?」
「宝探しで一山当てようぜ?」
「と言う訳でやってきましたこちら、『なんか胡散臭い洞窟』でーす」
「わぁー」(ぱちぱち)
「わー」
「名前雑ね……まあなんか胡散臭い洞窟としか言いようがないけど」
しっかりと休憩をとって昼。
俺達がやって来たのは、森の探索中に発見した怪しげな気配を感じる洞窟だ。
「入る前に復習。目的は」
「魔石装備の発見!」
「中の予想」
「モンスターの巣がほとんど、稀に鉱山、運が良ければダンジョン!」
「作戦と、お前の役割」
「試験の一環なので私が中心になって探索! 判断や有事の際はガイアさんに頼り切る! ていうか丸投げる!」
「はっはぁ、この数日でほんと遠慮とか無くなったよねー? 良い事だが。んじゃ、一瞬で探索が終わらないことを祈って突入しようか」
「はい!」
俺の提案した最後の手段。、それがこれ、『作れないなら直接拾えばいいじゃない』作戦だ。
スフィアのように……いや、こいつは大分は例外だが……こういうメムルーナの森みたいな秘境とかには魔石装備そのものが眠っていることがある。
だから、もしかしたら、運がよく、この周辺にも魔石装備が存在し、それが奇跡的に、ロディの必要な性能をしているかもしれない……! という、宝くじに当たるような幸運に期待する、博打にも程がある作戦である。
すごく都合の良い奇跡を頼るような話で、まじめに考えてるのかと思われそうだが、実際そこまで分の悪い話ではないと思っている。
と言うのもこのメムルーナの森、精霊が豊富というか、妙なくらいに場に魔力が満ちている。偶にこういうパワースポットも存在するのだが、そういう場所は往々にして何かがあるものだ。良きにしろ悪しきにしろ、場がこうなるだけの何かか、あるいは場がこうなったから生まれた何かが。
その感覚から行くと、この森には間違いなく何かがある。
「それが何処かっていうのが分からないんだが……この洞窟はどうだろうなぁ」
奥は暗く、陽の届かない程の深さはある。
そして何となく漂う妙な気配。なんか胡散臭いと命名するに足る、胡散臭いオーラを何となく感じるのだ。
魔石装備が一発で見つかるかはさておき、何かは間違いなくあると踏んでいる。故に、まず最初に探索に来たのだから。
……でもこれ魔物かなぁ……魔物じゃないかなぁ……何が出てくんのかなぁ……宝が見つかればいいけど……そういえばこの森、魔物もいるって話なのにまだ一匹も遭遇してないよな……この辺の深さならもう出てきてもおかしくないと思ってたんだが……こういうとこに引きこもってたり、とか……
「よぉーし、しゅっぱーつ! 何があるかなー、何が見れるかなーっ」
「何があるかなー……」
洞窟探検というだけでワクワクのロディ共に、くらやみへと一歩を踏み出した。




