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閑話 (※)超危険魔法


 それはロディが魔力を使い果たし、休憩していた時の事。


「ところでせんせー、何でこの魔法だけ(※)って付いてるの?」


 ロディが指さすのはおまけ魔法に分類されている『脱水乾物』の事だ。

 何故こんなおまけ魔法の一つに、わざわざ注釈マークを付けたかと言うと――


「それはだな――超危険魔法だからだ」

「……えっ」

「超・危険・魔法、だからだ。その説明を忘れないために付けておいた」

「えっと、いや、おまけ魔法なのよね……どういう魔法なの、ガイア?」


 横で聞いていたハヅキも疑問を浮かべている。まあ確かに、超危険魔法などと聞いては穏やかではないだろう。


「うむ、百聞は一見に如かず。俺の体力も回復してきた事だし、まずは見てもらおう」


 そう言って、俺は鞄から今日の収穫物である肉と香草に果物を取り出し、並べた。


「保存食を作るときには塩漬けにしたり干したりするだろ? 要はあれ、水分を抜くために色々やってる訳じゃないか。なら、魔法でそれに干渉して、一気に水分を飛ばせば簡単に保存食が作れるんじゃないか……そう考えた」


 スフィアを手に、肉をスライスし、手ごろな大きさに取る。


「そうして作り上げたのが、これだ」


 カッ、と気合を入れ、肉を掴み魔力を流し込む。

 次の瞬間、ブシュウゥゥゥと肉から水煙が上がった。


「…………ふぅ、こんなもんよ」


 出来上がったのは――カラカラに干からびた一枚の肉切れである。


「おぉー」

「うわ、すごいじゃない」

「生ものに魔力を浸透させて、内部の水分に働きかけて直接水分を飛ばす魔法……これが脱水乾物よ。ほら、食べてみるか」


 手で軽くちぎってそれぞれに投げ渡す。

 どれどれと、はむっと一口。


「……うん……お肉だね……!」

「……まぁ……肉、ね……」

「味付けもなんもしてないからな。ちゃんと作るんなら香辛料なりタレなりに付けてからやるとおいしく出来る。それでもだ、何もない時でも最低限、味を確保しつつ腐りにくい干し肉を作れるっていうかなりすごい魔法なんだぞ……! 水分の飛ばし方に工夫したり、魔力の込め方で味が変わったりと様々な研究を重ねて出来た技術の結晶よ……!」

「なんか下手な魔法より力入ってない、それ? 食べ物の話よね」

「食べ物の話だぞ……! 力入れないでどうするんだ!?」

「ええ……」

「せんせー! 聞きたいことが何個もあるんだけど……!」

「この技術の結晶を前にしては当然のことだな。冗談抜きにこの魔法から得られることは多いぞ。だが少し待って欲しい。最初に言ったことを思い出してもらいたい」

「……そういえば、この干し肉を作る魔法なんてものを超危険魔法って言ってたわね」

「応用すれば魚の干物も香草の乾燥もドライフルーツも作り放題だ。もっとも、水分の飛ばし加減が本当に難しんだが。各素材の最適な干し方を修めるのに長い時をかけた……いや、今でもまだまだ修行中の身よ……話が逸れたが、この魔法、本当に制御が難しいんだ」


 今度は置いてあった果物を手に取る。


「加減が出来ないとこうなる」


 グッと、本気で魔力を込める。

 ジュアアアァァァァと勢いの良い音とともに、果物の甘く酸味のある匂いが辺りに広がり――


「おぉ……」

「うわぁぁ……」


 手のひらに残ったのは――ほんの指先サイズにまで縮んだ果物だったもの。

 からっからに渇き切り、指で潰せばバラバラと砕け、砂のように風に舞って消えていった。


「食べる際のおいしさを残した圧縮の仕方というのは本当に難しく、非常に繊細な魔力操作を要求される……と言うのも問題ではあるが、この魔法で本当に危険なポイントは、だ」

「えっと……生き物に、効く……んです……?」

「あっ、えっ…………うわ……」

「……うん、ロディの言う通り、その気になれば人間相手でも通用する魔法なんだこれが」


 人体の七十%は水分でできている、のだったか。

 それを直接ぶっこ抜けてしまうのだ。


「まあ実際は人にこの魔法を使うのは難しいんだが」

「あ、そうなの?」

「生き物とかは体内の精霊とかに抵抗されてるのか、魔力が通りにくくなってるんだ。魔力の高い魔物とかだと特に。だから最初の魔力を通す段階でレジストされて実戦ではほぼ使えなかったよ。これは他の魔法でもそうで魔法によっては弾かれたりするものもあるんだ」

「へぇー、魔力抵抗……!」

「……え? ほぼ?」

「……ほぼ」

「……あ、抵抗できないような魔力で押し切れば制御が効く……?」

「…………生き物が、生きたまま干からびるのは中々衝撃の光景だったぞ」

「やったの!?」

「こう、魔物に組み付かれてな……抵抗できる手段が思いつかなく。やけくそになって魔力注ぎ込んだら……魔物の血が爆ぜた……」


 目の前でミイラを作り出してしまった時は中々に精神にダメージを負った。生きるためだ、悪いとは思わないが、生きたまま干物にと言うのは、ちょっと、惨いものがあった。

 ……まあ、他に手段がなければ躊躇せず使うのだが。


「旅に便利な生産魔法を作ったと思ったら即死魔法を開発していたというな……」

「怖っ!?」

「そして何より気を付けるべきなのは、自分自身にはもともと自分の魔力が浸透しているっていうこの事実がな」

「ひぇっ……!」

「やった。指三本が持ってかれた。やったのがロディじゃなくてよかった。僧侶の奴が優秀で尚よかった。未だにあれはトラウマだわ……」


 ロディの悲鳴が上がる。ハヅキも引きつった顔で固まった。

 いやぁ手が滑ったというか、意識が滑ったというか……疲れた時に適当に撃ったら巻き込んだよね。

 燃えるようなというか、灼熱の感触しかない衝撃と、それが終わっての、何も感じない異物感。

 何だかんだこの時のミスが旅全部で見ても一番の怪我だったかもしれない……


「そういう訳で、旅する上で非常に便利な魔法ではあるんだが……扱いを損ねた際の危険度もトップクラスの超危険魔法な訳だ。今なら納得してくれるだろう」

「全面的に同意するわ……いや、まだ背筋がぞわぞわするわ……」

「き、気を付けます……!」

「マジで、マジで気を付けてくれ……今は回復魔法使える奴とかいないからな……!」

「それでも教えるのね」

「本当に結構すごい魔法だし、学ぶことは多いんだぞ?」

「力の入れ具合……」

「いやそりゃお前な、食だぞ、食にかかわる事だぞ? そりゃな…………」






 そういえばと、食と危険魔法にまつわる話をしてふと思い出す。

 結局完成しなかった同じレベルの危険魔法があったな……と。

 アレも実験の段階で一回えぐいことになったっけ……あっちは以来研究止めたんだよなぁ……そこまで必要ではなかったしな。

 その内、時間が出来てしまったらまた研究してみようかね……

 (超危険)調理魔法・レンジを……

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